「ギャァ!」
蹴飛ばした木戸ごと男が一人吹っ飛んだ。何処かで聞いたことのある声の気がしたが夜の闇の上に、木戸に巻き込まれて下敷きになってるので恭太郎は気にせず。いや、気にもとめずに和泉屋入口近くに立っていた男を更に二人蹴飛ばした。さら一人を膝蹴りで崩れ落とした。
「こんな真夜中に何のようだ!貴様ら!人の安眠。いや、善良な人間になに迷惑かけていやがる!」
崩れ落ちた男を踏みつけ、啖呵を切った恭太郎。とっさに本音が出たが、気付いた様子はみられない。
店の中では遅れてやってきた店の主である和泉屋源左衛門が恭太郎の姿を見て、卒倒しそうになっていたが正気に戻ると、木箱を積み上げ即席の壁を作って安全を確保していた。あの様子では恭太郎に任せたほうが良い。と、判断したのだろう。
仲間たちの惨状を目にして、まさか自分たちがこんな目に会うは思っていなかったのか。先程まで勢いよく木戸を叩いて喚いていた徒党は唖然としていた。
「将軍様の足元で狼藉。しかも八丁堀とも南北奉行所とも目と鼻の先でこの乱暴とは。テメェら覚悟しやがれ!」
つづけて啖呵を切ったが、何故か恭太郎の話を聞いて正気に戻った様子。ニヤニヤ、ヘラヘラした笑いを浮かべているのがわかる。
「威勢の良い兄ちゃんだな。だが、残念だったな。奉行所や木っ端役人たちは俺たち赤鰐党を恐れて手も出さねぇ。」
「俺たちに喧嘩を売った詫び金も含めて、まずは百両を用立ててもらおうか。」
ヘッヘッヘ。と、雑魚の笑いをする徒党。もとい、赤鰐党。なるほど。さきほど蹴っ飛ばした声に聞き覚えのあるわけだ。
多少スッキリして頭から血が下りた恭太郎は先程まで気にも留めてないことを一人で納得した。ついでに足元に転がって悶絶してた赤鰐党の雑魚を喚く面々に投げつけた。
「百両か。つまりココで百両渡せば十人だけだが、押し込み強盗として斬り殺してもいいわけか。」
「はぁ?何言ってんだよ。このサンピン以下の食い詰め浪人の用心棒め。」
「十両盗めば首が飛ぶんだぞ?」
恭太郎は片手に下げた和泉守国貞派の長柄刀を引き抜いた。切っ先を向けると恭太郎の謎理論にヤイヤイ騒いでいた赤鰐党はピシャリと水を打ったかのように黙り込んだ。
「な、何をビビってやがる!食い詰め浪人の用心棒ぐらい数で押しつぶせ!そうすりゃ、大店の和泉屋。金蔵には小判が眠ってるんだぜ。」
腰に差した長脇差や短刀を抜きもせずに固まっていた三下たちに、木戸を押しのけ意識が戻った男。つまりは先日、蕎麦屋でもボコボコにされた若い男が発破をかけた。
金蔵に小判との言葉に得物を引き抜き構えた。
「おや?思ったより丈夫だな。結構、力を入れて蹴ったんだが?ふむ。選べ。また蹴っ飛ばされたいか?それとも、斬られたいかい?」
正眼。つまりは中段に刀を構えた恭太郎はニヤリと笑った。
「貴様ぁ!この鰐手の権八様を馬鹿にするのも大概にしろよ!」
と、若い男は赤い羽織に隠していた3本鉤爪の手甲をつけると、腰に差していた十手の様な鉄の棒を抜いて構えた。暗くてハッキリは分からなかったが、鉄の棒は十手とは違い、先が鋭く尖っていた。
「貴様こそ選びな!金払って詫びるか。俺たちに殺されるか。」
どうやら丈夫なだけではなく、周りの三下たちの反応を見るに、腕っぷしにも自信がありそうだ。
二人の三下が長脇差を構えて鰐手の権八の前に移動する。恭太郎と一足の距離だ。
「はぁ。」
「どうした?ビビって反応すらできねぇのか?」
ため息を吐いた恭太郎に勝手に調子づく鰐手の権八。どっちの答えを返しても飛びついて惨殺してやるか。集団でナマスにするつもりだったのだが…
「話せば話すほど、貴様ら相手にしたオレの若さというか。ストレスというか。それに呆れてな。よくそこまでザコで威張れるな。」
期待していた反応はなく、恭太郎は正眼に構えた刀を片手持ちでダラリと下げた。そのまま一歩踏み込み、片手の逆袈裟斬りを見舞った。軽く振られた様に見えた一閃は、
「「ぎゃああ!!」」
周囲の叫び声と、長脇差二本と人間二人を屑鉄と肉の塊四つと血の噴水というは惨状を作り上げた。
「………」
へたり込むザコたち。鰐手の権八も空いた口が塞がらない。
「良かったな。権八とやら。」
恭太郎は権八に向けて、寒気がする様な笑みを浮かべた。権八はその笑顔をはっきりと見た気がした。
夜の暗闇で確認できるわけがないのに輪郭も目鼻をハッキリ見えた。
「これで二十両だぞ?それとも、もっと欲しいか?」
地面に落ちたチャリンとも、血溜まりに落ちたべシャリとも違う音がした先を見ると、小判が二十枚あった。
つまり一人の命を奪う代わりに十両支払ってやろう。と恭太郎が言ってると理解した権八は武器をしまい、部下たちを後ろに下げた。
(……怖ぁ。我ながらサイコすぎるだろ。だが、本当に役人が来やしない。役に立たねぇなぁ。これにビビってくれればいいんだが。)
血振るいした刀を肩に担いだ。赤鰐党の面々は転がった死体にビビっている。目からは余裕も何もなく「死ぬのが怖い。」と言う色しか見えてこない。
ネズミ相手に無敵で調子に乗りすぎたチワワが百戦錬磨のマスティフに吠え続けたら噛み殺された。そんなイメージが恭太郎の脳裏に浮かんだ。
どうやら喧嘩や弱い者いじめをすることはあっても「本当に殺される様な目」にはあったことがないのだろう。
「お、お前。こ、こんな事をしてタダで済むと「和泉屋に押し入った賊を斬った。それにやりたい放題してたお前らだ。町方も『実は威勢だけのザコ』と知れば動くだろうよ。なぁ?」
自分たちの腕っぷし、勢い、数に負けない相手に対して赤鰐党と、権八が出来るのは、
「こ、こんな事をしても俺たちの仲間。つまり新撰会が黙っちゃいねぇぞ!」
自分のバックや仲間を出して脅すことだけだった。
「黙ってないってどういうことだい?」
「はん!効いて驚け。俺たち赤鰐党の兄貴分、親分である白鯨党は旗本の殿様や身内衆がいるんだぜ。木っ端浪人のお前は近々あの世行きってことよ。」
行くぜ。野郎ども。と、精一杯の虚勢を張って発した声に従い、赤鰐党の面々は尻尾を巻いて逃げ出した。
「いや、そんな話は知ってるから。一人でも手がかりになりそうな。いや、親玉の名前ぐらい言えよってんだ。趣味の悪い芝居して損したわ。」
懐紙で刀の血を拭き取った恭太郎は赤鰐党と、町方の使え無さに大きくため息をつきつつ和泉屋の中に戻るのだった。
登場シーンで一番と思う時代劇は?(今後の参考・指針に。)
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余の顔を見忘れたか。(暴れん坊将軍)
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この紋所が目に入らぬか。(水戸黄門)
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閻魔様の御使ぇよ。(江戸の牙)
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天に変わって破れ奉行。(破れ奉行)
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地獄へ落ちな 等(必殺仕事人)
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テメェら人間じゃねぇ!(破れ傘刀舟)
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手向かう者は斬れ!(鬼平犯科帳)
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桃から生まれた桃太郎!(桃太郎侍)
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白州で裁けぬ悪を斬る(鬼役)
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この金さんの桜吹雪… (遠山の金さん)