「初めまして、我々は敵連合。僭越ながらこの度、ヒーローの巣窟こと雄英高校に入らせて頂いたのは、平和の象徴、オールマイトに息絶えて頂きたいと思っての事でして」
救助訓練の場に突如として侵入して来た敵の集団、その立役者と言って良い靄の男が目前へと転移して来た事で警戒心を高め、何時仕掛けて来ようと対応出来る様身構える13号達。
だがそんな戦意バリバリなヒーロー達など怖くも何とも無いといった慇懃無礼な様子で、自分達――敵連合なる集団の襲撃目的をペラペラと話す男。
「本来ならば、此処にオールマイトがいらっしゃる筈、ですが、何か変更があったのでしょうか?」
オールマイトを殺害する為という、無茶にも程がある目的を掲げて襲撃を仕掛けて来た敵連合だが、当のオールマイトは此処にはいない、その事実に男も訝しんでいた様だが、直ぐに切り替え、
「まあそれとは関係なく、私の役目はこれ」
何か仕掛けようと纏っていた黒い靄を動かし始めた。
そうはさせんと言わんばかりに13号が個性を使おうと指先を男へと向けたが、
「雷の呼吸・壱の型 霹靂一閃!」
「獣の呼吸・参の牙 喰い裂き!」
「その前に、俺達にやられる事は考えていなかったか?」
それに先んじて、人使と鋭児郎が飛び掛かった。
まずは人使、今にも抜刀すると言わんばかりの構えから身体を深く沈みこませた為に人ごみに紛れ、その中から超高速で男へと突進、すれ違い様に刀を抜くと共に刃を一閃、靄の一部を切り裂く。
次に鋭児郎、その切り裂かれた部分へと飛び込み、交差させた両腕を外側へと振り抜き、より広範囲の靄を、或いはその奥にある本体すらも切り裂かんとした。
一連の奇襲で手ごたえありと感じたかの様に人使が煽るが、
「ふぅ、危ない危ない。そう、生徒と言えど優秀な金の卵」
「駄目だ、どきなさい2人共!」
これで切り裂けたのは靄だけで男の本体には傷一つ付いていない、それ故に男が靄を動かす様は変わりなく、それに対する13号の迎撃は先行した人使達が射線に被っている影響で行えない。
正に敵方の圧倒的優位な状況で、それを受けてか人使の煽りにも男は平然とした様子で返す、然しながら、それこそが人使の狙いであった。
(バーカ、まんまと引っ掛かった。とはいえいきなり抑えに掛かると他の敵共にマークされるし、洗脳に掛かっていない可能性も無くは無い。数秒位警戒する素振りを見せて其処から抑え込む)
「13号先生。何があったかのかは分かりませんが、何かしらの要因で敵が意識を失った様です。拘束の方、手伝って頂けますか?」
「わ、分かりました。心操君」
実を言うと人使は、今の奇襲で男の身体に効果的なダメージは与えられないと確信していた、寧ろダメージ無しという結果で男が調子に乗ると見越して、攻撃の後の煽りに洗脳を付与したのだ。
その目論見は見事に嵌り、煽りに反応した事で特に何か仕掛けるでもなく動かなく、いや動けなくなった男、それを警戒する振りして数秒位確認した後、人使は13号に協力を求めつつ、懐から取り出した結束バンドを用いて男の拘束に取り掛かる。
「させるか。殺れ、
「人使!伏せろぉぉぉぉ!」
「なっ!?」
だがそんな人使の思惑を捻り潰そうと、恐らくはこの場で一番の脅威が襲い掛かった。
男が人使によって拘束されるのを防ぐべく『手』だらけ怪人が差し向けた敵、それは個性社会と呼ばれる現代においても人間ではないと誰もがツッコむであろう異形だった。
カーキ色のハーフパンツを履いただけの、オールマイトにも引けを取らない筋骨隆々の黒い巨体、両膝に設けられた骸骨型の装甲、唇の代わりに真鍮色の装甲が着けられた巨大な口、と此処までだったらまだ異形型個性の範疇と問題にしなかったかも知れない。
だがその巨大な口の上、普通だったら髪の毛の生えた頭皮やら鼻やら耳やらがある筈の所にそれらは無く、代わりにあったのは剥き出しの脳みそと、其処に同じく剥き出しで埋め込まれた眼球だけだった。
これこそオールマイト殺害という無茶を無茶でなくする為の敵連合の切り札、と後に明かされる異形――脳無が今、人使が男を拘束するのを阻止したい怪人の指示を受け、巨体からは想像もつかない程の素早さで人使へと襲い掛かる。
それに気づいた鋭児郎の危険を知らせる声を聞いて咄嗟に飛び退く人使、尚も人使を狙わんとする脳無の前に立ちはだかった鋭児郎が、邪魔だと言わんばかりに放った脳無の右ストレートを、パンチをパンチで相殺すると言わんばかりに此方も右ストレートで応じ、
衝突の瞬間、余りの風圧で粉塵が舞い、両者の姿が見えなくなった。
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「おい
「申し訳ありません、
「ハァ?お前この状況でボケたか?いやガキ共の中にそんな個性持ちの奴が…?
どっちにしろ、俺が脳無を差し向けたから良かったものの…」
その光景を見て怪人――死柄木は「まずは1人」と、もう鋭児郎を殺したと確信してほくそ笑む一方、人使の策にまんまと嵌って危うく捕まりかけた男――黒霧の失態を糾弾していた。
その黒霧だが、脳無が人使へと襲い掛かった場面で、鋭児郎の呼び掛けで飛び退いた際に洗脳が解除された様で、何時の間にか寝転がされている自分と此方へ向かって来る脳無を目の当たりにして咄嗟に個性を用いて転移、死柄木の側へと退避したのだ。
黒霧の個性は『ワープゲート』、身に纏った黒い靄を任意の場所に発生させる事で離れた空間同士を繋げ、人やら物やらエネルギーやら、まあ何でも転移させる事が出来る強力な個性だ、言うまでも無いがこのUSJに大勢の敵を送り込めたのも、避難しようとする生徒達の前に一瞬で現れたのも、これによる物だ。
そんな黒霧の存在もあってこのUSJへの突入を楽に行えた敵連合だがしかし、黒霧が捕まってしまっては退却が出来なくなってしまうが故、本来ならオールマイト殺害用の切り札である脳無を早めに使わざるを得なかった死柄木、とはいえその黒霧救出は難なく成せ、その過程で雄英の生徒1人を物言わぬ肉塊に変えた、後は目前の集団相手に大立ち回りを繰り広げる相澤を黙らせるなり、他の生徒達をなぶり殺しにするなりしてオールマイトの到着を待とうかと考えたその時、脳無と鋭児郎の正面衝突によって舞い上がった粉塵が晴れ上がった。
其処には、
「は、はぁ!?おいふざけんな!対オールマイト用チューニングを施した改造兵器だぞ!?」
「ば、馬鹿な!『ショック吸収』の個性が通じていない!?」
死柄木達の思い描いていたのとは真逆の光景が広がっていた、全身を硬化、その副作用で藍鼠色に染め上げられた鋭児郎の右腕が、脳無の右前腕を貫通、ズタズタに切り裂いていたのだ。
「対オールマイト用チューニングを施した改造兵器、か。その割には全然痛くねぇパンチだ、なぁ!」
そんな死柄木達の信じられないといった声は鋭児郎の耳にも届いた、その内容に鋭児郎は敵連合の想像を絶する外道振りに憤りを覚えつつ、少なくともパンチの威力はそれ程じゃ無かったと素直な感想を口にしながら右腕を振り上げ、脳無の右前腕を真っ二つにした。
「皆、コイツは俺が引き受ける!だから早く逃げろ!」
「腕の一振りで脳無の腕が真っ二つに?成る程、身体を刃物に変える個性ですか。斬撃であればショック吸収の個性も通じない、か…ですが」
対オールマイト用の切り札である筈の脳無が、実は自分でも対処出来る位の強さしか無かった、そう判断した鋭児郎はこのまま脳無の無力化と拘束をすべく構えを取りながら皆に避難を促すが、その思惑を打ち砕く事態が発生した。
「な!?真っ二つにした腕が、元通りに!?馬鹿な、お前らの言葉通りならソイツの個性はショック吸収の筈だ!」
「あぁそうだった。別にショック吸収『だけ』がコイツの個性だとは言っていないだろ?」
脳無の個性であるショック吸収が通じない理由を理解し、何処か納得した様な黒霧が不敵な笑みを浮かべたかの様に感じられた次の瞬間、使い物にならなくした筈の脳無の右前腕が急速にくっつき、傷が癒えて行ったのである。
まさか治癒系の個性か、然しながら脳無の個性はショック吸収、個性は1人につき1つだけである以上それしかない筈、複合型の可能性もあるがショック吸収と治癒系なんて関連性が薄すぎて両立出来ない、と疑念が渦巻く鋭児郎、そんな彼に死柄木は、衝撃の事実を口にした。
「脳無の個性はショック吸収だけじゃあ無い、超再生の個性も持っている。オールマイトの100%にも耐えられる様に改造された超高性能サンドバッグ人間って事さ!」
「なっ!?個性を複数持たせる程の改造を施したってのか!?てめぇ、人の、生物の命を何だと思ってんだ!」
「うるせーな、ヒーローでも無い奴が敵に道徳を説くのか?耳障りだ、殺れ、脳無」
脳無に施された改造の、複数の個性を持たせる程の形振り構わぬ改造の詳細を知り、敵連合への憤怒が爆発した鋭児郎は命の大切さを問うが死柄木は取り合う事無く脳無へ指示を出した、その時、
「ほォ、そりゃァ良い事聞いた。なら、ヤっちまってもお咎め無しって事だなァ!伏せろ、鋭児!」
鋭児郎の背後、避難をしようとしていた人ごみの中から、不敵な笑みを浮かべた勝己が飛び上がり、
「岩の呼吸・伍の型 瓦輪刑部!」
剣撃音と爆発音が連続して響くと共に、脳無の身体が切り刻まれ、爆風を浴びて、ズタボロになって行き、その中で四肢が身体から離された。
勝己が脳無へと向けて投擲したカランビットナイフがその身を切り裂くと共に、その刀身に塗りたくった汗を起爆、爆風を浴びせると共にその反動で己の手元に戻し、その間に時間差で投擲したブレイカーがその身を切り裂き、刀身に塗りたくった汗を起爆してその反動で手元に戻し、その間にカランビットナイフを再び投擲して以下エンドレス…という流れで、数十にも及ぶ斬撃と爆撃を脳無の身に刻み付けたのである。
「無駄だと言わなきゃ分からねぇか?幾ら脳無を切り刻もうが超再生の個性を使えば、
ば、馬鹿な!?何で再生しねぇんだよ!?」
だが脳無には超再生の個性がある、幾ら切り刻もうが再生してしまえば全く問題ないと死柄木は思っており、勝己の攻撃を嘲笑おうとしたが、此処で信じられない事態が発生した。
四肢を切断され、爆風によって身体中が大やけどを負った脳無、その身体が再生しないのである。
「はっ敵に態々ンな事教えるかよ。ただまァ敢えて言うなら、対オールマイトと言いながら鋭児にも碌にダメージを与えられず、超再生と言いながらこうも簡単に効かなくさせられる…
ンな有様でオールマイトを殺すとか、寝言が言いてェなら寝かしつけてやるよ、永遠にな」
「て、てめぇぇぇぇ!」
まさかの事態に動揺を隠せない死柄木に勝己は畳み掛ける、対オールマイトと言いながら、No.1どころかプロヒーローですらない自分達でも余裕で無力化出来た事実を突きつけて挑発したのだ。
「いけません、死柄木弔!脳無が倒された以上」
「どけぇ!」
その効果は覿面、激昂した死柄木は黒霧が制止するのを振り払って勝己へと襲い掛かろうとした。
「霞の呼吸・漆の型 朧!」
「あ?が、あぁぁぁぁ!?お、俺の腕がぁぁぁぁ!?」
「死柄木弔、撤退しますよ!」
その瞬間、ゴトッという音と共に死柄木の左腕が切り落とされた。
脳無の無力化によって敵側には動揺が、ヒーロー側には歓声が広がる中、こっそり死柄木の側に近づいた透が、その腕をぶった切ったのである。
腕を斬られた激痛と、何時の間にか攻撃された事への動揺でのたうち回る死柄木を見て、これは早急に撤退せねばと判断した黒霧は、既に展開していたワープゲートを用い、死柄木を連れて撤退した。
救助訓練の場を狙った敵連合による襲撃、雄英高校始まって以来の緊急事態は、敵連合側の最大戦力らしい脳無の無力化、連合のトップらしい死柄木の片腕切断と多大なダメージを与え、その後も取り残された、数合わせの為に雇われただけのチンピラ達を拘束した事で解決、雄英側の人的被害は0という結果に終わった。
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「く、クソがぁ…!」
関東地方の某所にあるバー、時間帯からして今は閉店中で客は勿論、店員もいない筈のバーの中に突如、黒い靄が出現、其処から左腕を失い、残った右手で傷口を抑える死柄木と、彼を支える黒霧が出て来た。
「気づかねぇ内に左腕を持っていかれた、完敗だ…!
手下共は瞬殺、脳無もやられた、黒霧も捕まりかけた、ガキ共は予想以上に強かった、平和の象徴が出る迄も無かった、話が違うぞ、先生…!」
住み慣れた様子からしてバーとしての此処は表向きの顔、その実態は敵連合のアジトなのであろう、その床に這いつくばりながら毒づいた。
すると、
『違わないよ。ただ、見通しが甘かったね』
『うむ、舐めすぎたな。敵連合なんちうチープな団体名で良かったわい』
店内のモニターがひとりでに点灯、其処から2人分の声が聞こえた。
『ところで脳無はどうした?』
その内の1人、老人と思しき声の主が、戻って来たのが死柄木と黒霧だけだった事を訝しみ、特に対オールマイト用に作り上げた脳無の所在を尋ねたが、それが死柄木の琴線に触れた。
オールマイトにも引けを取らないとされた身体能力、肉弾戦メインのオールマイト対策として導入されたショック吸収と超再生の個性、という触れ込みで持たされたにも拘わらず、プロですらない鋭児郎によって腕はズタズタにされ、パンチは大した事ないと言われ、勝己によって超再生も無意味な物にされ、欠陥だらけだと煽られた記憶が一気に呼び起こされた死柄木は、その怒りのままに老人を罵倒した。
「何が最高傑作だ!とんだ粗悪品を寄越しやがってこのヤブ医者!ド素人!」
『な、なんじゃと!?』
「オールマイトどころかプロですらないガキ1人殺せねぇ上に返り討ちじゃねぇか!挙げ句に欠陥をあっさり見抜かれる始末!そんな程度で最高傑作とかてめぇの目は節穴か!」
『き、貴様!言わせておけば!』
「何か文句あんのか!?言って置くが何を反論した所でてめぇの最高傑作(笑)がガキ共にあっさりやられた事実は変わんねぇぞ!」
『ぐ、ぐ、ぐ…!』
己の手腕を全否定するかの様な死柄木の罵倒は老人も我慢ならず反論しようとするが、勝己達によってあっさりやられた事実は覆らない、それを指摘されて何も言えずにいた。
『まぁまぁ、此処は僕に免じて許してやって欲しいな。ドクターの研究は何れ君にとって必要となる』
「…先生がそう言うなら」
『悔やんでも仕方ない!今回だって、決して無駄では無かった筈だ!精鋭を集めよう、じっくりと時間を掛けて!我々は自由に動けない!だから君の様な
其処に割って入ったのは、死柄木から先生と呼ばれた男。
その言葉を受けて死柄木は落ち着きを取り戻し、再び行動を起こすべく方針を練り直す事となった。
最後の死柄木の罵倒ですが、子供大人と言われた初期の彼なら言うかなと思い、後々の事も踏まえて入れてみました。