ファミリー作りたいのに《夜の炎》しか見つからない件   作:リデルJr.

8 / 8
買い物

 ウィンドウショッピングをしながらいい感じの工房を探すこと早2時間。

 

 やっぱり東京には修復技師とやらの工房なんてそうそうないんだな、ていうか早く漫画の続き読みたいなと考えながら彼女の話に相槌を打つ。

 

 気分的には、会話のキャッチボールとして投げられた球を延々とカットし続けている気分だ。

 

 運が良ければ偶にポテンヒットが出るが、ほとんどファールで粘っている。

 

 へー、そうなんだ、なるほど、すごいね、の四種類の打法で正確に球を捉え続け、偶に来る「ちゃんと聞いてんの?」というボールゾーンすれすれのアウトロー一杯に投げ込まれるカーブにも「当たり前だろ!」と逆ギレしてピッチャー返し。

 

 もちろんきっちり捕球されてアウト、ダメじゃん。

 

 

 

 

 

 

 

 ようやく彼女の目的地こと工房に到着した。

 

 ドワーフみたいなずんぐりむっくりな偏屈爺さんが出てくるのかなと少しワクワクしていたが、出てきたのは何処にでもいそうな陰気な細身のオジサンだった。

 

 ……なんか違うんじゃ〜。

 

 

 

 

 

 

 

 彼女は可愛らしい今時っぽい鞄から、金槌と釘、そして藁人形を取り出し、オジサンに差し出した。

 

 ……ひぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 ……常時死ぬ気の炎を纏っている俺をビビらせるなんざぁ、この女、さてはヤバい奴だな? 

 

 知ってたけど。

 

 負属性の炎を灯せる時点で、相当負の感情を抱きながら生活していることには気付いていたが、まさかこれほど病んでいるとは思わなかった。

 

 オジサンが奥に引っ込んだのを見計らい、小声で「おまえ、あれ……」と聞いてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 意外にも「そういえば教えてなかったっけ」と彼女はあっけらかんとした表情で俺の疑問に答えてくれた。

 

 なんでも呪術師には個人個人で使える術式があり、この呪具は彼女の術式を使うために必要な道具だそうだ。

 

 固有スキル的なアレか? と思い、なんて名前なのか聞いたところ、『酸辣湯麺(スーラータンメン)』みたいな名前だった。

 

 ダサすぎて思わず鼻から変な息が漏れたが、俺の表情筋が素晴らしい仕事によって真顔から変化していないはずなので、変なくしゃみが出たということで誤魔化した。

 

 折角の固有スキルの名前が料理名とかなんか可哀想やわ。

 

 

 

 

 

 

 

 彼女と会話すること数分、工房の奥から彼女の呪具を持ったオジサンが出て来た。

 

 どうやら彼女の呪具は、呪力の流し過ぎで修復不可能なレベルでイカれちまったらしい。

 

「お前の頭と一緒だな」とは考えても言わないだけの常識が僕にはあるッ! 

 

 

 

 

 

 

 

 結局工房では修復が不可能ということになり、新しく買い換えることになった。

 

 工房のある裏道を抜けて、再び人通りの多い道に戻る。

 

 渋い顔をした彼女の手を握りながら、キッチン・カーで実演販売していたクレープを二人で食べる。

 

 そうそう、こういうのでいいんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 美味しいものを食べて機嫌が戻った彼女と再び手を繋いでデートする。

 

 スマホを弄らずにキチンと交通規範を守っている通行人のうちの何人かが上機嫌に笑う彼女を見て惚けた表情をしている。

 

 そうだろう、そうだろう。

 

 彼女は大層可愛かろう。

 

 だが知ってるか、コイツの鞄の中に丑の刻参り三点セットが入ってるんだぜ? 

 

 まさに薔薇に棘あり。

 

 名は体を表すのかもしれん。

 

 

 

 

 

 

 

 結局呪具師の工房を見付けることができず、その日は美味しいと評判のイタリアンレストランで食事をしてから別れた。

 

 ドリアとパフェがめっちゃ美味しかった。

 

 しかもこれで安いんだから、リピート確定です。

 

 サイゼ最高! 

 

 いつも通りATMに徹して全額出し、そのまま彼女を駅まで送った。

 

 その際にいつものお礼と言って、ミサンガを渡された。

 

 ……こんなもので釣り合うと本気で思ってるのか? 

 

 キレても仕方ないので、とりあえず笑顔でありがとうと言っておいた。

 

 

 

 

 

 

 

 家に帰り漫画の続きを読んでんいると、なにやら無性に嫌な予感がした。

 

 リングの中の『ロクドウ』も口をパクパクさせながら羽をバタつかせている。

 

 なんだかリングカバーに阻まれているように見えたので、負属性の炎を流してカバーを開く。

 

 

 

 

 

 

 

「カァー! カァー!!」

 

「うぉ……んだよ……」

 

「カァ──! カァカァ!!」

 

「何言ってんのか分かんねえって」

 

「カァー!」

 

「あん? はいはい、なるほどなるほど。分からん」

 

 

 

 

 

 

 

 よく分からなかったが、恐らく警告をしているのだろうと見当をつけ、俺の感じている漠然とした不安と何かしらの関係があるのだろうと結論付けた。

 

 そうすると俺のやることは多分これだろう。

 

 彼女の丑の刻参りセットを新調すること。

 

 漫画の続きは気になるし、彼女とは言っても所詮他人でしかないが、それでもなんだかんだ彼女と一緒にいるのは楽しかった。

 

 それにこの世界に転生してからリボーン関連の道具を創るのは楽しくて、物作りが半ば趣味のようになってきたので、今からやることもその延長と捉えればいい。

 

 さて、呪具とやらは初挑戦だからちょっとだけ緊張する! 

 

 

 

 

 

 

 

 呪具に必要な要素とは何か、自分なりに考えてみた。

 

 今まで俺が見たことのある呪具は、彼女の金槌セットと遺憾ながら俺の作った元・夜のリングだけだ。

 

 サンプルが少なすぎて共通点を挙げると多すぎて絞りきれないが、基本的には武器になるものの内、負属性のエネルギーを流せるのが呪具と呼べそうだ。

 

 そして何と戦っているのかいまいちよく分かってないが、マフィアのような人間を相手にするよりも生物としてよっぽど硬い者を相手にするのだろうから、強度もそれなりに必要。

 

 呪力を流せるそれなりに硬度のある物質といえば、『負鋼(ふこう)』がある。

 

 負鋼は俺命名だから正式名称があるのか知らんけど、触れた人が皆不幸になるという曰く付きの代物。

 

 だと仮定して付けた名前である。実際にそんな効果があるかわからないし、そもそも他の人に触らせたことはない。

 

 

 

 

 

 

 

 主に使う物は、この負鋼で決まりかな。

 

 あとはこれだけだと重すぎるので、合金みたいな感じにしたい。

 

 とはいえこの負鋼、普通の鋼のようにマンガンやニッケル等の合金元素を注入して焼入れをすれば合金が出来上がるという訳ではなく、何かしら呪力の篭った素材をミックスしなければ合金が出来ないというクソ仕様である。

 

 呪力の篭った……? 

 

 

 

 

 

 

 

 人外の森こと魑魅魍魎の地で得た物を使うか使わざるか。

 

 迷った結果、今回は使わないことにした。

 

 代わりに彼女から貰ったミサンガを使うことにした。

 

 俺の怨念も篭ってるからいい具合に呪物になってるんじゃね? 知らんけど。

 

 

 

 

 

 

 

 負鋼とミサンガが悪魔合体しよったでぇ……。

 

 媒介として夜のリングの破片も混ぜて負・夜属性の炎で精錬したので、全体的にメタリックブラックとも呼ぶべき塊になった。

 

 それに輪切りにした時に、なんか中心部が光っているように感じる。

 

 うーん、これはいい感じだ。

 

 せや、この合金を『夜鋼(やこう)』と呼ぼう。

 

 もしここに鬼の素材があれば、『百鬼夜鋼』に究極進化するんだ! 

 

 

 

 

 

 

 

 夜鋼を加工して、トンカチの鎚部分と釘に。

 

 トンカチの柄は俺が長年使ってる高級万年筆を数本潰して、負属性のエネルギーを付与して呪具化させた物を加工する。

 

 藁人形は正直どうしようもないので、藁納豆で出たゴミを有効利用。

 

 多分臭いは完全に消え去っていると思うが、念の為に朝・沼・大空属性の炎で燻すことで、時間を巻き戻し発酵の臭いが付く以前に戻すと同時に調和でその状態を固定する。

 

 その藁を使って藁人形を作る。

 

 なんか呪いが混じっていた方が良さそうだが、逆に何もしないほうが良さそうだという結論に落ち着いた。

 

 というのも、ネットで丑の刻参りについて調べた時に、藁人形に仕込むのは呪いたい対象の体の一部ということなので、俺が何かを仕込むことで呪詛対象が固定化させてはいけなさそうだからだ。

 

 というわけでトンカチの柄部分に八咫烏の紋章を刻み、我がファミリー所有の呪具であることを示しておく。

 

 ……まあ今のところ俺しか分からない意味深な紋章になっているが。

 

 そのうち夜以外の守護者も集めるんだいっ!! 

 

 

 

 

 

 

 

 気付けば徹夜していたようで、朝になっていた。

 

 幸い今日明日は休日なので何も問題はない。

 

 彼女に、「武器作ったった(笑)」という内容の連絡を送り、続けて「もし使うならサブウェポンとして使ってね」と送信した。

 

 いくら俺の自信作といえどメインウェポンになるとは欠片も思ってないし、そんな武器に命を預けられるほど彼女も俺のことは信頼していないだろう。

 

 一応最後の最後にギミックも付けたが、この仕掛けが使われることがないことを祈っておこう。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。