「だ、旦那たち。気を取り戻してくだせぇ。」
赤鰐党の頭目・鰐手の権八を心身ともに追い込み捕まえ、青鯱の浪人たちを倒した恭太郎たちは、料理屋『稲荷屋』の一室で両手をついて落ち込んでいた。気を使ってくれた稲荷屋金兵衛がお茶漬けを持ってきたが手を付ける気にもならない。
この状態の原因は平太郎が青鯱党の米子浪人を斬った場面から始まる。
「おーい。恭太郎。この死体どうするよ。」
「一つ一つ運ぶしかあるまいよ。金兵衛には悪いが、店に運び込むか。」
やるしかないか。と、恭太郎は死体の監視に平太郎任せて稲荷屋の扉を叩いた。そっと扉が開き、金兵衛が顔を出してホッとする。
「旦那ぁ。無事でよかったですよ。」
「すまんが、金兵衛。あそこの死体を土間に運んでも良いか?」
「ええ?!ちょ、ちょっと勘弁願いたいです。」
また青くなる金兵衛。あの小悪党のような喋り方をする調子も余裕も戻ってないのに、自分の店に死体を運べと言われたらたまらないだろうが、すまんと恭太郎が頭を下げる。
「だ、旦那ぁ。顔を上げてください。わかりました。分かりましたよぉ。」
泣きそうになりながら承諾してくれた。店の清掃費は出してくださいよ?と言いつつ土間に有る食卓と椅子をずらして場所を作ってくれている。
「すまんな。いや、マジで。」
二十五両という大金を渡したが、それ以上の迷惑をかけてるな。恭太郎は悪いと思いながら振り返る。
(また小金庫からいくらか持ってこないとな。)
金兵衛を不憫に思いつつ、まずは生きている鰐手の権八を運ぶのが一番楽か。と、ションベン臭い権八の首筋を掴んだが様子がおかしい。
「何時まで寝てる!起きろ。……は?」
グイッと首を力任せに持ち上げると権八の腹が煙を上げていた。可燃物なんてあったか?と、現実を少し逃避したが腹を上にして煙を上げる服を開く。
「恭太郎!死体が火を吹いてるぞ!」
「消せ!特に浪人のやつだ。」
平太郎の方も同じような死体が煙を上げていた。数体は煙を上げるというより炎上していた。その原因は権八の腹を見て分かった。
「小判が溶け溶けているだと?あっちぃ!!……金兵衛!水だ!タライでもってこい!」
懐に仕舞っていたらしき小判が溶け、権八の腹を焼いていた。思わず踏み消そうとしたが、金が溶ける熱だ。踏み消そうとした足が焼けて恭太郎は飛び上がった。
「旦那!水です!」
桶に水を入れた金兵衛が焼ける権八に水をかけるが熱は下がらず権八を焼き続ける。平太郎の方を見ると夜の闇が照らされるほど火を上げて燃えていた。
平太郎は首を振ってどうしようもないと示した。
「……完璧に失念してたわ。権八!起きろ!切り捨てられる前に手がかりを喋れ!親玉は誰だ!」
二十二年も生きているのに、未だに時代劇のお約束。また、現実世界出身の知識に流される。この世界は忍者は黒装束。妖怪や呪いもある『なんちゃって時代劇』の世界だと言うのに。自分も、友人の平太郎もその『異能』によって優位に立っているのに
頭から飛んでいたとは。
恭太郎は未だに意識を失って焼かれ続ける権八を叩いて何が何でも手がかりを聞き出そうとする。先程までの余裕も、勝利の余韻もありゃしない。
「う…!げ……こ!」
「は?おい!おい!」
目を皿のように開き、焼ける腹の痛みを我慢して恭太郎にしがみついた。
「ゴミのように捨てやがって…。前の態度は優しさでも、騙されたわけでも…。畜生!」
「おい!喋れることは全部話しな。」
恭太郎はしがみつく権八にとにかく手がかりがほしいと怒鳴るが、ブツブツと腹が焼け続けているのに恨み言を言い続ける。
「ぎゃああぁぁ!!」
焼けてる腹に鞘を着けたままの脇差しを叩き込む恭太郎。その姿を見てい金兵衛は悪党では有るが少し同情してしまう。しかし、この行為の痛みで権八は意識をハッキリと取り戻した。
「テメェの恨み言なんて知らん!腹がコレだけ焼けて抉れてたら地獄の苦しみだろうよ。楽にしてやるから知ってることを話しな。」
「侍は鬼だと思ってたが、オメェは鬼より怖えな。」
「墓と永代供養もつけてやるぞ。」
買い物のオマケのように死後の世話をつける恭太郎の必死さにとんでも無く苦しいだろう権八は、嫌味な笑いを浮かべた。
「へっへっへ。オメェのその必死さを見るだけで仲間を殺られて、痛めつけられた溜飲が下がるぜ。ココで喋らずに焼け死ねば、更に気分が良いだろうな。」
してやったり。そんな態度をする権八。
「だがな。俺たちを使いたいだけ使ったヤツラの鼻をあかせるのはオメェらだけだ。俺たちの親玉は四ツ谷のデケェ殿様さ。他に偉そうにしてたやつも居るが、若い剣術の先生。狒々爺の金持ちってぐらいのもんよ。」
「思ったより喋れるではないか。他には?」
「知らねぇ。名前すら知らねぇし、話しかけるときも御前様。大先生。隠居と呼んでたんでな。どうでぇ。ガッカリしたか?」
「いや、知ってることを話したのならそれでいい。」
「じゃあ、さっさと殺ってくだせぇよ。我慢するのもツラくなって来やがった。ようやく曲りなりに根を下ろせたと思ったのによう。」
憑き物が落ちたかのようにペラペラ喋っていた権八は、目を閉じて手を合わせた。一息おいて恭太郎が脇差しで首を刎ねた。
権八が死んだことにより、他者より圧倒的に焼ける速度が遅かった権八の体が一気に焼け始めた。
あれだけボコボコにされたにも関わらずスグに復活し、金が溶け、沸騰するような温度で焼かれながらも粘れたところを見るに、知らぬ間に『異能』の力を使っていたのかもしれない。
この後、青鯱党の手によって赤鰐党に止めを刺されるのを見なかったのは幸運だったのかもしれない。
場面は冒頭に戻る。ドンヨリと落ち込みながらお茶漬けを食べる二人。金兵衛特製の茶漬けは、かなり旨い。こんな精神状態で食べるのは失礼なほどだ。
「まさか小判に異術を込めていたとは。おかげで死体の処理は楽だったわ。」
嫌味たっぷりに平太郎が呟いた。死体は焼けて残った証拠は『権八の遺言』と、体から離れていたので焼けなかった『名前も知らない浪人の首が三つと下半身一つ』、『米子浪人の首』、『残った小判の残骸』である。
「まぁ、でも四ツ谷に居る旗本が親玉なんでしょ?和泉屋さんで話した四人の中で四ツ谷の殿様というのが居れば、それに探り を入れれば良いんじゃないんですかい?」
「全員四ツ谷周辺なんだよ。恭太郎。四ツ谷なんてお前の寝床みたいなものだろう?おい。さっきから何を黙って悩んでるんだよ。切り替えてやってこうぜ。」
平太郎は食べ終わった茶漬けの器を金兵衛にわたすとゴロリと横になった。
「金兵衛。紙を頼む。」
黙り込んでいた恭太郎が残った首を並べて筆を取り出し、墨を擦り始める。狂気的な場面ではあるが、やれることをやるしかないと一枚目の首の人相書きを描き始め。
権八の異能・異術については本日中に「登場人物」で書き込みます。……メッチャ増えそうだなぁ。キャラが。
登場シーンで一番と思う時代劇は?(今後の参考・指針に。)
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余の顔を見忘れたか。(暴れん坊将軍)
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この紋所が目に入らぬか。(水戸黄門)
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閻魔様の御使ぇよ。(江戸の牙)
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天に変わって破れ奉行。(破れ奉行)
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地獄へ落ちな 等(必殺仕事人)
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テメェら人間じゃねぇ!(破れ傘刀舟)
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手向かう者は斬れ!(鬼平犯科帳)
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桃から生まれた桃太郎!(桃太郎侍)
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白州で裁けぬ悪を斬る(鬼役)
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この金さんの桜吹雪… (遠山の金さん)