産屋敷殿の13人   作:不知火新夜

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皆さん、初めましての方は初めまして、そうで無い方はお久しぶりです、不知火新夜です。
以前、次に投稿する予定の作品として活動報告に簡単な設定を乗せていた『産屋敷殿の13人』の連載を、今日からスタートします!

久しぶりの投稿という事で調子を取り戻すのに時間が掛かるかも知れず、それ故に更新が不定期になるかも知れませんが、どうかよろしくお願いします!


1話_雄英入学

事の始まりは今から数百年も昔に伝えられた、中国は軽慶市において『発光する赤児』が誕生したというニュースだった。

普通の人間では到底あり得ない現象を引き起こすその子は何故産まれたのか、様々な分野の専門家達が調査に乗り出すも原因は掴めず、然しながら一流スポーツ選手が圧倒的な記録を打ち立てた訳でも無ければ何処ぞの国が他国に戦争を仕掛けた訳でも無く、新種のウィルスが各地で蔓延しているという訳でも無い、ただそんな『超常』を有する『個性』的な赤ちゃんが1人産まれただけという理由で当初そのニュースが大きく取り上げられる事は無かったが、これ以降各地でこういった『超常』を有した子供達が誕生、何時しか『超常』は『日常』に、『架空(ゆめ)』は『現実』に取って代わられる事となった。

こうして世界総人口の約80%が何らかの『個性』、以前は『超常』と呼ばれた力を持つ『特異体質』である現在、その個性を悪事に用いる『(ヴィラン)』と呼ばれる犯罪者によって混乱渦巻く世の中において、嘗て誰もが空想し憧れた存在が職業という形で、大いなる脚光を浴びていた。

己の特異なる力を悪用する『敵』に、己の力の限りを尽くして立ち向かう、そんな子供向け娯楽作品の主人公みたいな存在、そう、『ヒーロー』と呼ばれる職業である。

 

『ねぇ、かっちゃん。この世界に僕みたいな『無個性』の人って、どれ位いるのかな』

『確か80%位が何か個性を持っているって聞いたから残りの20%、5人に1人位か、出久?』

『そう、5人に1人。全世界の総人口のうちの中国人、日本の総人口のうちの血液型B型の人。無個性の人達って少ない様で実はありふれた存在なんだよ。でもそんなありふれている筈の人達は物凄く酷い扱いを受けている。それは何でだろう?』

 

夕陽に照らされた公園で見た目とはかけ離れた大人びた口調、小難しい話題で話し合う2人の幼い男の子もまた、そんなヒーローになる事を夢見る存在だ。

だがその2人のうちの片方、出久と呼ばれた、もっさりした緑髪と、額の左側から側頭部に至るまで刻まれた炎の様な痣以外は変わった所のない『普通』な見た目の男の子――緑谷(みどりや)出久(いずく)は『無個性』と呼ばれる、個性を持たずに産まれた現代において割と珍しい存在だったのだ。

出久が言う通り、現代において無個性の人達はそれを理由とした差別的(物凄く酷い)扱いを受けている、といってもこの小説を読んでいる貴方達がニュース等で見聞きするそれとは事情が異なる。

そもそも今現在どの国においてもヒーローがその職務で使用する場合を除いて公的な場で個性を発動する事は法律で禁止されている、つまり個性を持っていようが持っていなかろうがヒーローでも無ければ社会において出来る事は変わりない筈なのである。

それでも無個性の人達が差別されるのは何故か、そんな出久の問いに、

 

『無個性はヒーローになれないから、か…?』

 

かっちゃんと呼ばれたもう片方の、トゲトゲした金髪、目つきこそ悪いがそれでも美少年と誰もが称える整った顔立ちの男の子――爆豪(ばくごう)勝己(かつき)はそう答えた。

『無個性はヒーローになれない』、現代において最も脚光を浴びる存在になる事は出来ないという、職業選択の面での致命的な不利が、無個性の人達に対する差別に繋がっていたのである。

尤もこの職業選択上の不利は、個性持ちの無個性との能力的な優位性ばかりではなく、元々空想の物だったヒーローという存在が職業として確立する迄の歴史を鑑みれば仕方の無い面もあるのだが…

 

『そう。個性が生まれてから今まで無個性でヒーローになれた人は1人もいない、故に無個性はヒーローになれない。その事実によって今、無個性の人達にとって物凄く生きづらい社会になっている。

 

 

 

でもかっちゃん、無個性の人がヒーローになってはいけないなんて、ヒーローを目指してはいけないなんて法律、日本には存在しない。無個性でもヒーローになれる可能性は、ちゃんとあるんだよ』

 

だが出久は、それを仕方ないとは思わなかった。

年不相応に大人びていながら夢見るものは他の子達と変わらない、そんな出久のヒーローを目指す様は周りの大人も、勝己も十二分と言って良い程見知っていた、だからこそこの日の午前中に行われた『個性診断』で出久が無個性だと判明した時、出久の母である緑谷引子(いんこ)はヒーローになる事が出来ない身体に産んでしまった罪悪感から泣き崩れてしまい、それを人づてに聞いた勝己は流石の出久でも相当ショックを受けているんじゃないかと居ても経ってもいられず家を飛び出し、何時もの遊び場である公園で夕陽を見上げる彼に声を掛けたのだが、

 

『かっちゃん、僕は無個性で初めてのヒーローになる。そしてヒーローとして活躍して無個性の人達の希望になるよ』

 

当の本人は全く落ち込んでおらず、寧ろ自分の進むべき道が決まった、どんな自分になりたいかがはっきりしたと言わんばかりの満面の笑みを浮かべ、そう宣言した。

 

『そうか。だったら俺はオールマイトをも超える程の、後世の歴史にデカデカと名を刻める程の、No.1ヒーローになる。そして出久、お前を相棒(サイドキック)に迎えて『俺の相棒は無個性だけど、誰よりも頼りになる存在だ』って皆に自慢してやるよ』

 

それを聞いた勝己は、出久当人が決然としているのに自分がウジウジと気にしてどうすると切り替え、同じく己の夢を、なりたい自分を宣言した。

勿論、勝己とて出久がやろうとしている事がどれだけ無理難題かは分かっていた、個性持ちとてヒーローになれるのはほんの一握りだというのに、個性持ちとの能力的な差が確定的明らかな無個性がなれる可能性は殆ど無いと言って良い、さっき出久が口にした『日本には無個性がヒーローになってはいけないなんて法律は無い』という発言も、門戸を開けているというより政治家達が『無個性がヒーローになれる筈が無い』という先入観から放置しているだけだろうとも思っていた。

けれど出久なら、自分と同じく大人びていて、それでいて自分より凄い奴だと、無個性だと判明した今も尚思っている出久ならもしかしたらやってくれるんじゃないか、そう勝己は信じていた。

故に勝己は己の夢に、今現在日本のNo.1ヒーローとして国内外に広く知れ渡っている『オールマイト』をも超えるヒーローになるという夢に、なった後の事を付け加えた。

出久が無個性初のヒーローになるのなら、自分はオールマイトを超えるNo.1ヒーローになる、そして出久に『No.1ヒーローの相棒』という箔をつける、と。

 

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それから11年位たった4月、

 

「出久、ティッシュ持った!?」

「うん」

「ハンカチは!?」

「勿論」

「お、お弁当は!?」

「さっきから左手にぶら下がっているんだけど!?」

 

名だたるトップヒーローを輩出した事で『偉大なヒーローになるには此処を卒業する事が絶対条件』だと言われる程の知名度を誇り、それ故の志願者の多さと一般入試の定員36人という少なさから偏差値79、合格倍率300倍という超難関である国立雄英高等学校ヒーロー科、その狭き門を突破して見せた出久は、その入学式に出席すべく真新しい制服を纏って出発しようとした…のだが、物凄く緊張している引子によって持ち物の確認をする事となり、左手に持っているお弁当すら見えていない事には流石にツッコまざるを得なかった。

 

「かっちゃん、響香ちゃん、お待たせ」

「おう、来たか出久」

「引子おばさん、相変わらず心配性だね。入学初日からあれじゃあ身が持たないでしょうに…」

 

何はともあれ引子に見送られて家を出た出久、その扉の先では勝己と、出久達と比べて頭1つ近く小柄で、三白眼とイヤホン用ケーブルみたいな形状の耳たぶが特徴的な少女――2人の幼馴染で勝己の彼女である耳郎(じろう)響香(きょうか)が迎えに来ており、扉越しにも伝わって来た引子の慌てぶりに苦笑いを浮かべつつ、出久も加わった3人で雄英高校へと向かった。

その後は特にトラブルが発生する事も無く、式の開始予定時刻から数十分も前に到着、3人の在籍クラスである1年A組の教室に辿り着いた。

その後、

 

「勝己君、ヒーローを目指す者としてそんなだらけた姿勢は如何だと思うぞ!プロになった時、ファンがその姿を見たら幻滅されるかもしれないじゃないか!」

「うっせェな天かす。別にOFFの時くらい楽な姿勢したって良いだろ、気が休まらねェだろうが。変な使い方している訳でもねェし」

「誰が天かすだ誰が!いい加減そのあだ名で呼ばないでくれ!」

 

勝己から天かすというあんまりと言えばあんまりなあだ名で呼ばれた、如何にも堅物そうな風貌の少年――飯田(いいだ)天哉(てんや)が、

 

「チャコちゃん!チャコちゃんも一緒のクラスなんだね!」

「うん、いずくん!」

 

出久からチャコというあだ名で呼ばれた、丸っこい輪郭も相まって可愛らしさが前面にでた風貌の少女――麗日(うららか)茶子(ちゃこ)が、

 

「あら、皆もこのクラスだったのね。また一緒になれて嬉しいわ、ケロケロ」

「梅雨ちゃん!」

 

可愛い蛙という表現がぴったりな顔立ちの少女――蛙吹(あすい)梅雨(つゆ)が、

 

「皆久しぶり!一緒のクラスになれて最高だよ!」

「だよな、三奈!」

「三奈ちゃんに鋭児ちゃん、2人も同じクラスなのね。嬉しいわ」

 

ピンク色の髪と肌、黒く染まった白目、髪の間から生えた一対の角と、本当に人間なのかとツッコミたくなる姿の少女――芦戸(あしど)三奈(みな)と、三奈の彼氏で、赤毛の髪やら歯やら目つきやら至る所がトゲトゲした少年――切島(きりしま)鋭児郎(えいじろう)が、

 

「お久しぶりです、皆さん!こうして同じ学び舎に、増して同じ学級で顔を揃えられる事、誠に嬉しく思いますわ!」

「久しぶり、ヤオモモ!」

 

三奈からヤオモモというあだ名で呼ばれた、言葉遣いもあってか育ちの良さを感じさせられるポニーテールの少女――八百万(やおよろず)(もも)が、

 

「やった、皆と一緒のクラスだぁ!すっごく嬉しいよ!」

「うわって何だ透ちゃんか」

 

個性によって透明人間と化したので制服が浮かんでいるという異様な状態となった少女――葉隠(はがくれ)(とおる)が、

 

「おぉ、お前らもこのクラスだったのか。嬉しいのは嬉しいんだが、此処の教師達の何かしらの意図を感じるのは俺だけか?」

「心配するな人使、俺だってそう思う。こういうクラス分けって普通、同じ学校とか地域とか、各生徒の関係を基にそれをバラけさせる振り分け方だろ?何で俺ら11人皆同じクラスに振り分けられてんだろうな?出久と俺と響香、鋭児と三奈に至っては同じ中学だし」

「確かにそうね、勝己ちゃん。少なくとも小学校や中学校では生徒間のコミュニティ拡大を理由に、元からあるコミュニティをある程度の人数に分割して各クラスに割り振るって話を聞いた事はあるわ」

 

そして、目元の隈からか何処か陰のある雰囲気の少年――心操(しんそう)人使(ひとし)が、1年A組の教室に集結した。

今の彼らの口ぶりからも分かる様に、彼ら11人はとある出来事が切っ掛けで知り合った昔馴染み、そんな彼らの間柄について特に隠していた訳でも無いのに、1人の例外も無く同じクラスに振り分けられた事に人使達は疑問を持った。

 

「まあ良いじゃん皆!今は皆揃って同じクラスになれたのを喜ぼうよ!」

「だね、三奈ちゃん!イェイウェーイ!」

 

尤もその疑問を払しょくする為の議論は、全員が同じクラスに集結した喜びではしゃぐ三奈達の絡みと、

 

「お友達ごっこがしたいなら他所へ行け。此処はヒーロー科だぞ」

 

そんな雰囲気に冷や水を浴びせるかの様な男の声で遮られた。

この喧騒を止めんばかりの発言内容と声質からしてこのクラスの担任が入って来たのだろう、そう判断した出久達を含めたこのクラスの生徒20人全員が声の方に向くと其処には、

 

((((何か浮浪者みたいなのがキター!?))))

 

ついさっきまで包まっていたであろう寝袋と、たった今チャージしたであろうゼリー飲料の空き容器を小脇に抱える浮浪者としか思えない男がいた。

伸ばせるだけ伸ばしましたと言わんばかりの長髪、髭剃りなんて知りませんといった感じの無精髭、アイロン?何それ美味しいの?と聞いているかの様な皺だらけな黒ずくめの服装に長いマフラーを首に巻いたその小汚い姿は、此処にいる生徒20人の誰もが教師とは思えなかった。

 

「はい、静かになるまでに8秒掛か」

「汚物は消毒だァァァァ!」

「何っ!?ちぃっ!」

 

そんな出久達の反応など知ったこっちゃないと言わんばかりに男が話を進めようとしたその時、事件は起こった。

その姿を見た勝己が徐に右手を向けた次の瞬間、何処ぞの世紀末な世界に出て来るモヒカン兵士の台詞と共に男へと放射される爆炎、そう、勝己が己の個性を応用した火炎放射を男に、生身の人間相手に決行したのだ。

勝己のまさかの蛮行に男は驚きながらも即座に対応する様は伊達に今の立場に何年も就いていないという事か、その火炎放射を避けつつ、個性による影響か赤く光る眼で勝己を睨みながらマフラーの一端を投げつけた。

その眼で睨まれた直後からぴたりと止んだ火炎放射、勝己の戸惑いを隠しきれない様子から封じ込まれたと言って良いだろう、男はそれに動揺している隙を突いてマフラーで拘束しようとしたが、

 

「しゃらくせェ!」

「な、ぐぁっ!?」

 

勝己はその攻撃を軽々と避けつつ、伸びきったマフラーを掴み取って逆に引っ張る事で男の体勢を崩して引き寄せ、アイアンクローの要領で男の頭部を掴んだ。

 

「ぬ、ヌボッつったぞ、ヌボッて!さてはお前、最後に風呂入ったの月通り越してシーズン単位だな!汚ねェと毛程も思わなかったのか、あァ!?」

「汚れ落とす位で時間を費やすなど合理的じゃ」

「寝言は寝て言いやがれや!どうやらお前の態度からしてこのクラスの担任みてェだが、教師ってのは極論すれば生徒を客と見立てた客商売!クッソ汚ねェ状態で客の前に出て良いとでも思ってんのか!?ざけんじゃねェ!おい百、シャンプー造りながらついて来な!」

「は、はい!」

 

だがその際、髪の中へと潜り込ませた指から感じ取った感触に勝己は驚き、それを生み出した男の不潔振りを問い詰めた。

とはいえ勝己も男の髪が滅茶苦茶汚くなっている事は予想していた、ネチャネチャしていて気色悪い感触なんだろうなと覚悟はしていたのだが、ワックスのそれとは違うべたつき、を通り越してフケや頭皮の垢によって地層が出来てしまっているという惨状までは考え付かなかったのだ。

そんな勝己の剣幕にもどこ吹く風と言わんばかりに男は己の持論を振りかざすも、それが勝己の怒りの炎に油を注ぐ結果となり、百にシャンプーを持って来るよう指示しつつ男を何処かへと引っ張って行った。

 

「…ヤオモモ、序でに消毒用エタノールも造って。

あの様子だと勝己の手、ヤバい事になりそう」

「そうですね…」

 

勝己が教室を去った後の静寂に包まれた教室、その指示通りシャンプーを容器ごと造り出した百がそれを持って付いて行こうとした所で、勝己がやろうとしている事とそれによって勝己に齎される被害を察した響香が、そのアフターケアにと消毒用エタノールを用意する様、追加注文したのは余談である。

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