(これは、とんでもないな…!)
時間は少し遡り、個性把握テスト真っただ中な時、試験結果を逐一記録していた相澤は、立て続けに驚異的な記録を叩き出す出久達11人のチート級スペックに、恐ろしいと思わずにはいられなかった。
時速64kmを余裕で超えて来た50m走、そんなスピードを1分半も維持して走り切って見せた持久走、計測場である砂場を余裕で飛び越えて来た立ち幅跳び、残像が見える程の反復横跳び、余りの勢いで『それ以外の9人』が抑え役としての役目を果たせず変更を余儀なくされた上体起こし…
個性にそれ程頼っていないのは己の個性で『抹消』しても驚かれていない事から明らかにも拘わらずこれ程の記録を叩き出した事に、相澤は自分1人でこのクラスを御し切れるのかという教師人生で初めての不安が押し寄せ、せめてこういう時位副担任をつけろよと上層部への不満を心中で口にした、先程勝己の手によって己の頭を強引に丸洗いされた事、それに対して「教職員への害意著しい」と訴えても誰1人聞き入れてくれなかった事も(完全に自業自得であるにも拘わらず)その不満を増大させた。
相澤の個性である『抹消』は、発動した状態で視界に捉えた者の個性を文字通り『抹消』、個性を使用出来ない状態にしてしまうという物だ、先程勝己が決行した火炎放射が直ぐに鎮火したのも、相澤が『抹消』によって汗を起爆させない様にしたからだ。
と言っても使用不可に出来るのは増強型や発動型といった何らかのタイミングで効果を発揮するタイプの物だけで異形型等の常時効果を発揮するタイプの個性には影響が無かったり、既に発動された後の物に対してその効果を打ち消す的な用途には仕えなかったり、そもそも相澤自身がドライアイを患っている所為で長時間目を開いていられず効果が途切れ途切れになったりと色々と制限はあるが、それでもこの個性社会に対するアンチテーゼと言って良いこの個性は強力だ。
その個性や数年もの教職経験で培われた指導手腕を買われて出久達11人という滅茶苦茶ヤバい生徒達を預かる事となった相澤はふと、それを命じられた一般入試の合否判定及び生徒の割り振りを決める会議の事を思い出していた。
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「実技試験の総合成績が出ました」
相澤や、ブラッドヒーロー『ブラドキング』にして1年B組を担当する事となる銀髪の男性教師――
ヒーロー科等の入試合否を決める重要会議の場、その1つの指標となる実技試験の結果がたった今確定した事が香山によって発表され、トップからの氏名・成績がスクリーンに映し出されたのだが、それに注目した教師陣は早速、驚きに包まれた。
1位:爆豪勝己 VILLAIN:81 RESCUE:69 合計:150
2位:切島鋭児郎 VILLAIN:75 RESCUE:74 合計:149
3位:緑谷出久 VILLAIN:69 RESCUE:79 合計:148
4位:麗日お茶子 VILLAIN:72 RESCUE:75 合計:147
5位:飯田天哉 VILLAIN:73 RESCUE:73 合計:146
6位:蛙吹梅雨 VILLAIN:74 RESCUE:71 合計:145
7位:芦戸三奈 VILLAIN:71 RESCUE:73 合計:144
8位:耳郎響香 VILLAIN:72 RESCUE:71 合計:143
9位:心操人使 VILLAIN:70 RESCUE:72 合計:142
10位:葉隠透 VILLAIN:71 RESCUE:70 合計:141
11位:
「合計ポイントが3桁に乗るだけでも数年に1人レベルなのに、それを楽々超えて来ただと!?しかも10人!?」
その成績が、出久達11人のうち推薦入試に回っていた百を除いた10人の叩き出したポイントが、教師陣達の想像を絶するレベルの物だったからだ。
此処で雄英高校の一般入試、その実技試験の概要を説明しよう。
舞台は市街地を想定して作られた演習場、其処に多数配置された『仮想
仮想敵は4種類、ぶっちゃけ雑魚な1ポイント、多少は歯ごたえのある2ポイント、結構手強い3ポイント、そしてめっちゃデカくてめっちゃ強い癖して倒しても足しにならない妨害用の0ポイントがいる。
それらを10分という制限時間の内に倒した数で加算されるのがヴィランポイントだ。
これだけ聞くと如何に早く仮想敵を見つけて辿り着き、制圧出来るかを実技試験では見ていると思うだろうが、それだけが全てでは無い。
事前の説明では明かされないのだが、試験の中で他の受験者を救けたり気遣ったりしたと認定された場合、それを行った受験者にはレスキューポイントが加算されるのだ。
このヴィランポイントとレスキューポイントを合計した数値で競うのが雄英高校の実技試験である。
それを踏まえて試験結果を見てみると、例年であれば主席を取っても可笑しくない成績を叩き出した茨*1がまさかのトップテン圏外、然も1つ上の透にはダブルスコアを付けられた挙げ句、ヴィランポイントとレスキューポイントを合算してもトップテンの誰のヴィランポイントやレスキューポイントにも届かない圧倒振り、と来れば教師陣の驚きも分かるであろう。
その後も教師陣の殆ど全員がカメラ越しに映し出された10人の無双振りを見ては称賛の声を上げていた中、
「皆。この成績と実技試験での立ち振る舞いを見れば、彼ら10人をヒーロー科で受け入れる事に関して議論の余地は無いと思う。
ただ、彼らを『どういう形で』受け入れるか、其処をきっちり議論すべき事案が発覚した」
そんな会議室の雰囲気を引き締めるかの様な声が響き渡り、全員がその場所に振り向いた。
その先に居たのはネズミなのか犬なのか熊なのか、その正体は雄英高校の校長、
「今の映像をもう1度良く確認して欲しい。彼ら10人、いや、推薦入試主席である八百万百君も含めた11人に、幾つか共通点がある事が分かる筈だよ」
10人の受け入れ方法で議論せざるを得ない事案とは何なのか、それが気になった教師陣は根津の勧めに応じて出久達の活躍を記録した映像をもう1度確認してみた。
すると、
「何だコイツら、呼吸音が変だぞ」
「彼らが使っているのは刀、ですかね?でも塗装されている様ですが…」
「カランビットナイフを2振り使っている爆豪君や、フランベルジュみたいな形状の刃物を使っている蛙吹さん、フレキシブルソードを使っている八百万さんの様な例外こそあれど、塗装に関しては共通していますね」
「ナ、何ダ?心操人使ノ身体カラ、電気ガ?彼ハ電気系ノ個性デハ無カッタ筈」
「心操君だけではありません、他の面々も斬撃の瞬間、個性を使ったかの如き超常現象が発生している様に見えます。然しそれが周囲に影響を及ぼしているかと言えば、飯田君の風以外はそれが全くないです。もしかして、そう見えているだけ?」
11人に共通する項目が幾つも出て来た。
個性把握テストでもツッコまれていた異様な呼吸音、刀やらカランビットナイフやらフランベルジュやらフレキシブルソードやらと形状こそ様々で色もバラバラだが1つの例外も無く刀身が塗装された刃物、それを振りかざす際にはっきりと映る超常現象の如き錯覚…
先程口にした『共通点』に気付いた教師陣を確認し、根津は11人を受け入れる上で懸案すべき『事案』を口にした。
「異様な呼吸音を発し、塗装が施された刃物を手に、個性みたいな超常現象が引き起こされたと錯覚させる剣撃で敵をバッタバッタと切り伏せるその姿。調べてみたら、とある存在に行きついたんだ。
ヒーロー殺し『ステイン』と、その相棒『スピナー』にね」
『なっ!?』
根津が話した『事案』、それは此処にいる教師陣を驚愕させるには十分すぎる物だった。
ヒーロー殺し『ステイン』、ヒーロー活動の裏で悪事を働いたり敵と手を組んで情報を流出させたりといったプロヒーローを『贋物』と定め、十数年位前に名が出始めてから此処まで関与が明らかな物だけでも40人余りが『粛清』の名の下その凶刃を受け、うち17人が死亡、残る者達も再起不能の重傷を負う被害を齎し、それを遥かに上回る数の敵も殺害して来た大物『ヴィジランテ』であり『スピナー』は4年位前からそのステインと共に粛清を行う彼の相棒だ。
此処で言うヴィジランテとは、法から外れる形で治安活動を行う者の総称で、嘗て個性が出始めた頃に活動していたヒーローのルーツとも言える存在なのだが、現代においてはヒーローや警察と言った専門職以外が治安活動をするのは法で禁じられており、敵の変種として扱われているのだ。
何故『
それ以来、触らぬ神に祟りなしと言わんばかりにステインを敵認定する者はいなくなり、かと言って不法行為を続ける彼を野放しにする訳にも行かず、ヴィジランテというぼかした呼び名を使っているのだ。
「この件を調べる際、警察関係者に掛け合って入手した防犯カメラの映像だ。2人の戦い振りを記録出来た貴重な映像でね、其処に映っている2人も異様な呼吸音を発し、塗装が施された刀を手に、個性みたいな超常現象が引き起こされたと錯覚させる剣撃を放っている。偶然にしては余りにも出来過ぎだよ」
『ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ』
『コォォォォォォォォォォォ』
「これは確かに、何かしら関わりがあると言って良いかもな…」
それはさておき、説明を続けつつ警察から提供されたという防犯カメラの映像を再生する根津、其処にはステインと思しき男が青く塗装された刀を手に、水飛沫が発せられたかの様な錯覚と共に斬撃を放つ姿と、スピナーと思しき男が赤く塗装された刀を手に、炎が巻き起こるかの様な錯覚と共に斬撃を放つ姿が映されていた。
「これを見て、彼等にはとある疑惑が出来た。
彼らはステインによって戦い方を学び、その薫陶を受けているのではないか、と」
その映像に映し出されたステインとスピナー、そして出久達11人との共通点から導き出された根津の推論に、教師陣は息を呑んだ。
ステインの薫陶を受けている、それ即ち贋物は粛清すべしという過激な思考に染まってしまっているのではないか、雄英を出た後は裏でステインを支援するプロヒーローになってしまうか或いはプロヒーローにならずステインと行動を共にしてしまうのではないか…
そんな未来を予測する根津の推論を教師陣は出来るなら否定したい、然しながらその推論を裏付ける材料があり過ぎる、その事実が否定の声を封じさせていた。
「勿論、これはあくまで1つの可能性だ。彼らがステインの下で剣術を学んでいると言っても師匠がステインだと知らないという線もある、正体がバレて捕まるのを防ぐ為にね。仮に当たっていたとしても君達が想像する最悪の未来にならないよう教え導いていくのが僕達教師のやるべき事さ」
とはいえそれを否定したいのは、出久達を信じたいのは根津も一緒だった。
「其処で相澤君。推薦入試主席の八百万百君と一般入試の実技試験トップ10、彼らを君が担当する1年A組に割り振らせて貰うよ。こういった過激思考を持つ可能性のある若者の指導は相澤君が適任だし、もし個性を用いて暴走しようとも君の『抹消』で対処出来る」
「分かりました、然し1人では手が余ります。副担任には誰が就く予定で」
「ゑ?居る訳ないじゃん、ただでさえ教職員の数に余裕が無いんだ、副担任になれる程暇な教職員はいないよ」
「…そうですか」
其処でその教育方針や個性等から適任とした相澤のいる1年A組に割り振られる事となった。
それに対して相澤も割り振り自体は受け入れながらも副担任はいるのかと尋ねるも、帰って来た答えは無情なものだった。
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こうして戦闘スタイルの類似性から大物ヴィジランテとの繋がりを疑われ、それを理由に同じクラスに割り振られる事となった出久達11人、だが当の本人達はそんな疑惑を持たれている事等露知らず、
「ねェェェェアンタ分かっちゃいなァァァァい!」
皆揃って同じクラスになれた歓喜のままカラオケ店に直行、相澤が口にしていた放課後マックならぬ放課後カラオケを満喫、今は透がAdoの『阿修羅ちゃん』を熱唱していた。