徳河家基との会談を終えた神原和泉守基康は、そのまま下城することとなり、半蔵門近くにある藩邸に逃げ込むように帰宅した。
どうせあのまま通常の下城時間まで待機していても良いことなど殆ど無い。茶坊主と小姓に金を握らせ『体調不良』という
「メンドイ。」
自室に戻った基康は大名モードから、平常モードに切り替わると、ぐてぇ。という擬音がピッタリの姿で力を抜いてダラけることにした。
「マナー、マナーとうるさいし、いちいちお伺いを立てて伝言を伝えないと話せない相手がいるとか。時間がかかってつまらん。」
人払いをしているので人の気配がない。一人になれる時間のなんとありがたいことか。
「大名ってもう少し楽で楽しいもんじゃないのかよ。しかも、江戸時代じゃなくて、恵土時代っていうパチもん世界だし。」
この世界に生まれ変わって何度目になるかわからない同じ内容の愚痴をこぼしつつ、冷えた茶を飲み干す。
イライラと籠もった空気で嫌な熱され方をされた体を程よく冷やした。
「公方様も昔から無茶振りが多すぎる。」
モゾモゾとイモムシのように寝転がりながら押し入れを開き、ある部分を叩くと冷気が漏れだした。
「江戸時代いや、恵土時代に冷蔵庫。いやぁ、快適だ。地脈エネルギー、マジ便利。」
恵土藩邸と国元の城の一部は、この世界で存在する妖術や気術と前世の知識を合わせて、
「クリーンエネルギーによる快適生活とか。最高かよ。」
という子供の頃に上がりきったテンションで『術』と融合を行い、恭太郎の隠し部屋を含めて前世の20世紀生活を一部体験できるほど発展していた。
え?前話までの堅苦しい時代劇っぽい語りは?って、嫌ぁなんというか、この話で転生話とか出てくるし、多少砕けてもいいかな?って感じで。あー、ゴホン。
ともかく、侍としての堅苦しい感じがとれ、気疲れからぐったりして素を出して、快適さを満喫していたのだが、
「殿。よろしいでしょうか?」
「うむ。苦しゅうない。入るが良い。」
襖の向こう側から恵土家老の村上善太夫が入室許可を求めてきたので、寝転がったままではあるが許可を出した。
「殿。それがしならともかく、他の五月蝿い面々に見つかるとまた言われまするぞ?」
「良い良い。オレに何かあれば和泉にある我が家は改易よ。末期養子など狡い手を使うにも対処はしてる。それで?何用だ。」
ムクリと上半身を起こし、冷えた茶を善太夫に勧める。まだ肌寒い時期ではあるが色々と仕入れてきたのか額には汗が浮き出ていた。
「ごちそうさまでした。実は…」
グイッと飲み干し、恭太郎の近くまでよる善太夫。もしも害意があって短刀でも突き出されれば軽傷では避けれない距離なのだが、恭太郎としては彼を信じているので、警戒心の「け」の字もなく近づけた。
「実は?」
「先日、浅草の蕎麦屋で殿に無礼を働き、返り討ちにあった赤鰐党を調べてまいりました。」
相変わらず耳が早い。登城前にポロリとこぼした言葉から半日程度で調べるとは。
「続けろ。」
「殿。新撰会という集まりをご存知で?」
「はぇ?!新撰組ぃ?」
あれ?今は幕末だっけ?壬生浪士組のやつだよね?それ。と、思わず素っ頓狂な声を出してしまう。
「いえ、新撰会でございます。」
「知らん。赤鰐党の話じゃないのか?」
善太夫の訂正に、正気戻った恭太郎は疑問を返した。
「はい。赤鰐党は新撰会と呼ばれる組織を構成する一つでした。そこで、新撰会というモノを調べると…」
(どんだけ調べてんねん。)
頭に手をおいて恵土家老の有能さに呆れつつ話を聞いた。なんでも、赤鰐党なる組織の親組織でもある新撰会とやらは、役目のない旗本や御家人が互助会の様に作った組織だったが、いつの間にか養子のアテのない旗本の子弟、悪御家人が集まり『ヤクザまがい・愚連隊のような』行為をしているという。そして新撰会は大きく4つに分かれるという。
・地方から流れた浪人・悪御家人たち侍が集められた戦闘部隊の青鯱党
・鉄砲玉やヤクザ崩れ、食い詰めの半端者たちの先手の赤鰐党
・文書が読み書きでき、銭勘定が出来る人間が身を持ち崩して集まった頭脳役の黄蛸党
・そして大身や名家が集まり他に命令する白鯨党
となっており、総数で100名と町方でも手が出しづらく、若年寄などの幕閣としても名家などの家名を気にして手をこまねく現状だという。
「あー、お約束だね。時代劇の。」
「お約束ですか?」
「気にしないでいいよ。コッチのことだから。」
耳をほじりながら報告を聞いた恭太郎は思わず言葉に出てしまったが、善太夫の疑問をサラリと流した。
「たしかにそれだけの規模だと、町方は命を惜しむだろうし、今の盗賊改も似たようなもんか。かと言って何処かの藩が迷惑を被って藩士を動員するわけもいかんと。」
なんにも考えなくていいなら頭が集まった白鯨党やらを闇から闇に皆殺しにすれば終了なんだが、こういう組織は「巻き込まれた。」「逆らえずに」「他にやりようがない。」と微罪や無罪の人間もいるのがお約束。それに他の3つの組織が頭を失って暴走しても迷惑を受けるは庶民たちだ。
「はぁ。流石に困った。」
時間をかけると被害は増えるし、幕府の権威に傷がつく。かと言って、話を聞いて予想するに偉いヤツラは命令しただけで、
『私達は何もしてませぬが?』
と、ヌケヌケと言うだろう。そんなヤツラを放免すれば同じ様な組織を作るもんだ。ダラリとした体を戻して胡座をかいて頭を掻く恭太郎。
「善太夫。構成員。特に幹部たちを調べてくれ。オレはしばらく藩邸を抜ける。当たってみないと何もわからん。」
「御意に。供は?」
「いらん。何かあったら連絡する。それまでは…」
「お籠りですな。かしこまりました。」
善太夫が恭太郎の私室を出ると、恭太郎は隠していた浪人服と道具と刀を用意して藩邸を抜け出した。
「まずは和泉屋にいくか。」
お忍びの共犯者を第一目標として恵土をフラリと歩き出した。その姿はとても大名には見えなかった。
次話は明後日か明々後日を予定してます。転生要素やなんちゃって時代劇要素は少しずつ出す予定。
登場シーンで一番と思う時代劇は?(今後の参考・指針に。)
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余の顔を見忘れたか。(暴れん坊将軍)
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この紋所が目に入らぬか。(水戸黄門)
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閻魔様の御使ぇよ。(江戸の牙)
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天に変わって破れ奉行。(破れ奉行)
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地獄へ落ちな 等(必殺仕事人)
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テメェら人間じゃねぇ!(破れ傘刀舟)
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手向かう者は斬れ!(鬼平犯科帳)
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桃から生まれた桃太郎!(桃太郎侍)
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白州で裁けぬ悪を斬る(鬼役)
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この金さんの桜吹雪… (遠山の金さん)