「今回のMVPは緑谷少年だ!何故だか分かる人!」
「はい、オールマイト先生」
「うむ!では、八百万少女!」
第1試合が終わり、その当事者である出久達も合流したモニタールーム、其処でオールマイトによる試合講評が行われる事となり、そのMVPには出久を選出していた。
それについては異論が出る事は無く、その理由を尋ねるオールマイトの呼び掛けに応じた百による指摘は、何の滞りも無く始まった。
「まずは出久さん。潜入と共に敵サイドが設置した罠を、その性質まで察知してお茶子さんに回避を促した事、その後も勝己さんの不意打ちを防いでお茶子さんを先行させた事、太刀という狭い場所では不利な武器を用いながらも勝己さんと互角の戦いを繰り広げた事、お茶子さんの個性を踏まえて天哉さんがどう動くかを読み切って作戦を立て、その通りに実行して見せた事がプラス要因と言えます。敢えて指摘する点を挙げるなら、脇差等の室内戦を想定した武器を持つべき事位ですかね、ただ此処は難癖に等しいでしょう」
「次にお茶子さん。天哉さんの猛攻に対して果敢且つタクティカルな突撃を行った事、その後も天哉さんの動きを読み切って出久さんが攻撃を仕掛けられる階下へと誘導した事がプラス要因ですね。ただ最初の罠や勝己さんの奇襲への対応が出久さんの指示待ちな所が否めなかった事が課題と言えるでしょう」
「続いて勝己さん。ヒーロー側がどの様に動くかを推測したトラップ配置、ヒーロー側の最大戦力と言って良い出久さんをロビーで釘付けにした立ち回りがプラス要因と言えます。それと普段の犬猿の仲を脇に追いやってのビジネスライクな対応も、一応プロになった際に見習うべき点ではあります。それだけに、出久さんとの戦闘に熱中する余りヒーロー側の真の狙いを見破れなかった所、そもそも普段から天哉さんに対する対応を改められなかったが故に連携が何処か噛み合わなかった所が課題ですね」
その中で、天哉との仲の悪さを突っつかれた勝己が「今更天かすと仲良くしろと?無理言うな」と言わんばかりにソッポを向いていたが、百は気にせず指摘を続けた。
「最後に天哉さん。お茶子さんの接近を察知して先手を打った事、その後も最適解と言える行動で核を守り抜いた事はプラス要因と言えます。だからこそお茶子さんの個性を警戒する余り、安易に階下へ向かう選択をしてしまった点は課題ですね。以上の点からMVPが出久さん、次点でお茶子さん、3番手で勝己さん、そして最後に天哉さん、ですが4者の評価に大きな差は無いといった所でしょうか」
「ぱ、パーフェクトだよ!くぅ…」
「常に下学上達!一意専心に励まねば、トップヒーローになどなれませんので!」
各メンバーの順位や行動に対する詳細な評価等々、想定していた以上に事細かな評論を展開されて「全部言われた!」と困惑しながらもサムズアップで応じたオールマイト、こうして第1試合は戦後講評も含めて終了となった。
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それから数分後に始まった第2試合、敵サイドであるIチームが潜入しているアジトへと辿り着いた、ヒーローサイドであるBチームは、早速行動に移ろうとしていた。
「下がってろ八百万、危ねぇから」
「いえ、お構いなく。轟さんのお手並み、拝見させて貰いますわ」
「巻き込まれて氷漬けになっても知らねぇぞ?」
ビルの外壁に右手を突き出しながら、百に下がる様促す焦凍だったが、開始前から何かを警戒する様な素振りを見せていた彼女は応じず、焦凍の近くを離れようとしない。
己の忠告に従わない百の様子を怪訝に思いながらも焦凍は個性を用いて早期決着を図る、そんな焦凍の個性は『半冷半焼』、右腕からは絶対零度の冷気を、左腕からは大火力の炎を噴射する事が出来る所謂『複合型』と呼ばれる個性である。
とある事情から左の炎は使わない様にしている焦凍だが、それでも右の冷気の出力はクラスでも、学年の中でも、もっと言えば学校中でもトップクラスとされている、その強力な冷気を用いてビルを凍らせようとしたその時だった。
「轟さん危ない!」
「え?おわっ!?」
百の危険を知らせる声と共に何かが腹部に巻き付き、後方へと引っ張られた為にビルを凍らせるのに失敗したのだ。
その巻き付いた物を見るとそれは、刃と思しき部分が桃色に染まった、鞭の様なしなやかさを有した剣――百の愛用するフレキシブルソードだった、どうやら百が焦凍の身体に巻き付けて引っ張った様だ。
そんな百の突然の行動に「いきなり何をする!」と抗議しようとした焦凍、だが次の瞬間、ビュン!という風切音と共に直前まで焦凍のいた場所に何か刃の様な物が振り下ろされている光景が見えた。
「むー、バレたかぁ!」
その直後に響き渡る、クリーンヒットしたかと思った攻撃が空振りに終わった事を悔しがる透の声、そう、透が己の個性『透明』によって焦凍達から姿が見えないのを活かして密かに接近し、意識が完全にアジトを氷漬けする事へ向いたのを見計らってぶった切ろうとしていたのだ、早い話が奇襲、いやそれも通り越して暗殺*1である。
「葉隠…!」
斬撃の瞬間、いやその後になるまで気付けなかった奇襲攻撃、もし百が引っ張らなければ一発で負傷退場していたかも知れない、それ程の一撃を自分に気づかれずに叩き込んで来た透の実力に思わず唸る焦凍だったが、透の、というよりIチームの策は終わらなかった。
「ん?轟さ…まさか!」
奇襲された事に気付いて透がいるであろう方向を睨んでいた筈の焦凍の様子が急に変わった事に気付いた百が確認しようとした直後、彼に起こった異変の、その原因を察知したのか急いで行動に移る、焦凍に巻き付いていたフレキシブルソードを瞬時に解きながら懐から何かを取り出す、それはこの戦闘訓練開始前に全員に配られた、確保判定用のテープだ。
『轟少年、確保!』
百はそれを、何と味方である筈の焦凍に巻き付けて、彼を脱落させたのだ。
焦凍の脱落を知らせるオールマイトの声と共に、百のまさかの暴挙にモニタールームから騒めきが起こっているのがスピーカー越しに伝わるが、当の本人はそれを気にする余裕など無かった。
(今の轟さんの急変した様子、間違いなく人使さんの個性による物!これは、私が透さんの奇襲を見破る事も見越した二重の策!ものの見事にやられました!)
「その様子だと俺らの策を見抜いたみたいだな、それで1対3の状況に置かれる前にテープを使って轟を脱落させたか。流石は百だ、だが気付くのが少しばかり遅かった様だな」
「これぞ私の奇襲と人使君の個性による二段構えの作戦、名付けて『朧村正』!」
「いやそれプレゼント・マイク先生が抜け忍になって悪霊と戦うゲーム*2じゃねぇか」
Iチームの作戦の全貌を見抜き、然し焦凍の離脱を余儀なくされた事で焦りを覚えながらも、油断なくフレキシブルソードを構える百、そんな彼女の様子を察知して物陰から出て来たのは、口元のマスクを弄る人使だった。
人使の個性は『洗脳』、洗脳を掛ける意志を込めて発した声に反応した者の身体を支配、操る事が出来る。
とはいえさっき響き渡ったのは透の声であって人使の声では無い、では何故その声に反応した焦凍が洗脳状態に陥ってしまったのかと言うと、人使の口に着けられたマスク型のサポートアイテムの力だ。
このマスクは内部に組み込まれた幾多のプレートを変形・共鳴させる事によって電気等のエネルギーを使う事無く、それらを要する機械を介さずに声音を変える事が出来る変声マスクであり、これによって透の声音を再現したのだ。
そして透は透明人間、つまり透本人が喋っているか否かは口の動き等では判別出来ない、よって腹話術の様な技術を用いる事無く、あの『奇襲が外れて悔しがる透 吹き替え:人使』という構図を作り出せ、百が見抜いて止めようとする暇も無く焦凍は反応、洗脳状態に置かれたという訳だ。
百がそれに気づいたのは既に焦凍が洗脳状態に陥った後、敵サイドに回る前に止む無く確保テープを巻き付けるしか無かった、というのがあの行動の真相なのだ。
「轟がこっちに寝返るのを阻止したとはいえそれでも1対2、呼吸の練度で言っても俺達とお前との差は無いに等しい、此方の優位は変わりない。降参するなら今の内だぜ?命あっての物種って言うだろ?」
(例えそうだとしても、諦める事無く活路を見いだす、それがヒーローです!)
「その様子だと諦める気は微塵も無いって事だね、ヤオモモ。じゃ、手加減無しで行くよ!」
どちらにせよ人数的には不利、個人個人の実力も互角である以上、敵サイドの優位になってしまったのには変わらない、その事実を、メタ発言でボケる余裕を見せながら突きつけて降伏勧告をする人使だったが百は諦めない、人使の個性による影響を回避する為にその意志を口にする事は無かったが、代わりに行動で示した。
愛用のフレキシブルソードを右腕一本で持ち、牽制の積りで振りかざしながら左腕を露出している脇腹に当てる、すると脇腹から拳銃が飛び出て来て、それを左手で掴み取って構えた。
物凄く今更な話だが百の個性は『創造』、自分の体内に保有している脂肪を用いてあらゆる生物では無い物体を創り出す事が出来る、入学式の日に勝己の要求通りシャンプーや消毒用エタノールを用意出来たのも、この個性による物だ。
物を創り出すにはその分子構造まで理解する必要がある事、動揺等で思考が纏まっていないと上手く創り出せない弱点がある事、体内の脂肪を使う関係上創り出せる数に限りがある事、創り出す迄にタイムラグがある事等、様々な制約はあるが、今創造した銃の様な機械を創り出す事も出来るので汎用性に優れた個性と言って良いだろう、余談だが脂肪を使うという関係から当人は相当な大食いである。
「雷の呼吸・参の型 聚蚊成雷!」
「霞の呼吸・漆の型 朧!」
「恋の呼吸・陸の型 猫足恋風!」
今しがた創られた拳銃の射線に入らない様に百の周りを高速回転しながら、刃の部分が黄色に塗装された打刀で斬りかかる人使、個性の影響で元々見えない上に独特の歩法で気配を溶け込ませる事で居場所を完全に分からなくした挙げ句、元々そういう物質で出来ているのか或いは何かしらの細工が施されているのか刀まで全く見えない状態で四方八方から斬りかかる透、一方の百も五感で捉え切れないならシックスセンスを働かせるまでと切り替え、フレキシブルソードを縦横無尽に舞わせながら狙いをつけて銃撃する等奮戦するも多勢に無勢、数分の戦闘を経て百も確保テープを巻かれ、Iチームの勝利となった。
この試合のMVPは使い慣れないサポートアイテムを何とか活かして透の声を再現して焦凍を無力化、その後もタッグパートナーとの兼ね合いから百に狙われやすい状況で果敢且つタクティカルな戦闘を繰り広げた人使、次点で気配を察知されない攻撃でBチームを翻弄した透、3番手にその透の奇襲を察知して焦凍の危機を救い、その後も多勢に無勢な状況下で粘った百、最下位だった焦凍も相手が悪過ぎただけであの状況では最適と言える行動を取ったとして充分な評価を与えられた。
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のっけから斬り合いが勃発した第1試合、先手必勝という表現がぴったりな第2試合の一方、第3試合はそれらとは別の意味で壮絶な物となった。
「蟲の呼吸・蟷螂の舞 翼手!」
「ちょっ!?三奈飛ばし過ぎでしょ!?」
「ケロォ…型破りにも程があるわ…」
戦闘服である、ノースリーブの黒い詰襟に身を包んだ響香が、己の個性『イヤホンジャック』によってイヤホン用ケーブル化した耳たぶの先端部分をアジトの壁に挿す事で僅かな音をも拾い、核やJチームの2人の居場所を探ろうとしたが、そんな彼女達に開始早々から凶刃が襲い掛かった。
戦闘服である、蝶を思わせるド派手な絵柄の和服に身を包んだ三奈が、刃が藤色に塗装され、葉脈の様な溝が刀身に彫られた打刀を振り下ろし、己の個性を活かして床もろとも階下のHチームをぶった切ろうと開始早々から仕掛けて来たのである。
三奈の個性は『酸』、全身から強酸を噴出させる事が出来、これによって敵の武装を溶かして無力化したり、壁や床を溶かして潜入に活かしたり、地面を溶かして摩擦を低減してスケートの如く移動したり、勿論敵に直接ぶっかけて攻撃したりといった様々な用途に使用出来る。
今回は刀身を左手で峰から握る事で溝の部分に酸を流し込む事で、振り下ろすと共にウォーターカッターの如く溝から射出、巨大な酸の刃となって床を貫通しながら響香と梅雨に襲い掛かったのだ。
「行かせはしないぜ!獣の呼吸・肆の牙 切細裂き!」
「くっだけど好きにはさせない!音の呼吸・弐の型 空裂!」
「同感ね、響香ちゃん。蛇の呼吸・参の型 塒締め」
それを凌ぎつつ核を確保せんとアジトを進もうとするHチームだが、その行く手を阻むかの様に、己の戦闘服であるタイガーストライプ迷彩を導入した袖の無い和服に身を包み、個性による影響か或いはペインティングしたのか、全身を藍鼠色に染め上げた鋭児郎が襲い掛かった。
鋭児郎の個性は『硬化』、読んで字の如く皮膚や爪、髪といった身体の外から見える部分全てを硬化・鋭利化させる事が出来る。
これだけだと身体を硬くするだけの地味な個性、となる所だが、鋭児郎の場合はそれを発展、足裏の皮膚の一部を逆立たせる事でスパイクの様にする、鋭利化した両腕を刀代わりにして敵に斬りかかる等の使い方を見出したのだ。
其処に全集中の呼吸による爆発的な身体能力の向上も合わさり、今の鋭児郎は文字通り『全身凶器』と言って良い状態だ。
だがHチームも黙ってはいない、まず響香は帯刀していた二振りの、刃の部分がオレンジ色に塗装された脇差の柄尻に耳たぶの先端を接続、その状態で脇差同士を打ち付け合う事で爆音を通り越して衝撃波を放つ。
イヤホンジャックの能力は音を拾う事による索敵だけじゃない、耳たぶの先端を介して己の鼓動を爆音として放つ事も出来る、これを活かして接続した脇差を打ち付け、共鳴させる事で衝撃波としたのだ。
一方の、戦闘服である薄紫と黒のストライプ柄の和服に身を包んだ梅雨は、刃が青紫に塗装され、フランベルジュみたいに波打つ形状をした剣を手に、個性の影響で発達した両脚を活かして部屋内を縦横無尽に飛び交いながら鋭児郎に斬りかかる。
梅雨の個性は『蛙』、読んで字の如く蛙人間化したと言って良い異形型の個性で、20mも伸ばせる舌や強烈な脚力等、蛙が出来る事なら大体出来る。
そんな梅雨が蛇の呼吸とはこれ如何に、とは用いている本人も何度か思った事だが余談である。
然し梅雨の脚力を活かした攻撃も、響香の衝撃波も鋭児郎の強固な身体に効果的なダメージを与えるには至らず、その中で上からは三奈からの酸の斬撃が襲い掛かるという状況にHチームは一時撤退、内からが駄目なら今度は外だと梅雨が外壁を上って潜入を試みるが、それを察知した三奈が外壁越しに酸の斬撃を放って来た上、索敵しようとした響香も鋭児郎が襲い掛かって来て難航、そうこうしている内に制限時間が切れてしまい、核を守り切ったという事で敵サイドであるJチームの勝利となった。
この試合のMVPはヒーローサイドの潜入を徹底妨害した三奈となった一方、幾ら何でもやり過ぎ、アジトが崩壊したらどうするんだと叱られる事になった。
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「皆、お疲れさん!誰1人大きな怪我も無く、だが全力で取り組んだ!初めての訓練にしちゃ皆上出来だったぜ!」
第3試合の後、現代文の担当でプロヒーロー『セメントス』としても活躍する教師で、顔やら腕やらコンクリートで出来ているんじゃないかと言わんばかりの風貌の男、
「相澤先生の後でこんな真っ当な授業…何か拍子抜けと言うか…」
「HAHAHA、真っ当な授業もまた私達の自由さ!それじゃあ、着替えて教室にお戻り!」
そんな真っ当な授業進行をしたオールマイトの姿に、入学したばかりの頃の世間一般?何それ美味しいの?と言わんばかりの進行をして来た相澤と対比して生徒の誰かがそう呟いたが、オールマイトは気にする事無く教室へ戻る様指示を飛ばし、戦闘訓練は終了となった。