機動戦士ガンダム0080 War on the NOCEAN ~北海の上で~ 作:田池地茎
コックピットのモニターに映し出されるのは一面の白……雪だ。どこまでも同じ光景が続き、私はただザクを歩かせている。どこに向かっているというわけでもない。だた、人がいるところに行きたかった。
「兵糧攻め……か。連邦もいい作戦を考えるものね……おかげで戦わずしてMSの中で死にそうだわ」
そう、私はとにかく空腹だった。だから、一刻も早く人に出会って、食べ物をわけてもらう必要があった。
……作戦中だとわかっていても、意識が朦朧としていた。ザクは自動操縦にして、私はもう眠ってしまいたかった。だけど、空腹で眠ることすらできなかった。
「次に眠る時はきっと、死ぬ時ね……」
――カンッ!
目を閉じようとした瞬間、耳に何か鋭い音が響いた。
「なに!?」
鳥でもぶつかったのだろうか。それにしてはやけに鋭い音だ。
モニターを見ると、脚部に被弾ありとの表示が。しかし、損傷は1%もない。
カメラで足元を確認すると……一人の人間が銃を構え、こちらに銃口を向けている。
『これ以上アタシらの畑を壊すんじゃない!』
外部マイク越しに、少女らしき声が聞こえてくる。毛皮のコートに覆われて顔は見えないが、どうやらここの住人らしい。……やっと人に出会えた。
「……そこの民間人! ここが荒らされたくなかったら、今すぐ食料を用意しろ! そんな猟銃ではモビルスーツは倒せない!」
私がそう脅すと、少女は銃を降ろして、
「なんだアンタ、腹が減ってたのかい? だったらそんな物騒なモンから降りて、アタシの家に来な」
フードを取る。……やっぱりまだ幼い少女だ。
正気の私なら、こんな所で簡単にザクから降りるわけはないだろう。しかし、私は腹が減っていたのだ。戦死にもならない、不名誉な死に方を迎えそうだったのだ。だから、私は素直に少女の言うことに従った。
「!? うぅ……寒すぎる……」
ハッチを開けると、そこは極寒の世界だった。今日はまだ吹雪いていないからいいけど、寒さにも殺されそうだ。
「ハハ! コロニー生まれのジオン人にはホッカイの寒さは厳しいかもね!」
……ホッカイ? ここの地名なのかな?
「家に入れば暖かいから、せいぜい頑張って歩きな。ほら」
そう言って彼女は、自分の羽織っていたコートを私に被せた。
「……あったかい!」
「だろ? 熊の毛皮だからな」
本物の毛皮は着たことがなかったけど、こんなにもあったかいものなんだろうか。
「でも……あなたは?」
「大丈夫、アタシは慣れてるから」
「でも…………」
「いいから行くぞ? こんな所にいたら凍傷になっちまう」
彼女はニッと笑って前を向き、雪の上を歩き出した。
まだ小さいけれど、たくましい背中だった。
「待って!」
私は彼女を追って走り出した。
……ズボッ!
「きゃあ!」
……でもすぐに、足がはまってしまった。
「おいおい、軍人さん? そんな可愛い声出してどうしたのかな?」
彼女は見下ろすように私のことをからかってくる。
「見ればわかるでしょ! ああもう、雪ってなんなのよ! うっとうしい!」
「しょうがないですねー、お嬢様? わたくしの手をしっかりと掴んでいてください」
私は彼女に引き上げられ、もう雪にはまらないように彼女の歩いた後をぴったりとついていった。彼女は雪に埋もれないように足底に板のようなものをつけていたのだ。
「ごめんなさい……コロニーではこんな雪は降らないから……」
「ハハハ! じゃあジオンも雪上訓練をやってから地球に来た方が良かったな」
「ほんと……そうね」
そんな会話をしながら、私達は白銀の世界を歩いていた。