産屋敷殿の13人   作:不知火新夜

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14話_最終種目・壱

「爆豪。それに切島も一緒か。丁度よかった、今大丈夫か?」

「轟?」

「急にどうした?まァ特に用事が有る訳じゃねェが…」

 

レクリエーション中に突如として行われた透たちによる即興ライブを、百を騙す形で糸引いた電気と実に対する制裁を終わらせた勝己と鋭児郎がスタジアムへと戻ろうとしたが、そこで鉢合わせした焦凍に呼び止められた。

 

「たった今、トーナメントの組み合わせが発表された。切島とは決勝までぶつかる事はないが、爆豪とは3回戦と早いタイミングでぶつかる。だから宣戦布告序に話しておきたい事があるんだ」

「もう俺もお前も3回戦進出した積りか?その前に、B組の誰かさんとの戦いが待っているってのに」

「開会式であんな宣言しながらよく言う。俺もお前も、その誰かさんに不覚を取るタマじゃねぇだろ?」

 

組み合わせ抽選の結果が、勝己達による制裁の最中で発表されたのを聞いて、それを知らないであろう2人にその内容を伝えつつ、軽口を交しながら今までクラスメートの誰にも明かさなかった事を伝えた。

焦凍の父親である轟炎司(えんじ)の正体は長年トップヒーローとして活躍し続けるフレイムヒーロー『エンデヴァー』、事件解決数では史上最多という実績こそあったがオールマイトの存在から長年No.2に留まっていた。

どれだけ頑張ってもNo.1にはなれない、オールマイトを超えられない、そんな覆しようのない現実に直面したエンデヴァーは、現代において禁忌といっても過言じゃない手段、個性婚を行った。

個性婚、自身の個性をより強化した形で己の子供に遺伝させるべく、性質が近かったりデメリットを打ち消す事が出来たりする個性を持つ配偶者を選んで結婚するというこのやり方は、個性その物の存在が出てから数年位経って頻発する様になったのだが、個性だけを考慮して当人同士の立場やら感情やらを無視するケースも少なくなく、人権否定に繋がることから世界的な問題に発展し、今となっては表立って行われる事は殆ど無くなったのだが、己の力をより発展した形で継いだ子をヒーローとして育て上げ、オールマイトを超えさせてNo.1ヒーローにするという野望に囚われたエンデヴァーはそれを強行、物を凍らせる個性を持った氷叢(ひむら)(れい)という女性と結婚、その間に3人の息子と1人の娘を授かった。

その4人の末っ子こそが焦凍であり、尚且つ冷との結婚の目的である個性の継承という面で「最高傑作」として生を受けた彼は、エンデヴァーによるスパルタ式の英才教育を受けさせられる事になり、それを諌めんとした冷はエンデヴァーからのDV等もあって徐々に追い詰められていき、ある日、電話を盗み聞きしていた焦凍の存在に動揺し「お前の左側が醜い」という言葉と共に熱湯を浴びせ、それ以来精神病棟に隔離入院させられた、焦凍の顔にある大きな火傷はその時に出来た物だ。

この事件以来、焦凍の心にはエンデヴァーに対する怨恨が芽生え、それは己の個性の片割れである『左の炎』をも徹底的に拒絶する程となり、やがて冷から受け継いだ氷の力だけでNo.1ヒーローになり、エンデヴァーに関する一切合切を否定する事を決意するに至ったのだ。

 

「そういう事だったのか。なら、悪かった。おめェの事情も知らねェ癖に舐めプだと決めつけちまって。そういう事情なら自分の、親父由来の個性を嫌うのも無理はねェ」

 

その話を聞いた勝己と鋭児郎は、長年トップヒーローとして活躍し続けたエンデヴァーの知られざる一面に絶句、殊に勝己は開会前に焦凍の戦闘スタイルを「舐めプ」と非難していた事を謝罪した。

が、

 

「轟?おーい轟?」

「お前何急に固まってんだ?俺が謝るのがそんなに変か?」

「あ、ああ済まない。違和感を覚えてな」

「おい、マジで変だと思ってたのかよ。俺だって明らかに俺の方が悪いと分かったら流石に謝るわ。俺も響香に似たような事言われたら立ち直れねェ」

 

勝己が頭を下げるのを全く想像していなかったのか、その姿を目の当たりにした焦凍は固まってしまい、鋭児郎の呼びかけにも反応しなかった。

そんな焦凍の反応に多少の怒りは持ちながらも直ぐに平静を取り戻し、

 

「まァ、お前が左の炎を使わねェ理由は、単なる舐めプじゃねェ深い理由がある事は分かった。

 

 

 

なら聞くが、お前は親父を否定したい為だけにヒーローを目指してんのか?」

「…何?」

 

さらっと爆弾を投げ込んだ。

 

「何、じゃねェよ。お前の父親への、エンデヴァーへの復讐だけがヒーロー志望の動機かって聞いてんだよ。別にエンデヴァーを否定してェだけならヒーロー目指す必要は全くねェ、それこそ敵になるっていう復讐にはうってつけの手段もあるだろ?それにヒーローを目指す上でも、この雄英高校に来る必要は無い、雄英は確かに最難関だが同じ水準には士傑高校もある、エンデヴァーの辿った道をそのまま進む必要性は無かった筈だ、確かエンデヴァーは此処のOBだろ?」

「何だと!?つまりお前は、俺の心の奥底にクソ親父への情が残っているとでも言いたいのか!?」

「誰もそうは言ってねェよ、単にエンデヴァーと同じ道を辿っていると指摘しただけだ。どうあがいたってお前はエンデヴァーにはなれないし、エンデヴァーにもお前にはなれない、この先何があろうとお前はお前だ。そんなお前が、クソをつけて呼ぶ程嫌う父親と同じ足跡をつい辿ってしまう程の何かが、雄英高校に入ってトップヒーローを目指すって人生設計図を確立させた『原点(オリジン)』があるんだろ?それだけは絶対忘れんじゃねェ」

「っ!?」

 

エンデヴァーに対する憎悪の程を語りながらその実、そのエンデヴァーと同じ道を辿っている事を指摘する勝己、それが図星だったのか激高する焦凍に対して勝己はあくまでも冷静に、焦凍の心情に配慮しながら説いていく、エンデヴァーと同じ道を辿らせる何かの存在――原点を。

 

「話は終わりか?なら行かせて貰うぜ、轟。次は3回戦でな」

「じゃあな、轟」

 

言いたい事を言い終えた勝己は、焦凍が何も言って来ないのを受けて、鋭児郎と共にその場を離れた。

 

「俺の、原点…」

 

残された焦凍は、勝己から指摘された己の原点が何なのか、何が蛇蝎の如く嫌っている筈の父親と同じ道を辿らせているのか、自分の右手をじっと見つめながら物思いにふけていた。

 

------------

 

「ヘイガイズ!アーユーレディ!?色々やってきたけど最後は結局これだぜ、ガチンコ勝負!頼れるのは己のみ!ヒーローでなくともそんな場面ばっかだ!分るよな!心技体に知恵知識!総動員して駆け上がれ!最終種目、ガチバトルトーナメントの始まりだぁ!」

 

セメントスの手によってスタジアム中央に整備された闘技場風のフィールド、その完成を受けてプレゼント・マイクが最終種目のスタートを宣言した事でスタジアム中は歓声に包まれた。

そんな中で始まった最終種目、まずは一回戦、此処からのスタートとなったのはB組に属する20人、その誰もが前の種目である騎馬戦で0点に終わった挙げ句序盤で離脱を強いられるという散々な結果だった事から一部では「事実上の敗者復活戦」「超が付く程の救済措置」といった声が上がる中だが、B組の面々はそれでも結果を残してアピールすべく全力でバトルに臨んだ。

 

まずは第一試合、リングアウトさせるか行動不能に追い込む、またはギブアップさせれば勝ちという勝利条件が伝えられた後に始まったこの試合は最初、首から上が漫画の吹出みたいになった少年――吹出漫我が、口にした擬音を具現化する個性『コミック』によって燃えているかの様な擬音や周りを凍り付かせる擬音を用いて遠距離攻撃を仕掛けるが、小柄でぽっちゃり体型な少年――庄田二連撃がその豆タンクと言わんばかりの体型に似合わぬ素早い動きでひょいひょいと回避しながら接近、背後に回った所で、打撃を与えた箇所に任意のタイミングでもう一撃叩き込める個性『ツインインパクト』によるパンチを打ち込もうとした。

だがその直前、それを読み切った漫我が周囲を揺らす擬音を発して周囲を、擬音に接触したフィールドに振動を起こして二連撃の体勢を崩し、直後に漫我が暴風を巻き起こす擬音をぶつけた事で二連撃は大きく吹き飛ばされ、体勢が崩れていて碌にブレーキも掛けられずリングアウト、漫我の勝利となった。

 

第二試合、金髪碧眼の王子様と言いたげな風貌の少年――青山優雅が、臍から高威力のレーザーを放つ個性『ネビルレーザー』を開幕から連射、それに対して希乃子も多種多様なキノコの胞子を放出、任意の場所に繁殖させる個性『キノコ』で対抗しようとするも放出した胞子の殆どがレーザーで焼き切られ、残った胞子もレーザーの熱で乾燥化した環境下では繁殖はままならず万事休す、ギブアップを宣言せざるを得なかった。

 

第三試合は壮絶な肉弾戦となった、毛むくじゃらな体躯と下あごから突き出た2本の牙と如何にも獣人だと言いたげな姿の少年――宍田獣郎太が、元の倍はある巨体の獣へと変貌する個性『ビースト』で獣と化して突進、一方で四白眼を通り越して点にしか見えない黒目が特徴的なワイルドな風貌の少年――鉄哲徹鐵は獣郎太の突進を、身体を金属に変える個性『スティール』によって金属化した身でガードしつつ攻撃後の隙を狙うカウンター戦法で対抗、だが集中力の途切れを突いたストレートパンチが直撃、金属化していた事で決定打にこそならなかったがこれで体勢を崩された徹鐵を狙わない獣郎太ではない、即座にマウントを取って徹鐵の身にパンチを連打、流石の徹鐵も耐え切れなくなりKOとなった。

 

第四試合、辮髪*1を彷彿とさせるポニーテールの少年――鱗飛竜が身体に鱗を生成する個性『鱗』で生成した鱗を弾丸として射出、それを対戦相手の唯が負傷を恐れず幾らかつかみ取り、触れた物の大きさを変える個性『サイズ』によって刀剣サイズに拡大して切りかかるもそれは飛竜の想定内、あっさり受け止められた挙句腕を掴まれて反撃を封じられた末、腹部に膝蹴りを叩き込まれてKOとなった。

 

第五試合、頭と思われる部分が工具を思わせる形状となった少年(?)――凡戸固次郎は、顔に空いた7つの穴から接着剤を噴出する個性『セメダイン』が対戦相手であるレイ子とは相性が悪いと判断して接近戦に持ち込まんと突撃するも、荒っぽいのは御免だと言わんばかりにレイ子は回避や後退を繰り返すばかり、だが固次郎も考えなしに突っ込む訳もなく巧みな立ち回りで少しずつレイ子を後方へと追いやり、やがてリング際へと追い詰めた。

さあもう逃げられないと言わんばかりに攻撃を繰り出す固次郎、だが次の瞬間己の体が斜め前に吹っ飛ばされてしまい、対応する暇もなく場外へと飛んだ事でリングアウトとなってしまった。

まさかの事態に信じられないといった様子の固次郎、だがその視界が闘技場の一部分、何故か不自然に飛び出た柱型のセメント塊を見た瞬間、何が起こったか、正確にはレイ子が何をしたのかを理解した。

そう、考えなしに動いていたのは固次郎だけじゃない、レイ子も固次郎の突進をやり過ごしながらとある場所へと誘導する様に立ち回っていたのである。

レイ子の個性は身近にあるものを、人間一人分の重量までなら自由自在に操れる『ポルターガイスト』、それを用いて、此処までの戦いで整備中断が入らない程度に荒れた闘技場の中から丁度良いセメント塊を見つけ、其処に固次郎を誘き寄せ、彼が攻撃を仕掛ける瞬間にそのセメント塊を跳ね上げ、固次郎をリングアウトさせたのだ。

 

整備中断の後にスタートとなった第六試合は一方的な展開となった、逆立った黒髪と三白眼が特徴の少年――泡瀬洋雪が、触った二つの物を分子レベルで結合させる『溶接』を駆使してジャージと闘技場を結合させて即席の防壁にしようとするも、対戦相手である一佳の、両手を巨大化させる個性『大拳』の応用で、明らかに打撃の届かない間合いから開始早々に放たれた貫手をもろに喰らってしまい、僅か数秒でKOとなった。

 

第七試合はある意味で前の試合以上に一方的な物となった、個性の影響か真っ黒に染まった肌が特徴的な少年――黒色支配は、影等の黒色に染まった所に己を溶け込ませられる個性『黒』を用いて潜伏を試みるも、まだ日が高い為に溶け込める黒い所が殆ど無い、その力を発揮する事無く、緑色のモヒカンへアーと両上顎から突き出た牙みたいな刃が特徴の少年――鎌切尖の、全身から刃物を生成する個性『刃鋭』によって作り出されたナイフで切りかかられ、試合開始から程なくギブアップとなった。

 

第八試合、切奈は己の身を分割して縦横無尽に動かせる個性『トカゲのしっぽ切り』を用いて拳や肘、肩といった硬い打撃部を持つ部位を多数分離させ、対戦相手である釣り目気味の三白眼が特徴の少年――回原旋へと襲わせる一方、旋も身体のあらゆる部分を高速回転させる個性『旋回』を用いて受け流したりくるくると動く独特な移動法で回避したりして対抗するも四方八方から襲い掛かる切奈の打撃に段々と追い込まれて行き、リング際に追い詰められた所でギブアップとなった。

 

第九試合、グラスゴースマイル*2を通り越して頬や唇が無く歯が剝き出しになった風貌の少年――骨抜柔造が、触れた物を柔らかくする個性『柔化』を開始早々に用いて広範囲を柔らかくして潜伏、打撃が届かない状況を活かして接近、対戦相手であるポニーも個性によって生えた角や手足によるカウンターを仕掛けようとするも、身構えていた彼女の地面も柔らかくなって踏ん張りが効かなくなりやがて両足が沈んでしまい、其処を柔造に掴まれそのままリング際へと連れ去られて外へと投げられ、リングアウトになってしまうという一方的な物となった。

 

そして一回戦最終試合である第十試合、黒目の大きい楕円形の眼が特徴的な茶髪の少年――円場硬成が、吐いた空気を固める個性『空気凝固』によって防壁を展開するも、対戦相手である茨が、髪の毛を触手の如く自由自在に操ったり伸び縮みさせたり出来る個性『ツル』による四方八方からの攻撃には対処しきれず、やがて捕まって場外へと投げ飛ばされた。

 

こうして一回戦は終了、トーナメント表は以下の通りとなった。

 

【挿絵表示】

 

*1
頭髪の一部、主に頭頂部だけを残して剃りあげ、残った頭髪を伸ばして三つ編みにして後ろへと垂らす髪型。満州族等の東アジアの人々の間で習慣として広まった

*2
アメリカ等の英語圏で「口の裂けた顔」を意味する言葉。要は口裂け女

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