ウマ娘に転生したらパクパク……してなくて、むしろツンツンしてるお嬢様のお目付役になった件について。 作:流星の民(恒南茜)
「主治医によりますと、この具合なら明日下がるかどうか……と」
じいやの話を聞きながら、座り込んだベッドの上でマックイーンは、一人の少女の姿を回想していた。
『それでもわたしは、お嬢様と仲良くしたいのです』
招待状と銘打たれた一通の手紙に記されていた一節。
それは最後の方に、目を凝らさねばならないほどに小さく書かれた字面ではあったが、不思議と胸の中から離れないモノだった。
——初めてなのです。
一度突き放してもなお、そんな事を言う同世代の娘など、彼女の短い人生の中で出会ったことがなかった。
それどころか彼女は、積極的に自分に関わろうとする素振りまで見せているわけでもあったわけだ。
だからこそ一度、けじめをつけておきたかった。
『今度……謝らなければなりませんわね』
手紙をもらった直後に、ポツリと出てきた言葉。
きっとあれはうわべだけのものじゃなくて、衝動的に漏れた本音だったはず。
一人で口にするだけじゃ足りない。
本人に届けたい。
そんな気持ちからか思わずじいやに問いかけてしまう。
「そういえば……ミゾレさんの様子は今、どうなっていますの?」
「え、ええ……ミゾレ……ですか……?」
昨日の今日だ。お嬢様の心変わりに対して、彼は少し驚いているかのような素振りを見せたが、すぐにいつもの落ち着きを取り戻し返答した。
「彼女の様子は……特に変わりありません。強いていうならば、明日のクリスマスパーティーを楽しみにしていたこと、くらいでしょうか」
——クリスマスパーティー……ですか。
メジロ家のクリスマスパーティーは、大規模なものだ。
純粋に楽しみにしていたという点であればマックイーン自身も変わらなかったが、ここに来たばかりで参加するのが初めてである彼女が、自分よりも楽しみにしている姿は容易に想像できた。
であれば謝るタイミングとしては適しているだろうと、マックイーンは軽く頷いた。
きっと、そんな場であればミゾレも今日みたいにすぐに逃げてしまうということはないだろうし、何よりも——
招待されたからには、必ず参加せねば、と。
従姉妹やミゾレたちの気持ちを想像すると、居ても立ってもいられなくなる。
「それでも、治してみせますわ。明日までに、必ず」
そう口にしたのは決意の証明。
決め手になったのはきっと、メジロ家のウマ娘としての誇り——だけではなかった。
「——私も彼女と話してみたいの、で……」
普段からはっきりと話す彼女の歯切れの悪い物言いに、一瞬じいやは疑問を持ったが、彼女の紅潮した頬を見て、納得したように頷いた。
「……では、もうお休みになった方がいいかと。まだ熱は下がりきっておりませんので」
熱を測ってもらった後、取り替えられた氷枕に頭を預けて、マックイーンは目を瞑る。
胸の中でモヤモヤと渦巻く感情がどういうものか、まだ幼い彼女にはわからなかったけれど。
何をするべきかは既に理解できていた。
——風邪を治して……そしてお話するのです。きっと彼女は逃げなくて……初めてしっかりとお話できるはずです。だって、楽しいパーティーになりますもの。
楽しい催しは頭から離れず、瞼の裏から彼女の姿は消えない。
ゆらゆらと尻尾は揺れ、耳はピンと立ち、心臓の拍動は収まらず、緊張のせいか、熱のせいか——体は熱い。
そうしてちょっぴり不安を抱えながらも期待を膨らませていく彼女の姿は、メジロ家のウマ娘としてのものではなく、年相応の八歳の少女のものだった。
やがて、彼女が寝息を立て始めたのを確認して消灯した後、部屋を立ち去る前にじいやは一つ、呟いた。
「……きっと、良くなります。お嬢様」
夢の中で何か良いことでもあったのか、それとも声が届いたのか、ドアが閉まる直前、彼女は薄く微笑んだ。