「いやぁ、旦那!大枚もらった上に、猪鍋までごちそうになりやして。こりゃたまりませんなぁ。へっへっへ。あ、そっちの旦那もお猪口が空でごさんすよ。」
和泉屋源左衛門方の離れにて、先日夜道で話しかけてきた小悪党もどきのキツネ目、キツネ顔の男が浪人二人と猪鍋を突付いていた。
登城したため半日ほど待たせてしまい、慌ててきたがキツネ男こと、稲荷屋は機嫌を悪くするどころか……
『へっへっへ。いやぁ、こんな大店でアッシのような小悪党が下にも置かない扱いされて、嬉しいやらなんとやら。』
離れでカチカチに戸惑って、どうにも居心地の悪いような良いような複雑な顔をしていた。
「恭太郎。誰だ?コイツは?善人には見えんが悪党でも無さそうだが?」
「女衒まがいの輩で、オレに女を買わないかと持ちかけてきた。」
「ブフッ!ゲホ…ゲホ…。まさか買ったのか!?」
茶を吹き出す平太郎。思わず詰め寄ったが、恭太郎が首をふるのでホッとした。少しばかり女の話を聞けるかと思ったが雑念は茶と一緒に飲み込んだ。
「そんで?コイツを何で呼んだんだ?もしや、赤鰐党とやらに関係が?」
「とんでもねぇ。アッシは盗みからは手を引いておりやすよ。あんな外道共と一緒にしねぇでくだせぇな。」
平太郎は、本当かよ。と、視線を稲荷屋に向けた後に、恭太郎に向ける。
「その辺は全く関係ない。」
「なんで連れてきたんだよ……。」
「説明するから、まずは食え。腹は埋めとかないと頭はまわらんぞ。稲荷屋も飲みすぎるなよ。」
鍋を突きつつ、頭を抱える平太郎。それを酔い醒ましの水を飲みつつ心配する稲荷屋。猪鍋を食べ空腹を解決する恭太郎。
鍋が空になり、片付け終わると真面目なふざけた雰囲気は無し。と、恵土の地図を囲んで話し合いを始めた。
「まずは自己紹介からだな。オレは榊恭太郎。仕法家をしてる和泉屋の食客のようなものだ。コッチは、本村平太郎。流れの武芸指南をしてる同じく食客のようなものだ。」
「アッシは根津権現近くに、ちっぽけな小料理屋をやっております。稲荷屋金兵衛ともうしやす。」
3人とも同時に頭を下げる。
「まずはなんで俺が稲荷屋に目をつけたか。だ。」
「アッシとしては大枚もらって、良い目も見せてもらいやしたんで、命がけ以外ならなんでもしやずぜ。」
「もしかして手足として使うつもりだったのか?」
「まぁ、それもあるが。金兵衛……「呼び捨てで構いませんです。」……金兵衛は曲りなりにも女衒。赤鰐党だけじゃなく、悪党ってのは、あぶく銭をもらったら酒が。博打か。女か。そんなもんだろうしな。それで探してもろうかと。」
(時代劇の悪党のお決まりだろうしな。……公方様や大御所に頼まれたとあったら悪党たちの手足をもぎ取ること第一としようか。のんびりするつもりはなかったが、証拠を見つけて、後ろ盾ごと一気にとは時間的に難しそうだ。本当に面倒で急ぎの仕事になりそうだ。)
宮仕えで期限が決められてないということは、早めに。ということだろう。大御所様の言葉では「膿」を吐き出してほしいということだが、時間をもらうにしろ先ずは実績。なにもなしで、
『仕事してますが、結果が出てないのでお待ち下さい。』
などと言おうものなら首がとぶ。……オレたちの場合は最悪、腹を切らないとならない。
(まだ嫌だねぇ。腹を切るのはなぁ。)
この辺りは中身の魂が、平成生まれだからか。……と、恭太郎は思っているが今の時代、大半の武士はそんなものだろう。
一部の武士以外に迷惑をかけていない分、マシ。と、いうより、善良な部類になるのだが。
「それで証拠を見つけて一網打尽ってか?」
時間がかかりすぎる、ハズレるかもしれないなぁ。と、呟いた平太郎の言葉に、
「本来はそういう予定だったんだよ!」
「す、すまん。策はあるのか?」
畳を叩いた恭太郎。家基。いや、公方様の頼みだけだったら予定通りだったんだよ!と、言いたいところだったが飲み込んだ。武士道はやせ我慢。しかしながら、
(勘弁してくれ。)
というのが本音だった。こうなっては、簡単かつ確実な方法は一つ。
「次に襲ってきた。もしくは暴れているところで親玉以外ぶった斬って、幹部を簀巻きにして奉行所に投げ込む。」
「あの旦那?アッシでもそれは無茶苦茶だと思いやすぜ?」
稲荷屋金兵衛にツッコまれ、悩む恭太郎。
(もしかして、一杯一杯になってんのか?恭太郎のヤツ。)
平太郎は、ウンウン唸っている恭太郎を見ていたがそう思った。いや、間違いない。
(恭太郎のヤツ。妙なところで
頭から煙が出んばかりに頭を抱え、目を回す恭太郎。慌てる稲荷屋に構わず、温るなったお茶を飲む平太郎
(まぁ、ほっとくのが一番だろうな。悩み抜かせて爆発されるのが被害が少ない。)
「あわわわ……。だ、旦那。見てないでどうにかしてくださいよぉ。」
「構わん。恭太郎の悪い癖のようなもんだ。たまにあることだからな。」
「で、でも、旦那。見てるコッチが気になっちまうよ。」
金だけの付き合い。小悪党。曲りなりにも女衒。話を聞く限りはそうかもしれないが、恭太郎が興味を持って連れてきたのがわかる気がする。
「旦那ぁ。頼みやすよ。このとぉり。」
「しゃーない。おい!恭太郎。」
跪いて手を合わせて頼む稲荷屋金兵衛に重い腰を上げた平太郎は唸り続ける恭太郎の背に手を置いて、強めに問いかけた。
「チョイと待て。平太ぁがぁ!!」
そして振り返った恭太郎の顔面に拳を打ち込んだ。腰の入ったいい拳が入って吹き飛ぶこともなく、その場に崩れ落ちる恭太郎。
「これで目覚めたら元に戻るだろう。それにしても、相変わらず硬ぇな。」
手を振りながら恭太郎を引きずり離れの角に座布団と一緒に放り投げた。
「ピクリともしないでやすが、ホントに大丈夫なんで?」
「なんともない。夜まで目覚めん。飲むか?オレは下戸でな。茶ですまんが。」
「へ、へぇ。頂戴します。」
金兵衛の猪口に酒を注ぐ平太郎。予想通り恭太郎は夜まで目を覚ますことはなかった。
(大名が楽だ。なんだ。と言うやつに言ってやりたいわ。真っ当に仕事をするだけ楽とは遠くなるんだとな。大名をヤメたいとは思ったことはあまりないが。)
イライラしながら茶を飲み干す平太郎は色々な感情を飲み干し、心の中で一言だけ呟いた。
(これ以上の問題は勘弁してくれ。)
登場シーンで一番と思う時代劇は?(今後の参考・指針に。)
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余の顔を見忘れたか。(暴れん坊将軍)
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この紋所が目に入らぬか。(水戸黄門)
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閻魔様の御使ぇよ。(江戸の牙)
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天に変わって破れ奉行。(破れ奉行)
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地獄へ落ちな 等(必殺仕事人)
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テメェら人間じゃねぇ!(破れ傘刀舟)
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手向かう者は斬れ!(鬼平犯科帳)
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桃から生まれた桃太郎!(桃太郎侍)
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白州で裁けぬ悪を斬る(鬼役)
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この金さんの桜吹雪… (遠山の金さん)