恵土転生〜え?江戸じゃないの?〜   作:塩焼きサンマ

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 社会人としてどうかと自分自身で思いますけど、仕事中も拙作が半端で止まっているのが気になってました。
 公私を分けろよ自分。


間・慶事の後に凶事があると辛さが増えるものよ。

 

 「は?谷久保美濃守たちを斬り殺すのは待てと?」

 

 「そうなのだ。大御所様と、沼田様が明日呼びつけるから、処分。美濃守の成敗は明日の夜以降にしろと。」

 

 何時もの和泉藩屋敷ではなく、本田大多喜藩邸で大刀と槍の手入れをする恭太郎と平太郎。和泉藩邸に戻ってもいいが、呑んだくれた小珠が居るし、御城の話を根掘り葉掘り聞かれるのは面倒だ。

 理由はわからないが、待てと言うなら待つしかない。武具の手入れを完璧にするべく下男に油を取りにいかせる二人であった。

 

 

 

 

 

 

 『間・慶事の後に凶事があると辛さが増えるものよ。』

 

 

 恵土城西の丸。恭太郎と平太郎に大御所・家治が密命と、天下御免の脇差しを渡した一室にて、御公儀の一位である将軍と、別格の大御所とその側近が問答を行っていた。

 

 「父上!どういうことですか!」

 

 「家基。憤るのはわかる。だが、少し待つがよい。父に考えがあるゆえな。」

 

 「どのような考えなのかわからねば、納得できませぬ。」

 

 血気とやる気あふれる将軍からすれば、側近である榊原基康と本田基政に密命を与えるなら、まだなんとか我慢できるが、下した裁定に横槍をいれるばかりか、

 

 『方々に働きを行っておる谷久保美濃守を大番頭に戻せ。』

 

 などと言われれば、怒りもするだろう。しかし、大御所・家治と沼田意次は揺るぎもしない。それどころか…

 

 「家基よ。そちは若いのぉ。」

 

 「何がでございますか?!」

 

 扇子を開き、口元を隠す家治は憤る家基を流しつつ、

 

 「家基よ。人が一番辛いと思うときはいつじゃ?」

 

 と、試すように問いかけた。

 

 「親兄弟身内等の親しい者が死んだときなどでございますか?」

 

 「確かにそうよのぉ。じゃがな。相手は良民を塵芥の様に殺し、痛みも覚えぬ者よ。むしろ、奪った金を使って野心を叶えることを、死人に厚い面で『誉れ』にしろとでも言いかねんヤツラよ。」

 

 バン!と勢いよく扇子を閉じた家治は怒りを隠しもせずに言葉を続けた。

 

 「ワシはな。その様なクズどもが辛いと思うのは、野心が叶って我が世の春が来たときに、引きずりおとし、斬り殺してやることだと思っておるよ。」

 

 慶事の後に凶事があると辛さが増えるものよ。と、つぶやき怒りの顔を隠して、家基に笑いかけた。

 

 「家基よ。谷久保美濃守は余が将軍の御世では、『質実剛健、忠誠心も強き男』と評判であり、余もその辣腕に助けられたものよ。」

 

 家治は立ち上がり、家基に後ろを向けて部屋をグルリと回りだした。

 

 「繰り言になるが、美濃守は若き頃は本当に得難い家臣であった。家臣であったのだ。家基よ。」

 

 「はい。」

 

 家基は人生で初めて父に恐怖を覚えた。その先の言葉を聞きたくないとも思ったが、家治はその様子を察しながらも統治者としての心構えの一つを伝えることにした。

 

 「本田中務大輔、神原和泉守の二人は素晴らしき大名であり、家臣である。余が意次の仲介と言えど、家基の遊び相手に選んだのも余よ。しかしな。」

 

 クルリと振り返った家治。家基は頭を下げる相手は居ない地位に居ながら、父・家治に自然に下げた頭を上げることが出来なかった。

 

 「二人が第二、第三の美濃守になるかもしれぬ。その時は覚悟を決めよ。意次を側に置き、汚れたと言われた政治を送った余ではあるが、民草を私欲で食らったことはないからな。のぉ、意次。」

 

 イザとなれば忠臣だったしても殺せと教える家治に、まだまだ将軍というもの分かったつもりだったと情けなくなる家基だった。

 

 

 

 

 

 

 「谷久保美濃守。大番頭への再任を命ずる。」

 

 「ありがたき幸せでございます。」

 

 翌日。御目見得の間にて谷久保美濃守は、久しぶりに単独での御目見得を少し怪訝に思っていたが、その疑いは来てみれば全くの杞憂。

 まさかまさかの多方面に働きかける前に、古巣の大番頭に復帰だと言うではないか。コレは予想外の慶事。丸々残った多数の千両箱は大名就任・老中、若年寄への就任運動ができる。

 

 「一つお聞きしたいことがございますが……。よろしいでしょうか?」

 

 「構わぬ。急な登城ゆえな。気にもなろう。」

 

 美濃守の質問を側用人の一人が咎めようとするが、将軍・家基は許した。

 

 「私の再任について解せぬことがございます。」

 

 「なるほどな。実は前老中首座・田沼意次よりの働きがあったのだ。大御所様も代替わりの時に、仕方なく罷免したことを大層、気にしておってな。」

 

 「なるほど。合点がいきました。誠心誠意。お役目に邁進いたしまする。」

 

 谷久保美濃守は御目見得の間から下がっていった。野心の始まりが上首尾であったことを隠そうともしない。

 その動きを見て、複雑な考えと表情をしたが、最後には嫌悪感と怒りが残り、強めに舌打ちをすると奥部屋に戻っていった。

 

 




 誤字脱字修整、感想ありがとうございます。本日正午に新アンケートを行うので、そちらもよろしくおねがいします。

二人目の女性キャラは……

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