「さて!行くぞ!恭太郎!」
「・・・・・・おい。
寝ぼけ眼で布団の横に仁王立ちするバカに突っ込む恭太郎。天窓を開くが、空が白んでもいない。明け方なんてもう少し先。今は未明という時間帯だ。
そもそもどうやって入ったんだよ。ここ、一応大名屋敷で大名の個室。つまりは一番警備が厳しい場所なのだがなぁ。
「勝蔵に案内させたのじゃ。」
「お前。何考えてんだよ。」
朝一。いや、未明一から頭を抱える恭太郎。たしかに勝蔵は門の開け締めする中間のまとめ役もしてるが、朝っぱらから、こんなじゃじゃ馬。いや、じゃじゃ馬どころじゃないだろうな。このバカは。馬用の鎮静剤も作れる頭があるから打ち込んでやろうか?……止めとこう。
多分、勝蔵だけではなく、善太夫も巻き込まれているだろうなぁ。二人共。いや、皆。本当にスマン。
「いいか?少し待て。髷はともかく顔も洗ってないし、服も寝間着だそ?」
「さっさと着替えんか。呼び出しておいて。」
「あのな?もう一度言うぞ?今何時だと思ってんだ?ほれ。夜明けどころか夜明け前でもない。未明だ。飯でも食ってろ。」
朝餉か。と、飯に釣られるように勝蔵に別室に連れて行かれる小珠。恭太郎は嵐が去ったことで、大あくびをしながら頭をポリポリしながら面倒くさそうに立ち上がった。
「失礼ながら。あのご様子で嫁の貰い手はござるのでしょうか?」
入れ違うように善太夫が部屋に入ってきた。この騒ぎによって家中、藩邸の騒ぎを外に漏らさないように動いていたようだ。短時間で御目見得が出来るほどの服装に着替えたのは流石である。
髷が半端なのはお愛嬌だろう。
「小珠の父はやり手なので何とかするだろう。それにしても未明からスマヌな。善太夫。この騒ぎに巻き込まれた藩士たちには手当か休みを与えてやれ。」
小珠の。御珠姫の父・酒居忠香は『名うての古狸』と言われるやり手の爺さん。元服前、将軍・家基の遊び相手に選ばれたときも、まぁ〜教育が上手いし、色々やっていた記憶がある。
隠居してるのに未だに恵土城で大御所様の相談相手をやってるのだから、怖い怖い。
「かしこまりました。藩士たちに緘口令をしきますか?」
「ほっとけ。あのやり方や動きで姫様だと信じる者はほとんど居ないだろう。」
やはり善太夫はコレぐらい冷静でないとな。オレに何かある度に慌てるのは直してほしいのだが、それは今考えることではないな。と、着替えつつ考える恭太郎。
「御用意が整いました。」
着替え終わった大名モードの恭太郎を、家臣が小珠のいる部屋に案内するのだった。
「……と、言うわけだ。勝蔵や源左衛門さんから聞いた話の補足だよ。おっと!猪突するなら縛り上げるぞ?」
飯を食べつつ、恭太郎は小珠に知ってることを全部話した。大雑把な部分は昨日のうちに和泉屋で聞いていたらしいので、細かな部分までを一切合切教えたほうが変な動きはしないと考えたからだ。
「おのれ!幕府に影響力を持つ役職についた経験がある人間が無法者たちの親玉とは!殴り飛ばしてくれようか!」
話を聞いた小珠は大爆発。それでも駆け出さないのは目の前で睨みを効かせている恭太郎がいるのと、ココが和泉藩の藩邸だからだろう。これでも一応は大名の娘。その辺の礼儀はギリギリではあるが一線は守っている。
(総合点で見れば赤点も良いところだがな。気の良いやつなんだけど、頭がなぁ。)
飯の膳を下げさせると、憤る小珠を宥めて夜明けまで待つように告げると部屋をあとにする。
空いた時間が予想外に出来たのだ。ある程度溜まった政務をやるべく、筆と墨、印鑑を用意して恭太郎は夜明けまでに藩政を行った。その甲斐もあってか、恭太郎たちが出発することには溜まった書類と目通り、意見は全て片付いていた。
「それにしても変な格好をしてるのぉ。お主は。」
「大名や、身なりが良い侍が無頼浪人が集まるらしき道場に殴り込みに行くわけにはいかんだろ。」
恭太郎の格好は、何時もの綺麗な侍姿ではなく薄汚れた継接ぎのある小袖と袴を着ていた。顔にも付け髭。頭にはカツラではなく、付髪を髪に結びつけて、みすぼらしい総髪と、汚れ浪人になりきっていた。
「本当なら風呂に入らず、時間をかけて化けたいものだがな。」
「うげぇ。いくら恭太郎でも、そんな格好をするなら付き合いを考えるぞ?」
「更に汚れたかった」と話す恭太郎に、嫌な顔を更に歪ませる小珠。
(俺だって好んでやりたいわけじゃないが、本当に道場が青鯱党の本拠で、三件の畜生働きしたヤツラなら次の動きを待ってられんしな。)
一晩で五十人の人生を奪ったヤツラだ。さっさとぶっ殺さないと更に人が死ぬ。外道共め、大手門に『この者たち、押し込み強盗の畜生なり。』とさらしてやろうか。
「き、恭太郎?顔が怖いぞ?」
おっと。斬り殺すにしろ黒幕と一緒だ。まだまだ落ち着け。スマンが小井出道場よ。ストレス発散させてもらおうか。あとまだ分からん黒幕も苦虫を食わせてやるよ。
「クックックックック。和泉屋にも押し売りしてるらしいからな。源左衛門さんもウンザリしてると勝蔵から聞いたからなぁ。クックックックック。」
「だから恭太郎?顔が怖いぞぉ…」
すごい顔をしてるであるう恭太郎に、傍若無人の小珠も離れて後をついてくるように福井町の道場に向かうのであった。
「見たところ普通の道場じゃがなぁ。町の者に聞いたが規模も門弟の数も名前もソコソコの道場。やたら浪人が入ってると聞いたが、用心棒の仲介をしてると言えば不審ではないの。」
『天真正伝香取神道流 小井出重行道場』『剣術指南、用心棒、腕試し。』と看板が掛けられている中規模の住居を兼ねた道場の前に到着した二人。
「お前には呆れることも多いが、その活動量は感心するよ。でも、コレは探索だからな?まぁ、圧力をかけるという面だとアタリではあるがな。」
まさか進行方向に居る通行人全員に『小井出道場の噂をしっておるか!』と聞くとは。おかげで時間がかかってしまった。
今更ながら、小珠に何かあったら、あの狸爺。なにするか分からんなぁ。
「それでは殴り込みに行くか。待ってろよ。悪党ども。」
「待て。ほぼ黒だろうが、状況証拠しか無いんだぞ?剣術道場だからな?そのために化けてきたんだぞ。オレ。」
「あー。すまんかったな。」
「いいか。オレは今から秋山小次郎な。」
「なんじゃ?その変名。まぁ、よい。行けぃ!小次郎!」
へいへい。と、小井出道場に入る恭太郎。もとい、変名・小次郎であった。
秋山小次郎。剣客商売のダブル主役よりパチった名前です。あと一話今日中に投稿します。
登場シーンで一番と思う時代劇は?(今後の参考・指針に。)
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余の顔を見忘れたか。(暴れん坊将軍)
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この紋所が目に入らぬか。(水戸黄門)
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閻魔様の御使ぇよ。(江戸の牙)
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天に変わって破れ奉行。(破れ奉行)
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地獄へ落ちな 等(必殺仕事人)
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テメェら人間じゃねぇ!(破れ傘刀舟)
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手向かう者は斬れ!(鬼平犯科帳)
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桃から生まれた桃太郎!(桃太郎侍)
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白州で裁けぬ悪を斬る(鬼役)
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この金さんの桜吹雪… (遠山の金さん)