リコリス・リコイルで一般人転生者が頑張るお話 作:Shohei Hayase
クソッタレ、と
ツーマンセルの相方も絶望の顔をしていた。二人がかりでも千束に勝てるビジョンが見えないからだ。
「ちくしょうめ……」
毒づきながらも、ペイント弾が装填されたマガジンをP30SKにブチ込み、スライドを引く。
6歳の手だ。使える銃は限られている。フルサイズモデルなんて握れるかよ。
よしんば握れたとしても、狙って撃てるのとは別の話だ。
インカムを左耳に、ゴーグルを装着、予備の弾丸は……1マガジンあれば足りるだろう。
『戦闘開始』
「アイ、フォワード」
「ラジャー」
私が先行し、相方が後ろを警戒しながらその後を追う。
曲がり角は私がクイックピーク*1でクリアリングし、ゆっくりと進んでいく。
バコン、というドアを乱暴に開ける音。横から聞こえた。
「サイド」
「クリア」
通路の前後を警戒して貰い、私達は一旦奥へと退避し、大回りして後ろに回る。
「キルハウスでの開戦直後なら、移動速度と時間から位置が割れる。攻めやすいだろうが、簡単には決めさせない。クリアリング勝負と行こうぜ、エリートさん」
自分も敵も、何時どこで撃たれるのかわからなくなる。
それは移動速度の低下、ひいては速攻の抑止につながる。
問題は、その思考すら彼女に読まれていた場合だが……それはないと信じたい。
流石に縦横200m以上、2階建てのキルハウスで二人の位置を正確に突き止められるはずはない。それはもう魔術の類だ。
(1度きりの不意打ちの権利、できれば相手チームの戦力を削ぎたいな……なら狙うべきは彼女の相方か)
あの移動速度からして、禄にクリアリングはしていないはず。
つまりパートナーは置き去り。わざわざ相手の裏を取った甲斐がある。
「……エンゲージ」
カッティングパイ*2を繰り返し、一人で不安そうに銃を構えて警戒する少女を見つけ、しっかりと狙いをつける。
こちらに背を向け、意識を完全に外した瞬間、
「……ッ!」
3発、すべて背中に命中させ、戦闘能力喪失の判定を下す。
そして発砲音によって、彼女にこちらの位置がバレた。
今度はこちらが襲撃を受ける番だ。
壁に背中を預け、周囲を警戒する。
足音……来る。
「エンゲージ!」
馬鹿正直に真正面から突っ込んでくる彼女に対して二人掛かりで発砲するが……当たらない。
(無敵チート使ってんじゃねぇぞこのヤロウ!)
P30SKの残弾は1発。元々10発しか入らない事もあって弾持ちが良くない。
一発を薬室に入れたままマガジンをリリースし、新しいマガジンを差し込む。その僅かな間よりも、制圧火力が下がり、千束が動くほうが早かった。
千束はスライドの後端を左目に寄せ、銃を斜めに構える独特な構え方で2発発砲。相方が頭と心臓をブチ抜かれてもんどり打って倒れる。
(ジョン・ウィックかよテメー!映画で見たぞこんちくしょう!)
誰に教わったんだとかは考えない。リコリスの指導教官あたりにジョン・ウィックの熱心なフォロワーがいたんだろう。
「サシか……やりたくないなぁ」
互いに銃を突きつけあう。引き金に指をかけ、少しでも力が込められた瞬間にこの均衡は破れ、互いに本気で戦闘することになる。
どうする、誘うか、誘わせるか、待つか。
引き金を引く。それに僅かに遅れて千束が引き金を引き、弾が発射される。だが私の銃からは弾は出ない。
──ブラフだ。
千束の目が見開かれる。
反動によってスライドが後退し排莢される。つまりこの瞬間千束は銃を撃てない。攻撃のチャンスは、こちらのみが握っている!
傾けた頭のすぐ横をペイント弾が通過し、青いインクが数滴私の耳上に付く。
千束が2発目を撃つよりも早く、既に照準を合わせている私の銃が弾丸を吐き出す。
私の弾丸は千束の胸の中央に命中し、私は千束の弾丸をバク転で躱していた。
『……そこまで、戦闘終了だ』
着地し、膝立ちの体勢のままで、私は荒い息を吐き続ける。
(実弾だったら殺してた……私の負けだ。こんなので勝ったとは言えない)
人殺しはしたくない。たとえ殺人が許可されているからと言って、国のためだと言って、人が人の命を奪うなど、許されていいはずがない。
しかし、私にこんな曲芸がそう何度もできると思っていない。だから、私はこの一発で決める必要があった。
「……クソ」
なにがDAだ。なにがリコリスだ。
年端も行かない少女なんだぞ。なんで訓練標的に何発当たったとかが話の話題なんだよ。なんでリコリスが何人死んだとかが話の話題になってるんだよ。
……イカれてる。本当に。
私が何をすべきか思い出せ。私一人で何ができて、できないのか。それを調べるためにも、私はこの場所に居続けるしかないんだ。
私はこの銃弾の一発だって、人に向けて撃ちたくはないのに……