2022/08/26・アンケート締め切りました。多数の参加ありがとうございます。
「これは……見事に。」
「見事にではないわ。はぁ…。」
村上善太夫は主・和泉守基康が落ち込みながら折れた国貞を受け取り確認する。落ち込む主には悪いが、見事というほかない程にキレイに割れるように折れていた。
「殿。そんなに落ち込まなくてもよろしいのでは?我が恵土藩邸の刀蔵には名刀が沢山ありましょう。」
基康様の祖父・神原政嶺は道楽者のとして天下に名を広めた人物。その中の一つである刀道楽により蔵には名刀が並んでいる。
「茶器、芸事道具、遊郭遊び。……どれだけ苦労したか。」
基康様が頭を抱える。数年前に亡くなるまで散財癖が治らず、ご隠居様である先代様も基康様と同じ様に頭を抱えられていたものだ。
(その莫大な借財を僅か数年で返却して、今や蔵には金が貯まっている。)
しかし、基康が生まれてから改正・変更を続けた結果。今や国持大名でありながら黒字という。稀の中の稀な大名として、大名の中では羨望と嫉妬の目で見られている。
しかも、基康が家督を継いだら、越後高田から和泉一国・岸和田城に加増されたとなれば、その目は更に増えるのであった。
「そもそも。蔵の名刀は家臣の褒美用だ。オレ個人の刀はオレの稼ぎから用意するよ。たしか刀屋の目録も刀蔵にあったな。」
使おうと思えば一夜に藩邸の金数千両。それどころか和泉屋にある金も使おうと思えば、万両を使える人間がなんともケチくさい。
(我が藩を救い、公方様の命を救い、側近として活動し、裏では密命をこなす。なんともまぁ、履く草鞋が多いものだ。)
善太夫からすれば、基康の働きは『まさに名君・英主』であり、好きにしていいのでは?とも思うが、
(未だに忘れておられぬのだろうな。)
ウンウンと唸る基康。その横顔を見て善太夫の顔が少し陰った。善太夫から見れば『名君である』が、それは引き立てられた側の考え。
基康に切り捨てられた人間たちからすれば、『暴君』に見えたことだろう。善太夫は刀蔵に向かう基康の後に付き従いながら、昔を思い出すのだった。
「若様!御無体が過ぎると存じます!」
越後高田藩の恵土藩邸。そこでは数名の家臣が年若く、前髪が残った。つまりは元服前の侍に頭を下げて懇願する。
「ならん!藩の財政と問題を解決するためには必用なことである。それとも何か?お主らは散財するのは良いが、金は貯めるな。そういうのか?」
「そのための商人でございます。我々武士が金勘定など……。それを行うために勘定方も居るのでございます!若様が気まぐれで口を出されても戸惑い、仕事もやりにくくなります。」
どうか!どうか!と頭を下げる家臣たち。周囲で見ている若様付きの家臣たちも同情している。
「若様。我ら家臣を信じて政治を任せるのも君主の度量でございますぞ。」
老齢の家臣。当時の恵土家老が取りなすように間に入る。
『なるほど。これは口が過ぎたな。許せ。』
と、引くのが普通の若君。いくら口を出そうとも、自分で采配を取ろうにも、経験もなく知識もないのなら諦める。
そう。普通なら。ココで止まるが……。
「なるほどな。口が足りなかったな。」
しかし、止まらないのが当時の基康。いや、恭太郎。懐から二冊の帳簿を取り出し、平伏する家臣に叩きつけた。
「なるほど。勘定方でも、商人でもない。そのお主らが、商人から賄賂をもらい、公金を多めに申請し、藩の内情を売って懐を温めるのは良いと?なるほど、なるほど。大した武士だ。」
ん?と、見下すように見る若き恭太郎に、冷や汗が止まらない恵土家老と家臣たち。中には顔を赤くして悔しそうに睨みつける者もいた。
「わ、若様。これは藩財政の改善に必要……「ほう?その金を吉原や品川で使い、妾を囲うのが藩財政に関係があると?」……へぁ!?」
恵土家老が口八丁で乗り切ろうとするが、話を切って不正の証拠の覚書を叩きつけた。バサッと散らばる覚書には、『見るのも情けなく、恥ずかしい所業』の内容がまとめられていた。
「もう一度聞こう。金を使うのは良いが、貯めるのはいかぬのか?のう?皆の衆。コレも尋ねよう。懐を温めるために主家をだ騙し、主家を売る。これがお主らの言う。武士か?」
「若様!乱心!」
我慢できなくなった家臣の一人が脇差しを抜き、襲いかかった。
「ぐぅ!!」
「痴れ者めが…。父よりの許可はいただいておる!ワシのやり方が気に食わないのなら何時でも害するがいい!」
子供用の細く短い脇差しを、襲いかかった家臣の攻撃を避けて、脇腹から突き刺した。心臓に突き刺さった脇差しを恭太郎が引き抜くと血が吹き出し、絶命した家臣はその場に倒れた。
「どうだ?まだやるか?腐れ武士とはいえ、武士の意地とやらで一花咲かせるか?」
血振るいした脇差しを鞘に納めた恭太郎の視線と行動に家臣たちは震え上がり、平伏したまま『恐ろしい若様』が下がるまで震えていた。
「若様!大名の世継ぎ!しかも、西の丸様の遊び相手が自ら刀を振るうとは!何を考えておるのですか!!」
「あー、うるさい。うるさい。藩の不正は無くなったし、腐れた御用商人もいなくなったのだ。なにも問題あるまい。」
奥部屋にて血油で汚れた脇差しの手入れをする恭太郎に、若侍。いや、若き頃の村上善太夫が強い口調で注意するが、聞き流す恭太郎。
「聞きましたぞ!酒居家の姫様に『拳法総論』なる本を書いて渡したと!酒居家の若党が嘆いておりましたぞ!それに伊井家の姫様にも余計なことをしたと耳にしましたぞ!」
「酒居様や、伊井様から文句があったか?……ないであろう。それならば良いではないか。」
ハッキリ言おう。この時の恭太郎は『調子に乗っているガキ』でしかない。与えられた特典の一つによって無情なまでに改正と改善を行っていた。
元服後の恭太郎からすれば、『忘れられないけど、思い出すのも恥ずかしい黒歴史。』である。
「若様!このようなやり方では家臣は付いてきませんぞ!」
「なら聞くが、我が越後高田藩の財政と、風紀の乱れは直っておるのか?祖父は隠居しておるのに恵土と国元で好き放題。父がやってるやり方では焼け石に水。」
「しかし!」
「38万両の借財なのだぞ!!利子の返済だけでカツカツ。いや、新しく借金する状態だ!ドイツもコイツも好き勝手やってるではないか!」
苦言を呈する善太夫に、逆に噛みつく恭太郎。実はこの神原家。越後高田藩に移動する前は、譜代としては裕福な大名であったのだが、八代・吉宗公に逆らい、越後高田に左遷された。
それによって収入は半分以下になって、生活が苦しくなった。……のだが、
『今さら生活水準下げれるか!』
と、ヤケになったのか。苦しくなるどころか派手になった。祖父・神原政嶺が藩主でもあったので、さらに借金が増えた。増えに増えた。そのツケで恭太郎たちがヒィヒィ言わされてるのだ。
しかも、『謀反以外では改易しない』という書付けと言う名の保証書のおかげで、腑抜けた家臣が更に腐っていた。
(コレでも手ぬるい!)
何せ半年後には利子を払わなければいけないのに、藩の金蔵は寝床にしているネズミ以外なにもない。
恭太郎の焦る気持ちもわかってほしい。
「善太夫。お主も金が無くて泣いた人間ではないのか!金が全てとは言わぬが、武士は金がなければ飯も食えん!」
ギリリと、恭太郎は幼い顔を歪ませて扇子を叩きつけた。善太夫の様な有益かつ人格も優れた人間が、生まれだけの仕事をしない人間に好き勝手言われるのは、見ていて気分が悪くなる。
(さらに急がねば。)
恭太郎は善太夫の言葉を耳にしながらも、事を進めるのだった。
剣客大名シリーズにハマってしまって、文を休憩時間に書けずじまいてした。もうしわけない。
また、アンケートは本日23時59分までとなります。感想もありがとうございます。
今更ながら、谷久保美濃守は剣客商売の松平伊勢守をもとにすればよかったかなぁ。
四章目候補の選択をお願いします。(候補と殴り書きはあるが進行はゼロ。)
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当初の予定通り・妖怪事件(二件目)
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異能の力などを深堀(?)するメタ的小話
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恵土を出る話(上方へ)
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アンケートで決まった『盗賊系』の早出し
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メイン二人以外の話