「それにしても恭太郎さん。人が悪すぎますよ。」
「すまんなぁ。本当は素浪人として五分で付き合いたいものだったが、そうは言ってられない事が起こってな。深川、日本橋、神楽坂での押し込み強盗があったことは知ってるか?」
「もちろんですよ。あ、そうだ。アッシもその件で話があったんですよ。赤鰐党と根津権現で恭太郎さんが殺りあった時の浪人のことですよ。」
気絶した稲荷屋金兵衛を、善太夫と勝蔵が恭太郎の自室に運んで介抱した。目を覚ました金兵衛は平伏するやら、唖然とするやら、落ち着くまで時間がかかった。
しかしながら今は話が出来るほど落ち着いているので、本題に入ることにした。
(小悪党染みた言動がないから、本調子では無いな。すまんなぁ。金兵衛。)
心でもう一度謝る恭太郎。勝蔵が熱いお茶を持ってきたことで、この話に関わる面々が揃った。
「善太夫。金兵衛。尋ねたいということは、この前に描いて渡した人相書きのことだ。金兵衛。お前も同じ話があるとは今言ってたな。本当にちょうどいい。」
「殿。私も同様でございます。」
「善太夫もか。悪党だけが上手く進むわけじゃなくて助かるわ。」
耳が早い善太夫は分かるが、金兵衛も中々やるものだ。それにしても全員が同じ要件だと本当に助かるものだ。
恭太郎は
「それで報告を聞こうか。」
まず金兵衛がズイと前に出て報告する。
「知っての通りアッシは根津権現でケチな飯屋をやっておりやす。ま、裏で色々悪いこともやってますがね。へっへっへ。」
いつもの調子を取り戻した金兵衛に渋い顔をする善兵衛と勝蔵。逆に恭太郎は愉快そうに笑みを浮かべる。
「そいでですね。この無頼浪人たちなんですがね。実は、この米子浪人。先程、恭太郎さんが言った三件の事件の一つ。日本橋の材木問屋『大木屋』に出入りしてたとか。」
「用心棒と言うことか?」
「いや、違うんですよ。この米子浪人さん。たしかに用心棒をやってたんですけど、大木屋じゃなくて、事件があった神楽坂の寺の用心棒だったんです。」
「はい。私もその話を聞いております。」
善兵衛の話を善太夫が同意する。疑うつもりはないが、裏は取れたと思うべきだろう。
「他の浪人さんも用心棒をやっていたんですよぉ。場所まではちょいと分かりませんでしたがね。でね。面白い事がわかったんですよ。この無頼浪人たち。同じ信州生まれだったんですよ。細かな場所は違いますがね。」
へっへっへ。と胸をはる金兵衛。餅は餅屋というわけではないが、動ける人間が居るというのは良いものだ。
「他には?」
「へ?いや、すいやせん。それが他はチョット分かりやせん。」
居心地を悪そうに体を小さくする金兵衛。しかし、恭太郎が「よくやった」と褒めるとへっへっへ。と、笑う。
「善太夫の方はどうだ?」
「失礼ながら金兵衛殿の事を見くびっておりました。出身地までは調べることは出来ず。ですが、コチラも補足出来る調べができました。この浪人たち。全員、神道流の道場に通っておりました。」
「ん?平太郎が斬ったこの米子浪人は甲源一刀流だったぞ?」
この時代だと雨後の竹の子のように〇〇流という武術が生まれては消えているが、一刀流や新陰流などの歴史があり、名前も売れている剣術は誇りを持っている。
まぁ、これも早い話が、一刀流と神道流のは剣術という名前と武術ということ以外は全然違うものだ。もっと簡単に言えば、時代劇などで構えると、『貴様。〇〇流だな。』というぐらい見る人が見るとすぐ分かるぐらい違うものだ
「その道場は小井出重行という上方の浪人がやっていて、周辺ではそこそこの道場として名前が出ております。」
「待て。その道場は浅草の福井町あたりにある道場か?噂だと用心棒の押し売りをするとか何とか。」
善太夫の言葉を区切って、恭太郎が話すと、善太夫は多少驚いた顔をしながら頷いた。恭太郎の脳裏に音羽の隠れ家ですれ違った美男子浪人を思い出す。
「それで先日の三件。すべてこの道場から用心棒を出してました。浪人の用心棒なんて大抵不利になれば逃げますが、今回は全員が逃げずに死んだことで『素浪人。腹は減っても心は減らず。』なんて評判になっておりますよ。」
それが実際は引き込みを兼ねた捨て駒だったというわけか。パチンと扇子を鳴らす恭太郎。前世も現世も食うに困ったことがないが、少なくとも捨て駒前提の考えは持ったことがない。怒りを飲み込み、話を続けさせた。
「道場主の小井出は浪人ばかりで大した収入もないのですが、それなりに羽振りがよく。妾や博打などはしておりませんが、分不相応な料亭などに三日と開けずに。」
うん。知ってる。たしかに今のところ入っている情報では儲かっている様子は見られない。音羽の隠れ家でも『用心棒を他より安く送ってる』という。善太夫の話を聞くところで一番安いところでは一日百文も貰わないとか。
(確かに安く受けて名前を売ってから、道場を繁盛させる方法はあるだろうが、安すぎるな。)
なにせ百文といえば、薄給で知られる人足でも長めに働けば百五十文はもらえる。商家の用心棒なんて丸一日見張り。イザと慣れば戦い。休みを貰ったときは日当がない。という条件なのに百文。損が多すぎる。
そんな中で道場主は金回りがいい。しかも、そんな奴が道場主で、門下生たち。つまりは、根津権現で襲ってきた浪人たちは死んだ鰐手の権八がベラベラ喋ってくれたお陰で、青鯱党だとわかっている。
(つまりは青鯱党の本拠となるのか。)
いや、間違いないとは思うが、悪御家人たち居るらしいので、御家人たちの長屋かもしれんな。どうするか。
「人を送って、調べますかな?」
「いや、善太夫。お前の早い耳で調べてほしいのは八丁堀周辺の御家人や町方同心だ。この際だ。見て見ぬふりをする町方も調べるか。金兵衛。お主は無理をしないで根津権現あたりで情報を仕入れてくれ。いいか。絶対に無理はするなよ。」
またパチンと扇子を鳴らして善太夫と金兵衛に命じた恭太郎。だが決まりきらないのがお約束。
「・・・・こういう調べは、目付や若年寄、老中の仕事なんだけどなぁ。オレ、まだ老中並。もしくは老中格であっても正式な役職無いんだけどなぁ。まさに貧乏くじを引いたもんだな。働けよ!幕閣!!」
あれ?結構幕府の中身って思った以上にヤバくねぇか?と頭を抱える恭太郎。そもそも、町方がしっかり動いていれば、この程度の情報なんてすぐに手に入るだろうに。それに火盗改めはどうした?あれか?長谷川○蔵様が居ないと、働けないってか?
頭を抱えたあとでイライラが爆発しそうになったが大きくため息をついて、また我慢した。
「殿?いかがされました?」
「い、いや、なんでも無い。八丁堀と御家人組屋敷は頼むぞ善太夫。金兵衛も何度も言うが無理はするな。今日は助かった。」
恭太郎は善太夫と金兵衛に解散を告げ、勝蔵を連れて外の空気を吸うために部屋を出たのであった。
今日はあと2話ぐらい投稿できるかなぁ。明日からしばらく投稿速度が落ちるので今日中に、昨日は間に合わなかったキリの良いところまで書き上げたいなぁ。
登場シーンで一番と思う時代劇は?(今後の参考・指針に。)
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余の顔を見忘れたか。(暴れん坊将軍)
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この紋所が目に入らぬか。(水戸黄門)
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閻魔様の御使ぇよ。(江戸の牙)
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天に変わって破れ奉行。(破れ奉行)
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地獄へ落ちな 等(必殺仕事人)
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テメェら人間じゃねぇ!(破れ傘刀舟)
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手向かう者は斬れ!(鬼平犯科帳)
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桃から生まれた桃太郎!(桃太郎侍)
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白州で裁けぬ悪を斬る(鬼役)
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この金さんの桜吹雪… (遠山の金さん)