リコリス・リコイルで一般人転生者が頑張るお話   作:Shohei Hayase

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後方注意、思惑の交錯

『……初めまして、と言うべきかな。銀灰(シルバーグレイ)

 

『こちらこそ、ウォールナット。直接話す機会は無かったからね』

 

通信機()しの声は、意外と落ち着いたものだった。

 

『では単刀直入に……ボクをこのまま逃がす気は?』

 

『無い』

 

ウォールナットの問いに、そう断言する。

 

少なくとも、ラジアータをクラッキングできる能力を持った人間を野放しにするほど、DAは馬鹿ではない。

 

既にDA本部からはウォールナットの捕縛命令が出ている。 ……彼の住居が破壊されたことで、現状宙ぶらりんになっているが、命令自体はまだ有効だ。

 

『洗いざらい吐いてもらうよ。吐かせ方はご想像にお任せするけど』

 

『止めてくれ、君が言うと冗談に聞こえない』

 

脅しの意味も込めて少し語調を強くすると、案外良い反応が帰ってきた。

 

ウォールナットは仕切り直しの心算(つもり)か、軽く咳払いを一つ。

 

銀灰(シルバーグレイ)、ボクの生存をDAに報告していないのなら、ボクから提案がある』

 

『というと?』

 

『ボクを匿ってほしい。もっと言うと、ボクの後ろ盾になって欲しい』

 

(……そう来たか)

 

てっきり見逃してくれ、と言うのかと思っていたが……彼はリスクを取らない主義のようだ。

 

『ウォールナットは死んだ。そう君がDAに報告してくれれば、ボクは君に力を貸す。 ……悪い提案ではないと思うが』

 

ざっと、頭の中で思考を整理する。

 

DAに対してそれなりの影響力を持つ私が死亡を支持すれば、ウォールナットの生存を疑う勢力は少なくなる。ウォールナットは死んでいるか、死んでいないかのシュレディンガーの猫を明確に死んでいる方に傾けることで、これ以上の追跡を防ぎたいようだ。

 

私は現在DA本部から離れていて、匿うのに支障はなく、彼は安全地帯を、私はウォールナットという電子戦のエキスパートを得ることができる。

 

……総合的に考えて、利はある。長期的に見ればウォールナットの維持コストが高く付くかもしれないが……その分は働いて貰えば良いだけの話だ。

 

『……ただまぁ、そう上手く行くかな?』

 

H2RXのサイドミラーを確認して、懐に仕舞ったM93Rを軽く撫でる。

 

『どう言うことだ?』

 

『お客さんだよ。君目当ての』

 

『君が人気なんじゃないのか、銀灰』

 

数台のドローンと、黒塗りのバンが2台。

 

高速道路の出入り口のところで、本来なら高速に乗るはずが、パンダカーは一般道の方に進んでいく。

 

「……へ?」

 

先ほどとはポジションを変え、襲撃されたら即座に離脱する為にパンダカーより前に出ていた私はそのまま高速に乗り、後ろからはバン1台が追跡してくる。

 

「千束、どうしたの? あと1台車がそっち行ったよ」

 

『分かった、けど居ない! ……なんか制御奪われたって!』

 

「……チッ」

 

ハッカー名乗ってるんだったらテメェの持ち物のハッキング対策くらいしとけアホが、とは口にしなかったが、代わりに舌打ちを一つ。

 

「千束、そっちに行くと川しかない! 一家心中したくなかったら何とか制御を取り戻して!」

 

小菅(こすげ)料金所の先はT字路で、正面には綾瀬川がある。川に落ちようものならまず助からない。千束とたきなは良いにしても、あのリスのキグルミは水を吸ったら重しになってジ・エンドだ。

 

……いっそ海の藻屑になりやがれ、とは考えないことにした。

 

『リスと一家なんて嫌だよ!』

 

言う元気があるなら大丈夫だと判断してラジアータをコール。

 

「ラジアータに申請。中央環状線、湾岸線全線の固定式オービスを電源オフ、全ての移動式オービスを警察に外させて。車両制限速度解除申請、交通コントロール開始」

 

要請の全受理を確認して、通信を切る。

 

すぅ、と軽く深呼吸。

 

(超深部演算(テイレシアス)──)

 

吸った酸素を肺から全身へ。アドレナリンとエンドルフィンの分泌量を跳ね上げ、肉体を高速領域に最適化させる。

 

五感の強化である拡張(エクステンション)とは異なり、純粋に「早く反応する」ことを極限まで突き詰めるもので、点火(イグニッション)よりも体の強化は軽く、その分長時間発動可能だ。 

 

(──適応(コレクション))

 

起動と同時にシフトアップ。右手でアクセルを回し、左手でM93Rを抜く。バックストラップに親指を引っ掛け、残りの指でスライドを掴み、チャンバーチェック……よし。

 

トリガーガードに指を引っ掛け、銃をくるりと一回転させてからしっかりと握り込み、セーフティを外す。

 

「10人乗りのバン……加速的にたぶん全員乗ってる奴だなーコレ。撃ってくる……か?」

 

その考えが相手にも伝わったのか、助手席の窓が開いて男が身を乗り出す。

 

(運転手を撃って止めようにも、後続と事故ったら嫌だしなぁ……かといってカーチェイスを続ける気もないし。取り敢えずアサルトライフルを撃つのは止めさせるか)

 

離脱を想定した装備だった為、M93Rに装填されているのは実弾。非殺傷弾も1マガジン分持ってきてはいるが、バイクの上でタクティカルリロードをするのは避けたかった。

 

(空薬莢はともかくマガジンは捨てられないから……どうするか)

 

取り敢えず銃を窓から突き出した男に向けて一発撃ち、銃を破壊する。

 

慌てて男が引っ込むのをサイドミラーで確認し、どうするべきかを考える。

 

「ラジアータ、公安に……いや、分かってる人がいいな。 ……ミカさん、ちょっとすみません。クリーナーを呼んでもらえますか?」

 

公安の対テロ部署に対応してもらおうかと思ったが、彼らにウォールナットの生存を知られるのは不味いと考え、その場合公安を関わらせたら後に引けなくなるので渋々ながらクリーナーを頼る。

 

「あ、どもども一ノ瀬です。 えぇお久しぶりです、それでですね、今回依頼があるんですけど……えぇ。大体10から20くらいで、手段問わずで依頼の事も頭からトバす感じで……はい。はい。中央環状線の葛西ジャンクションあたりで……はい。ではそれでお願いします」

 

クリーナーとの話をつけ、M93Rを仕舞ってスクエアを取り出す。

 

準備は出来た。後はやるだけ。

 

 

 

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