「さぁてやる必要あんのかとか言われそうだが結果発表、の前に校長の話だぁ!」
A組の完勝は火を見るよりも明らかな戦況のまま終了した第二試合の騎馬戦、後は次の種目へ進めるのは誰かを聞くだけ、となったのだが、此処で実況のプレゼント・マイクが根津校長を壇上に呼び出した。
「やぁ、会場に集まった皆。ネズミなのか犬なのか熊なのか、かくしてその正体は…此処の校長さ!」
呼び出された根津はお決まりとなっている自己紹介をしつつ、早々と特大の爆弾をぶち込んだ。
「さて最終種目への進出者が誰になるかだけど全員進出とするよ!」
『え、えぇぇぇぇ!?』
なんと、騎馬戦に出場していた生徒を1人も脱落させる事無く次の、最後と公言した種目への進出を宣言したのである。
まさかの発表で驚愕の声に包まれる会場、殊にA組生徒達からは、じゃあ何でこの種目を実施したんだという抗議の意が声音に込められていた。
「まあ驚くのも無理は無いよね、だがこれにはちゃんとした訳があるのさ!今からそれを説明するよ!皆もその眼に焼き付けている通り、A組の活躍は実に素晴らしい!その堂々たる戦い振り、堂々たる実力、教育者としてこれ程鼻が高い事は無いよ、実に天晴だ!しかーし!この雄英高校が国立の教育機関であるという都合上、このままA組の独壇場で進める訳には行かないのさ!今後プロヒーローからのスカウトが待っている以上、A組ばかりが活躍してB組や他の科の生徒達が全く良い所なし、という状況は教育機関として実に都合が悪い!という訳で0点に終わったB組諸君と普通科の物間君への救済措置として、第二種目の結果は脱落者無し、出場者全員を最終種目へ進出とするよ!」
尤もそれは根津にとって予測済み、まさかの措置の訳、もとい教育機関としての本音をぶっちゃけた。
それを聞いて観客の一部、主にスカウト目的でこの会場へとやって来たプロヒーローは納得したのか騒めきが幾らか静まったが、騎馬戦の結果を無かった事にされたA組生徒の不満が治まる筈も無く当人達及び観客として来たであろうその父兄らからブーイングが上がり始めた。
「勿論、騎馬戦を実施しておいてその結果を無しにする訳にも行かないからね、最終種目におけるハンディキャップは付けさせて貰うよ!最終種目は個人同士のトーナメント戦なんだけど、得点を得ていたA組生徒とサポート科の発目君は2回戦からスタートのシード権を上げるよ!B組生徒と物間君だけど、枠の都合で1人だけがシード権獲得、後の20人は1回戦からスタートの抽選に回って貰うからね!」
だがそれも分かり切っていた事、1点でも獲得していたA組(+明)と0点に終わったB組(+寧人)との差は付けられる事を発表し、
「A組諸君!雄英高校は自由な校風が売り、それは我々教師陣もまた然り!この発表は理不尽だと君達は思うだろうけど、そんな理不尽をも覆すのがヒーローだよ!『PlusUltra!!』、爆豪君が宣誓で口にした此処の校訓さ。彼の言う通り上位独占をするというのなら、この程度の理不尽、乗り越えてみなよ!」
尚もブーイングを止めない一部観客に、A組生徒にそう言い放ち、壇上を後にした。
「へェ、流石は雄英を引っ張る教師って訳か。言ってくれんじゃねェか。お前ら、これは教師達から俺達に投げつけられた挑戦状だ。これを投げつけられたら、俺達がやる事は1つ、分かるな?」
『あぁ!』
『はい!』
「真っ向勝負で勝つよ、皆!一緒に上位を独占し、この挑戦を打ち破って見せよう!」
『オー!』
一方、言い放たれた側のA組生徒達、特に生徒代表として開会式の宣誓を担い、話題となった宣言をした勝己はこれを教師陣からの挑戦状だと捉え、なら乗ってやろうじゃないかと応じ、彼から呼び掛けられた他の生徒達も
体育祭が始まる当初、全集中の呼吸を会得していない8人は、唯でさえ敵連合の襲撃を難なく退けた事で注目されている上に、勝己の強気な宣言に巻き込まれる格好で他クラスからの敵意を浴びる事となり難易度が急上昇、一部生徒は「終わった」と絶望感を覚えたが、蓋を開けてみれば障害物競走は1位から20位を独占、騎馬戦もB組を早々と全滅に追い込んだ事で全員が最終種目のシード権を獲得したという結果が、然もそれに貢献したのが入学直後の個別把握テストで最下位だった実だという事実が、潰えかけた自信を取り戻させ、出久の呼び掛けに応じる声が1つに纏まった。
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こうして第二種目まで終わった雄英体育祭、丁度昼時となった事からお昼休憩となり、それが終わったら午後の部、となる訳だが最終種目であるトーナメント戦を直ぐにやる訳では無く、大玉転がしや玉入れといった運動会とかにありそうな競技を、公式結果に含めない謂わばレクリエーション的な形で行ってから最終種目を実施するとの事、つまり本番まで結構な時間がある。
それに臨む生徒達が其処迄にどう過ごすかは人それぞれだ、既に脱落して暇な普通科等の生徒達と共にレクリエーションへ参加する者、今後ぶつかる可能性のある生徒達の情報を整理する者、静かな環境に身を置いて精神を整える者、逆に戦意を研ぎ澄ます者、昼食を摂るなどして準備する者。
「新時代は この未来だ
世界中全部 変えてしまえば 変えてしまえば」
そんな中、突如として会場に響き渡る歌声とBGM、海賊王を目指す少年の冒険を描いた漫画『ONE PIECE』を原作とした映画『ONE PIECE FILM RED』のオープニング曲、Adoの『新時代』が流れ出した。
「会場に集まったみんなー!盛り上がってるぅ!?イェーイ!」
歌い出しが終わり、間奏が流れると共に発せられる快活な声、その直後にゲートから会場へと入って来た、というより浮いて来たオレンジを基調としたチアリーダーの衣装…
言うまでも無いが突如、今言った衣装に身を包んだ透がBGMに乗って歌いながら会場へと入って来たのである。
「それじゃあ今から、この盛り上がりを『PlusUltra』して行くよ!レクリエーション競技に参加している皆、全力で楽しんでね!トール・ハガクレ&UAヒロインズの即興ライブ、スタート!」
そんな透の呼び掛けに応じて入って来たのは、同じくチアリーダーの衣装に身を包んだA組の他の女子達に、オレンジ色のサイドテールが特徴的な少女――拳藤一佳、個性の影響か緑色のロングヘアーが物凄い癖っ毛と化している少女――塩崎茨、全体をロングヘアーにしようとしたのか前髪まで長くなった茶髪によって目が隠れている少女――小森希乃子、個性によって金のロングヘアーの間から1対の山羊みたいな角を生やした少女――角取ポニー、グレーの髪色と目元の隈の影響でダウナーな印象を与える少女――柳レイ子、可愛い爬虫類という表現が合いそうな顔立ちの少女――取蔭切奈、学年でトップを争える程の美少女として知られる少女――小大唯、B組に所属する7人の女子を加えた、つまり1年のヒーロー科女子全員が入場、先頭に立つ透に追従する形で其々のポジションについた。
「ジャマモノやなものなんて消して
この世とメタモルフォーゼしようぜ
ミュージック キミが起こすマジック
目を閉じれば未来が開いて
いつまでも終わりが来ないようにって
この歌を歌うよ」
ポジショニングが完了すると共に終わる間奏、それと共に歌い出し、踊り出した透に合わせる様に、背後の女子達が堂に入ったチアダンスを披露する。
「Do you wanna play?リアルゲーム ギリギリ
綱渡りみたいな旋律 認めない戻れない忘れたい
夢の中に居させて I wanna be free
見えるよ新時代が 世界の向こうへ
さあ行くよ New world」
やがてサビへと向かって盛り上がって行く会場、その直前、最高潮へ向けてのトリガーを引くと言わんばかりにお茶子が個性を活かして上空へと飛び上がってアピールした。
「新時代は この未来だ
世界中全部 変えてしまえば 変えてしまえば
果てしない音楽がもっと届くように
夢は見ないわ キミが話した ボクを信じて」
それによってステージのテンションはMAX、それに乗って透は精一杯の声量を発揮してその歌声を全ての観客へと届ける。
「フゥゥゥゥ!皆知ってると思うけど私達、この後の最終種目にも出場するんだ!ぜひ応援してね!」
『イェーイ!』
その声は届いた、会場に集まった観客は1人の例外なく、透のアピールに盛大な歓声で応えた。
そう、『観客』は。
「あ、あれ?」
「なぁにやってんだ…?」
「どぉしたヒーロー科!?どんなサービスだそりゃぁ!?」
その直後、異変が発生した。
間奏でのアピール、それに対する声援を受けて2番を歌い出そうとした透だったが突如としてBGMがフェードアウト、それと共に実況席にいたであろう相澤とプレゼント・マイクから想定外だと言わんばかりのツッコミが入った。
或いは、この事態その物が異変だったと言うべきか。
「「イエーイ」」
「峰田さん上鳴さん騙しましたね!?」
BGMが止まって困惑する透の一方、相澤達のツッコミを受けて話が違うと言わんばかりに周りをキョロキョロする百、その眼が「良いもん見れた」とサムズアップする実と電気の姿を捉えた瞬間、自分達が騙されていたのだと気付き、怒りの声を上げる。
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話は数十分前に遡る。
「八百万」
「ん?何か用ですの?」
「いや、緑谷から伝言を頼まれたんだけどよ、午後は女子全員、あの服装で応援合戦しなきゃいけないんだって」
何時もの通り大食堂で昼食を摂ろうとしていた百を呼び止めた電気と実、普段は余り声を掛けて来ない2人から呼ばれて戸惑い気味な彼女に、出久からの伝言と称してとある方向を指差しながらその内容を伝える実、その先にはチアリーダーの衣装を纏った外国人女性の集団がいた。
それを聞いた百は自分達のクラスだけじゃ盛り上がりに欠けると判断して「ヒーロー科全体でやりましょう」とB組の女子達にも声を掛け、それを聞いた透が即興ライブの形にしようと提案、彼女の歌唱力を知っていたA組の面々からの後押しもあってそれが通ったのである。
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こうしてA組が誇る(?)女子好きな2人に騙される形で行われたチアリーディング、その想像を遥かに超えるパフォーマンスにご満悦な2人だった。
「みーねーたーくーん?」
「かーみーなーりーくーん?」
が、次の瞬間、ガシィ!という音が聞こえて来そうな感じで己の頭を掴む感触と、何処か底冷えするかの様な声音で自分の名を呼ぶ存在に、2人は背筋が凍るかの様に感じた。
その声の方へと2人がゆっくりと振り向くと其処には、張り付けた様な笑顔で此方を見る勝己と鋭児郎の姿があった。
「お前らさぁ、人の彼女に何してくれてんだ?」
「響香達を騙して、恥ずい格好させて辱めるとはなァ。てめェら、
今から校舎裏な」
「よし、付き合うぜ勝己」
「「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」」
目つきの鋭さ等からただでさえ悪人面呼ばわりされる2人の、マジで怒っている事が分かる表情には、ヒーロー志望な2人であっても恐怖で心が支配される程、それによって怒らせちゃいけない奴を本気で怒らせてしまったと思い知るも時すでに遅し、抵抗空しく頭を掴まれたまま何処かへと消えて行った。
その後2人がどうなったかは、聞く迄も無いだろう。
それはさておき、思わぬ形で行われたライブだったがそのパフォーマンスにアンコールの声が上がったり、彼女達の姿を映そうとカメラを構えたりと会場は大盛り上がりとなった。
その際、透明人間な筈である透の身体を空過していた光が上手い感じに屈折したのか、偶然にも彼女の素顔を捉えた写真がSNS上にアップされ、そのあどけなさを残しながらも、楊貴妃やクレオパトラといった人類史上に名を残す美女にも引けを取らない端正な顔立ちから「雄英に降臨した女神」「史上最カワな歌姫」「透明感MAXな美少女」とネット上で大バズりし、オールマイトにも比肩する程の人気を得る事となったのは余談である。
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ハプニングこそあったが予定通りレクリエーションは終了、いよいよ最終種目のスタートとなった。
最終種目は個性有りのタイマンガチバトル、セメントスが作ったリングから出るか戦闘不能となるまで戦うというシンプルなトーナメント戦となった。
その組み合わせは以下の通りである。