正真正銘の、初投稿です。
小説家・芥川の散歩 一
序章 火文字
小説家・芥川の散歩 一
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葬儀。文化があるからしてある物である。
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別段変わったところもない、そんな日常。
私の好むものだ。
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小説家の朝は…、柔軟性があるものだ。
そう、生活を柔軟にしてやる事こそ、筆の載る善い触媒なのだ。
…冒頭の力を存分に無駄遣いして述べ立てた、しょうもない言い訳であった。
私の名は、芥川。
芥川敦だ。
母が稲妻出身だったため、稲妻風の呼び名になっているが、育ちとしては璃月人と言った方が正しい、そんな有様を晒している人間だ。
小説を書くことを生業としているものである。
自分の紹介などこの辺で十分だろう。
まして、自分の生活習慣を何かにつけて崩して、それに身勝手な理由付けをして正当化しているような、駄人間の紹介など、長くやっても精々各人の耳垢を増やすくらいの徳しか積むことはあるまい。
閑話休題。
再三いうが、自己紹介など、閑話にすぎない。
さて。
今朝、私は五時に起きた。無論、朝の五時である。
しかし、昨日は三時に寝た。実に、二時間の睡眠である。
最早、睡眠というのが正しいかどうかすら理解出来ない、そんな状況だ。
しかし、起きる時間は一定なので、問題はない。
本人は頑なに言い張ってはいるのだが、どうにも七七くんにはしかめ面を直してもらえない。
ついこの間も、端的に、「ねて」と叱られた。
困ったものである。
何がとは言わんが、困ったものだ。
モンドのアイドルは毎朝、習慣づけた何気ない行動を朝にし続ける事で、可憐な愛嬌を維持しているのだそうだ。
我が家の斜向かいに住む、ファンを名乗る一般男がそう言っていた。
コレの信憑性はともかくとして、毎朝のルーティーンを形作ることは感心出来ることだ。
彼女の場合は、何やら特別配合されているらしい特性ドリンクをコップ一杯分、ゴクゴクと飲み干す事が、習慣らしい。
だが、私の場合は少し違う。
この世界は多少女性が強い傾向があるが、仮にも男の身を持って生まれ落ちたのだ。
本業が筆仕事であるとはいえ、運動しない訳にはいかないだろう。
故に、わたしは、毎朝起きて顔を水洗いしてから、少々身だしなみを整えて、璃月の街を漫ろ歩くことにしている。
普段住んでいる場所、万民堂の近辺から、走ることもなく歩幅の許すままに歩いて、美貌のサボリ魔の住処を通り過ぎ、小説設定の相談役の職場を少し覗き、銀行の前で門番の若人と世間話をして、作家仲間の家の前を通り、玉京台まで登ってきて、長椅子に座って街を少し眺める。
この辺りで、私の生花の師匠、ピンさんがやって来るので、少し話す。といっても、毎日話す仲であるので、特段変わったことは話さない。
しかし、こういう何気ない生活の中にある出来事が、自分がいざ筆を走らせるという折に役立ったりするのだ。
例えば。
先日のことだが、合成台のスケッチをしていたところ、木の上から雨色の何かが落ちてきたことがあった。
不思議に思って寄ってみると、何と七星秘書たる甘雨女史ではないか。
すぐ近くで石商が暇そうにしていたので、協力を要請し2人で万民堂まで運んで行った。
丁度、看板娘の香菱も仕込みをしていたので、女史を横にできる場所と氷嚢を用意してもらい、私は取り敢えず白朮師を連れて来ることに成功した。
ちょうど起きていたらしい七七くんがひっついて来たので、帰りは背中が重たかったのだが。
七七くんを背負った姿に周囲から驚きの声は上がらなかった。
なんでも、「先生が若い子を背負うのは、最早璃月の風物詩」なのだとか。卯師匠の言である。
納得はいかないが、別に不埒な勘違いをされることもないので、まあ放っておいていいだろう。
さて、この話の顛末。
白朮師によれば結局、彼女の病状は、『ただの』重度の疲労だったらしい。
後程目を覚ました本人に聞いたことだが、仙人の頑強さにかまけてここ数日寝ていなかったようで、仕事が片付いてからの記憶がなく、気が付いたらこの場面だったのだとか。
香菱やら石商やら、集まっていた人から心配する声や窘める声が上がっていて、女史はひたすら萎縮しっ放しであった。
個人的には、七七くんが「ちゃんと寝ないと、ヤダ」と言っていたのが自分にも刺さって、少し気まずかったのだが。
…よくよく考えると、その前に師に耳打ちされていたから、多分刺していたのだろう。
とにかく、このような経験も、思い掛けず得ることができるのである。
余談だが、この出来事をヒントに書き上げた小説、「化かせ、八重ちゃん!」は如何やらモンドやスネージナヤの方で好評だったらしい。
ピンさんとの世間話が終われば、また来た道を戻る。
おもちゃ屋を眺めた後、一度家に帰らずに、冒険者協会に寄り、鍛冶屋の様子を伺い、港の朝市を物色し、そうして、家に帰り着く。
毎朝こういう事をしているせいか、運動不足を感じたことはない。
習慣が健康に寄与している、良い例である。
今日も毎朝の如くに、散策をし始めることにした。
丁度、香菱が万民堂の仕込みをしていたらしく、可愛らしい鼻歌が聞こえて来る。
「おはよう。香菱、卯師匠。今日も朝から精が出るねぇ」
「あーっ!センセー!おはよーっ!」
「おう、センセー!おはようさん!朝飯まだだろう?丁度アンタの好物を、娘が仕込んでるところなんだ。もちろん食べていってくれるよな?」
「ちょっとー、センセーを驚かせたかったのに、台無しになっちゃったじゃん!あーあ、折角のサプライズだったのにー」
おや、香菱が私の好物を作ってくれているらしい。好物は沢山あるので、果たしてどれを仕込んでくれているのかは分からないが、折角だし、注文しておこう。
「卯師匠、…じゃあ五人前。頼んでおくよ。」
「お、毎度あり!…と言いたいところだが、今日はあの日だから三人前なのは置いといて、ちょっと多くないか?」
さ
多くないか?」
「いや何、折角香菱が忙しい合間に私の好物を用意してくれているんだ。君達二人分の朝食代を出すくらい、訳ないよ。」
「わぁぁあ!!!センセー、いいのー?!あっりがとー!!!!!」
「だぁっはっは、気前の良いことだぜ!それじゃ、有り難く御相伴にあづか…」
「やったぁぁぁあああ!!!久しぶりにセンセーと朝ご飯だー!!!!ひゃっほおう!!」
バシャァッ
「あ、やば」
「クォオオルルアアアアァァッッ!!」
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朝食の約束を取り付けた私は、高揚した気分で万民堂を後にする。
香菱?
いやぁ、振り上げた手が混ぜていたスープの鍋に当たるとは、災難だなぁ。
…人事である。
まぁいい、とりあえず。
素晴らしいことだ、まさか朝食から美味な物をご馳走して貰えるとは。
なんと幸福なのだろう!
独言つつ、岩上茶室の前まで至る。
丁度、暁と牙の二人が一堂に会していた。
「やあ、お早う。夜蘭は今起きているかい?」
「…あぁ、センセーか。夜蘭様は…、寝ているな」
「…あ、センセ。おはようございます。…ヨイショっ!いやぁー、仕事とは言え、夜中立ちっぱなしなのは筋肉に堪えるなぁ」
「ハッハッハ、いやさ、夜通しの仕事で大変だとはいえ、筋肉の鍛錬は怠っていないんだねぇ。感心感心!」
「無論!美しい精神、美しい所作というのは、美しい身体にこそ宿るもの。美しい身体を形作る最大の要素っていうのが、美しい筋肉なのよ!鍛えるのを怠ることがあるものですか!」
このよく喋る娘は、何やら『筋肉神話』なる物をその胸に刻む、筋肉をこよなく愛する鍛錬好きの10代女子なのである。
…なぜ、10代女子が岩上茶室の門番をするに至ったのかについては、正直璃月の数ある不思議のうちのかなり上位の不思議なのだけれど。
いやはや。機会があれば、是非聞いて見たいものだ。
「…うん。この思想には、俺も納得できる部分が幾らかある。」
「…ん、おや、その様子だと昨日に何か良い出来事があったようだね。良ければ、話してくれないかい?普段余り喋らない暁君の話、是非とも聴きたいね」
「…実はな、昨日、北斗船長とお会いしたんだ」
ふむ、北斗船長か。たまに、彼女に冒険譚を聴かせてもらうと、なんとも痛快な気分になれる。
きっと、海を股にかける才だけでなく、話術の才にも恵まれた女性なのだろう。
「ほう!かの大船団を束ねる女傑か!数度あったことがあるけれど、中中に見所のある御仁だと感じたのを覚えているよ。それで、彼女がどうしたんだい?」
「…世間話をしていたんだが、その口から出てくる話の数々に、北斗船長の爽快な人柄が溢れているのを感じた」
「フフ、そうか。確かに彼女は、些か豪快に過ぎる所があるが、よくよく所感を巡らせれば、爽快と言える人柄を持っていたように思えるよ」
「…彼女は、どうやら大剣使いであるそうなんだ。女という身で在りながら、身の丈近くもある大剣を振り回して道を切り拓く。俺は彼女に、美しい筋肉を幻視した」
「にゅおおおおっっっ!!!ちょっと!何それ羨ましいんだけど!北斗姉貴は、筋肉神話の体現と言っても過言ではない存在なのよ!?うわぁぁぁあああ!私も会いたかったよー!」
「ハッハッハ!なるほどなぁ、北斗女傑が筋肉神話の体現なのであれば、その哲学にも信用性が着くというものだ。さて、そろそろ私はお暇するよ。仕事、頑張りたまえよ」
うむ、普段あまり喋らない彼と久々に話したが、中中に有意義な話が聞けたではないか。
多少私が饒舌多弁であったきらいはあったろうけれど、そうだな。やはり口数の少ないものと話すときは人によるが、色々と補って話すと上手くいくのは事実のようだ。
先日読んだ、『西風騎士団ガイド心得』。中中どうして、有用ではないか。
作者G氏。一体何者なんだ。
筋肉談義を始めてしまった二人の下を離れて、往生堂の前まで辿り着く。
…鍾離はいるだろうか。折角なので、今日はアレだが、明日の朝食に誘うか。
何、彼の朝食代くらいは私が受け持っても問題なかろう。
彼の話を小説の題材にさせてもらっている身としては、これしきの支出、なんともない。
…ただ、今日、あやつ、いない気がするのだがなぁ。
戸を開ける。
紙を貼ってある斜光戸から差してくる、柔らかな暖色の光が辺りを包んでいる。
暖かく染め上げられた白い紙が散乱している。
受付の机には、緩やかなリズムで上下する梅の花飾り。
…全くもっていつも通りだ。
居ないわ、鍾離。
投稿して楽しかったんで、失踪します。
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