「
「頼むから飯の作法ぐらい守れ。あと、話を進めてくれ。蕎麦を食うたび同じ事ばかり言って……。」
飯山土佐守が襲われてから三日が経過した昼。幼馴染三人は根津権現の飯屋『稲荷屋金兵衛』で昼食を食べていた。
『旦那たち。実はチョイと上手い天ぷら教えてもらいやしてね。ヘッヘッヘ。暇があったら是非に。』
金兵衛から恭太郎に手紙が届けられたので、気晴らしと昼食を兼ねて行こうと考えていた。一人で行くのも気が悪いので下男の勝蔵を誘ったのだが…
「飯に行くならつれてけ!」
「すまん。恭太郎。どっかでバレた。」
当日の出発前に小珠に捕まった平太郎と共に『稲荷屋』に向かうことになった。
「うまい!おかわり!」
「こりゃ今日の蕎麦はおわりでやんすね。」
「何杯食うねん。」
わんこ蕎麦と言わんばかりに天ぷら蕎麦を食べまくる小珠にドン引く金兵衛と、ツッコむ恭太郎。
平太郎も食べていたが、口に含みながら喋ることはなく、キレイに食べていた。
「食べるのはいいのだが、いい加減話を進めろって。」
また蕎麦を手繰ろうとしていた小珠を止めて話を促す恭太郎。獣人間を知ってるか?というが、いい加減話を進めないと気まぐれで話の触りだけ言って、ハイ、サヨナラ。になりかねない。
「蕎麦は伸びる前に食いたいものだが、仕方あるまい。ふっふっふ。そんなに気になるか?」
「「帰る。」」
流石にイラッとした大名二人は小判を一枚置いて店を出ようとするのを慌てて止める小珠。蕎麦を持ち、食べながら止めるのを見ると怒るのがアホらしくなった。
話したくてしょうがない小珠を放って置いても面倒だな。と、席に戻った。
「獣人間を知っておるか?」
「だから話を進めろっての。」
「ホントに帰るぞ?」
蕎麦を食べ終わるまで沈黙が続くが、食べ終わった小珠は話を続けた。
((こいつ。ホントに嫁の貰い手大丈夫か?))
「新しい南町奉行のナントカ伊予守を知っておるか?」
「新北町奉行の飯山土佐守殿のことか?」
「一つも合ってねぇじゃねえか……。南町奉行はまだ決まってないわい。」
「おお。そうだ。そうだ。その土佐守とやらが、三日ほど前に襲われたのは知っておるか?」
「「知ってる。」」
スマンが、同じ幕臣で小納戸といえば近侍役。ちょくちょく将軍様に呼び出され、御目見得のできるほどの地位の二人だ。その話は、飯山土佐守が襲われた翌日には耳にしてる。
「なんじゃぁ。つまらんの。じゃが、その土佐守を襲った下手人が化け物だったというのは知ってるか?」
「化け物?狐狸妖怪の類いか?恵土府内。しかも山の手の内側で?」
「そうだ!ソレが本当なら七代・家継公以来であろう?寺社や天文方は大騒ぎになっているのではないか?」
妖怪や化け物は実際には居ないだろうって?この世界にはたまに出るんだよ。呪いだってある世界なんだし。それにソコの小珠も漆喰の壁を破壊し、大の大人を軽々運ぶ『憑き物』だ。今さらって言えば今更だ。
(オレだって、実物を見るまで信じてなかったよ。………二度と闘いたくないなぁ。)
盛り上がる平太郎と小珠。恭太郎としては昔、好奇心で踏み込んで、かなり痛い目を見たので出来れば関わりたくない。
なにせ、新撰会の一件も『金についた呪い』が出てるので避けようがないのだが、進んで関わりたくない。
良く有るイカサマ野郎なら良いのだが。
「どうした?」
遠い目をしている恭太郎に問いかける小珠に、手を振って「なんでもない。」と、示した恭太郎。
平太郎をチラリと見たが、何時もと変わらない。恭太郎は、心配し過ぎか。と、茶を飲み干し、気を取り戻す。
「それで?話を続けてくれ。」
「その化け物じゃがな。土佐守が倒して、死骸が御城にあるとか。それでな。二人に頼みがあるのだ。」
((スゲー嫌な予感がする。))
少し冷や汗を流す二人に、ニコニコした小珠が近づいて耳打ちする。
「御城にある獣人間とやらを見たいのだ。城を案内してくれぬか?」
「「はい。解散。さよならー。」」
二人は身を翻して刀を取ると、窓から飛び出し、逃げ出した。
「待たんかー!あ、こら!金兵衛、何をする!?」
「旦那!逃げてくだされぇ!」
小珠も飛び出そうとするが、金兵衛が飛びつき阻止する。流石の小珠も金兵衛を殴り飛ばすわけにはいかず、逃げるのを見送るしかなかった。
「獣人間を知っておるか?」
小珠から逃げ出した二人は藩邸に閉じこもり、嵐が去るのを待っていたが、翌日、登城を命じられたので駕籠を囮に隠し通路から登城することになった。
だが、原因である小珠は実家の酒居藩邸で惰眠を貪っていたので、その心配は結果的には杞憂となっていた。
((またその話か。))
西の丸の秘密の一室にて将軍と大御所、沼田意次が揃っており、その中の一人。将軍である家基が、小珠と同じ話を持ってきた。
「上様。大御所様。ここは私、意次が説明いたします。実はな。先日、北町奉行の飯山土佐守が襲われた事は知っておるな。」
「「無論でございます。」」
そりゃ茶坊主から小姓まで飽きるほど話していたのだから、城内で知らない人間はいないだろう。
城の外にも少しずつ漏れてているのは保全上問題がありそうだが、こういった噂は広がってしまったら止めようがない。
「それでな。町の者たちが噂している獣人間とやらは、本当の話である。」
(まぁ、だろうな。経験あるし。二度と関わりたくないけど。)
忘れたい恥ずかしい過去を表情に出さないように、素知らぬ顔を決め込んでいる二人に、意次は話を続けた。
「ところで和泉守。」
「は。」
「どうやら越後高田や和泉岸和田の方ではお盛んだったようでござるな。」
ニッコリ笑う意次に、汗が止まらない恭太郎。いくら能力があり、実績もあったとしても、腹芸の経験が意次の方が圧倒的に上。隠しきれないようだ。
(バレテーラ。本当に昔のオレの若気の至りは後に響くなぁ。)
将軍の前ではあるが、項垂れる恭太郎。昔の自分を思い出して顔が赤くなっているのを隠したのだが、耳まで赤くなっていて意味はない。
「勘弁してくだされ。」
大名モードも解けて、無礼とわかっていても情けないやら、恥ずかしいやら。
「申し訳ありませんでした。それで何を?」
「ふふふ。いやいや、楽しいものでしたな。和泉守も人の子でしたな。」
パンパンと手を叩くと、覆面一味『龍助一味』が戸板に乗せた死体を持ってきた。死体は成人男性の物ではあったが、四肢は獣のように毛深く、鋭い爪を持っていた。
「コレが獣人間なるものだ。」
将軍や大御所の前に死体を持ってくる。顔を隠す。無礼続きではあるが非公式の場で、意次だから許される行為だろう。
「土佐守が言ぅておったモノとは違うの。意次よ。」
「大御所様。信じられませんが、三日前に運ばれた時は狼の顔と牙があったのです。しかし、日に日に人間に戻っていったのでございます。」
意次が話し終えると、将軍・家基は大御所・家治を見る。
「良かろう。任せる。」
家治が告げると、家基は恭太郎と平太郎の正面に立つと、
「恭太郎。平太郎。この獣人間なる怪異を調べ、先日の新撰会のように場合によっては処置するが良い!」
ビシ!と扇子を突きつけ、無茶を命ずる家基。しかし、大名二人には断ることはできない。
「「かしこまりましてございます。」」
頭を下げて受けるしか無かった。さらば平穏。こんにちは無茶ぶり。
((……取っ掛かりがなさすぎる。どこから何を調べれば良いのか。))
新撰会の時は、赤鰐党が派手に暴れてたし、所属している人間の地位身分が大体分かってた。
しかし、今回の一件は「獣人間(仮)の死体が一つ」だけ。ああ、頭がいたい。
((短い休みだったな。こりゃ長引くかもなぁ。))
使える人間は使い潰す。と、までは行かないまでも早めに解決しなければ、『次の無茶』が出てきた時に押し付けられる可能性も大いにある。
二人は藩邸への帰路。駕籠の中で頭を抱えて悩むのだった。
今日より仕事が本格化してくので、1〜5日に1話投稿すると思います。1話アタリ1500〜3500字を予定しておりますので、宜しくお願いします。
現在行っている『次の女性キャラアンケート』は八月二十五日の23時59分までとします。
二人目の女性キャラは……
-
戦士系
-
魔法系
-
僧侶系
-
賢者系
-
盗賊系