2015年の6月、燿が京都府に訪れた時のお話
京都では、大量連続失踪事件が発生していた。
それは、夜間に外出していた者が失踪する、文字通りの事件。
既に数百人の被害者を出しており、現在の京都では夜間外出禁止令が敷かれている。
同時に、学校や会社においては業務時間の短縮を言い渡されており、
無辜の人々は日々恐怖しながら、日常を守ろうとしている。
その事件のまたの名を人々は口を揃えてこう呼ぶ。
──────────「百鬼夜行」と。
◇◇◇
事の発端は、ある被害者が交番で保護されたことからだった。
一般的な会社員が、夜遅くまで残業をした帰りのこと。
コンビニで購入したお酒を飲酒しての帰り道。
その男は、"鬼"を目撃したというのだ。
交番まで必死の想いで逃げ込んだ彼は、夜間に外出した者の現状唯一の生存となった。
その後彼は事情聴取を受け、その内容を警察が発表した。
マスメディアが、またあるいはSNSが、もしかしたら警察の発表の時からかもしれない。
いずれにせよ、京都府大量連続失踪事件は「百鬼夜行」として呼ばれるようになった。
しかし、夜を恐れる民にとっての大事は、時に夜を好む者達にとっての収穫祭となる。
燿を始めとして多くの怖いもの知らずは夜を歩き、あるいは窃盗や犯罪の温床となった。
だが、その者達もすぐに現実を知ることとなる。
夜、それは実に鬼が出るのである。
それらは比叡山より群となり街へと雪崩れ込む異形の大津波であり、狂気の世界だ。
妖怪、鬼、幽霊、あるいは魑魅魍魎、そして全て。
嬉々とした鬼々は霊峰より雪崩出で、火中に飛び込んだ愚者共を蹂躙する。
燿はその中でも、幸運なことに並ではなかった。
街へと雪崩こむ、とは言うものの、建物は何故か一つの傷もなかった。
その事に気が付いた燿は、可能性に賭けて路地の壁を伝い、屋上に飛び移った。
予想は的中し、百鬼夜行という名の津波は家々に建物を全て避けていたのだ。
そして、建物と建物の間、その溝となる道に路地を流れていくことを俯瞰し、気付きを得た。
「...なる、ほど?建物は傷一つない。不思議なことに」
「なら、上手い事屋根伝いに移動することが出来れば、車上荒らしは簡単かな」
屋根の上で一息つき遠くまで見渡すことで、更なる気づきを得る。
「あれは...ふむふむ。どうやら、波みたいに第二波があるのか」
「となると、何日か観察して、どのタイミングなら安全なのかを調べた方が良さそうだな」
軍勢は比叡山より流れ出て、それは波のように定期的に次の軍勢を吐き出している。
街を通った百鬼夜行は気が付けば消えており、引き返してくることはなかったのだ。
この夜から、燿は一か月程度の時間をかけてこの波の周期を探りだす。
燿はこの世界において、「中の下」程度の実力を持っています