戦艦「ハードラック」を護衛する第89隊に最初に合流したのは、第11艦隊の第175駆逐隊を中核とする捜索隊だった。指揮官は第175駆逐隊司令官ニール・マクブライト中佐。マクブライトは第2次ティアマト会戦から10年後の宇宙歴755年、複数名の戦史研究者のインタビューに応じて戦艦「ハードラック」発見の詳しい状況を証言した。
マクブライトの証言による発見の経緯は、次のようなものである。
12月11日の夜、第175駆逐隊はシャウリャイ星で物資の補給を受ける。翌12日に第11艦隊司令部からの命令で捜索隊を編成し、マクブライトは3隻の駆逐艦「オノヴァン」「シェヴァリエ」「ソフリー」を中心に32隻の哨戒艇を率いて捜索に向かった。
この捜索隊もやはり捜索レーダーの障害に苦しみ、デブリと小惑星の中で迷走を繰り返した。昼近くになって民間の輸送船から情報提供を受け、自隊の位置を確認。そこにたまたま飛来したスパルタニヤン機と連携しながら、再びデブリに覆われた宙域に前進し、迷走を繰り返した。
小惑星の一角から、友軍の救難信号を受信する。さらに前進する。まもなく廃棄された鉱物採掘用の小惑星に、同盟軍の駆逐艦が係留されているのを発見した。後に駆逐艦が「レンショー」であることが分かっている。救難信号は「レンショー」が出していた。戦艦「ハードラック」は「レンショー」の背後に係留されていた。この時、12月12日午後4時35分―。
マクブライトは数名の部下を連れて、戦艦「ハードラック」の艦内に入った。激しい戦闘に巻き込まれた様子で艦体は至る所で破損していた。艦内の通路では点々と遺体が倒れていた。火災で黒焦げになった死体が多かったという。戦艦にいたはずの生存者は?他の駆逐艦や巡航艦はどこにいたのか?ヤンは手帳にメモを認める。
艦橋に入ったマクブライトは2人の遺体を認めた。1人は大将の階級章を着けた将校が指揮官席にベルトで固定されたまま座っていた。この将校はサーベルを右手に握り締めていた。まるで生きているようだったという。白い手袋をした左手の指2本が欠損(アッシュビーは宇宙歴743年のトヴェイト星域会戦で戦傷を負っていた)していた点から、この遺体が宇宙艦隊司令長官アッシュビー大将であると確認した。
もう1人は白い軍服を着た軍医将校。この遺体はアッシュビーににじり寄るように、指揮官席の足元で息絶えていた。後にこの人物は、エリス中佐だったと確認されている。この2人の遺体は襲撃から丸1日半が経過しても全く腐敗していなかった(他の遺体は腐敗が始まっていた)。
これはおかしい。ヤンはそう思った。国防委員会は当時、アッシュビーの死因を「腹部大動脈の損傷による出血性ショックのため即死」と公式発表していた。もし即死だったならば、すでにアッシュビーの遺体は他と同様に腐敗していたはずである。それ以前に、マクブライトの一行は誰も遺体の腹部に創傷などを認めていない。
マクブライトは戦艦「ハードラック」の発見を通信で各部署に報告している。その報告を傍受したのか、数分後にデレク・パウエル准将指揮の捜索隊が合流した。マクブライトとパウエルは特にそれ以上は遺体を調査しなかった。2つの捜索隊は手分けして艦内の遺体を全て医務室に並べ、応急の防腐処理を施した後、戦艦から引き揚げている。
これも奇妙な話だった。当時、マクブライトは捜索隊の物資が底を尽きかけていたという証言を遺しているが、2つの捜索隊が協力すれば、アッシュビーの遺体だけでも持ち帰れなかったのか。しかも第175駆逐隊は帰路で第8艦隊から派遣された捜索隊(指揮官スチュアート・ジェリコ少佐)に出会っているが、マクブライトはジェリコに事の次第を報告しただけだった。
アッシュビーの戦死がティアマト星系に展開する同盟軍に伝えられる。第4艦隊司令官ジャスパー中将は戦艦「ブリジット」の艦橋で報告を受けた際、自分の聴覚を疑った。
「勝ったのか、おれたちは・・・」
通信スクリーンに映る相手は第8艦隊司令官ファン中将だった。ジャスパーに劣らず疲労したファンはこう答えている。
「彼らは去り、われわれは残っている。一般的には、これを勝ったというのじゃないか」