リコリス・リコイルで一般人転生者が頑張るお話 作:Shohei Hayase
「……強くなる、しかないか」
皆が寝静まった夜、千束との交流でだいぶメンタルが改善され、それでもまだうまく寝付けずにいた私が出した結論がそれだった。
力が必要だ。私が無事に任務を終わらせて、その上で他人を守れるくらいに強くならなければ、私の考えは通用しなくなってしまう。
DA内部からの粛清に怯えて、今まで私はマトモに訓練を受けてこなかった。……集中力が長く続かなかったりとか、人に向けて銃を撃つのは苦手だったりとかがあったからだが……そんなことを言ってはいられない。
何よりも実戦経験を積まなければ、本物の戦場では役立たずになる。
それは今日、痛いほど実感した。
……私は、恐らく甘えていたのだろう。
眼の前の現実から背を向け、「一般人」でありたいという希望のみを見ていた。
それは、もうやめる。
私は私という存在のまま、より強く。意思を通すだけの力を得る。
「決意」と「覚悟」という2つの歯車が、私の心を回している。
(ならやっぱり、学ぶべきは……千束から、かな)
私が知る限り、彼女以上に強いリコリスはいない。戦闘技術を高めようと思ったら、やはり彼女に師事するのは理に適っているだろう。
(前世は20ちょいで記憶が終わってるから、それも含めたら年の差4倍以上か……まぁ背に腹は代えられない)
親子ほど……という年の差でもないが、それに近い少女に教えを請うという事実に対して、口角が上がったり下がったりする。
(ひとまず、今日は寝る。 ……おやすみ)
それら諸々をひっくるめて、明日のために意識を手放す。
実戦の疲れは、簡単に私の意識を絡め取った。
◇◆◇◆◇◆
「咲紀? 珍しいね。咲紀が射撃場に来るなんて」
「千束……私だって訓練くらいは……ま、私が言っても説得力無いよね。それと、昨日はありがとう」
朝早く、DA本部の射撃訓練場に向かうと、既にシューティングレンジに入っていた千束から中々にご挨拶な言葉を頂戴した。
しかし、訓練期間が終了してからというもの、撃っても一日に数発程度だった私に非があると納得させ、昨日の礼を言いつつ私は千束の隣のレンジに入る。
つーか今だって銃は苦手だよ。こちとらThe平和社会日本出身の一般人さ。
しかしまぁ、DAってのは本当に恐ろしい。銃天国のアメリカだって真っ青だぜ。バンプファイア*1なしでフルオート銃が使えるからな。
銃はどこから? 敵から
……何かを吐き出したくなる。その衝動に逆らわぬまま、大きく息を吸って、吐く。
P30SKにフル装填されたマガジンを叩き込み、一度スライドを引いてからマガジンを落とし、一発装填してから再度マガジンを入れる。
タクティカルリロードの状態で、レンジの机に4発の弾が装填されたマガジンを置く。
都合15発。今の私がどれだけ正確に射撃できるか……試してみよう。
トリガーを引き、その反動を体全体で抑え込み、揺れを極限まで少なくする。更に連続して、2発、3発、4発……
加熱して変形する銃身の形状も計算に入れ、微妙に照準を調整する。
10発を撃ったところでマガジンリリース。4発入りのマガジンと最速で交換し、射撃を続行。
12、13、14……15。
「……ありゃ、エラーか」
「えぇ……?」
千束がドン引きしている。
全弾ヘッショ、にもかかわらず判定はエラー。総合評価D-。
「滅茶苦茶だぁ!」
「いやうん……千束が言うなと言い返してやりたいけど……正直私もビビってる」
千束が食い入るように見つめる先には、一発だけの弾痕を脳天に残した訓練標的があった。
ワンホールショット。漫画かアニメでしか見ないような絶技を、まさか人間が再現できるとは……
まぁ高々30m程度だし、銃口から射出される弾の軌道は、理論的には銃口を頂点とした円錐形を描く。全距離でワンホールショットを出来ると言う訳でもない。
……まだまだ、精進が足りない。
「と言う訳で、千束……私を鍛えて!」
「この流れで私? 私いらないよね!?」
勢いが大事、と両手を合わせて頼み込むと、千束は腕をぶんぶん振って拒絶する。
「こんなの、所詮道場剣術だよ。実戦で使えなければ意味がない。私は正確な狙いより、敵の弾丸を回避する技術が欲しいの」
「んー、んー……といっても、私もなんで弾を避けてるのかとか、全然考えたことないしなぁ……」
【悲報】千束、完全に勘で銃を避けていた。
嘘だろお前、あの無敵チート完全に才能かよ。
私がそれを会得するのは相当に骨の要る作業だと実感し、修正したプランを千束に告げる。
「実戦形式で、銃から発射される弾を千束が避けてるのを見て、それから私……って考えてたんだけど、そっか、これだともう一人必要だね」
DA内に親友? 居る訳ねーだろ。こちとらモブリコリス、オマケに社交的というわけでもない。
千束も元々同年代とは隔絶した才能と、短期間でセカンドリコリスまで上り詰めた能力から、他人と会話することが殆ど無い。
私よりもよほど社交的な千束だが、その能力が発揮されるのは私含む数人に限定されているのが実情だ。
「うーん。咲紀がそこまで言うなら、私は別にいいけど……あと一人、あと一人か……」
千束は唸りながらも視線をまっすぐこちらに向け、口を開く。
「私にアテがある……かもしれない。私の、先生なんだけど」
……今なんと?