ファミリー作りたいのに《夜の炎》しか見つからない件 作:リデルJr.
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既に四年前の秋に袂を別つことになってしまった無二の
寝て起きて指示のあった呪霊を消し飛ばしに行き、その足で日本各地を巡って親友の足跡を追う。
飯は一日一食、眠る時間も徐々に必要最低限で済ませる日々。
僕自身はまだまだ続けられたのだが、周りからはコレで既に限界と思われていたようだ。
『最強であるとはいえ、所詮
そう僕を侮った連中から、きっと見つかるという無責任な慰めの言葉や、もう諦めろ現実を受け止めろという無意味な説得の言葉を聞かされた
そしてその全てが僕を苛立たせた。
普段から僕のことを化け物の様に考えている連中が、たかが友人一人取り戻すことすら出来ずに限界を迎えたと思われているのだ。
舐めるなよ。
僕は呪術師だ、それも最強の。
お前たち程度の
普段なら意に介さない戯言だったが、呪術師の、負の感情を燃料に呪力を回復するという性質が、これまでの人生でも一、二を争うレベルで暴走し始めた。
尊大な振る舞いで不安を隠しながらも、僕たちに助けてを求めた
彼女が死んだ時と全く同じだ。
頭が割れそうなぐらい痛み、目玉がキュッと縮まる感覚。
頭では所詮少し関わっただけの他人だと割り切れるのに、心では怒りを向ける矛先を探している。
……そしてそういう時に限って上手く事が運んでしまうのだ。
まるで僕たちを創造した神が、彼女を殺して初めて物事が上手く運べるように仕向けているかのような不思議な感覚。
下手な三文小説にありがちな、大切な人が亡くなってから主人公が覚醒の機会を得るかのような。
周囲に災いを撒き散らしながらも、毎回一人だけ生き延びてしまう主人公のような。
そんな、運命という巨大な渦の中心に居るような感覚。
今もあの時と変わらない。
最強だなんだと散々持て囃されて、結局は取り零してしまう自分の弱さが心底憎い。
だから運命とやらが僕の味方なら。
今、僕に、力を、寄越せッ!!
感情の昂りと怒りによって六眼がオーバーフローしたのか、それともそれもまた運命だったのか。
僕を取り巻く運命の渦よりも、更に巨大な渦の存在を知った。
僕の最強よりも、さらに力強い運命を。
いずれ、僕の命運ごと掻っ攫いに徐々に近寄ってくる運命を。
そして悟った。
ここが僕にとってのエピローグで、ここからがこの世界のプロローグなのだと。
理由も理屈も呪いも最強も親友もなに一つ関係なく、運命に翻弄されるだけのいち人間として、そう悟った。
僕の最強も、その後に続く物語のエッセンスではなく、一種のフレイバーに過ぎないのだ。
紡がれていく物語にもきっと僕の席はあるだろう。
……だがその時、僕はもう“主人公”ではないのだ。
……なんだよそれ、ハハハハハ。
思わず笑ってしまった。
ああ、僕はオカシクなったのかもしれない。
……いいだろう、今は従っといてやるよ。
後に来る大きな渦のために、今からお膳立てしといてやる。
だが覚悟しておけよ、運命。
いずれ
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それからも偶に呪術界の老害のご機嫌伺いをしながら日本各地で呪霊を消し飛ばす生活をしていた、とある日のこと。
いつもなら瞬間移動で直接現地へ向かうのだが、その日の任務は近場であったため、
「うわっ、五条さん!? 大丈夫ですか、あなた? 今にも人を殺しそうな目をしていますよ!?」
ペタペタと顔を触り、そこにある筈の物が無かった。
……ああ、サングラスを掛け忘れていたのか。
伊地知に緊急治療用の包帯を貰って、目が隠れるように頭に巻き付ける。
「あっ、ごっめーん。最近全然寝てなくてさー」
いつも通りの声色の筈だ。
口元が強張っていたので、両手の人差し指を使って無理矢理口角を上げる。
全ては心に憎悪を滾らせたままであることを悟られないように。
今はまだ、【最強の呪術師・五条悟】でいるように。
久しぶりに
「うわぁ、ひっどい顔。五条、アンタまだ夏油を探してんの?」
「ああ、もちろん」
「ふーん……。過労死したらその眼、貰っても良い?」
「なにそれ、ギャグ?」
「どうだか。ところでその顔の包帯、怪我でもしたの?」
「サングラスの代わりだよ」
「へぇー……」
季節は巡り、春。
学生時代に比べると、幾分早く時が経つようになったと思う。
この頃から親友を積極的に探し出そうとすることを諦め、老害共の戯言にいちいち耳を傾けるのも辞めた。
有益な情報など何一つないくせして、いかに相手の足を引っ張るかばかりの下らない茶番劇。
こんな下らない組織に存在意義を感じない。
元々そう思っていたが、
無能の分際で、僕の邪魔をするなっ!!!
最近怒りとの付き合い方が上手くなった。
呪力回復及び瞬間的な術式強化の為に決して失ってはいけないものであるが、多く抱え込みすぎるとそれはまたそれで大問題となる感情の一つのコントロールをできるようになったのだ。
全ては収束と発散であった。
いま感じている怒りの原因を細分化して一つの理由に収束させ、その理由を齎した元凶を相手にストレスを発散するのだ。
もちろん僕が悪くならないギリギリのラインを見定めて実行している。
教師になる気はあまり無かったのだが、運命を打ち破るという目下最大の目的以外にも呪術界をリセットするという目標ができたので、フレッシュな人材を僕が育て上げることによってシンパを作っておこうと思ったのだ。
最初に受け持ったのは二年生五人だった。
よくて二級になれそうな子が二人だけ居たが、実力に見合わない依頼を受けてしまい死亡。
残り三人のうち、一人だけが三級術師として活動し、二人は呪術高専を辞めた。
その後の動向は追えていない。
分かっていたことだが、僕が教師になってからというもの、東京高専は呪術界の老害から受ける妨害の数々によって疲弊してきている。
現学長は未だその地位に慣れていないし、そもそも根が善人なので幾ら思慮深いとはいえ結局損をしてしまう役回りなのだろう。
また生徒は生徒で、非術師の一般家庭出身の子もそれなりに居るためこのような汚い世界での生き延び方を知らない。
まあ今は僕が先生だから生徒のことはなんとかするつもりではいる。
僕と同じぐらい強い運命を持った子が完全秘匿死刑になるらしい。
特級過呪怨霊に呪われているからとかなんとか。
まさか冗談だろ?
無理が通れば道理がひっこむように、最強である僕が無理を通すことで老害たちの道理を引っ込めさせる。
まずその呪力量、
次にその術式、禪院家や親友の持つような呪霊を操る類ではないにも関わらず、取り憑いている呪霊が主には悪さをする様子が見受けられない。
そして血筋、なんと菅原道真の子孫であり、僕と超遠縁の親戚であった。
これが運命に選ばれるということかと、改めて僕の立ち向かうべき巨敵の凄まじさを思い知った。
とはいえ、もうすぐ僕たちですら軽く飲み込まれてしまうほど強大な運命がやってくるのだ。
手始めにこの子の運命を壊すところからやってみよう。
新宿にて。
「傑、君は今でも僕の親友だよ」
僕は運命による干渉をハッキリと察知した。
思わず目を見開いた。
……そうなのか、運命は親友を殺したがっているのだ!!
そりゃあ探しても見つからないわけだ。
思わず乾いた笑いが出た。
やあ、神さま。見ているかい?
今日初めて運命に抗ってみようかな、って気分なんだ。
徳川埋蔵金と共に埋められていた、呪いを祓う特級呪具とやらを使って傑の体をひと撫でする。
恐ろしいまでの切れ味で親友の左腕を斬り落とす。
呪術会に提出する討伐証明はこれで十分だろう。
硝子に電話してこちらへ大至急来てもらう。
その傍ら、頭に巻きつけた包帯を解き、応急手当てを行う。
どんどんと彼の体温が下がっていくのを感じながら、彼を叩き起こして反転術式を使わせる。
……僕は今日初めて運命から一勝をもぎ取ったのだ。
硝子が来て傑を治療させる。
「
流石に三人称視点は知識なしじゃ無理でした。
呪術師ということなら、腹の中にドス黒いもんの一つや二つぐらい持っててほしいですよね。
夏油くんへの手向けの言葉が0巻にはない言い回しなのは仕様です。運命にも抗えるというだけのちょっとした話です。
原作とキャラ変した今の先生のことを、心の中で六条悟くんと呼んでます。マフィアに反抗する某パイナップルのように、何かに反抗する人のことはとりあえず「六」の文字を入れます(後書きのみの特殊表現)。