悪の組織のTS改造人間ちゃん 作:電気羊
おれは帝都より南、豊かな自然に囲まれた田舎町で幼少期を過ごした。自然に恵まれたといえば聞こえは良いが、裏を返せば何もない町だった。そのためおれは都会に憧れ、いつか上京して帝都の可愛い娘と恋に落ちるんだ、そんな野望を抱いていた。
今思い返せば、十分幸せな日々だったんだと思う。両親ともに欠けることもなく、何不自由なく育ち、幼馴染のアンと毎日のように遊んだ。アンは北米系の移民で、くりくりとした瞳にすっと通った鼻筋がかわいい娘だった。
しかしそんな幸せな日々は、悪の組織・黄昏同盟によって、突如として壊された。いつものようにアンと共に山で遊んだ帰り、町が火で覆われているのに気づいた。響き渡る絶叫、助けを求める声。襲われた人々の血が、まばらに地面をペイントしていた。唖然とするような、すがすがしいほどの地獄が、そこに広がっていた。
「うぅ……○○…無事で、よか、た……」
全身を燃やし尽くされ、灰をかぶったゾンビみたくなった父親が、おれを抱きしめながら崩れていった。
おれはアンの手をつかんで、すぐに町から逃げ出そうとした。しかし、間に合わなかった。
「だめだ。逃がさないよ~」
間延びした抑揚のない声が、耳に響いた……。
次に目を覚ましたとき、おれたちはどこかの研究施設にいた。そこは黄昏同盟が人体実験を行うための施設で、おれとアンのほかにも、たくさんの子供たちが檻に入れられ捕らえられていた。
……一人ずつ。毎晩一人ずつ、研究員のひとに、実験室へ連れていかれる。
どうやら義体化技術の適合実験を行っているらしい。もし無事に適合できたら、ここから出て自由に暮らせる。研究員のひとは、おれたちにそう語っていた。もっとも、実験室のほうからは、この世の全ての痛みを抱えたような絶叫が、毎晩鳴り響いていたから、おれたちはじぶんの番がくるのを恐れるようになっていた。
ついにおれの番がやってきた。なんと驚くべきことに、おれは実験に適合した。義体を操る動力はゴーストクリスタルとよばれる鉱物で、それが身体に馴染めるかどうか、薬品を注射することによって確かめるのが実験の趣旨らしい。研究員のひとたちにとってもこれは喜ばしいことで、みんな、おめでとう、と言ってくれた。
義体化手術はすぐには行わず、数日間檻で待機することになった。おれが待機している間に、とうとうアンの番がやってきた。アンは不安そうにしていたが、おれでも適合できたのだから、アンにできないはずがない、そう言って彼女を励ました。
結論から言うと、アンは適合できなかった。薬品にあてられて、高熱を出し、ぼろぼろになった状態でおれのもとへ帰ってきた。実験に適合できなかった子供の末路は決まっている。もちろん、この実験を外部に漏らすことは禁じられているから、開放なんて沙汰の外、隔離された適合失敗者用の檻の中で、人権をはく奪され、飯も与えられないまま死んでいく。
アンは、とりわけ見た目がよかった。それが災いしたんだろう。アンは研究員の男たちに無理やり連れ出され、三日間にわたって犯された。悲鳴が、弱弱しい嬌声に変わるころ、アンは衰弱して死んだ。
「○○くんは……わたしの分まで生きてね……」
それが、アンの最後の言葉だった。
しばらくして、おれの義体化手術が行われた。手術は首尾よく成功し、おれは、悪の組織がほこる改造人間となった。やや小柄で、色素の抜けたような真っ白い髪をした美少女。それがおれの
それから、本部での訓練の日々が始まった。戦闘員の先輩たちは、容赦なくおれをしごいた。すべては、黄昏同盟の崇高な野望のため……。くだらない。おまえたちに、復讐こそすれど、協力などしてやるものか!しかし周りは敵だらけ。もし訓練で手を抜けば、先輩たちは容赦なくおれを殴った。ぼこぼこに、それこそ、もしおれが義体でなく生身のままであったら、全身があざで真っ青になるくらい。1週間飯抜きにされたこともあった。義体にも、痛覚器はあるし、痛いものは痛い。おれは、必死に強くなって、一刻もはやく訓練を終わらせられるようつとめた。
先輩たちのなかに、一人厄介な女戦闘員がいた。そいつは、少女のような見た目をしたおれが乱暴な言葉遣いをするのが気にくわないらしかった。おれが、おれという度に鞭を打って来やがんだ。そうしておれは、いつしかわたしと言うようになり、死んだ幼馴染の名前であるアン・スリンガーを名乗るようになった。なんでかな。心のどこかで、あいつの死が受け入れられなかったのかもしらない。
訓練を始めて5年。義体化手術を受けたわたしは、秘めるポテンシャルが圧倒的に高く、あっというまに先輩たちを追い越し成長していた。わたしは15歳になった。
やっとこさ実戦に出れるということになり、本部の首領の部屋に召集された。わたしは、飛ぶように喜んだ。傍から見れば、それは組織に貢献できることを喜ぶ忠良な信者だっただろう。しかしわたしには、組織に貢献する気など微塵もなかった。わたしは、現場についたとたん遁走しようと考えていたのだ。実戦ということは、本部での生活のような、大人数の監視の目がないということだ。わたしには5年間死ぬ気で鍛えた義体があるし、有象無象の戦闘員などに捕まることはないと思っていた。だから。
そのとき首領に言われた言葉は、わたしを絶望させるのには十分だった。
「おめでとう。実験体423番……ああ、今はアン・スリンガーと名乗ってるんだっけ?きみはいよいよ明日から実戦に出れることになったよ」
「はい。ありがとうございます。皆さんが訓練をつけてくれたおかげです。」
「そうそう、もし、敵前逃亡したり、謀反を起こそうとしたりしたら、きみの頭のなかに埋まっている自爆装置が起動して、ばん、だからね」
「……は?」
「あれ? 言ってなかったっけ、手術の前に研究員が説明してると思うんだけど」
聞いてない。……聞いてない。冗談ですよね? そう言い出せる空気ではなかった。首領の目は、嘘をついてるひとの目ではなかったし、なにより、
ああ……最悪だ。底冷えするような戦慄がわたしの身体を駆け巡った。なによりも深い絶望の念が波となって、頭のてっぺんから脚の爪先まで流れだす。
わたしは、これから一生、この組織に命を使われ続けるの?
最悪の考えが頭の隅に生まれた。しかしそれを意識に近づけてしまうと、発狂して廃人になるのが自分でもわかったから、なるべくその考えを頭から閉め出して。わたしは、今にも吐瀉してしまいそうな怨嗟の念を喉元にこらえて、言った。
「わかりました。明日からよろしくお願いします」
これが、改造人間アン・スリンガーの誕生であった。