「残虐非道この上ない凶行だが、おかしい事がいくつかある。」
船宿から船を借りると、船頭に頼むと両国から千住近くまで移動した。ここなら船頭以外に耳を立てる人は居ない。船頭にも金を握らせて『聞いてもいいが、話の内容に納得してくれたなら話すな。』と頼んだ。
・・・・悪党は金が入るのに、俺たちは金が出ていくなぁ。とイラっとした恭太郎と平太郎だが、事件について話を開始した。
「恭太郎。お前も気になるか。俺もだ。」
「建材屋の死体。その中の用心棒の浪人がおかしい。店の家族・奉公人は四方八方から滅多刺しなのに、用心棒の浪人は一人は胸を一突き。もう一人は背中から一突き。しかも浪人たちの刀は粗末であったが刃こぼれは一つだけ。」
逃げようとする家人は滅多刺しなのに、武術の心得がある用心棒が一太刀。しかも、押し入りなのに鍵をこじ開けた様子もないという。
「神楽坂の寺もそうだ。滅多刺しではなくて、全員が一太刀で斬殺されていたという違いはあるが、土塀を登ったり、寺門を無理やり突破した痕跡もない。」
「そして日本橋の材木問屋。二十九人も被害にあったはずなのに、火が出るまで周囲は誰も気が付かない。いくら大店であっても数で押入れば騒音になる。死人の場所は寝床の中だったとか。つまり・・」
カチカチな話し方ではあるが、要約すれば・・・
・建材屋は用心棒はあっけなく死んでいるのに、家人には手こずってる。しかも扉をこじ開けたり、破壊した痕跡がない。
・寺は全員一太刀で仕留められているが、建材屋と同じように忍び込んだ痕跡も、無理やり押し入った痕跡もない。預かっていた貴重品の場所を知っていたかのように探索した痕跡もない。
・材木問屋も全員死んでいたのに、逃げた痕跡がなく大人しく殺されていた。コチラも家探ししたあとがない。しかも、大人しく殺されるぐらいの数や腕で押し込んだとしても、生きた人間。若い女でも攫われるのに抵抗したあとがない。用心棒だけが動いていた痕跡があった。
二人が出した答えは、一緒だった。
「「引き込み。つまりは内通者が居た。それは用心棒。口封じと関わりを調べられると不味いから仲間の用心棒も切り捨てた。」」
ハッハッハッハ。と笑った二人は屋形船の畳に拳を叩きつけた。
「「ココまで簡単に分かるのに。町方は何やってんだ!!!」」
藩邸の家臣団を率いて奉行所に攻め込んでくれようか?と目の座った二人だったが、我慢した。タダでさえ御府内では奉行所を始めとして動きがほとんどないことで失望と不信感が吹き出そうになっているのに、
『働かないのには〇〇によって圧力をかけられ、我が身大事で動かないから!』
などと言って、老中格・将軍の側近・一国の大名である二人が騒ぎを起こすと奉行所など現場で止まっている不満が、御公儀全体への不満になって一揆でも発生するかもしれない。
別に潰してもいいんじゃない?と思うかもしれないが、幕府以外で日ノ本全体の政治・統治ができる組織はない。一気に戦国乱世のようになるに違いない。
(それにこの世界は完全な鎖国じゃないからなぁ。他国から兵士が来るかもしれん。)
色々とブチギレそうな感情を我慢する二人。人道や感情の正義をなすとしても、法的正義がなくて、後々に更に問題が起きてもいいなら、将軍が動けば解決するし、サッサと家臣を武装化して雪崩れ込むに限る。なんと楽だろう。
「シガラミが多すぎるわ!!」
「全くだ!!」
そう簡単に済まないのがこの世界。体制側で出世してしまった故の縁なのだろう。
((・・・・・辞めてぇなぁ。もう。でも、辞めるわけにはいかんのよなぁ。))
強い怒りや悔しさを覚えたが、現実を思い出してガックリする二人は、船頭に両国の船宿に戻るように頼んだ。話を聞いていたであろう船頭は『絶対に喋りません。』とだけ二人に伝えて船を発進させた。
「着きやしたよ。旦那。」
揺られ揺られて船宿に到着するころには日は傾き、夕方になっていた。船頭と船宿の主人に礼を言って店を出ると、船の中で決めた方針に従うことにした。
「恭太郎。俺は襲われた面々の繋がりを調べる。確実に三つの事件は繋がってる。繋がっていないと腑に落ちないことが多い。・・・・繋がっていなかったらまた一から探さないといけないから繋がっててくれ。」
「おいおい。急に気弱になるなよ。そっちは任せるからな?じゃあ、俺は用心棒の方を探してみる。なに。必ず結果は出るさ。・・・・・出てくれ頼むから。」
先程までの急な感情の変化の反動か。多少やつれた二人は決めた方針に従うはずが、出発前に一気に弱気が吹き出した。
「よーし。やるかぁ・・。」
「頼むわぁ。」
((悪党の一つを無くしたならしばらく休みをくれぬもんか。神様か。仏様かは知らんが・・・))
神仏に恨み言を考えるほどになっていた二人は飛来する何かに首根っこを掴まれ、地面に叩きつけられた。
受け身も取れず倒れた二人は痛みを覚えながら目を開けた。
「くっくっく。見つけたぞぉ・・。」
口から煙が出そうな。ツノが生えてそうな顔で見知った女性が仁王立ちをしていた。ぎゃー!!と情けない叫び声を上げて飛び上がるように立ち上がる二人。
「「般若じゃ!般若が出たぞ!」」
「誰が般若だ!」
騒ぐ二人にゲンコツを食らわせ黙らせた般若。もとい鬼女。もとい酒居家の鬼姫・御珠姫。いや、小珠。先程までの小難しい空気や、弱気になりそうな雰囲気は吹き飛び、どこか頭の悪い喜劇のような空気になった。
「さぁ。二人共。全部話してもらおうか?」
「「な、何のことでしょうか?」」
とぼける二人にもう一発ずつゲンコツを食らわせる小珠。
「和泉屋と勝蔵すべて聞かせてもらった。誤魔化しは効かぬぞ?くっくっく。全部話してもらおうか。」
「「さらば!!」」
拳を鳴らす小珠に恐ろしさを感じた二人はその場で南北に別れて逃げることにするのだった。どっちを追いかけても恨みっこなしだ。
「恭太郎。上手く逃げろよ。」
振り返り鬼が居ないことに安心した平太郎は軽い足取りで日本橋方面に向かう。
「なんでオレの方に来るんだよ!?」
「ははははは。逃さんぞ。」
逆に鬼が居たことで逃げる恭太郎に余裕はなく、小珠との追いかけっこが始まるのだった。
0時までにはあと一話。書いてて頭がボンヤリしてきた。
登場シーンで一番と思う時代劇は?(今後の参考・指針に。)
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余の顔を見忘れたか。(暴れん坊将軍)
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この紋所が目に入らぬか。(水戸黄門)
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閻魔様の御使ぇよ。(江戸の牙)
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天に変わって破れ奉行。(破れ奉行)
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地獄へ落ちな 等(必殺仕事人)
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テメェら人間じゃねぇ!(破れ傘刀舟)
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手向かう者は斬れ!(鬼平犯科帳)
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桃から生まれた桃太郎!(桃太郎侍)
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白州で裁けぬ悪を斬る(鬼役)
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この金さんの桜吹雪… (遠山の金さん)