恵土転生〜え?江戸じゃないの?〜   作:塩焼きサンマ

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 ※秋山小次郎=恭太郎となります。小次郎呼び、恭太郎呼びがあり、面倒ではありますがよろしくおねがいします。
 一時間時代劇なら今は三十五分ぐらいかと思います。


失礼だが、女離れしててよかった。

 

 「当道場に何か?」

 

 「拙者は無外流・秋山小次郎と申す。一手ご指南を。」

 

 秋山小次郎と変名を使った恭太郎は出迎えに来た小井出道場の門弟は驚いた顔をする。

 『他流派の人間が指南を頼む。』つまりは道場破りに来たという事を告げられ驚いているのだろう。慌てた門弟の一人が奥に居るであろう道場主たちに報告すべくその場を離れた。

 

 「刀をお預かりします。」

 

 「よろしく頼む。」

 

 門弟に大小の刀を預けた。しかし、受け取った門弟は入口近くにある刀箪笥に隠すように仕舞ったことで、

 

 (なるほどマトモな道場ではないな。)

 

 普通の道場なら『万が一にも刃傷沙汰や事故が起きぬように。』と、預かるが試合の行われる稽古場にもって行くものだが、入口近くにある刀箪笥にしまったつまりは、

 

 (万が一にもオレが勝てば、なかったコトにするつもり。)

 

 なのだろう。変名を使って挑む恭太郎も非礼ではあるが流派と名前を偽って道場破りの様子見をする剣客もいる。屁理屈ではあるが兵法だ。

 しかし、万が一の敗北が起これば無刀の人間を、なぶり殺しにするような教えを道場の門弟までも受けているなら穏便に済ませる必用もないか。恭太郎は仏頂面で頭を下げつつ、拳を握りしめた。

 え?なら道場ぐるみでなかったコトにするのも兵法ではないのか?『名前を隠し戦った。』のと『負けたから集団で殺して口止めをした。』では外聞が違いすぎる。

 戦国の世ならともかく、この色々あるが戦がない天下泰平の世では『兵法ではなく卑怯』となるだろう。……バレればだけど。

 

 (いつもの刀でなくて良かった。)

 

 鞘や柄、鍔を交換するのが面倒で、二束三文のボロ刀を用意してもらって助かった。今回は幸運に恵まれたようだ。

 

 「無外流・秋山小次郎殿と。本日は一手ご指南を。つまりは当道場に道場破りをと?」

 

 「左様にて。」

 

 頭を下げる恭太郎の先には、間違いなく音羽の隠れ家で、すれ違った総髪美男子の浪人が座っていた。門弟や浪人たちが「先生」と呼んでいる。間違いなく道場主の小井出重行だ。

 

 「川部。相手をしなさい。」

 

 髷は整えられ、道着もくたびれているが綺麗な男が木刀を持って前に出てきた。ヤル気も殺る気も漫々の様子。

 

 「秋山殿。この川部。当道場で露払いをする役目にて。高弟や私と戦う前に資格を見せてもらおう。」

 

 (なるほど。オレが勝てば剣筋が見えるし。負ければソコで終わりか。)

 

 承知。と、木刀を掴み稽古場に向かうと構える恭太郎。

 

 「始め!「う!……ぎぁああ!!」…は?」

 

 恭太郎と川部が向き合い構える。高弟と一人が試合開始を告げると同時に、川部の肩に鋭い突きが打ち込まれ、宙を舞い、叩きつけられた川部が痛みでのたうち回る。

 

 「良いぞ!きょ・・小太郎!」

 

 「小次郎だ!あのバカ!」

 

 「応援してるのにバカとはなんじゃ!」

 

 格子窓から、やんややんやと小珠が騒ぎ立てる。秋山小次郎。五文字ぐらい覚えろよ。と思いつつ、飛びかかる次の名も知れない門弟の腕を叩き、崩れたところに突きを入れる。川部と同じように痛みでのたうち回る。

 

 「二人共肩の骨が折れてるはずだ。さっさと居者に連れて行きな。で?名乗りもなく襲いかかるのが、そちらの流派なのかね?」

 

 木刀を肩に担いで挑発するように笑う恭太郎。その挑発に乗った雑魚が木刀を持って襲いかかるが、肩を叩き、足を叩き、腹を突く。数名の門弟が悶絶する仲間に入った。

 

 「門弟のご無礼お許しを。石川。相手なってやれ。」

 

 道場主の小井出が次に指名したのは見るからに浪人。周囲の門弟や浪人からは「師範代!」「兄貴!」と聞こえるところをみると、この道場の二番手なのだろう。ココ数日戦ってきた無頼者や浪人の中では勝てる人間は居ないだろう。それぐらい腕が立ちそうな相手だ。

 

 「石川一郎太。参る!」

 

 カン!カン!と木刀が当たり、弾かれる音が道場に響く。石川の剣はまさに正道。米子浪人の様なパチモンではなくキッチリ修行をして続けていた剣だ。しかし、恭太郎には届かない。半身になって剣を避けると思い切り、石川浪人の木刀を跳ね上げた。

 

 「あ・・・」

 

 カーン!と高い音と、間が抜けた声が聞こえると石川浪人の木刀が宙を舞った。負けを認めたのか膝をつく石川浪人。

 

 「ま、まいった!」

 

 「秋山殿と申したな。その身なり。浪人と見受けられるが、大した剣技だ。」

 

 うなだれる石川浪人が下がり、悶絶していた門弟たちが稽古場から運ばれると、道場主である小井出が立ち上がり、話しかけてきた。

 

 「残念だが、主家は持たないが、逆らえない雇い主がいてな。」

 

 と、近づく小井出に、恭太郎は後ろを振り返り格子窓に齧りつくように騒ぐ小珠を顎で示した。

 

 「今回の一件もな。あのお姫様が仕官の仲立ちをしてくれることの条件として持ってきたのだ。浪々の身を剣で身を立てるのは難しい世の中なのでな。」

 

 貧困を苦しそうに語る恭太郎。騒ぎまくる小珠に現況を押し付けることにした。全然大人しくしてないんだ。これぐらいの芝居には付き合ってもらうぞ。全く。

 

 「確かに浪人には辛い世の中だ。どうだ?お主は腕も立つ。この道場に来て大店の用心棒などする気はないか?」

 

 「あの様な仕事は二度としたくない。命を張って一日二百文ちょっとだ。商売の状態によってはすぐ切り捨てられるからな。」

 

 木刀を中段に構え直す恭太郎。しかし、小井出は話を続けた。

 

 「ふふふ。あのじゃじゃ馬娘にドコを紹介される知らぬが、石川より腕が立つお主だ。どうだ?私が頼んで、もっと良い所を紹介してやろう。どうせ娘の紹介先は、良くて百俵五人扶持。薄給であろう?」

 

 この道場はロクでもない道場である可能性は高いし、浪人たちの巣窟になっているのは間違いないが、青鯱党である尻尾が掴めないことで焦れてきた恭太郎は踏み込むことにした。

 

 「いくらだ?」

 

 話に乗ったと思った小井出が木刀を振り下ろした。木刀がぶつかる音が響き鍔迫り合いになる。なるほど。周囲に聞こえないように鍔迫り合い中に話すのか。悪党は表立って話せない分、面倒なことに頭が回るものだ。

 

 「一件五両。御前様が許せば、士分で五十石と頼み込もう。石川がその条件だったからな。」

 

 「御前だと?」

 

 「名前は言えぬがな。どうだ?」

 

 鍔迫り合いの押し合いから一歩飛び下がり、構えた恭太郎。小珠を確認してから・・・

 

 「嫌だね。押し入り強盗の片棒を担いて、使えなくなったら切り捨てられたら溜まったものじゃないんでな。」

 

 さらに踏み込んだ。小井出は驚きを隠し飲み込んだ。証拠を出されているわけでもない。当てずっぽうの推論で話しているだけだろう。

 しかし、周囲の浪人や門弟の殆どは慌て驚いた。懐に手を入れたり、刀掛けに刀を取りに行くものをいた。語ってないが語るに落ちるというものだ。

 

 「弟子たちは未熟なようだな。」

 

 何度も言うが証拠はない。道場に来たのも、証拠があるか。青鯱党の本部かを調べに来ただけ。ハッタリでしか無い。しかし、小井出以外は過敏に反応してる。

 

 「貴様。ドコかの密偵か?ならば生かしてはおけん。おい。外の女も始末してこい。」

 

 周囲のバレバレな動きから、コレは誤魔化しきれない。ならば始末して口封じ。と、考えた小井出は門弟から渡された刀を抜いた。奉行所や火盗改メは動かないようにしているが、幕閣全部が動かないわけではない。

 「調べるか。」と、動けば分かる目付衆も、動き始める前に証拠を隠滅できると言うだけで、「証拠発見。報告だ。」と、証拠があって動き出されたら面倒だ。

 

 「薬が効きすぎたかな。……その刀。いただく!」

 

 刀を抜いていた門弟に木刀を投げつけ、片手で刀を奪うと、反対の手でその門弟を投げつけた。

 

 「ぎゃああああ!!」

 

 投げつけられた門弟を戸惑いもせずに小井出は切り捨てた。やっぱり良い腕だ。

 

 「貴様。この道場から出れると思っておるのか?」

 

 「無策で来ると?」

 

 道場に来て調べる以外の考えは、行き当たりバッタリのザル作戦なので、事前の策などない。

 

 「叫ぼうにも、昼間では周囲の道場からの声と音で、誰も気にしないわ。誰も手を出すな。コヤツの腕はハッキリせぬ。一斉にかかっても、死人が増えると後処理が困る故な。」

 

 門弟たちが周りを囲むように動き、その囲いの中心で、中段に構えた恭太郎と、同じく中段に構えた小井出が向かいあう。

 

 「むん!」

 

 小井出が上段に刀を振り上げ、二人の刀の間合いに入ると斬りかかった。なに。大したことはない。避けて返せば逆に斬り倒せる。恭太郎は右に一歩動き、刀を避けた。

 

 「っぐぅ。」

 

 避けたはずだったのだが、何故か恭太郎は胸と腹に痛みを覚えた。飛び退くように下がりつつ、後ろの門弟を蹴飛ばして自分の胸元を見ると、厚めの小袖を切り裂き、かすり傷とはいえない裂傷を受けていた。致命傷ではないが、血があふれるように出てきた。

 

 「我が秘剣の味はどうかね。しかし驚いた。貴様で三人目だ。初太刀で絶命しなかったのは。」

 

 (落ち着け。死にはしない。……だが、たしかに正面からの唐竹割りだった。余裕をもって避けたはずなのに何故。)

 

 久々の傷で混乱しそうになるのを歯を食いしばって、耐えて刀を中段に構え直す恭太郎。後ろは壁。

 

 「ドコの誰かの密偵か話すのなら、楽に殺してやろう。言わなくても死ぬが、建材屋『丸山』のように滅多刺しでは苦しむだけだぞ。」

 

 「おい。自分たちがやったと言って大丈夫か?外にはツレの女も居るんだぞ?」

 

 「馬鹿め。女一人簡単に葬れるわ。それに正面からやってくる無能な密偵に冥土の土産を渡しただけよ。」

 

 勝った。と、思っている道場の面々は楽しそうに笑う。たしかに通常なら逃げようがない。事前に用意した策もない。恭太郎も今の状態では壁を一撃で破る方法はない。

 しかし、恭太郎は余裕の笑みを浮かべた。その余裕は、後ろの壁が聞こえる音だ。

 

 「バカはそっちだ。あの女はタダの女じゃないぞ?」

 

 恭太郎はそう言うとその場に伏せた。そして一息置いて、後ろの壁が爆発するように吹き飛んだ。漆喰で固められ、木板で作られた壁は砂の壁を大金槌で叩いたように大穴が空いて崩れた。

 

 「貴様らが、罪なき者たちを殺し、拐かした外道どもか。声がデカくて助かったわ。」

 

 真っ赤な気炎を上げる小珠。始末に向かったはずの門弟たちは『死んではない。』という状態になっていた。

 いやー、失礼だが、女離れしててよかった。見た目は良いのになぁ。

 

 「・・・・・・あ゛?」

 

 失礼なことを考えていた事を察したのか。恭太郎をひと睨みして、足元に倒れていて門弟を蹴り飛ばした。恭太郎を囲んでいた門弟・浪人の数人を吹き飛ばした。

 目の前で起きている光景に、理解できない状態になっていた道場の面々。小珠の目が出血する恭太郎を捉えると、返り討ちにした門弟の一人を掴み、道場主・小井出に叩きつけた。

 囲みが崩れ、戸惑った悪党どもを確認すると、跳ね上がるように飛び上がった恭太郎。外に飛び出し、怒れる大魔神。いや、小珠を掴んで逃げ出した。

 

 「離さんか!」

 

 「状況不利なんで逃げます!」

 

 バタバタと信じられない力で暴れる小珠を、刀を捨てて両手で押さえつけるように掴みながら福井町一帯から逃げる恭太郎。

 追手は確認できなかったが、ともかく暴れる小珠を黙らせつつ、止血をしながら駿河台・神田錦町にある本田屋敷の抜け道に飛び込んだ。

 

 (あの小井出の秘剣のタネが分からんと、剣技が上でも死にかねんな。)

 

 




 有名というか高名な武芸者の中では塚原卜伝が好きですが、最強だと思うのは、飯篠長威斉だと思ってる。元・剣道家です。
 ヤッパリ剣術や格闘の躍動感ある文を書くのは難しいですね。細かく書くと説明文みたいなりますし。
 明日から投稿速度が少し下がります。登録・評価・感想をしてくれた方々を始め、読者の方にはご迷惑をかけてすいません。
 またUA5000を突破しました。ありがとうございます。

登場シーンで一番と思う時代劇は?(今後の参考・指針に。)

  • 余の顔を見忘れたか。(暴れん坊将軍)
  • この紋所が目に入らぬか。(水戸黄門)
  • 閻魔様の御使ぇよ。(江戸の牙)
  • 天に変わって破れ奉行。(破れ奉行)
  • 地獄へ落ちな 等(必殺仕事人)
  • テメェら人間じゃねぇ!(破れ傘刀舟)
  • 手向かう者は斬れ!(鬼平犯科帳)
  • 桃から生まれた桃太郎!(桃太郎侍)
  • 白州で裁けぬ悪を斬る(鬼役)
  • この金さんの桜吹雪… (遠山の金さん)
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