相澤から開催が告知されて数週間が経ち、いよいよ当日となった雄英体育祭。
「皆、ちょっと良いか?」
その開会式を今か今かと待ちわびる生徒達が詰める控室、それは1年A組の面々も同じではあるのだが、その中でふと、焦凍が出久達11人に声を掛けた。
「言うまでもねぇが、個性や呼吸の練度も戦いへの覚悟もお前達が一枚も二枚も上手、お前達と、俺を含めた他の奴らとの実力差は明白だ。だからと言って俺も、戦う前からてっぺん取る事を諦める積りはねぇ。だから今日は、胸を借りる積りでお前達に挑む」
その呼びかけに振り向いた11人に、焦凍は挑戦状を叩きつけるかの如く言い放った。
焦凍が言うまでも無く、出久達11人の並外れた実力は今やA組はおろか学年全体、いや学校全体にも知られていた、ヒーロー科以外の生徒はおろかヒーロー科であるB組、一部A組の生徒達からも頂点を取って見せる!との熱意がイマイチ感じられないのもその現れなのだが、それでも尚一番を取るべく戦意を滾らせる辺りは、推薦入試を通って来たが故のプライドか、或いは何か別の理由でもあるのか…
「出久、コイツ今、胸を借りるとか言っていた様な気がするんだが…
胸を借りるって、舐めプしている奴が言う言葉じゃねェよな?」
「何?」
が、それを聞いた11人は違和感を覚えたのか「何言ってんのお前?」と言いたげな表情になり、勝己に至ってはそれを隠す事無く、出久に尋ねる形で口にし、
「だね、かっちゃん。『胸を借りる』は格上に挑む場合に使う言葉、何時も手加減しておいて格上扱いは無いと思うね、正直嫌味にしか感じない」
「何だと…!?」
話を振られた出久も同感だと応じた。
そんな2人の返答に怒りを覚える焦凍だったが、そう言われても仕方ない事を今迄の彼はしていた。
以前にも説明したが焦凍の個性は半冷半燃、右腕で冷気を、左腕で炎を噴射する事が出来る複合型の個性なのだが、今迄の訓練において、余程の事が無い限り左の炎を使う事無く、それは出久達11人の誰かを相手にした戦闘訓練でも変わらなかった、教師達から指摘されても頑なに使おうとしなかったのだ。
周りからすれば「手加減している」「明らかな舐めプ」と言われても仕方ない「右だけ」の焦凍の戦闘スタイル、そんな焦凍から格上だと言われても11人には素直に受け止める事等出来ない。
尤もこの戦闘スタイルが確立されてしまうには焦凍の複雑な事情があるのだが…
『刮目しろオーディエンス!群がれマスメディア!今年もお前らが大好きな高校生達の青春暴れ馬…
雄英体育祭が始まっぞ!エヴィバディ、アーユーレディ!?』
新たな火種が投下されてピリピリした雰囲気が漂う中、それを知ってか知らずか開催を伝えるプレゼント・マイクの声、それを受けてまずはA組、次にB組とクラス順にスタジアムへと入場していく。
『ヒーローの卵達が我こそはとシノギを削る年に1度の大バトル!つってもどーせてめぇらアレだろ!?こいつらだろ!?敵の襲撃を受けたにも拘わらず鉄の意志と鋼の強さで乗り越えた奇跡の新星!ヒーロー科!1年A組だろぉぉぉぉ!?』
「へぇ。これが生の、選手の目線から見た雄英体育祭か。やっぱり人だかりが凄い、興奮して来たなぁ」
「大人数に見られる中で最大のパフォーマンスを発揮出来るか、これもまたヒーローとしての素養を身に付ける一環なんだな…!」
「俺らめっちゃ持ち上げられてんな、なんか緊張するな勝己…!」
「全然思ってねェ事言ってんじゃねェや鋭児。ただただアガるわ、そうだろ?」
「違い無い。日本中に見せつけてやろうぜ、俺達の力を…!」
いち早くスタジアムへと入ったA組の面々が目の当たりにしたのは、プレゼント・マイクの煽るかの様なアナウンスを受けて歓声を浴びせる観客、拍手しながらも実力はどれ程の物かと視線を向けるプロヒーロー達、それを受けた出久達はその期待に応えて見せると言わんばかりにテンションが上がっていた。
『次にB組!続いて普通科のC・D・E組!サポート科のF・G・H組も来たぞ!そして経営科!』
その後、同じヒーロー科であるB組に普通科、サポート科、経営科の生徒達がスタジアムへと入って来るも、プレゼント・マイクによるアナウンスがあからさまなのもあってか注目度に明らかな差が出来ていた、その差にはB組は勿論の事、ヒーロー科以外の生徒達も不満気だったが、全校に知れ渡る出久達の並外れた実力と、それを以て敵連合を退けたという実績を知っているからか「どうせ俺らは引き立て役」「正直たるい」といった諦めの声も、扱いの差も仕方なしとする様な声も聞こえて来た。
「選手宣誓!」
それはさておき入場が終わったのを受けて、肌色のボディスーツにガーターベルト、ハイヒールにボンテージと、基準を改定させる程の色々とヤバ過ぎる戦闘服を身に纏ったミッドナイトが壇上に立ち、鞭を鳴らしつつ進行していく。
「18禁なのに高校に居て良い物なのか?」
「良い!」
その姿を見て思わず踏陰が呟くが、それに対して実が食い気味に肯定していたのは余談である。
「其処、静かにしなさい!選手代表!1年A組、爆豪勝己君!」
「うっす」
閑話休題、ミッドナイトに呼ばれて壇上に上がるは、ヒーロー科の一般入試で主席となった勝己、既に『イレイザーヘッド丸洗い事件』や『イレイザーヘッド食堂引きずり回し事件』等の珍事件で校内中の有名人となっていた勝己がどんな宣誓をするのか、良い意味でも悪い意味でも注目が集まる中、
「宣誓!我ら雄英高校生徒一同は、『
して!」
普段の彼の人となりを少しでも知る者は皆「誰だお前は!?」とツッコミを入れたくなる真っ当な宣誓をしていたのだが、その終わり間近と思われる所で突如それを中断、他の生徒達がいる背後へと振り向き、特大の爆弾をぶち込んだ。
「此処に宣言する!この体育祭における成績上位、少なくともトップ8の座は俺達1年A組が独占し、そのトップに、俺はなるっ!それが嫌だと、ふざけるなと言うのなら、全力で引き摺り下ろしに来やがれ!俺達は逃げも隠れもせず、てめェらを真正面から捻じ伏せてやらァ!生徒代表!ヒーロー科!1年A組、爆豪勝己!」
A組による上位独占、更に自分自身のトップ獲得、それをやって見せると勝己は己を親指でさしながら宣言、それが嫌なら掛かって来いと己を指さしていた親指を下に向けつつ言い放ち、壇上を後にした。
それに対する反応は様々、彼を良く知る者達は「やっぱりやりやがったよコイツ」と言いたげな苦笑いを浮かべた一方、
「だったら望み通り引き摺り下ろしてやらぁ!」
「A組にばかり良い顔されてたまるか!」
「首洗って待っていやがれ!」
それまで諦めムードが漂っていた他のクラス、特に同じヒーロー科であるB組や、成績次第でヒーロー科への転入が見込まれる普通科の生徒達はその挑発に乗せられ、だったらその宣言を叩き潰して見せるとやる気に火が付いた。
「良い感じに火をつけてくれたわね、爆豪君!その強気ながらも熱い言葉、好み!じゃあ、皆のテンションが程よく上がった所で第一種目へ行きましょう!所謂予選よ!毎年此処で多くの者が
勝己の宣誓によって生徒達のやる気が上がったのを受けて第一種目の開始を宣言するミッドナイト、その背後にあるモニターにデカデカと映し出されたのは『障害物競走』の文字。
「計11クラスでの総当たりレースよ!コースはこのスタジアムの外周、計4Km!我が校は自由さが売り文句、コースさえ守れば
第一種目である障害物競走の内容についてのミッドナイトのざっくりとした説明が終わると共に、スタートであると思しきゲートへと移動していく生徒達、その動き方は様々だった。
まずゲートに近かった普通科とサポート科の生徒達は、こういったレースはスタートダッシュが重要だと言わんばかりにゲートの直ぐ近くへと押しかけ、ゲートから比較的遠かったB組と、最初から勝つ気の無い経営科の生徒達がそれに続く形となった。
一方で出久達11人を始めとしたA組の面々は、何かに気付いたのか1人の例外なく最後尾に、正確には
出遅れが怖くないのか、最初から勝負を捨てるのか、とその動きに気付いた一部の生徒達がA組生徒の動きに少なからず疑問を覚えるも、捨ててくれるならライバルも減るし別に良いかと切り替えた。
だがその真意が明らかになった時には、既に手遅れだと思い知る事となる。
「それじゃあ、用意…」
それは、ミッドナイトがそろそろ出走だと、準備を整えろと言いたげな合図を出し、それを受けて生徒達がスタートの構えようとした時だった。
「って、何だ凍った!?動けん!」
「さみぃぃぃぃ!?」
「んのやろぉぉぉぉ!」
突如としてゲートの周辺、正確には焦凍から前方の広範囲の地面が分厚い氷に覆われ、彼の後方にいたA組以外の全ての生徒達がそれに両足を捕まれ、動けなくなってしまったのである。
まさかのスタート前という、掟破りの早仕掛けにA組以外の誰もが反応出来ず、両足を捕えた氷を何とかしようと悪戦苦闘する生徒達、それをやったのは言うまでも無く、
「悪いが、これが第零関門だ。コースさえ守れば
「スタート!」
焦凍だ。
ミッドナイトの説明からフライングで妨害しても問題ないと判断した彼は後方に陣取り、スタートの構えをするタイミングで個性を発動、足を大きく開いた不安定な体勢で氷漬けにするという方法で前方の生徒達を行動不能にしたのである。
それを見抜いて己の後方に陣取ったクラスメート達の動きは焦凍も見えていたが、そっちをも行動不能にしようと全方位に範囲を広げるよりは前方に冷気を一極集中させる方が成功率は高い、残るクラスメート達は真っ向勝負で勝って見せるとの判断からこの動きとなったのだ。
それを説明しながらもスタートの構えは忘れない焦凍、話し終えたタイミングで出されたミッドナイトによるスタートの合図を聞き逃さず、クラスメート達と共にゲートを抜けた。
一方で焦凍の妨害によって大幅な後れを取る事となった他クラスの生徒達も其々の個性を使ってどうにか氷の枷から脱出、スタートを切る者も少なからず出て来たが、
「な、あ、足が!?」
ゲートを潜る直前で何かに足を取られたのか再び行動不能に陥ってしまう。
その足を捕える物が何なのか目を向けてみると、それは紫色のボール、そう、実のもぎもぎであり「自分以外にはくっついて絶対離れない」性質によって足を掴まれたという事である。
それだけじゃない。
「せめて20位以内は確保してやらぁ!」
「峰田のもぎもぎと俺のテープの二段構えだ!ちょっとやそっとじゃあ突破は出来ねぇぜ!」
スタートダッシュに成功し、己の身体能力を存分に活かして先頭をひた走る出久達から遅れた位置につける実と範太が、ゲートを出ようとする他クラスの生徒達にそう言い放つ、そのゲートにはもぎもぎが大量に取り付けられたセロハンテープらしき物で雁字搦めになっていた。
範太の個性は『テープ』、変異した両肘から粘着テープを射出したり、逆に巻き取ったりする事が出来る個性だ。
範太と実は、焦凍の妨害を見抜いて最高峰へ陣取った際、其々の個性を用いてゲート前に罠を仕掛ける事で上位入りを狙おうと協力を約束、ゲートを潜る際に実がもぎもぎをバラまき、範太が肘のテープをゲートにぐるぐると巻き付け、その巻き付けたテープに実が引き続きもぎもぎをくっ付けたのである。
これによって範太と実は19位、20位とクラスメートから大分遅れる事にはなったものの、どうせ1位から11位は出久達で12位は焦凍、だったら13位でも20位でも大したランクダウンじゃ無いと気にしていなかった。
範太の言葉通りゲート前に仕掛けられた二重、いや焦凍の氷も含めて三重もの妨害を前に他のクラスは悪戦苦闘を強いられ、それを突破したのはA組の上位陣がスタジアムへと帰って来る頃だった。
「さぁ始まった第一種目、障害物競走!当初の予想では接戦だと思われたが、蓋を開けたらA組以外は未だスタジアムから出ていねぇ!このまま爆豪の宣言通りA組の上位独占か、それとも他のクラスの巻き返しは成るのか!?因みにこの種目の実況はお馴染みプレゼント・マイク。解説はイレイザーヘッドだ、アーユーレディ!?」
「無理矢理呼んだんだろうが」
さて、此方はスタートダッシュに成功してコースをひた走るA組生徒達、スピーカー越しに聞こえるプレゼント・マイクの実況とイレイザーヘッドの解説を背にゴールへと全速全開で突き進むが、障害物競走の名の通りそれを阻まんと障害が立ちはだかる。
「さぁて最高のスタートダッシュを決めたA組だが、このままスンナリ行かせはしないぜぇ!まずは手始め、第一関門!ロボ・インフェルノ!」
「あ、ありゃぁ入試ん時の0ポイント敵じゃねぇか!」
最初の障害として立ちはだかったのは、ヒーロー科一般入試の実技試験でも使用されていた0ポイント敵の大軍、二カ月近く前に強敵として立ちはだかったロボットが大軍を成して襲って来るという光景に、普通だったら突破を躊躇する所、だが現在此処を突破しようとするA組生徒のうち10人は試験の時にこの強敵を相手に立ち向かって撃破して見せた剛の者、対戦していない推薦入試組も1人はその10人と実力的には互角、増して入試の時はやむを得ない事情から立ち向かっただけでその事情が無い今は無理に相手する必要は無い。
「頭上ががら空きだぜ!」
「本当そうだね!」
勝己とお茶子は己の個性を活かして0ポイント敵の手の届かない高度まで飛び上がって余裕で突破し、
「獣の呼吸・肆の牙 切細裂き!」
「恋の呼吸・参の型 恋猫しぐれ!」
鋭児郎と百は己の個性を用いて攻撃手段である刀を創り出し*1、0ポイント敵を斬り払い、
「日の呼吸・拾壱の型 幻日虹!」
「霞の呼吸・漆の型 朧!」
「雷の呼吸・壱の型 霹靂一閃!」
「ケロッ!」
「俺の速さにはついて来れまい!」
「ふっはっよっと!」
「勝己の顔に、泥を塗りたくは無いからね!」
飛行手段も攻撃手段も持たない出久達は無駄のない足運びで大軍の隙間をすいすいと抜けて行った。
「水の呼吸・参の型 流流舞い!」
だが第一関門を全く苦にせず突破するのは出久達だけじゃない、焦凍もまた水流の如き足運びで大軍の隙間を抜けて行きつつ、個性によって作り出した氷の刀を振りかざし、0ポイント敵の装甲の隙間から覗く関節を切り裂いて行動不能にしていった。
実を言うと焦凍は最初の戦闘訓練があった日の放課後、久しぶりに剣術道場へ向かおうとしていた出久達に半ば押しかける形で道場への弟子入りを志願して認められ、以来出久達から全集中の呼吸に関する指導を受け、素質の高さもあってか瞬く間に己の物として来たのである。
そんな弟弟子と言って良い焦凍に対して、何故開幕前の宣戦布告に対して出久達は辛辣な対応をしたのか、と思う読者もいるだろうが、だからこそ焦凍の戦闘スタイルに対する違和感が強かったからだ、というのが答えだ。
今のままじゃあトップどころかプロヒーローになるのも危ない、今の個性頼みな戦闘スタイルを変えて行かなければならない、全集中の呼吸を習得するのはそのアプローチの一環、と当初は出久達も弟弟子の並々ならぬ向上心に一目置いていたのだが、いざ個性となると頑なに「左の炎」を使わない彼の振舞いに少しずつ違和感を抱いて行ったのだ。
「オイオイ、第一関門はチョロいってか!んじゃあ第二関門はどうだぁ!?落ちればアウト!それが嫌なら這いずりな!ザ・フォールってお前ら事も無げに飛び越えてんじゃねぇ!」
そんな出久達の内心は置いて、難なく0ポイント敵の大軍を突破した先頭グループ12人の前に立ちはだかった次なる障害は、隕石でも着弾したかと言わんばかりの大穴、其処から元の地面と同じ高さまで伸びた石柱が数十本立ち、その間にロープが張り巡らされたアスレチック…なのだが、12人は並外れた身体能力に物言わせて、石柱から石柱へ飛び移るというコンセプトを無視したやり方で突破した為足止めになっていなかった。
「第二関門も問題無しってんなら早くも最終関門だ!かくしてその実態は、一面地雷原!怒りのアフガンってお前らさらっと正面突破すんなぁぁぁぁ!何だお前ら脚力チートか!」
「まあ言いたい事は分かる」
第二関門を難なく突破して見せた出久達に立ちはだかった最後の障害、それは辺り一面に地雷*2が埋め込まれた平原…だったが、12人はこれまた並外れた身体能力に物言わせ、地雷が起爆する前にその影響を受けにくい距離まで動ける速さで正面突破をして見せた。
『一番は!』
「「「「「俺だ!」」」」」
「「私だ!」」
「僕だ!」
「ウチだ!」
「アタシだ!」
「私ですわ!」
「私よ!」
用意していた障害が悉く素通りされる状況にプレゼント・マイクが絶叫する中、12人は自分こそが一番でゴールして見せると激しいデッドヒートを繰り広げる。
「先頭争いは12人のデッドヒート!此処までの競り合いは今迄見た事がねぇ!最高のメンバーがそろった最高の障害物競走!果たして勝つのは緑谷か、爆豪か、心操か、切島か、飯田か、轟か、麗日か、蛙吹か、耳郎か、八百万か、芦戸か、葉隠か!?」
その熱はさっきまで障害を尽くスルーされた理不尽に絶叫していたプレゼント・マイクを正気に戻し、激戦の模様を興奮一杯に伝えさせた。
「これは大接戦!大接戦ドゴーン!」
「最後噛んでどうするんだお前、何処のバクシンオーだ」
そして12人は同時にゴールへと飛び込んだ。
最後の最後で噛んでしまうプレゼント・マイクにツッコミを入れる相澤を他所に、勝敗の行方は写真判定に持ち込まれる事となった…!