リコリス・リコイルで一般人転生者が頑張るお話 作:Shohei Hayase
今後とも、拙作をご愛顧頂きますようお願い申し上げます。
2022年8月17日 Shohei Hayase
千束の話によると、彼女が言う「先生」とは、とあるリコリス訓練教官で、千束にC.A.Rシステムを伝授したのもその人なのだと言う。
「10年前までセキュリティガード……の皮を被った傭兵チームに所属? バリバリ現役の戦闘員じゃん」
DAの訓練教官は、DAという組織の成り立ち上、元警官や退役軍人が大半であり、民間の会社から教官を採用するのは珍しいケースだ。
DAの関東本部がある土地は表向き国有地であり、DAが国の組織であることは疑いようがない。 ……所管省庁は知らんがな。
「まぁ、千束を鍛えた人だから相当に強いとは思うけど……今、どこにいるかわかる?」
「多分この時間なら……第1訓練場じゃないかな? 一緒に行こう!」
二人で連れ立ってシューティングレンジを後にし、10分程歩いて訓練場に到着する。
「先生!」
「おう、千束……と、そっちの子は?」
片手を振って挨拶する千束と、振り向いた男の顔を見比べる。
日本人とは異なる黒い肌の男は、千束に軽く返答し、私を怪訝そうに見つめた。
「私の友達。めっちゃ強いよ」
「ほぅ……千束がそう言った奴は今まで見たことがない。ミカだ。ここで訓練教官をやってる」
「一ノ瀬咲紀です。宜しくお願いします」
握手をする。よく鍛えられた、がっしりとした手だ。
「で、わざわざ何をやらせようってんだ? 千束に教えることはもう残ってないぞ」
「私じゃなくて、咲紀に。この子全然訓練してなくて」
「事実だけど酷くない? ……ぜひとも、お願いしたいです」
サラリと私を批判する千束に口端が引き攣るのを自覚しつつ、男に向けて頭を下げる。
「勿論良いとも。なら、一旦場所を変えよう」
男は快諾し、第1訓練場を出てどこかへと歩き始める。
「この方向は……キルハウスですか?」
「実戦形式の訓練をやろうと思ったら、あそこ以上に適切な場所はないさ」
キルハウスの中心で、男は何やら作業を始めた。
「千束の動きを見る……か。参考になるかどうかは微妙だが……千束、いいな?」
「いつでも」
アタッシュケースからM4カービンを取り出し、チャージングハンドルを引いたミカは、千束に最終確認を取る。
千束はゴーグルをして、角に背を預けたまま平然と答えた。
(両者の距離は50m、拳銃では遠すぎる。アサルトライフルには近すぎるが、制圧力で勝るアサルトライフルが有利か)
そう目算した私は、直後に驚愕し、目を見開いた。
アサルトライフルの弾が、当たらない。
弱装弾を使用しているとはいえ、音速の2倍以上で放たれる弾丸が、千束をすり抜けて後ろの壁にペイントをぶち撒ける。
(見てから避けるとか、そんな次元じゃない……無意識領域じゃないと、反射が追いつかないんだ。 これがアラン機関に見初められた才能……)
果たしてこれが、私に再現できるだろうか。
一度も弾を当てることが出来ずに、M4カービンのエジェクションポートからボルトが消える。
振り返ってピースサインをする千束を見ながら、「さて、どうしよう」という諦めにも似た思考が私の心に去来した。
◇◆◇◆◇◆
「どうだ、千束の動きは?」
「改めて見ると、ホントに無茶苦茶ですね……」
ボヤきながらも、ミカの構える銃から視線はそらさない。
一挙手一投足すら見逃すまいとする私の視線に、彼は肩を竦めることで答えた。
(どうする……私に出来るのか、あんな曲芸。あんなの、思考を早くして合わせでもしないと……)
「さて、まずは一発目だ」
M4カービンのトリガーが引かれ、700m毎秒の速度でペイント弾が射出される。
トリガーが引かれた時点から回避行動を取っていたにも関わらず、左腰に弾丸が命中し、服にペイントの線が走った。
「続けるか?」
「……やります」
続けてトリガーが引かれ、そのどれもがギリギリ避けきれず、手足や肩に命中する。
(クッソ避けきれねぇ! 手の動きと銃身の向きを見てるのに、それでも駄目かよ!)
人間の反射速度はおよそ0.2秒。リコリスとして訓練を受けた私たちは、おおよそ0.13秒程度だろうか。
それでもアサルトライフルの弾丸はその時間に91m進む。
つまり全く反応速度が足りていない。
(人の「動く」って意志を探知できれば0.1秒くらい短縮出来そうだけど、それでも焼け石に水だな!)
そもそもそんな超能力染みた物を一般人である私が持っている筈もなく。
全身ペイントまみれになった私はミカから小休止を言い渡され、床に大の字になって転がりながら「どうすれば勝てるのか」を考えていた。
(あー……そういえば面白い仮説があったなぁ。人間の脳は、その能力の10%だか何だかしか使えてないって説。脳機能局在論者にボッコボコにされてたなぁ)
ただまぁ、分からなくもない。
人間という存在には、リミッターが掛かっている。わかりやすく言えば、本来想定される能力に対して、人間が発揮している能力は酷く少ない。
脳とか全然性能を使えてないからな。まぁ意識とかに処理能力を食われているし、表に出てくるものが少ないと言えばそうなのだが……意識?
「そっか……足りないんだったら、持ってくればいい。けどどうやって?」
私が私であるために必要なパーツは……多分、これでいい。
知っているからだ。人の自我は、私が生まれてからずっと、目にしてきた物では無かったか。
(この世界に生まれてから、私を私として認識するまでの3年間、私には自意識が無かったわけじゃない。 ……やり方ぐらい、まだ覚えている)
水面に、顔を近付けるイメージ。引っ張られるように、グン、と意識が沈む。
私の周りには、バラバラになった欠片が浮遊している。
「私の自我は二人分だ。“
後悔はない。たとえ倫理に背く物だとしても、それらを再び寄せ集めて、もう一つの「私」にする。
虚像だった「私」に、肉がつく。
私としての意識領域を確保したまま、「私」は無意識から演算領域を切り取った。
「行けそうか?」
ミカが問う。何故だか、とても気分が
「行けます」
問いに答えを返す。彼が僅かに体を震わせたように見えたのは、私の錯覚だろうか。