産屋敷殿の13人   作:不知火新夜

10 / 18
9話_開催発表

敵連合が雄英高校、その関連施設であるUSJに襲撃を仕掛けた事件、それ自体は救助訓練にあたる予定だった相澤と13号、そして1年A組生徒によって難なく撃退する事が出来たが、その影響は決して小さくなかった。

恐らくは何の成果も得られなかった敵連合側が何としても雄英高校に傷を与えてやろうと思ったのか、黒霧と思しき存在が犯行声明を行った事で、その情報は瞬く間に日本全国で知られる様になったのだ。

日本屈指のヒーロー養成高校にして現役プロヒーローが教員として多数在籍する『ヒーローの巣窟』にして、今年からはNo.1ヒーローであるオールマイトも教職に就いた雄英高校への襲撃という大スクープ、マスコミがこれに飛びつかない筈は無かったのだが、この件を『直接』ニュースで取り上げた放送局は思いのほか少なかった。

それは何故かと言うと、その数日前に起こったマスコミ関係者による雄英高校への侵入事件、その瞬間を捉えてSNSに掲載された写真の中に、関係者に紛れて何か仕掛けようとする死柄木の姿が、明らかに関係者には見えない輩が映った写真があり、襲撃事件発覚を機にそれがクローズアップされるや否や「雄英の、オールマイトのスクープ欲しさに敵と手を組んだマスゴミを許すな」「マスゴミの法など知ったこっちゃないと言わんばかりの報道姿勢が今回の事件に繋がった」と侵入事件に関わった放送局を標的とした炎上騒動に発展、狙われた放送局は「俺達じゃない、敵と手を組んだのは別の局だ」と互いが互いを叩き合い、それには関わりのない放送局も「敵と手を組む等言語道断、この事件を機にマスコミ各社は交友関係を洗い出し、清く正しい体制に刷新すべし」と真っ当な体制への移行を提起する所が殆どとなったからだ。

とはいえマスコミ関係者が敷地内に侵入するという前代未聞の騒動から僅か数日で起こった今回の事件、雄英高校始まって以来の大事件が立て続けに起こっている事を不安視する者は少なくない、実際に普通科や経営科といったヒーロー科以外の学科に在籍する生徒達の父兄からは事件に関する問い合わせが殺到、それを重く見た学校側は翌日土曜日の臨時休校及びその翌日日曜日迄の学外活動の休止を決定、生徒達は自宅待機を厳命される事となった。

そして事件が与えた影響は雄英高校『その物』に対する物に限らない。

 

「皆、おっはよー!」

「おはよー!」

「お、おぅ…」

 

週明けの雄英高校1年A組の教室、其処に何時もの通りの、いや自宅待機明けという事もあってか何時も以上に元気一杯な挨拶をしながら入室して来た透、ところがそれに対するクラスメートの反応が、襲撃事件の前から少しばかり変化した、出久達昔馴染みの10人と()()()()1()1()()の返答こそ何も変わらなかった一方、それ以外の8()()は透の挨拶に対して何処かおっかなびっくりに感じられる返答をしていたのだ。

その8人の脳裏には敵連合による襲撃事件の記憶が、その際の12人の様子が今も尚深く刻まれていた。

特に思い出されるのは、対オールマイト用員とされていた脳無の襲撃に敢然と立ち向かい、正面から殴り合った末に殆どダメージ無しで片腕を両断して見せた鋭児郎、その鋭児郎が脳無とやり合う事に対して何の不安も見せず、慌てふためく実達を尻目に平然と状況確認していた11人、片腕を両断されながらも瞬時に治して見せた脳無の詳細を知るや否や「殺しても問題ないな」と殺害も視野に入れた言葉を口にし、命こそ奪わなかったものの四肢切断という重傷を負わせた*1勝己、そして死柄木の左腕を躊躇なくぶった切った透の、ヒーローというより戦に出向く武士じゃねぇかとツッコミたくなる決然とした、それでいて互いが互いを信頼し切った様だった。

特に透による死柄木への斬り付け行為は教師陣も問題視、幾ら斬った相手が敵だからって片腕を切断する程の攻撃はやり過ぎだと考え、当初は過剰防衛を理由に透への何かしらの処分を検討していた。

然しながら斬り落とされた死柄木の左腕を警察が調べた結果、その腕に個性因子、個性の源たる要素が含まれていた事、上述の侵入事件で雄英バリアーを破壊したのがその死柄木の個性である可能性が極めて高いと判明した事、当の透が警察による任意の事情聴取で「身体中に『手』をぺたぺた貼っていたから手や腕を使って発動する個性じゃないかと判断して、勝己君がその個性で何かされない様にと斬りました」と証言した事から「雄英バリアーを破壊する程の個性を使われては危険だと判断、その発生源と推測される腕を斬り落とした」とされ、あの状況下でそんな考えの元に死柄木を斬り付けた透に対して処分を下すのは流石に酷では無いか、それをせずもし勝己に何かあったらどうするのかとの意見が起こった末、透への処分は口頭での、形ばかりの指導に留まった。

こうして事実上のお咎め無しとなった、透を始めとした敵との戦闘行為を行った者達、然しながらそれを目の当たりにした実達の記憶まで無かった事には出来ない、入学初日に行われた個性把握テストから抱いていた「出久達11人は自分達とは別次元の存在なんじゃないか」という疑問、それが確信になった今、彼ら8人は出久達との間に見えない壁があると感じられる様になった…

 

「お早う。先日の襲撃事件で今尚浮足立っている者がいるなら直ぐに引き締めろ、戦いは終わってねぇ」

「戦い?まさか、また敵が…!?」

 

そんな中で相澤が入室して始まった朝のホームルーム、其処で相澤は開口一番、危機感を滲ませながらそう発言した。

戦いは今尚続いている、つまり敵がまた襲撃を仕掛けて来るのではないか、そう警戒する生徒達を見回しながら相澤は、

 

「雄英体育祭が迫っている!」

『クソ学校っぽいのキター!』

 

予想もしなかった事を口にした。

雄英体育祭、読んで字の如く雄英高校で開催される体育祭、日本の大抵の高校で開催される『学校らしい』祭典の開催発表に、今までそれらしい行事の無かった、あっても相澤の独断で不参加を強制された*2のも加味されたのか生徒達の殆どが湧き立った。

 

「待って待って!敵に侵入されたばっかなのに大丈夫なんですか!?」

 

一方で敵連合による襲撃事件が記憶に新しい中での開催を不安視する声も。

それは無理も無いだろう、マスコミが雄英の敷地内に侵入し、その数日後に敵が襲撃を仕掛けて来て直ぐな今、敵が再び襲撃を仕掛ける可能性もあるのに外部の人間を招き入れるイベントを開催して大丈夫なのか、此処は中止して敵の侵入を未然に防ぐべきなのではという考えは至極尤もだ、イベントを開催した結果また敵が侵入して来ましたとなっては雄英高校の管理体制を、この状況で開催を強行した上層部の判断を糾弾されるのは明白なのだから。

 

「逆だ。例年通り開催する事で雄英の危機管理体制が盤石である事を世間に示すって考えだそうだ。勿論、警備は強化する。例年の5倍にな。何より雄英体育祭は最大のチャンス。敵如きで中止して良い催しじゃねぇ」

 

だが上層部の判断は、対策を施してでも例年通り開催する、敵の脅威には屈しない!という物だった。

どうして其処までして開催を強行するのか、実達の疑問に答えたのは相澤では無い。

 

「雄英体育祭は此処だけじゃない、日本有数のビッグイベントの1つだよ。嘗てオリンピックというスポーツの祭典が世界の何処かで定期的に行われ、日本全国が、世界中が熱狂したんだ。今となっては規模も競技人口も縮小し、やがて形骸化してしまったけどね。日本において今、そのオリンピックに代わると言うべきイベントが雄英体育祭って訳さ」

「当然、全国のトップヒーローも見ますのよ。スカウト目的で!」

「それ程の注目を集めるイベントとなりゃァ放映権料もスポンサー料もバカにはならねェ。たった1日のイベントで莫大な(コレ)が動くって訳だ、中止にしたくても出来ないってのもあるんじゃねェか?」

「知らん、其処に関しては俺の管轄外だ」

 

1年A組の学級委員長でヒーロー関連の知識が物凄く豊富な出久、日本どころか世界でも有数の規模を誇る企業グループ代表の娘という出自からビジネス関係に明るい百だ。

尚、それに続いて副委員長である勝己が雄英体育祭の知名度からくるビジネス的な価値を踏まえ、開催に踏み切った、いや、踏み切らざるを得なかった裏事情を邪推し、お金を意味するハンドサインをしながら訳知り顔で尋ねたが、相澤は「知ら管」と返すに留まったのは余談である。

 

「当然、名のあるヒーロー事務所に入った方が経験値も話題性も高くなる。体育祭で活躍し、その名のあるヒーローに見込まれればその場で将来が拓ける訳だ。年に1回、計3回だけのチャンス。ヒーローを志すなら絶対に外せないイベントだ」

 

それはさておき、相澤の「全力で臨めよ」と言外に匂わす発言を最後にホームルームは終了、生徒達は皆、体育祭に向けて闘志を高めるのであった。

 

------------

 

朝のホームルームで雄英体育祭の開催が発表され、皆がそれに臨む決意を固めたその日の放課後、

 

「ウェ!?な、なんじゃこりゃぁ!?」

 

体育祭本番で万全のパフォーマンスを見せるには日々の訓練が欠かせないと気持ちを新たにした出久達、だがそれに水を差す様な事態が発生したのだ。

いち早く下校しようとした電気の驚愕の声にクラスメート達が何だと振り向くと其処には、

 

「出れねぇじゃん!何しに来たんだよ!」

「敵を返り討ちにした奴らがどんなモノか見に来た野次馬か、或いは敵情視察か?どっちにしろ、()()()()()だな」

 

普通科や経営科、サポート科と、ヒーロー科以外の学科に在籍する生徒の大軍が廊下に押し寄せ、1年A組の教室内を覗き込んでいたのだ。

まさかの光景に驚きが広がる中、人使はその理由に直ぐ行きついた、要は自分達1年A組生徒が、敵連合による襲撃事件を返り討ちにしたとされる連中がどんな存在なのか把握したいのだと。

だがそうだったとしても此処まで集まられては教室から出られず、帰る事は叶わない、そう判断した人使は「暇人だらけ」の所を外にも聞こえる様に張り上げつつ扉を開く。

 

「何だ、暇人扱いが気に入らないか?1クラスにつき1人来て、得た情報を共有するだけで十分な敵情視察にそんな大軍で来ている時点で殆どは暇人だろ。そんな事やっている暇があるなら鍛錬したり予習したり、或いは気心知れたクラスメートと遊びに行ったりする方が合理的だ」

 

暇人呼ばわりされた事でカチンと来たのか、出て来た人使に対して睨みを効かせる生徒達、だが人使は敵連合との戦いで黒霧相手に立ち向かい、確保寸前までいった存在、それを阻止すべく死柄木が仕向けた脳無の殺気も真面に浴びた彼にとって、目前の生徒達からのチンピラレベルの睨み付けなどそよ風程度にしか感じない、平然とした様子で改めて暇人と切って捨てた。

 

「おいおい随分な物言いだなぁ!ヒーロー科というのは」

「黙れ」

「っ!?」

 

周囲の生徒達も言われてばかりじゃない、大軍の中から金髪の男子生徒が人使に詰め寄ってその発言を非難しようとしたのだが、今尚この場を離れようとしない大軍にいい加減頭に来ていたのか殺気を飛ばしてそれを遮った。

 

「てめぇらも知っているだろうが、俺達は敵からの襲撃を受けたばかり、殺るか殺られるかの戦いをしてきたばかりで今ピリピリしてんだよ。てめぇらの暇つぶしに付き合っている暇なんて無いんだ。余り煽り散らかす様だったら、

 

 

 

徹底的に潰すぞ

「ヒィ!?」

 

そして殺気全開のままヒーローらしからぬ言葉で凄む人使、それを真正面から浴びせられた男子生徒は恐怖に慄いたのか悲鳴を上げながら後ずさりし、やがて身体が崩れ落ちて、

 

「うわ、きったねぇ。こんな所でお漏らしかよ。お前ら、今すぐソイツを連れて失せろ、それで今のは無かった事にしてやる」

『は、はいぃぃぃぃ!』

 

盛大に失禁してしまった。

それを目の当たりにした人使は顔を顰めながら他の生徒達に連れて帰る様に言いつけ、指示された生徒達もこれ以上怒らせたらヤバいと判断したのか一気に帰って行った事でこの場は収まった。

 

「…悪い、皆、イライラの余りヒーローとしてやっちゃいけねぇ事した。

プロになったら敵と戦う事なんて日常茶飯事だってのに…」

「ま、まァ向こうは兎も角、俺達は気にしていねェ。扉の前で屯していて目障りだったのは同感だし、言いてェ事全部言ってくれたしな」

 

とはいえ相手は、プロヒーローを目指す自分達とは違う、コスチュームやサポートアイテムの開発者を養成するサポート科等プロヒーローと直接関わる職に就く事を目標にする者も少なくは無いが、一部例外を除いて全員が、将来自分達が救けるべき、守るべき「一般人」なのだ*3、その相手に対してイライラをぶつけるというヒーローにあるまじき行為に及んでしまった事に気付いた人使は、先ずはこの場を騒がせた事をクラスメート達に謝罪した。

それに対するクラスメート達の反応は二通りだ。

一方は人使の事を良く知る、気にするなと真っ先に声を掛けた勝己達10人と()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()焦凍の計11人、普段の何処か斜に構える態度とは裏腹にヒーローへの憧れは人一倍強く、敵の確保というヒーローの職務を成す為に率先して行動した人使と言えど、脳無に襲われ掛け、強烈な殺気を浴びせられたショックは決して軽くはない、まだまだ自分達と同じ『ひよっこ』な彼はそれを引きずっていたのだろうと、その心の内を推し量り、気遣うもの。

もう一方は人使を良く知らない、実達8人、黒霧の奇襲にも難なく対応して確保寸前まで追い詰め、それを阻止せんとした脳無の襲撃も難なく回避、その脳無も鋭児郎に攻撃を防がれたり勝己に無力化されたりと大した事無い「様に見えた」のに、殺るか殺られるかと言われてもなぁ、と人使の言葉を白々しく感じたもの。

前者の1人である勝己が真っ先に気遣った一方で後者の8人は空気を読んでか言葉を発しなかったが故にその違いが表面化する事は無かったが、此処雄英高校ヒーロー科1年A組において「二極化」と表現すべき亀裂は僅かに、然し着実に入り始めていた。

*1
その後脳無は警察が確保、現在は取り調べと解析を進めているものの結果は芳しくないという

*2
言うまでも無く入学式の事で、個性把握テストを行う為に不参加となった。尤もそれが無くても『イレイザーヘッド丸洗い事件』の影響で大遅刻、締め出されていただろうが…

*3
普通科のみ、成績優秀な者はヒーロー科へ年次編入出来るチャンスがある、それを掴む「一部例外」が出る可能性は無くも無いのでこの表現とした

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。