リコリス・リコイルで一般人転生者が頑張るお話 作:Shohei Hayase
「ねぇねぇ、銃の使い方教えて!」
「私に聞かないでよ。銃なら千束の方が上手いよ」
私が模擬戦で彼女に勝って以降、不本意ながら私は彼女の目に留まったらしく、向こうから会話を振ってくるようになった。
齢6つの少女を邪険にもできず返答はしているが、相変わらず話題が物騒だ。
付け加えるなら、私と千束に銃の腕でそう差はない。強いて上げるなら
訓練で手を抜くと千束が悲しそうな顔をするため、射撃訓練だけはそれなりに成績を上げている。あとは模擬戦で私と千束は結構離れた組に配置されるようになった。私と千束が潰し合うのはDAにとって本意ではないらしい。
「咲紀、何やってるの?」
「拳銃のクイックドロウ……将来の為のね」
今練習しているのは、ブレザーで隠したヒップホルスターからの抜き撃ちだ。
バッとブレザーを捲り、裾を払う手がそのまま銃グリップを掴み、直ちに引き抜いて射撃体勢に移行する。
「私達、鞄持ってるんだよ?」
「鞄には別のものを入れたいの」
リコリスの標準装備である鞄は拳銃のコンシールドキャリー、予備マガジンのキャリー、防弾シールドも張れるスグレモノだ。とりわけ防弾シールドはこの世界の科学技術を色々ぶっちぎってる。
だが正直ヒップホルスターからの抜き撃ちのほうが早くね??? という思考が私の中にある。
さて、今更かもしれないが、私の今生の名は
DA本部オフェンシブセキュリティ部隊トレーニングコースに所属している、見習いリコリスだ。
評価ランクはB-。ちなみに千束はA+だ。笑うしかない。
訓練生としての期間はそろそろ終了し、各部署に配属、実践任務に……というかそれらのバックアップにつくことになる。
千束は当然ファーストリコリスのバックアップにつくだろうが……私はセカンドがせいぜい、といったところか。
「ていうか、私は咲紀と一緒のチームがいいなぁ」
「私は、そんなにリコリスとしての能力は高くないからね」
「いいじゃん別に、本気でやればもっと強いじゃん」
「人を殺したくはないんだよ。私」
リコリスの評価基準とはすなわち、『上からの指示に従って敵を殺せるか』の一言に尽きる。
殺したくない私は、その点落第。千束は訓練弾でも容赦なくヘッショを狙ってくるので最優秀。
ペイント弾だって目に当たれば失明の危険性がある。じゃなきゃBB弾使ったサバゲーでゴーグルしないよ。
ここらへんからもDAの殺伐さを感じられるし、イかれてるとしか思えない。
我が愛銃、P30SKはチャンバーチェックの上でマガジンを引き抜かれ、物理的に弾を撃てないようになっているため、遠慮なくあちこちに振り回しているが、装填済みの銃でそんな事をやってみろ、最悪暴発しておじゃんになる。シューティングレンジではなく自室に自分の銃を持ち込める時点で倫理観0だが、それを言ったらおしまいになる。
息を整え、軽く力を抜いてリラックス。いつもどおり、肩を緊張させずに……
「おぉ〜!」
ジャキン、という金属音が響き、最速で引き抜かれた銃が正面に狙いをつけていた。
破顔させて手を叩く千束をみて、思わずつられて顔がほころんでいくのを感じつつ、彼女に感想を尋ねる。
「いまの、何秒くらいだったかわかる?」
「0.3秒ちょい?」
出来れば0.2秒台には縮めたいが……そこまで行くと腰撃ちになって正確な狙いをつけられなくなる。
「その構え方、私と同じ?」
「そ、CAR。ジョン・ウィックのオリジナルじゃなかったんだね」
中心軸の再照準、を意味するCenter Axis Relock。略してC.A.R.システム。
拳銃を使用した超至近距離戦闘に特化した構え方で、法執行機関を中心に採用が増えていると聞く。
「ジョン・ウィックって誰?」
不思議そうに訊く千束に、私はジョン・ウィックがリコリスに全く知られていないことを遅蒔きながら知った。
「あー……」
とはいえ馬鹿正直に答えようものなら、今度は私がどこからその知識を仕入れたのか根掘り葉掘り聞かれるだろう。
そもそも彼とその作品がこの世界に存在するのかすら、私はよくわかっていないのだ。
「そうだね……この構えを有名にした人……かな」
結果かなり曖昧な答えとなってしまったが、千束はそれに気を取られることなくあっさりと興味を失ったようだ。
「それよりその構え、なんか普通のと違うね、オリジナル?」
……私のフォームの方に興味を移しただけだった。
「CARのExtendをちょっと弄って私向きにした形……かな」
それに伴ってドロウの方法もフリーハンドで裾をクリアする独特なスタイルに変更され、武器を持つ方の手が最速で動き、フリーハンドが戻ろうとする途中で構えが完成するようになっている。
きちんと構えられるようになるまで1ヶ月位はかかったが、様になってきた、ということだろう。
「ねぇねぇ咲紀!」
「ん?」
「いつか、一緒に任務やろうね!」
満面の笑みだった。このクソッタレな現実を忘れてしまうほどの。
私も笑って、ぎこちなく頷いた。