マスコミ関係者が雄英高校の敷地内に突入し、人使の個性によって操られた事もあって警察に纏めて確保された一件から数日が経ったある日、昼休み明けの1年A組の教室。
「今日のヒーロー基礎学だが、俺とオールマイト、そしてもう1人の3人体制で見る事となった」
その場で相澤は、午後の授業であるヒーロー基礎学の教員体制を、元々の担当であるオールマイトに加えて自分ともう1人の3人で受け持つ事になったと発表した。
どうやら今回訓練を行う施設は校舎の敷地外に位置するらしい、となればバスで移動する事になるのだが、そうなればバス内に居るであろうオールマイトに直接インタビューをしようとマスコミ関係者が突撃して来る可能性が高い、増して先日はそのマスコミが敷地内に侵入して来たばかりだ。
それらを警戒してか、当初の予定を変更して相澤ら2人の教員を追加する事になったらしい。
「はーい!何するんですかー!」
相澤から知らされた断片的な情報からそんな事情を察した辺りは流石に偏差値79、倍率300倍の超難関である雄英高校ヒーロー科の入試を突破して見せた者達、遠方の施設へ行くと理解して何処かうきうきした様子の範太が今日の授業内容を尋ねた。
「災害水難何でもござれ、救助訓練だ」
普段ならはしゃぐなと注意しそうだが範太がそんな推察をした事を見抜いてかそれをせず『RESCUE』と書かれたカードを見せながらそう答えた。
救助訓練、読んで字の如く危機的状況に置かれた人を救ける訓練の事だ。
「レスキュー、今回も大変そうだな」
「バッカおめー!これこそヒーローの本分だぜ!?鳴るぜ、腕が!」
「ねー、鋭児!」
「水難なら私の土壇場。ケロケロ」
ヒーローの本分と言って良い人救けを訓練出来るとあってか、クラス内のテンションは爆上がり状態、だが相澤は此処で騒いで時間を潰すのは合理的じゃないとそれを制止し、
「今回、戦闘服の着用は各自の判断で構わない、活動を制限する物もあるだろうからな。救助用の訓練場は少し離れた場所にあるからバスに乗って移動する、出発は20分後だ。以上、準備開始」
移動する際に持って行く物の確認をする様に一言残してそのまま出て行った、恐らくはバス等の準備であろう。
こうして残された一同は準備を始めたが、戦闘服は1人の例外も無く着用した。
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「公共交通機関的なタイプだったんだ…」
「そういやァ此処国立高校だったな、役所からの横流しか?」
「あんまり意味無かったね、いずくん」
「ドンマイ、勝己」
諸々の準備が出来たからバスの方に集合、との相澤の連絡を受けてバスへと向かった一同、その際にバスと聞いて所謂2人掛けの前向きシートが規則正しく並べられたタイプを想像していた出久と勝己は、学級委員長と副委員長の役目を全うするぞと言わんばかりにクラスメートを整列させて誘導、スムーズに座席へと着ける様励んでいたのだが、実際のそれは2人掛けの席だけでなく、横向きのロングシートもあるという、出久の言う通り公共交通機関で使われてそうな物だったのだ。
勝己の言う通りこの雄英高校は国立高校、それ故か送迎で使われるバスもそういった機関で使われなくなった物が横流しされ、経費を必要最小限に抑えたいが為にレイアウト変更をしなかったのだろう、送迎バスがこういう形で導入された裏事情を察して苦笑いを浮かべるしか無かった2人を他所に、其々が好きな席に着き、バスは出発した。
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「凄ぇ!USJかよ!?」
バスに揺られる事十数分位、1年A組の生徒達がやって来た訓練場は、一言で言えば『凄かった』。
ありとあらゆる危機的状況を想定して対処するのがプロヒーロー、その為の訓練なのだからと言わんばかりに、巨大ドーム型に作られた訓練場の中は、水没した都市や瓦礫の山、燃え盛る大地や銃弾飛び交う市街地、といった様々なシチュエーションを模したエリアが詰め込まれた、某テーマパークも真っ青な位に充実した空間だったのだ。
そんな濃密な空間に驚きの声が上がる中、
「水難事故、土砂災害、火事
『本当にUSJだった!?』
「海の向こうから訴えられるぞその略称!?」
そう、色んな意味で危ない発言をしながら生徒達の前に姿を現した者が1人。
「災害救助で目覚ましい活躍をしている紳士的なヒーロー、スペースヒーロー『13号』。今日はオールマイトとイレイザーヘッド、13号の3人体制という訳か。No.1も加えた3人のプロヒーローに訓練を見て貰えるというのも、雄英ならではだね…!」
「わー!私好きなの13号!」
宇宙服を模した戦闘服を常日頃着用しているスペースヒーロー『13号』、出久の言う通り災害救助の現場でその個性を十分に活用、目覚ましい活躍をする有名なプロヒーローだ。
因みに本名は
そんな13号の登場に、彼女のファンであるお茶子のテンションが爆上がりしたり、オールマイトを含めた3人のプロヒーローに訓練を見て貰えるという贅沢過ぎる状況に出久が訓練に臨む意気込みを新たにしたり、一方で登場時の危ない発言にツッコミが入ったりな状況の中、
「13号、オールマイトは?此処で待ち合わせている筈だが」
「通勤時に制限ギリギリまで活動してしまったみたいで、仮眠室で休んでいます」
「不合理の極みだなオイ」
今尚この場に姿を現さないオールマイトの事が気になったのか相澤が13号に尋ねると、返って来たのはまさかの休養中という連絡であった。
想定外の事態に思わず愚痴を零してしまった相澤だが、過ぎてしまった事を引きずる事こそ合理的じゃないと切り替え、始めるぞと声を掛けて生徒達の目を向けさせた。
「えー始める前にお小言を1つ2つ、3つ、4つ…」
(増えてる…)
相澤の声掛けに応じて自分達へと顔を向けた生徒達に話を始める13号、その際、これから話す事を数え始めた彼女に誰もが心の中でツッコミを入れるが気にせず、自分の個性に関する説明を交えながら話し始めた。
「皆さんご存じだとは思いますが、僕の個性は『ブラックホール』。どんな物でも吸い込んで塵にしてしまう個性です」
「その個性で、どんな災害からも人を救い上げるんですよね!」
「ええ。災害現場では瓦礫とかを塵にする事で人命救助の助けとしています。
…ですが簡単に『人』を殺す事も出来ます、皆さんの中にもそういう個性があるでしょう」
13号の個性である『ブラックホール』は文字通りブラックホールを指先から生み出し、如何なる物をも吸い込んで塵に変えてしまうという、此れだけ聞けば危険極まりない個性、本人も己の個性はそんな危険性を有していると認めている。
そして勝己の爆破、焦凍の半冷半燃、三奈の酸、鋭児郎の硬化、百の創造、電気の帯電…
扱いを誤れば人を殺してしまう個性持ちという意味で13号との共通点がある生徒も此処には少なくない、心当たりのある生徒達はそれを指摘されて、思わずその出処を見やった。
「『個性社会』と呼ばれる現代は個性の使用を資格制にし、厳しく規制する事で一見、成り立っている様には見えます。然し、一歩間違えれば容易に人を殺せる『行き過ぎた』個性を此処が持っている事を忘れないで下さい。相澤先生の体力テストで自身の力が秘めている可能性を知り、オールマイト先生の対人戦闘でそれを人に向ける危うさを体験したかと思います。この授業では、心機一転!人命の為に個性をどう活用するのかを学んで行きましょう!君達の力は誰かを傷つける為にあるのではない、救ける為にあるのだと、心得て帰って下さいな。以上!ご清聴ありがとうございました」
だが『正しい』扱い方をすればその個性も誰かを救ける上で大いなる力となる、この訓練でその扱い方を、ヒーローとしての心意気を学んで欲しいと締めた13号、その極めてためになる話に、生徒達は惜しみない拍手を送った。
「それじゃあ、まずは…ん?」
『っ!』
拍手が止んだタイミングを見計らって何かしらの指示を飛ばそうとした相澤、だがその時、相澤と13号、そして出久達11人は何かに気付いた。
彼ら13人が向けた視線の際、100m程離れた所に突如として現れた黒い靄。
「相澤先生、あれはまさか!」
「そのまさかだ緑谷!ひとかたまりになって動くな!13号は生徒を守れ!」
「なんだありゃ、また入試ん時みたいなもう始まってんぞパターン?」
その正体に気付いて臨戦態勢となった13人、それを見て緊急事態を察知して警戒心を高める者もいた一方でまだ何が起こっているのか分からない者も、電気に至っては一般入試の際に行った実技試験みたく予告なしスタートで訓練が始まっているのかと思っていたが、
「動くな!あれは敵だ!」
相澤からの訓練では無く本番が始まっているとの声を受け、誰もが臨戦態勢に移った。
その直後、黒い靄の向こうから、全身に『手』をくっつけた怪人を先頭に、如何にも悪い事しそうな集団が姿を現した。
「13号に、イレイザーヘッドですか。先日
「やはり先日のは、クソ共の仕業か」
その中の1人、恐らくあの靄の主であろう、全身が黒い煙らしき気体で覆われた男が、教師陣の顔ぶれを見て何処か怪訝そうに呟いた。
その口ぶりから、先日のマスコミ侵入の騒ぎは眼前の敵達が仕組んだ事と判明、恐らくは教師陣がマスコミ侵入に対応している隙を突いて潜入、職員室に忍び込んでカリキュラムを盗み出し、各教員のスケジュールを把握した積りなのだろう、尤も今日の救助訓練に来る予定となっていたオールマイトは休養中で不在なのだが。
「何処だよ、折角こんなに大衆引き連れて来たのにさ。オールマイト、平和の象徴、いない何て…
子供を殺せば来るのかな?」
オールマイトが担当している授業時間・場所を狙って来たのに肝心のNo.1ヒーローは不在、その事実には敵の誰もが不満らしく、それを代表して全身に『手』をくっつけた怪人、声からして男が殺気を発しながら口にした言葉に、出久達は思い通りにさせるかと抜刀しようとしたが、そんな彼らを相澤は手で制しながら、周囲を見やった。
「上鳴、連絡の方はどうだ?」
「さっきからやってんですが、全然駄目っス!」
「成る程。此処に設置している筈の侵入感知センサーが作動せず、外部との通信も遮断されている。電波の妨害やセンサーの無効化が出来る術が向こうにはあると思っても良いな。此処は校舎と離れた隔離空間、其処に少人数が入る時間割。奴らはヒーローの巣窟に喧嘩を売るバカだが考え無しのアホじゃない、これは何らかの目的があって、用意周到に画策された奇襲だ」
センサーの類は作動せず、外部との通信も出来ない、つまり校舎からの援軍は望めない、そんな策を打てる敵は身の程知らずなバカではあっても無謀なアホではない、そう分析した相澤は何としても生徒達を守り抜くんだという決意を抱きながら、愛用武器であるマフラーを構えつつ指示を飛ばす。
「13号、避難開始だ!学校への連絡も引き続き試せ!上鳴、お前も引き続き試せ!」
「っス!」
「アンタ1人で戦うってのか!?あの数じゃ幾ら個性を消すっつっても無茶だ!アンタの戦闘スタイルは敵の個性を消してからの捕縛、俺1人に引きずり回されている様なアンタに正面戦闘は」
「かっちゃん!先生、此処はお願いします」
「無論だ、緑谷。爆豪、覚えて置け。一芸だけじゃヒーローは務まらん」
その指示からして相澤が殿となって敵と戦うのだと察知した勝己が、自分に引きずり回される様では無理だと、自分も加勢すると言わんばかりに声を上げるも、今は相澤の指示に従えと言わんばかりに出久が一喝して遮る。
学級委員長としてクラスメート達の命を守る、その為にも今は皆の避難を進めようと決めた出久の声を背に、相澤は単身、敵の集団へと向かって行った。
相澤が敵の足止めを担っている今こそ避難時と、出久は13号と共にクラスメート達の誘導を担い、後ろ髪引かれる思いだった勝己も副委員長としてそれに参加、避難は順調に進むかに見えたが、
「させませんよ」
そんな彼らを遮るかの様に、黒い靄の敵が突如出現した。
ついさっきまで相澤が向かっていた敵の集団にいた筈なのに一瞬で此処へ来た、即ちワープや超高速移動する類の個性持ちなのだろうと判断した13号は、皆を下がらせながら臨戦態勢を取った。
背後で刀を抜かんとする生徒達がいる事に気付かず。