異聞・第2次ティアマト会戦   作:伊藤 薫

14 / 18


 アッシュビー提督の遺体を戦艦「ハードラック」から収容したのは、第11艦隊から派遣されたエドモン・デュトワ中佐率いる第106駆逐隊を中核とした捜索隊である。収容した日付に関しては、さまざまな資料から12月13日午前1時ごろが考えられる。ヤンはそのような推論をキャゼルヌに説明した。

 デュトワは12日午前11時ごろに艦隊司令官の命令を受けて捜索に向かい、ロヴェチ星の近くで駆逐艦「リングゴールド」を発見する。同艦には戦艦「ハードラック」の生存者数名が乗っていた。生存者から戦艦の座標を聴取した後、再び捜索に出た。そして同日午後11時ごろに戦艦「ハードラック」を発見し、フレッチャー隊と合流。

 戦艦からアッシュビー提督を含む計11名の遺体を収容した後、フレッチャー隊はデュトワ隊の先導でパザルシク星に向かった。パザルシク星に到着したのは、同月13日午前4時ごろ。思いのほか早く到着できたのは、デブリや小惑星を破壊する掃宙艇がデュトワ隊に数多く配備されていたためだった。

 宇宙港では第72宙雷戦隊が総出で待機していた。遺体を格納庫に並べて急造の祭壇を作り、ラッパ手が葬送曲を吹いた。その場にいた全員が敬礼を行った。クラーク中尉は遺体収容から一連の出来事を全て日記に書いている。ヤンは口を開いた。

「この後から、奇妙な話が始まります」

 ヤンはタブレット端末に表示されている日記の該当箇所を指でなぞる。

 

―日が昇った頃、駆逐艦(注:「コンウェイ」と思われる)が1隻、宇宙港に到着した。まもなく宇宙艦隊総司令部から派遣された参謀らしき4名の将校が格納庫に姿を見せた。全員がこれを敬礼で迎えた。

 遺体を引き取りに来たようだ。ところが兵士が11名の遺体を運ぼうとすると、アッシュビー元帥閣下だけでいいとのこと。さらに『軍医は誰か』と訊かれたので、自分とアイヴス中尉が前に出る。相手から「提督の手帳を読んでいないか」と問われる。自分たちはそのような物を見ていないと伝えると、参謀は納得した様子を見せた。さらに『この件は決して他言せぬように』と念を押して立ち去った。

 その後、駆逐艦はアッシュビー元帥閣下の遺体だけを積んで出発した。他の兵士は涙を流して見送ったが、私たちは納得できなかった。死すれば将兵の身分はすべて平等である。アイヴス中尉と2人で言い合った。上層部は何か隠したがっているのか―(後略)』

 

 ヤンは説明する。クラーク中尉が疑問に思った点も理解できる。他が下級士官や兵卒だけならまだ分かるが、その場に遺された10名の遺体には軍医エリス中佐や作戦主任参謀フェルナンデス少将などの上級将校も含まれていた。ヤンは続けて言った。

「アッシュビー提督の遺体は公式の検死報告にある通り、この後は駆逐艦『コンウェイ』の医務室で検死が行われました。ただ、これもパザルシク星の格納庫で行われたという説がありますが。マクブライト中佐の証言では、駆逐艦は検死が終わった後でハスコヴォ星に降下してます。遺体はそこの宇宙港で火葬されたんです」

 キャゼルヌは眉を吊り上げる。

「火葬だって?」

 ヤンはうなづいた。

「遺体の損傷が激しく、遺体保存用のケースでも惑星ハイネセンまでの輸送は耐えられないと判断されたためです。火葬に立ち会ったのは、マクブライトの捜索隊から十二名と宇宙艦隊総司令部から生き残った総参謀長ローザス中将と情報参謀ハント中佐だけです」

「たしかに奇妙だな」

 宇宙艦隊総司令官ほどの重要人物ならば、火葬といえども盛大な立ち合いの下で行われるのが普通だろう。同盟軍首脳部はやはり何かを隠蔽する必要があり、慌てて検死を済ませた後、アッシュビー提督の遺体を「処分した」のではないか。

 第2次ティアマト会戦で大勝利を収めた遠征軍は重苦しい沈黙に包まれて、惑星ハイネセンに帰還した。翌年1月4日、盛大に国葬が執り行われた。アッシュビーの遺体を収めた霊柩車が首都ハイネセンポリスの大通りをゆっくり進んだ。

「ちょっと待て。元帥は火葬されてたんだろう?」キャゼルヌは口を挟んだ。「だとしたら、棺の中身は・・・」

「空ということになりますね。重りか何か入ってたのかもしれませんが」

 キャゼルヌはうなづいた。ヤンは続けて言った。

「これで投書の差出人がルシンダ夫人を騙った理由も分かります」

 キャゼルヌはヤンに顔を向ける。

「何故だ?」

「棺が空だった、もしくは偽の遺体を入れたことに対する怒りを示すのに、うってつけの人物じゃないですか。当のルシンダ夫人は提督が火葬されたことを知らされてなかったと思いますが、差出人はそのことを知ってるかもしれませんね」

 ヤンは洋酒の残りを一気にあおった。グラスの中で溶けた氷が鳴る。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。