リコリス・リコイルで一般人転生者が頑張るお話   作:Shohei Hayase

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2話分〜The more the merrier〜
一刻は千金に能う


千束と私が一緒に暮らし始めて一月少々、私はソファの上で眠りこける千束を冷ややかな目で見下ろしていた。

 

あられもない姿だ……というか最早下着ではなかろうか、コレ。

 

「千束、起きて。もう朝だよ」

 

「ん……ふひゅ、咲紀……?」

 

私が肩を揺すると、寝起き(ゆえ)か何処と無く舌っ足らずな声を出しながら千束は目を開ける。

 

「とりあえず服着て来な。ご飯は作ってあるよ」

 

「わ……わかった」

 

千束はノロノロとした足取りで自室に向かい、私はリビングのテーブルに作ったご飯を並べていく。

 

しばらくすると、ラフな恰好に着替えた千束が戻ってくる。

 

「おはよう、用意ありがとね」

 

「どういたしまして。今日は……多分美味しいはず」

 

「初めは酷かったからねぇ……いいお嫁さんになれないよ?」

 

千束は茶化してくるが、それに対して私は曖昧な笑みを返すことしか出来ない。

 

((あじ)分かんないんだよなぁ……)

 

拡張された超深部演算(テイレシアス)の演算領域の代償に味覚野を捧げた私は、味覚については相当鈍くなっている。

 

毒物に対応する為に苦味の感覚は残したが、それ以外……甘味、酸味、塩味、旨味は相当強いものでないと元のように感じることができない。

 

コーヒーは苦味の強い飲み物だったのではっきりと味はわかったが、本来の意味での料理は壊滅的で、前世の学生の時の自炊経験を元にして作った料理は、千束が吹き出す程度には出来の悪いものだったらしい。勿論私が責任を持って処理した。

 

それから1ヶ月程度経って、食材や調味料が味覚に及ぼす影響をパラメーター化して(被験者:千束)、漸くマトモな味に出来るようになったのだ。

 

料理は数学である。私の場合は、特に。

 

「頂きまーす! ……うん、美味しい!」

 

「そうか。良かったよ」

 

スクランブルエッグを口に運びながら、内心で笑みを作る。

 

やはり他人に対して料理を振る舞うと言うのは、自分一人では得られない満足感を与えてくれる。

 

軽い朝食であったために食事にかかる時間は少なく、私達は急いで家を出て、喫茶リコリコへと向かった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「やぁやぁ千束が来ましたよ〜! お、吉さんいらっしゃい、一月ぶりじゃないですか〜?」

 

喫茶リコリコの扉を開けると、千束はカウンターに座っている男の顔を見るなり駆け寄って親しげに話しかける。

 

男の名前は「吉松(よしまつ)」。名前までは名乗ることは無かったが、ラジアータを通じて情報を得た私は、彼に関する情報を知っている。

 

吉松シンジ。大学卒業以降の経歴が一切不明。しかし以前ミカさんと千束と共に医療機関の監視カメラに写っていた……恐らくアラン機関の人間。

 

──そして、ウォールナット爆殺犯の候補でもある。

 

彼はウォールナットが住んでいたマンションからほど近い距離に10分程度車を停め、爆発後しばらく経ってその場を去った。

 

車の中で手を挙げる仕草、その後に爆発。現状の候補の中で最も関連性が高い動作を行ったのは彼だ。

 

その場を去る時も、爆発に気付いて慌てて逃げ出したという風には見えず、悠々と車を走らせている。

 

「お久しぶりです、吉松さん」

 

とはいえ現状犯人だと確定した訳でもなく、また彼が喫茶リコリコに来店した客である以上、私は店員として彼を(もてな)さなければならない。

 

「二人とも、こんにちわ。覚えていてくれたんだね」

 

吉松は人の良い笑顔を浮かべて挨拶を返し、千束はカウンター席に座って彼と何やら話し出す。

 

饗応役(きょうおうやく)は千束に任せることにして、私は従業員用スペースの扉を開けた。

 

「やぁ、たきな」

 

「……咲紀さん、おはよう御座います」

 

「うん、おはよう。怪我は大丈夫そうかな?」

 

扉の向こうにはたきなが居て、私は彼女用に調整した声と態度で話しかける。

 

左頬のガーゼが無くなると、彼女の美貌はその鋭さをさらに増したように見える。

 

「はい。えっと……なにか不都合でも?」

 

「いやいや、別にいびってる訳じゃないさ。 ……ごめんね、邪魔をした」

 

「……いえ、こちらこそ」

 

(うーん……このコミュニケーションは失敗か)

 

ここ一ヶ月、たきなとの関係をどうにかして改善すべく試行錯誤を続けてはいるが、どうにも上手く行かない。

 

互いに必要以上の事は話さない性質であり、たきなはどうやら私に苦手意識を抱いてしまったらしく、中々会話を引き延ばせない状況が続いている。

 

ここで無理に話を続けるのは得策では無いと判断し、店舗に戻ると、吉松の後ろ姿が扉の向こう側へと消えていった。

 

私は10秒ほど待ってから店舗の看板を「close」に変えて、内側から鍵を掛ける。

 

「千束」

 

「分かってるって、お急ぎでしょ?」

 

振り返ると、どこから取り出したのか分からないアルミのガンケースには千束の銃が収められ、彼女はマガジンに非殺傷弾を装填していた。

 

……胡座をかいて。

 

(……女子力とは)

 

17歳の女性にこんなことを問うのは不毛かもしれないが、つい考えずには居られなかった。

 

「たきな、依頼内容は把握してある?」

 

「はい。護衛対象は現在武装集団の襲撃を受け逃走中、合流地点は北綾瀬駅で、小菅出入口から高速を利用して羽田空港へ向かいます。ミズキさんは逃走経路確保のため、先行しています」

 

私の何の気無しの質問にも、たきなは完璧な回答で(もっ)て応じる。

 

(生真面目と言うべきか、負けん気が強いと言うべきか……)

 

恐らくそのどちらも、だろう。

 

「完璧、やるねぇたきな」

 

「プレブリーフィングとしては十分かな。ミカさん、敵の数と装備はわかりますか?」

 

「10人から20人、機関銃手は居ないがアサルトライフルを持っている。プロではないが手強いぞ」

 

ミカはそれ以上言わず、たきなは僅かに俯いて、千束が焦った顔をする。

 

(……参ったな)

 

モヤモヤした気分を頬を掻いて紛らわし、無理やり話題を切り替える。

 

「っていうか、時間もないし装備もないの無い無い尽くしで、よくこの依頼を受けましたね」

 

依頼主から連絡が入ったのは、つい数日前。通常であれば愚痴の一つでも零すはずのミズキもやけに張り切って、自分から鉄火場へと飛び込んで行く始末だ。

 

「一括で相場の3倍。それも前払いだ」

 

……何というか、豪胆というか。

 

依頼の成否すら確認せずにその金額というのは、よほど切羽詰まっていることの裏返しではなかろうか。

 

「気前がいいってことだね」

 

ジャキン、と千束の銃が小気味の良い音を立てた。

 

名前は「デトニクス・コンバットマスター改」。

 

M1911をベースとしてコンシールドキャリーの為にバレルを3.5in(インチ)に切り詰め、フレームサイズ*1も短くしたコンバットマスターを、ストライクプレートとマガジンバンパーによって大型化した結果、サイズ的には元のM1911と変わらないサイズまでデカくなった拳銃だ。

 

……正直言って設計思想的には変態のそれなんだよな、この銃。デトニクスのフレームを使っているせいで装弾数が6+1発になってるし。

 

「賭けるのは自分の命だ。値段のつけられるものじゃない」

 

私も銃にスライドを組み付け、一度引いてからチャンバーチェックをして元に戻す。

 

私の普段使いの銃、「ベレッタM93R」。

 

軽量なコンペンセイターを銃の先端に装着し、サイトをドットサイトに換装している。

 

リコリス制式のグロックを使わないのは、グロック18系の連射速度では流石に私と言えども暴れて正確な狙いが付けにくくなること、それでもセミオートよりは連射速度が高く、銃に付属したフォアグリップで十分に制動が行えることが理由だ。

 

軽量な銃では、高速連射の反動を十分に受け止めきれない。デザートイーグルが重いのも、使用する弾薬の反動が強力だからだ。

 

千束は準備を終え、私も銃のメンテナンスは終わったが、頭の中では未だに戦術を決めかねていた。

 

(AR持ちに拳銃4丁では、幾ら何でも分が悪すぎるが……不必要に接近するのも、また避けるべきだ)

 

遮蔽物を活かした機動戦闘を、護衛対象を抱えたまま行うのは無理筋だ。

 

かといって火力戦闘を展開しても不利なのはこちら。弾数も有利とは言えない。

 

(そもそも何で隠密暗殺のリコリスが本業放り出してこんなことやってるんだ……火器の絶対火力が足りないっつの)

 

PMC崩れとはいえ、アサルトライフルの強力さを侮ることは出来ない。

 

引き金を引ければサルでも象を狩れる。それが人の作り出した究極の殺傷器具なのだから。

 

「あーもう考えてもしょうがない! ミカさん、私宛に送られてきたケースの……」

 

5番を、と言いかけて、ミカが掲げたガンケースが目に留まる。右下には「No.5」の文字……私が今まさに場所を聞こうとしていたモノが、眼の前にあった。

 

「勝手にで悪いが、(あらた)めさせてもらってな……5番でいいのか?」

 

「6番と7番はオーバーキルです。 ……7番は特に」

 

私が持ってきた中で最強の威力を誇る銃だ。ヘヴンリーダー(HeavenLeader)……()()()()()()()の名前は伊達ではない。

 

ミカさんは特に何も言うことなく、私にケースを手渡した。

 

「なにそれ?」

 

「10年間の成果。市場に存在しない1点もので、どれも相当な金を掛けたカスタムが施されてる」

 

長さ1.3mのケースを開けて、黒色に塗装された銃を取り出す。

 

「HK417……20インチですか?」

 

私が手に持った銃を見て、たきなは驚いたような声を上げる。

 

「色々カスタムしてるから、ただの417じゃ無いけどね」

 

チャージングハンドルを引いて、ボルトの動きを見る。スコープ、バレル、アンダーマウントをチェックして、予想通りの動きをしているかどうか確認し終えた銃をケースに戻し、スリングを左右に取り付けて背負う。

 

「ミカさん、H2RXって何処に置いてあります?」

 

「バックヤードだ。表に回すか?」

 

「いえ、自分で行きます」

 

最後の確認は済んだ。作戦も……無理矢理だが、完遂してみせる。

 

「……咲紀?」

 

千束は首を傾げ、たきなは眉を上げる。

 

「千束とたきなは依頼主の護衛。私は別行動で遊撃に出る。 ……さ、行って!」

 

*1
この場合は、グリップの長さ。

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