ウマ娘に転生したらパクパク……してなくて、むしろツンツンしてるお嬢様のお目付役になった件について。   作:流星の民(恒南茜)

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#5 「けれど、今のままで構いません」

「……ありません」

 

たった一度、発した声。

それは、部屋中に響き渡り。

かと言って、望んでいたものが帰ってくるわけではなく。

マックイーンは、ベッドに座り込みながらも、隣にそれがないことへの不安を感じていた。

 

「お嬢様、ぬいぐるみについて、ですが……」

 

その時、ノックと共に部屋に入ってきた相手を見て、彼女の尻尾は左右に触れた。

 

「……じいや。もう、帰ってきますの?」

「……いえ、大変申し訳ありませんが、明日まではかかると……」

 

けれど、その答えが帰ってきた途端に、尻尾と耳が垂れ、彼女は目を伏せる。

昨日、眠っている間に顔を埋めてしまったがために涙で濡らしてしまったぬいぐるみ。

明日までには乾くだろうとマックイーンは考えていたのだが、結局湿った毛並みは変わらずに。

結局は今朝、洗濯と乾燥をすることになってしまったものだった。

 

——流石に、こんなに早く乾くわけがありませんもの……。

 

ぬいぐるみの状態を保つためならば、仕方がない。

ある意味分かりきっていて……割り切っていたことではあったが、だとしても、普段から一緒に寝ていたぬいぐるみが今日はいない、というのは彼女にとっては中々に堪えるもの。

じいやが部屋を出たのちに、思わず一度ため息を吐いた時だった。

 

「……マックイーンお嬢様、今……よろしいでしょうか……?」

 

控えめなノックと共にドア越しなせいか、多少くぐもった声が聞こえてきて、彼女の耳は一瞬ピクリ、と震えて。

そのまま——あくまでも所作は崩さないようにしながらも——少々駆け足で向かうと、彼女はすぐにドアを開けた。

 

◆ ◆ ◆

 

◆ ◆

 

 

「……こんばんは、マックイーンお嬢様」

「……ええ。こんばんは、ミゾレさん」

 

ささやかなクリスマスパーティーを部屋で開いてから一日。

すっかり今日はお嬢様の熱も下がったがために、初めて二人連れ立って部屋を出て、屋敷を巡ることができた。

途中で道に迷った時は、お嬢様も知らずとあって、随分と困ったものだったが……それも含めて、楽しい時間だったことには違いない。

そんな、初めてお嬢様のお目付役と過ごした一日を回想しながらも、ミゾレは手に持っていた衣服を持ち直して、要件を口にした。

 

「……これ、お洋服、です。洗濯、終わりましたので」

 

それを目にして、マックイーンは少々、視線を巡らせて……その後、一つ口にした。

 

「……ぬいぐるみは、ありませんの?」

「……ぬいぐるみ、ですか……?」

 

特に、洗濯物の中には混ざっていなかったはず……。

けれど確かに今日、お嬢様が大事にしているという、ぬいぐるみの話は聞いていた。

そして、それが洗濯に出されている、というのも。

確かに、隣に誰もいない夜中、寂しさをぬいぐるみが紛らわせてくれた、という経験はミゾレにもあったものだったため、理解できる話だった。

 

「……申し訳ありません……。特に、それは……渡されていなくって……」

「……そう……ですの……」

 

だからこそ、それを口にするのは中々に躊躇われたし、だんだんと垂れていくお嬢様の耳は、尚更に……罪悪感を刺激してくるものだった。

 

「……でしたら、私が寝るまで、少しだけ……その……話し相手に、なってくれませんか?」

 

そんな状況下だったから、だろうか。

少し、上の空のまま頷いて。

頷いたのちに、ミゾレは言葉の意味を反芻して……

 

「……え?」

 

ピンと耳を立て、一瞬にして頬を紅潮させた。

 

◆ ◆ ◆

 

◆ ◆

 

 

「……しつれい、します……」

 

寝る支度をするから、と。

部屋を離れたのち、十数分して戻ってきたミゾレの声を耳にして。

少しばかり揺れる耳と尻尾があまり見えないように……なるべく抑えながら、マックイーンはドアを開けて。

 

「……へ?」

 

少しばかり、頓狂な声をあげてしまった。

 

「……どう……しましたの……? その……パジャマ……」

 

と言うのも、ミゾレが普段身につけている服に対して、

 

「……ご、ごめんなさい……もしかして……あまり、お好きではありませんか? ……うさぎ」

「……いえ。そんなことはありませんが……足りていないではありませんか。袖丈も、ズボンの裾も……」

 

うさぎが目一杯に刺繍された彼女の着ているパジャマが、おおよそサイズが合っているとは思えないものだったからだった。

 

「……昔、お母さんにねだって買ってもらったので、どうしても……その、愛着があって……」

「他には……持っていませんの?」

「……いえ……お母さんが買ってくれたのは、これが最後、でしたので……」

 

別に、彼女としてはミゾレの趣味にあれこれと口出しをするつもりはなかったものの、あまりサイズが合っていない服を着続けることがあまり良いことだとは、マックイーンには思えなかった。

 

「……そう、ですわね。……少し、待っていてくれませんこと?」

 

彼女は少し考えたのち、ミゾレを部屋に招き入れると、衣服棚からなるべく色合いの似た自身のネグリジェを取り出して。

 

「……きっと、無理に着ていたら、パジャマの方も傷んでしまいますわ。私の使っていたものではありますが……しばらく、こちらをお貸ししましょうか?」

 

そう提案して、広げてみせた。

 

「……わ、わたしに……ですか……? ……で、でもっ……わたしなんかが借りたら、迷惑じゃ……」

 

対して、ミゾレは動揺しているかのように目を白黒させると、おおよそ急だったせいか激しく首を振る。

 

「いいえ、構いませんわ。それに——貴女は、私のお目付役、なのでしょう? ……であれば寝る時でも、身だしなみを整えるのが、女の子のたしなみではありませんの?」

「そ……そう、でしょうか……」

 

そう口にしたのちに、未だに多少震えている指先を顎に当てながら、少しばかり思案する素振りを見せて。

 

「……本当に、わたしなんかがお借りしても……よろしいのですか……?」

「もちろんです。むしろ、勧めているのは私の方、なのですから」

 

そこでようやく頷くと、彼女はマックイーンの手元にあったネグリジェを手に取った。

 

◆ ◆ ◆

 

◆ ◆

 

 

「これで、大丈夫……でしょうか……? 着方の方って……わたし、初めてで……こんなにフリフリしたお洋服……」

「ええ。問題ありません。しっかりと似合っていますわ」

 

白いネグリジェとカーティガン。それに加えて、さらりと流れる白い髪。

マックイーンとしては、元々着ていたパジャマと似ていると言うことで選んだものだったが、想像以上にそれが似合っていたせいか、思わず彼女は一度息を吐いた。

 

「……それにしても、随分と遅くなってしまいましたわね……。眠くは、ありませんか?」

「……いえ、そんなこと……むしろ、お嬢様が、お洋服を選んでくれたおかげで……この時間に……」

「そう、ですか……。であれば、お互い眠くなるまでお話しませんこと?」

「……喜んで。お嬢様が眠くなるまで、お付き合いいたします」

「そんな肩に力を入れなくてもよろしいのですよ? パジャマパーティー、というものは……もう少し、気楽なものでしょう?」

 

何度か従姉妹たちと開いてきたものではあったが、親族以外の相手と過ごす時間にその催しの名前を付けるのは、マックイーンにとっては初めてだった。

そのせいか、尻尾は揺れて、耳はピンと立ったまま。

それは、楽しい催しが待っている時のサインだった。

 

「……パジャマパーティー……ですか……。わたし、初めてです。……そういうの」

「何事も経験ですわ。さあ、話題はどちらから?」

「……じゃ、じゃあ……この間見たスポーツの——その、野球の試合の話、でも……」

「野球……ですか……っ!? その……どこのチームをひいきに……?」

「え、ええっと……」

 

——本当に、お目付役のイメージとはかけ離れた方、です。

 

頬を紅潮させながら、楽しそうにスポーツの話をする姿も、パジャマの件で、慌てる姿も。

お目付役というよりも、むしろ友人だとか、もっと言うのであれば、年下の姉妹だとか。

 

——けれど、今のままで構いません。

 

口に出しては伝えなかったけれど、その言葉を、そっと心の隅に留めておいて。

 

じいやが部屋の外へと漏れる灯りに気づくまで。

 

その時間は続いた。




P.S.3人ライブでのテイマクネイチャの並びは至高。Day2、楽しみです。
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