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2022/08/18・一時間100ユニークアクセス達成できました。ありがとうございます。
ドコのアホだ。……いえ、知らない人ですよ。
「数日ぶりの自由。いやぁ、いいねぇ。平太郎が居たら料亭や船宿でノンビリするんだがなぁ。……頼むからなんにも起きないでくれ。」
数時間ほどグッスリ昼寝をした恭太郎は、下男の勝蔵に外出することを伝えると『抜け穴』から藩邸を抜け出すと西に向かった。
(浅草の和泉屋や根津権現の稲荷屋に一言詫びを言うべきなんだろうけど。スマン。今日は騒ぎに近づきたくないのだよ。)
どちらかと言えば赤鰐党との一件は巻き込まれたのが始まりなので詫びは別だろう。それより赤鰐党の本拠周りに近づいて何者かに、目をつけられる可能性を無意識的に分かっていたのかもしれない。
……だが、今は気分転換を優先したいのが今は本音の恭太郎。
(おっと。四ツ谷御門近くに行くのはマズイか。)
今日だけでも旨い物を何も考えないで食べて、のんびりしたいと新宿に向かっていた歩みを北に変えた。
外堀を沿うように歩き続け、神楽坂に入ると武家屋敷や寺が集まっているためか。小坊主を後ろに従えた恰幅のいい僧侶が歩く姿、渡り中間が門前で雑談しながら飯を食う姿、刀談義をしながら恭太郎の横を通り抜ける侍たちが見える。
そのまま北に向かい、江戸川を越えて音羽に入ると女と遊べる水茶屋、出会茶屋。繁盛している料理屋。人を呼び込む岡場所などには目もくれず、一軒の格子戸のある家。
「爺さん。今日はいいかい?……あれ?」
家に上がり込み声をかけるが反応がない。爺さん。婆さん。と何度か声をかけるがやはり反応がない。
(もしや、空きがないのか?)
それは困る。せっかく来たのに。と、腰の刀を外して玄関の上がり框に腰をかける。この仕舞屋は現代で言うところの『隠れ家的な個室の旨い店』というもの。毎日隠居した老料理人(※)が変わり替わり、『気分』で料理を作ってくれるという趣向の店。
(一杯ならココで待つか。全員が泊まりの客だと困るが…。)
三畳の部屋が六室。食事で一分銀。泊まりで更に一分銀。少々高めだが、根っこは豊食・快適な平成人である恭太郎が満足する食事と安らぎを与えてくれる場所なので丁度いい金額だと思っている。
「ありがとうございました。またのお越しを願います。」
玄関から一番近い襖が開き、声が漏れてきた。出てきた客は恭太郎より少し年上の侍。恭太郎は狭い玄関で邪魔にならないように立ち上がり鞘を握っていた手を左から右に替えた。
敵意がないことを示す礼儀を示したことが分かると客も同じ様に右手に持ち替え、
「失礼を。」
と、頭を下げ、恭太郎の横を総髪の侍はなんというか。身なりがよく、金回りも良さそうで、美男子で、
「あの浪人。いい腕してるな。」
身のこなしに隙がないほど武芸者とは。なんか頭が悪い戯作の主人公のようだ。と、自分のことを棚に上げて羨ましがる恭太郎。
「お久しぶりですなぁ。殿様。」
「しっ。こらこら。久々だからと
「はいはい。」
老人が人の良い笑顔を浮かべて恭太郎に頭をさげる。恭太郎は老人の正体も名前も知らないが、相手側は知っている。これもこの店の決まりで、気に食わないなら来なければいい。
納得している恭太郎は一分銀を取り出し、老人に心付けとして渡すと先程すれ違った武士の居た座敷に入った。
「自分の部屋や和泉屋も落ち着くが、この店は全く気を使わないでいい。」
刀掛けに大小を置いて長く大きく息を吐く。エアコンや空気清浄機など無いにも関わらず、どんな原理か。この店は常に丁度いい空間になっているのでガッツリ気が抜ける。ストレスが溶け出るようだ。
「おまたせしました。失礼、起こしましたかな?」
「いや、すまぬな。」
昼寝をしたのにも関わらず、微睡んでいた恭太郎に老人が御膳を持ってやってきた。
「本日は良い真鴨に、海老が入ってましたので。」
「コイツは旨そうだ。」
旨い料理に舌鼓を打ち、腹と心を満たす恭太郎はふと先程すれ違った侍のことを聞いてみた。
「そういえば先程の総髪の侍。随分腕が立ちそうないい男だったが、どこの誰だい?」
「いくら殿様でも教えられませぬなぁ。」
そりゃそうか。妙な詮索をしないのもこの店の決まり。追い出されるのも嫌だと質問を取り下げた。
「でも殿様なら教えましょう。」
「いいのか?」
「はい。紹介で来られた方ですが、出来ればお相手したくない相手でしたので。」
「決まりを破ったりしたのかい?」
「いえ。しっかりと決まりを守っていただきました。ですが、紹介人がこの店に来たことがない。しかも、どうにも悪い噂のある方ですので。」
紹介というより押し売りでしたな。と、笑う老人。話を聞いてる限り、なんでも手紙と一緒に十両を包んで金で対応しようとした無粋な奴らしい。
………もしや、心付け。と、小金を渡してるオレもそう見られてるのかも?いや、それなら追い出されるはず。
「まぁ、教えてくれるなら教えてもらおう。何処の誰だい?」
「浅草で剣術道場をやっている小井出重行という方ですよ。」
浅草あたりにそんな道場あったか?とクビをひねると老人が、
「浅草でも殿様のよく知る浅草寺付近ではなく、南の福井町あたりでございますよ。」
福井町と聞いて、顔をしかめる恭太郎。あの辺りには苦手な人間がいるのだ。嫌いではないがどう付き合っていいか分かりにくい相手なのだ。
「でも、あの辺りには奥山念流や小野派一刀流などデカい道場が多いぞ?確かにかなりの腕だがそんなに羽振りが良い道場なら耳に入るはずだがなぁ。」
先程の侍。昨日夜、平太郎が斬った米子浪人も軽く斬れる腕前に見えたが、腕っぷしだけでなく剣術の売り込みも上手いのか。恭太郎は羨ましいより、ずるいなぁ。と、呆れてしまった。
「どうやら用心棒をあちこちに安く送り込んでいるとか。」
なるほどな。小金持ちが増え、大店も押し込みに合う世の中。ついでに先日までは赤鰐党まで町を闊歩していたのなら、剣術家を雇って安全を得ようとするだろう。それが安いなら飛びつくだろうなぁ。
…などと考えていたら一つ思いついた。
「ん?この店に来たのも、純粋な客で来たわけじゃないのだな。」
「御名答です。用心棒をどうだ。と言われまして。大枚渡してまで」
「なるほどな。そりゃ、この店の関係者なら相手をしたくないものだ。それにしても客になりたいのか。用心棒をしたいのか。……それにしても用心棒の押し売りねぇ。いや、ありがとう。あとはコッチで勝手にやるから。」
はいはい。と、老人は部屋を出ていった。このときに紹介者。つまりは金を包んだ紹介者を聞いていれば、この後に起こる事件や被害者の数は減ったかもしれない。しかし、気を抜きすぎていたのか。または、そんなところまで気が回らなかったのか。
このときの恭太郎は旨い飯を食べることに目が向いていた。
「……ん?しまった。また寝てしまっていたか。」
気を抜くのは良いが、抜きすぎてしまったのかもしれん。と、腑抜けた頭を覚ますべく水を貰いに座敷を出る。
(うん?)
玄関から一直線の見える部屋なので、部屋から出れば玄関が見てるのだが、その玄関に人が集まって外を覗き見ていた。この店に来て初めての光景に思わず声をかけた。
「何かあったのか?」
「あ、殿様。いえ、店の前。音羽通りで乱闘が行われているようで。お客様も出るに出れない状態でして。」
岡場所の乱闘なんて良く有ること。放っておいても縄張りのヤクザや香具師の若衆が止めに入るだろうし、万が一でも町方が動くだろう。赤鰐党も居ないから流石に動くだろう。
「気にすることはないだろう。しばらく待ってれば…」
「それが若衆も町方の同心たちもひっくり返ってまして。」
なんでやねん。恭太郎は頭を抱える。岡場所の喧嘩なんてほとんどが女の取り合いか。客の浮気。酔っ払いの乱闘だろうが。それなのに馴れてるはずの若衆や、同心がひっくり返ってるって何よ。
「そもそも喧嘩の理由……いや、いい。どうせロクでもない理由から始まった喧嘩が大きくなったんだろうよ。また騒ぎか。」
「お侍様!どうか止めてくださいませ!」「頼みます!」「どうか!どうか!」
刀を持ってる恭太郎にすがりつく他の客。大店の主人やご隠居といった面々。放っておくのがいいのだが両手を合わせて拝むように頼まれる状態は心理的に辛い。
恭太郎は飯代を支払うと、刀を腰に差した。ともかく表通りの揉め事の細かい様子を確認すべく店を出た。
店から出ると、店での話通りに数名の町方同心や地廻りの若衆たちが短刀、刀、十手などの武器を持ったまま地面に倒れていた。たまに前衛的アートのように器用な形で気絶してるヤツが目に入り、吹き出しそうになる恭太郎。
「狐の稲荷屋の次は、狸かぁ。」
何時もなら女目当てで人が集まる音羽の表通りは遠巻きに様子を見る野次馬と、喧嘩の参加者以外は屋内に退避していたようでスッキリしていた。
火事と喧嘩は江戸の華。もとい、恵土の華。止める人間が叩きのめされた現状なら盛り上がるもんだが、遠巻きにみるだけ。
騒ぎの中心になっている土埃、砂埃が舞っている場所では、『狸の面と頬かむり』を着けた羽織を着た人物が、町方同心を蹴っ飛ばし、ヤクザものを殴り伏せていた。
多分、地面に転がっている面々はコイツがやったのだろう。
「おい。ドコの誰かはしらんが、町方、ヤクザ、香具師を敵に回すと報復が怖いぞ。今のうちに、この場を離れろ。」
恭太郎は暴れる狸面に近づき、肩を掴み声をかけるが、狸面は素早く身を翻すと、
「ボディイ!」
恭太郎の腹に一撃を食らわせた。踏み込みと体重の乗った良い拳。そう、大柄かつ鍛えている恭太郎の足が地面から浮くほどの拳だ。
が、始めから恭太郎の動きや姿を読んでくれている諸賢方なら次の動きは分かるだろう。
「ギェ……っふ。」
「あっ。(げ。この感触と声。子供か女かよ。)」
腹への一撃に、カチンと血が上った恭太郎は突き抜けるようなボディブローを叩き込んだ。狸面の相手は『くの字』に体を曲げて地面に崩れ落ちた。
「やっべ。やりすぎた。」
崩れ落ちた狸面に、自分がやったことではあるが同情した。恭太郎は狸面を肩に担ぐと全力でその場をはなれた。
「休んだ分だけ、疲れた気がする。」
走り走って扉が開いたままの打ち捨てられた農家の納屋に逃げ込んだ。騒ぎが番所まで届いていたら見張りがいるだろうし、自分の屋敷まで戻るにも武家屋敷や寺がある。見られたり追っかけられると面倒だと見つけた納屋に飛び込んだのである。
「ともかく子供か。女か。どっちか知らんがせめて顔をみておくか。迷惑かけやがって。ドコのアホだ?」
頬かむりと狸面を外すと、頬かむりで押さえられていた長い髪が飛び出すように出てきた。こりゃ女か。と、腹を殴ったこと後悔しながら、狸面を外した。
「………知らない人ですよ。頼むから他人の空似であってくれ。」
夜目でうっすら見えた顔に、恭太郎は顔を両手で覆った。いや、夜目で見えない分を脳みそが補完してるんだよ。と、月明かりが見える場所に運んで顔を確認する。
「屋敷に籠もって寝てようかなぁ。」
見間違いじゃないことがハッキリわかったので、嘆きたい恭太郎。今年は厄年やー。と、現実逃避しながら夜明けを待つことにした。
※1……料理の腕前はともかく、老齢による体力低下や個人的な理由で料理はしたいが商売はできない料理人も含む
登場シーンで一番と思う時代劇は?(今後の参考・指針に。)
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余の顔を見忘れたか。(暴れん坊将軍)
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この紋所が目に入らぬか。(水戸黄門)
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閻魔様の御使ぇよ。(江戸の牙)
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天に変わって破れ奉行。(破れ奉行)
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地獄へ落ちな 等(必殺仕事人)
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テメェら人間じゃねぇ!(破れ傘刀舟)
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手向かう者は斬れ!(鬼平犯科帳)
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桃から生まれた桃太郎!(桃太郎侍)
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白州で裁けぬ悪を斬る(鬼役)
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この金さんの桜吹雪… (遠山の金さん)