少女は岐路に立っていた。
13の生まれ年を繰り返し、その過程とは実につまらないものだった。
乱雑な暴力を受けずは朝夕餉を抜かれ、言論に逆らえば追い出される。
生きるため、機嫌を損ねないために常に父親という名の存在─────
あるいは、人間という名の化け物の顔色を窺い続けた。
そして、長い埋伏の時を経て、少女は遂にそれを振るうための力と技術を身につけた。
それは父親が祖父より受け継いだ、ただの収集物だ。
そのコレクションが骨董品等の類と異なるのは、それは人を殺すに容易い刃を持つ点である。
力を手にした少女はまだ取り返しの付く分岐点にいる。
「戻る」選択を選び、転落する絶望を選ぶのか。
「進む」選択を選び、咎人として希望を抱くのか。
少女は一切の迷いなく進む道を選んだ。
それは過去との訣別と正常との隔絶であり、
三年幾月の前に母親に宛てた約束のためでもあった。
◇◇◇
2009年8月2日
天気:台風につき大雨
ただいま、お母さん、
僕は旅立つことにしたよ
9歳の時に決めたこと、ずっと諦めないでいれたんだ。
正直、辛かった。
お母さんがいなくなってから、お父さんはヒトではなくなっちゃったから。
もう僕には、アレは人間の形をしてるだけの化け物にしか見えないんだ。
だから、僕はアレを殺して、家から出ていこうと思う。
お金も、長持ちする食べ物も、全部持っていく。
この家の中で、一人旅に役立つものを、全て持って行くんだ。
本当は、人間に見えなくなったとしても、お父さんを殺したくない。
でも、お父さんと、憎い相手と、同じ存在なんだ。
本当はずっと、お母さんとお父さんと一緒に暮らしたかったよ。
入学式も、卒業式も、高校だって
ずっと、ずっと二人に見てて欲しかった。
お母さん、お父さん
◇◇◇
数日後、ある一家の斬殺事件が報道された。
肩から袈裟懸けに鋭利な刃物で腰まで切り裂かれた状態で発見された。
専門家によれば、素人でここまで綺麗に人の身体を切るのは不可能であるとされ、
行方不明となった娘の
警察は娘の行方を調査すると発表したが、それも次第にまた別の事件、そのまた別の事件と
世間の記憶からは忘れ去られていった。
◇◇◇
◇◇
◇
その後、燿は一人旅を続けていた。
路銀が無くなれば、夜の繫華街にでも出向いて一人ずつ襲い強盗を行い、
実力不足に悩めば道場破りを繰り返した。
そのうち、彼女は一瞬で移動出来るほどの歩法を身に着け、
あるいは一刀にて切り伏せる術を身に着けた。
遂には小規模な半グレをゲリラ戦法を繰り返すことによって壊滅させ、
いつものように金品を奪い去っていった。
2015年8月、太陽照らす真夏のこと
彼女は実に6年もの年月を悠々自適に、また各地を転々としながら過ごしていた。
燿は京都に訪れており、それはある事件の発生により彼女にとっては生活しやすいと思ったからだ。
京都府大量連続失踪事件、あるいは──────「百鬼夜行」
既に地獄に落ちる定めと安堵していた燿は、圧倒的な力と愛の前に己の全てを否定された。
これで前置きはおしまい
ここから本編と合流し、彼女が地獄の谷底に叩き落されて行きます