リコリス・リコイルで一般人転生者が頑張るお話   作:Shohei Hayase

7 / 30
夢を見ていた。夢を見ている。

激しい銃撃の雨に晒され、とうとうコンクリート壁に一本の罅が入る。

 

(……そう長くは持たない。飛び出して……いや、それだと助かるのは誰か一人、もしくは二人になる。掃射で全身穴だらけにされるのがオチだ)

 

先程よりも密度を増した弾幕は、クリアリングを掛ける暇すら与えず、着実に掩体の耐久度を削っていく。

 

ここでc班が合流し、αチームのリーダーはεを左、cを右の通路に合流させようとする。

 

(……行くしかない!)

 

恐れを振り切り、銃撃が止んだ刹那、私は階段を登って飛び出し、牽制射撃をしつつチームのメンバーを誘導する。

 

覗いた銃口には鉛玉をプレゼントしてジャムらせ、僅かに覗いた兵士の腕を銃弾で抉る。

 

「……α突入! 制圧せよ!」

 

リーダーの声が響き、一直線に通路の向かい側に突っ込んでいった千束を追う。

 

兵士が千束に照準を向けるよりも早く、私が銃を破壊して彼女の安全を確保する。

 

3人の敵を無力化したところで弾が尽き、運悪く角から出てきた兵士と千束が鉢合わせする。

 

「……っのぉ!」

 

「げふっ!」

 

引き抜いた空のマガジンを敵の顔面向けて投げつけ、千束はその隙を逃さず銃を胴体に3発ブチ込んだ。

 

(3発っすか……マジで容赦ねぇ)

 

ガタイのいい成人男性だということを差し引いても、明らかにオーバーキルだ。

 

男の体から溢れ出す液体を見て、私も血の気が引くのを自覚していた。

 

「た、助け……」

 

パン、と乾いた音が響く。

 

狼狽した私は、無表情で男に銃を向ける千束と、僅かに白煙を(くゆ)らせる銃と、夥しい量の赤を広げた男を見て、初めて千束が男を撃ち殺したのだと知った。

 

「ち、千束!?」

 

「だめだよ、咲紀。情を掛けちゃ、駄目」

 

驚愕する私に、千束は淡々と語りかける。

 

それは母が子を叱るようであり、常識を説くようでもあり……悲しそうな顔をして去っていく千束に対して、私は何も声を掛けることが出来なかった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

……その後のことは、よく覚えていない。

 

最終的に、ビルは全て千束の独力で制圧され、銃を持っていた戦闘員20人は、死亡。捕縛した者も情報を根こそぎ抜き取られた後、死亡。銃取引に関わっていた人間は、全員死んだ。

 

DA側は死者こそ出なかったものの、アサルトライフルの弾を4発撃ち込まれたリコリスは瀕死の重傷を負い、復帰までには年単位の時間がかかるらしい。

 

「私のせい? 私が人を……ちがう、絶対に違う! 私は……!」

 

DA関東本部の、誰もいない廊下で、私は一人蹲っていた。

 

この場所は唯一、施設内の監視カメラの画角の外にあるため、司令室にいる人間がここで何が起こったのかを知ることはできない。

 

息が荒い。私の精神が、先程起こったことの理解を拒絶している。

 

リコリスとして何回か任務をこなす傍ら、私は死にそうになった兵士をそれなりの数殺さずに見逃してきた。

 

銃の機関部を破壊し、顔面の側に銃弾を叩き込んで武器を持つことの怖さを教える。

 

……それで十分だと、思っていた。思ってしまっていた。

 

(あのとき銃取引現場にいた人……見覚えがある。私が逃した人だ)

 

2、3人は居ただろうか。驚愕の表情を浮かべ、あるいは浮かべる顔すらも失って、全員物言わぬ抜け殻となって横たわっていた。

 

私の想定が甘かった? 銃弾を側に撃ち込む程度じゃ足りなかった? でも体に傷をつけてしまえば、彼らの社会復帰が困難になってしまう。

 

なら私がDAを抜ける?

 

……無理だ。

 

知ったものは容赦なく殺す。

 

それがDAという組織の体質だ。

 

リコリス数人を同時に相手できると考えるほどには自惚れていないし、DA全体を敵に回すなど以ての外だ。

 

「なんで……なんでこんな……」

 

『死にたくない』と『殺したくない』が怨念のように頭にまとわり付く。

 

「あ、ここにいた」

 

「……千束」

 

スタスタと駆け寄ってきた千束は、私の隣に腰を下ろす。

 

「酷い顔。そんなに人が死ぬの、嫌なの?」

 

「……うん。嫌だよ」

 

「なんで? 私達が悪人を殺せば沢山の人が救われる。それって、とっても良い事じゃない?」

 

千束は平然と、DAの中での常識を説く。

 

リコリスの養成カリキュラムでは語学、運転技術、射撃術などを学ぶが、唯一法学の授業は無かったな、と今更ながらに考えた。

 

「……たとえ自分がどんなに正義でも、たとえ相手がどんなに悪人でも、人が人の命を奪うことを許すルールなんて無いの。人の命を奪うことを許すのは、人の総意によって定められた法だけ。それが、DAの外の仕組みなの」

 

「咲紀は物知りだね。 ……DAの外かぁ……考えたこともないや」

 

千束は数秒虚空に視線を彷徨わせ、こちらに笑みを向ける。

 

「でもとても平和で、キレイな世界なんだろうなぁ」

 

私は言葉に詰まる。

 

私が知覚している前世は、当然ながらリコリスの存在を前提としていない。

 

それでもなお、答えるとするならば……私は幸せだったのだろうか。

 

なんの取り柄もない、平均的な学生。満ち足りてはおらず、さりとて明日の飯の種にも困るわけでもない。

 

……その時点で幸福、なのだろうか。日々を普通に生きられることこそが、何よりも幸せなのだろうか。

 

「うん。そうだね……そうだといいね」

 

私は何となしに、千束の肩に頭を乗せる。

 

千束は何も言わず、私の頭の上に頭を重ねた。

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。