「お前、いい加減暴れんじゃねェ!今からそのクッソ汚ねェ頭を丸洗いすんだからよ!本当ならその垢塗れであろう身体もと行きたいが、公衆の場で引ん剝く訳にも行かねェ、頭だけで勘弁してやる!」
勝己からの指示で造ったシャンプー(及び響香の要請で造った消毒用エタノール)を持って彼の後を追った百に付いて行くと其処にはまあ予想通りと言うべきか、想像を絶する程汚らしい髪や頭皮等を丸洗いすべく男の頭部を洗面器に押し込んで冷水をぶっかける勝己の姿があった。
男――勝己の予想通り1年A組の担任で、プロヒーロー『イレイザーヘッド』でもある
後の雄英高校において『イレイザーヘッド丸洗い事件』として語り継がれるこの事件を受け、相澤は「教職員に対する害意著しい」として勝己を除籍処分にしようと動くも、自分以外の教職員からの猛反発で握りつぶされたとの事、同僚教師達も余程、相澤の不潔振りは腹に据えかねていたらしい。
「ほら勝己、手を出して。あの様子だと雑菌やらカビやらに塗れていただろうし、消毒しとかないと」
「おぉ、ありがとうな響香。ほんと最悪だ、雄英に入って最初にやる事が担任のクッソ汚ねェ頭の丸洗いかよ、かと言ってあれはヒーローというより人として見過ごす訳にもなァ…」
こうして数十分もの時間、ボトル一本分にも迫るシャンプーを費やした事で一般的な「洗い立て」と言って良い程綺麗になった相澤の髪、頭、顔面を確認しつつ響香に促されるまま手を差し出し、彼女の手にあった消毒用エタノールを吹きかけて貰いそれを塗り込む勝己はそうボヤきながらも、その表情は何処か「やり切ったぜ」と言わんばかりの晴れやかさが滲み出ていた。
「さて、洗い始めてから何分位だ?流石にもう式は始まっちまってはいるだろうが、急げば、ま…だ…」
とはいえまだ「洗い立て」、濡れたままでは元の木阿弥となりかねない、そう思い、勝己は消毒を終えた手を相澤の長髪に向け、個性を応用して熱風を放射、ドライヤーの如く髪を乾かしながら現在時刻を確認すべく時計が何処か見回した。
物凄く今更だが、勝己の個性は『爆破』、全身にある汗腺が変異した事で汗がニトロ化、それを己の意志で爆発させる事が出来る。
それだけ聞くと強力だが威力過剰になりかねない厄介な個性、と思うだろうが、勝己はその規模を調整する事で先程の様な火炎放射や、今みたいな熱風程度に抑える事も出来、勝己本人のセンスもあってか様々な用途に使えるのだ。
それはさておき、見回して程なく時計を発見、それが示す時間を確認したのだが次の瞬間、その顔が青ざめた。
「うわ、もうこんな時間かよ…!」
『え゛』
時計が指し示す時間は、入学式の開始予定時刻からもう数十分も経過していたからである。
「ど、どどど、どうするんだ勝己君!もう式も大分進んでしまっている!今更行った所で摘まみ出されるのがオチだぞ!」
「仕方ねェだろ、まさか俺達の担任がこんなクッソ汚ねェ奴だと思わなかったんだからよ!こんなの野放しにして式なんか行けるか!?」
「それはそうだが、折り合いという物があるだろう!ある程度の所で切り上げるとか!」
「あんな惨状で折り合いもクソもあるか天かす!」
「だからそのあだ名は止めたまえ!」
担任の頭を丸洗いしていたら入学式に大遅刻、という正直に説明しても「まるで意味が分からんぞ!」とツッコまれそうな事態に陥って慌てふためく一同、やがて相澤の頭の丸洗いに関して、勝己と天哉の口論に発展してしまうも、救いの手は意外な所から差し伸べられた。
「安心しろ、お前達。お前達が向かうのは入学式じゃない。
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『こ、個性把握テストぉ!?』
何処からともなく人数分の体操服を取り出した相澤の指示に従うまま着替えてグラウンドに集合した出久達、其処で相澤から告げられたのは「個性把握テスト」の実施だった。
「入学式は!?ガイダンスは!?」
「ヒーローになるならそんな悠長な行事、出る時間無いよ。雄英は自由な校風が売り文句。そしてそれは先生側もまた然り」
まさかの事態に、入学式をサボってまでの何かしらのテスト実施に驚きを隠せない一同、その中でお茶子が入学式はどうしたと皆の気持ちを代弁するも、相澤は雄英の校風を盾に聞く耳を持たなかった。
「ソフトボール投げ、立ち幅跳び、50m走、持久走、握力、反復横跳び、上体起こし、長座体前屈。中学の頃からやってるだろ、個性禁止の体力テスト。国は未だに画一的な記録を取って平均を造り続けている、合理的じゃない。まあ文部科学省の怠慢だよ」
そのまま相澤はテストの概要を説明、しようとしたが明らかに教育分野に対する現代政治のやり方への愚痴と化してしまい、生徒の中からうんざりした表情を浮かべる者が出て来た。
「一般入試主席の爆豪、中学の時ソフトボール投げ何mだった?」
「確か110mオーバーだったか?ネットに当たった所為で正確な記録が分からねェ」
相澤もそんな愚痴を零している場合じゃないと切り替え、デモンストレーション代わりに勝己を呼び出してボールを渡す。
その際に中学時の記録を尋ねたが、
「ひゃ、110オーバーってマジか!?」
「個性無しで其処まで投げたのか!?ありえねぇ!」
「絶対個性使った記録だろそれ!」
「使ってねェわ!な、出久、響香!」
「「うんうん」」
「ま、マジかコイツ…!」
「正に規格外の領域…!」
其処で勝己が口にした記録を聞いて、勝己とは初対面だった9人の生徒からざわめきが起こった。
その驚きも当然と言えば当然だろう、この小説を読んでいる貴方達の世界において、とある小学生がソフトボール投げで90mオーバーの記録を出した事がネットニュースになり前代未聞という関係者のコメントが載った、と聞けば個性無しでの110mオーバーという記録が如何に規格外かが分かる筈だ。
「…まあ、個性無しでの記録の真偽については置いて、個性を使ってやって見ろ。円から出なきゃ何をしてもいい。早よ、思いっきりな」
それは相澤も例外では無かったが今は記録の真偽を問う場合じゃないと判断、さっさとやる様に促した。
「ゴウゴウゴウゴウ…」
「ん?ウゴウゴ?」
「いや、ゴーゴーじゃね?」
「違うだろ、ゴウゴウだろ?」
「何れにせよ、異様なる呼吸音である事に違い無し…」
それを受けて助走エリアである円の中へ入る勝己だったが、その際に発せられた呼吸音と思しき音声の異様さに、初対面の者達は揃って首を傾げた。
「ゴウン!」
「な、何だあのボールの速さ!?」
「ソフトボールであんな球速が出るのか!?」
「個性無しで110mオーバーってのも、嘘でもまぐれでも無かったんだな…」
「どんな才能マンだよアイツ…」
が、その疑問は、勝己の手から離れたボールの想像を絶する球速を前に吹き飛んだ。
140km/hは優に超えているんじゃないかと言える程の勢いで飛ぶソフトボール、それを目の当たりにして先程言っていた110mオーバーの記録も本当だったのだと彼らは思い知らされた。
然し今回は個性ありの条件、100m近く飛んだ所で勝己はボールの一面、投擲方向とは逆の面に塗りたくっていた汗を起爆した事で、ロケットエンジンの如き爆炎を噴射しながら再加速、そのまま遥か彼方へと飛んで行った。
その後ボールが何処かに着地したのか、相澤の所持している端末からピピっという音がした。
「まず自分の最大限を知る、それがヒーローの素地を形成する合理的手段」
そう言いながら相澤が見せた端末に記されていたのは『2115.6m』という記録だった。
それを目の当たりにし、個性有りで何処まで記録を伸ばせるのか、オラわくわくするぞ!と言わんばかりに生徒達は湧き上がった。
「なんだこれ、すげー面白そう!」
「個性無しでも110mオーバーだったのに、2kmオーバーってマジかよ!?」
「個性思いっきり使えるんだ!流石ヒーロー科!」
今迄公の場での使用を止められていた個性の解禁、その事実はまだ15、6年しか人生を経験していない生徒達の心を躍らせるには十分すぎる威力を持っていたのだ、湧き上がるのも仕方ない事だろう。
だがそんな生徒達に何処か呆れた様子の相澤は此処で、超ド級の爆弾を投げつけて来た。
「面白そう、か。ヒーローになる為の3年間、そんな腹積もりで過ごす気でいるのかい?
…よし、トータル成績最下位の者は見込み無しと判断し、除籍処分としよう」
『は、はぁぁぁぁ!?』
「生徒の如何は先生の自由!ようこそ、これが雄英高校ヒーロー科だ」
このテストで最下位だった者を除籍、つまり雄英高校からの追放を突きつけるという暴挙に出た相澤。
「最下位除籍って、入学初日ですよ!?いや初日じゃなくても理不尽過ぎる!?」
それに対してふざけんな!と言わんばかりの声を上げる生徒達だが、相澤は涼しい顔でこう返した。
「自然災害、大事故、身勝手な敵達、いつ何処から来るか分からない厄災。日本は理不尽に塗れている、そういう
「よし、百。今度はボディソープを造っておけ、どうやら引ん剝かれて身体も丸洗いされんのがお望み」
「口が滑った。流石に除籍程の厳しい処分にはしない」
「ヲイ」
が「じゃあ
何かしらの処分を下す事まで撤回しなかった辺りは教師として、プロヒーローとしてのプライドから「吐いた唾は飲まない」という意志の現れだろうが、微かながら顔を青ざめさせている所を見るに、先程の丸洗いが余程トラウマになったのだろう、身体の方も「コイツなら本気でやりかねない」と判断して恐れをなしたに違いない。
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こうして始まった個性把握テスト、最初の種目は50m走。
「シィァアアアアアアアア!」
『2秒69!』
「良し、2秒7を切れた!」
「ゴウゴウゴウゴウゴウン!」
『2秒7!』
「畜生ォ!天かすに負けたァ!」
「だから天かすではない!」
その先陣を切る事となった天哉と勝己は、いきなりの好記録を叩き出した。
勝己は言うまでも無く背中にかいた汗を起爆させる事で文字通りのロケットスタートを決め、その後もスラスター代わりに速度を底上げした一方、天哉は個性によって形成されたであろう、脹脛のエンジンらしき器官を唸らせてスピードアップを図った結果、両者共に3秒を余裕で切るタイムをマーク、時速換算で66km/hオーバーという驚異的なスピードにクラスメート達は湧き上がった。
天哉の個性は『エンジン』、脹脛に備わったエンジン型の器官によって驚異的な脚力を生み出す、そのまんまと言えばそのまんまな個性だ、因みに燃料はオレンジジュースとの事。
…だが実を言うと、天哉も勝己もこの種目において己の個性を『最後の一押し』程度にしか使っていない、天哉の方は己の出自故か他のクラスメートよりも幾らかマシとはいえ、それでも個性を使える場所は限られていた為に十分な特訓を積めず、まだその力をフルに活用できていないのだ。
裏を返せば個性無しでも50mを3秒切る速さで走れる程の、ウマ娘じゃねぇか!とツッコミたくなる脚力を天哉も勝己も有していると言う事だ、其処に今以上の個性の力が上乗せされたらどうなるかは想像に難くない。
ところが、驚くべきは此処からだった。
「ゴオオオオオオオオオオ!」
『2秒71!』
「シィィィィィィィィィィィ」
『2秒72!』
「カァァァァァァァァァァァ」
『2秒76!』
「シャァァァァァァァァァァ」
『2秒75!』
「ドドドドドドドドドドド!」
『2秒77!』
「フゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ」
『2秒73!』
「フウウウウウウウウウウ!」
『2秒79!』
「シュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ」
『2秒78!』
「ハアアアアアアアアアア!」
『2秒74!』
「いや何なんだお前ら!?このクラスは才能マンばっかりか!?」
出久が、人使が、鋭児郎が、梅雨が、響香が、お茶子が、透が、三奈が、百が揃って個性による顕著なスピードアップが成された様には見えないのに無茶苦茶なタイムをマーク、結果、種目1位の天哉と種目11位の透との差はコンマ1、そして11人全員が2秒8を切る驚異的な脚力を見せつけた。
種目12位、つまり出久達を除けばトップである白と赤の半々になった髪色、顔の左側に刻まれた火傷の跡と思しき痣が特徴的な少年――
そんなピリピリした雰囲気の中で個性把握テストは進んで行くも、出久達11人の独壇場は続いた。
尤も他のクラスメート達も黙って出久達の独走を許した訳じゃない、例えば長座体前屈では、187cmとクラスの中でトップクラスの大柄、銀髪の長いリーゼント、その髪型からちらりと見える三白眼、口元を常に隠すマスク、そして個性によって両腕の付け根から生えた触腕が特徴的な少年――
例えば握力では、目蔵と同じ位の大柄とキン肉マンかとツッコみたくなる風貌が特徴的な少年――
例えば反復横跳びでは、110cmにも満たないという男子とか女子とか通り越して本当に高校生かとツッコミたくなる小柄、個性の影響か髪の毛の代わりに頭から生えたボール状の器官を持つ少年(?)――
と、この様に種目単位では出久達に食らいつくクラスメートもいたのだが、一芸だけで逆転できる程甘くは無く、総合成績は以下の様になった。
1位:八百万百
2位:爆豪勝己
3位:麗日お茶子
4位:緑谷出久
5位:飯田天哉
6位:切島鋭児郎
7位:芦戸三奈
8位:蛙吹梅雨
9位:耳郎響香
10位:心操人使
11位:葉隠透
12位:轟焦凍
13位:常闇踏陰
14位:障子目蔵
15位:尾白猿夫
16位:
17位:砂糖力道
18位:
19位:上鳴電気
20位:峰田実
其々の層での順位変動こそあれど1位から11位までを占拠する『出久達11人』と12位以下の『それ以外』の構図が崩れる事は無く、そして処分対象となる最下位は、反復横跳びの奮闘空しく実がランクインしてしまった。
その結果に、自分が最下位になってしまった事実に顔が真っ青になる実だったが、
「因みに処分は嘘だから」
『ゑ?』
「君達の最大限を引き出す為の合理的虚偽」
『はぁぁぁぁ!?』
此処で『テッテレー』なんて効果音が聞こえて来そうな発表がされた。
まさかの「『最下位は処分』ドッキリでした」発言に一部を除いて誰もがずっこけ、抗議の声を上げるも、相澤は聞く耳を持たなかった。
「あんなの嘘に決まっているじゃない…
ちょっと考えれば分かりますわ」
「いや、ンな事言いながらお前トップじゃねェか。個性までフル活用して」
「まあ、やるからにはトップを目指すべきですから」
そんなクラスメートに対してずっこけなかった『一部』である百がツッコミを入れるも、個性をもフル活用してトップを取った癖に何言ってんだと勝己にツッコミ返されていたのは余談である。
音の呼吸、恋の呼吸、蛇の呼吸、蟲の呼吸の呼吸音ですが、公式でどうなのか分からないので独自設定です。
「公式ではこうだよ」という指摘があれば誤字報告にてお願いします。