燿は今、京都の夜を駆けていた。
それは百鬼夜行の軍勢から逃げるためではなく、
ある意味での"同業者"から逃げるためだった。
空模様は快晴につき、月明かりによって四人の趨向は照らされていた。
◇◇◇
「はぁ...はっ、しっつこいなぁ...!」
逃走者は障害物を介しながら豪胆な事に、刀を二本携えて走っていく。
路地は彼女にとっての庭であり、通常の人間であれば撒くのは容易だ。
だが、追跡者は異様なほどの執着心で以て燿を追い立て、なおも捉えている。
「「弾痕」、残り何発だ」
「あと2だ。替えは持ってねぇんだよ、急だったからな」
「よく狙えよ、同胞に手を出したこと、思い知らせてやらなくてはな」
彼女が追われているのは、ほぼ全てが自業自得と呼べるものであった。
いつものように夜に一人で出歩いている者を襲い、財布や時計等の
金品、貴金属類を奪おうとしたのである。
しかし、相手は見た目こそ人間なものの、実に奇妙な存在であった。
燿は犠牲者を殴り飛ばし、金品を奪うことまでは成功した。
だが、その男は燿が刀を持ち抜刀している状態が見えているにも関わらず反撃に出た。
そして、今もなお奪い返そうと追ってきているのである。
「あのクソアマ許さねぇ、ぼこすか殴って切りまくりやがって」
「人間はやっぱり生かしちゃおけねぇ、おい「弾痕」「集」、逃がすなよ!」
追跡者の名前はそれぞれ
「
「くっ......(なんであいつ、四肢を切り刻んでやったのに生きてるんだ)」
「弾痕、とかいうやつは拳銃を使うし...!」
「いつから日本はこんなに物騒になったのかな...っと!」
鏡は「紙屋」と呼ばれている男を襲い、反撃の意思を見たために四肢を切断した。
だが、その男はそれを意に介さず残る腕を振り付けてくる異常性を見せていたのだ。
そして、大量の出血にも関わらず今こうして追跡を続けている。
仲間を呼んだこと、そして死なないのではという危惧から彼女は撒くことに決めた。
燿は脚に力を込める。瞬間、彼女は大きく跳躍し、3メートルほどある弊を一気に一跳びにした。
「チッ、「弾痕」、逃がすなよ」
「うるせぇな、黙ってろ」
「弾痕」と呼ばれた男は言葉を返すと、空中に向けて一発、引き金を引いた。
銃弾は当然燿に届くことはなく、空を飛んで的外れな電信柱に着弾する。
「また来る...!次はどこからっ!?」
燿はその銃声に警戒する。
路地を抜け大通りに出た燿は近くに違法駐車してあった車の陰に隠れた。
「奴の能力は、恐らく着弾地点にワープしてくる力...」
「残弾はこれで一発、おとなしく乗り越えるか、さっきの発砲の着弾地点にワープしているか...」
「だけど...あと少し。あと少しで...」
煩く振動する心臓に黙れと押さえる。
燿にはある予感があった。
それは分析と経験によって基づかれた勘であり、この状況を絶対に脱する大波だ。
「百鬼夜行」、その波、周期。
彼女は一か月を用いてそのタイミングを入念に観察し、おおよその中りを記憶した。
あと10分。その時間をやりすごすことさえ出来れば、軍勢による混乱に乗じて逃げ出せる。
「...っ(来た)」
鋭い殺気。
車による遮蔽越し、1時の方角に「弾痕」が現れる。
こちらの位置には気が付いており、銃を構えながらゆっくりと近づいてくる。
仮に歩法で距離を詰めようともどうあがいても刀の届かないギリギリの距離を保ち、回り込む。
「(落ち着け...今僕のやるべきことはあいつの無力化じゃない...波を待つことだ...)」
鼓動が急速に速まることを感じる。この状況で迂闊に姿を曝せば、確実に撃ち抜かれる。
痛みと恐怖の後の終わりの結末、死の気配が迫る。
「(そのためには、この車を使って身体を曝さないように移動しなくちゃ)」
時間稼ぎ、ゆっくりと車を盾に移動しようとしたその時。
鈍い金属音が、足元へと転がり込んだ。
「...!?」
瞬時の判断、燿は車から渾身の脚力で以て飛びのく。
時間にしておよそ1秒後。
「────────(僕、空を飛んで)!?」
燿は、宙を舞った。
───────
─────
───
「いっ...つ......ぐ...う、油断した、な...!」
転がってきたものは、破片手榴弾だった。
手製のためか、破片による裂傷は軍採用の程ではなかった。
しかし、それでも爆風と破片が合わさることで油断した人間ならば十分に無力化を図れるものだった。
燿は爆風と衝撃によって軽い脳震盪を起こし、また全身に亘って破片が突き刺さっていた。
幸い脚は動くようだが、視界がブレておりまともに走ることも出来ないことを朧気な意識の中で考える。
視線を上げた先に、「弾痕」が構えた銃口が見えた。
「俺たちをなめた罪、贖ってもらうぜ。人間」
「っ.........」
引き金に指がかかる。
その僅かな金属音は、旅の終わりを意味するものであり、燿は目を閉じて最期の時を過ごそうとした。
「(あぁ...ここで、終わるのか...わけの分からない生物に絡んじゃって、落とし前をつけられて...)」
「...ふふっ、思いのほか、下らない人生だった...な」
銃声が、響き渡った。
◇■◇
「............」
痛みはなく、消えゆく意識...といった感覚もない。
いや、本来ならば破片が刺さって激痛が走っているはずだろうか、自分で考えたことをそんな場合ではないだろうと一蹴する。
「?」
顔を上げる。
男は顔をしかめながら呟いた。
「......しまった、近寄りすぎた」
「クソッ!こいつがどこまでも逃げるからここまで来ちまった」
「黄泉返りに襲われちまう...チッ!」
「弾痕」はその場を後にして、街の闇へと消えていく。
「何を言って...は?」
燿は男の逃げた方向を反射的に確認しようとした。
それ故に彼女は必然と言うべくして"ソレ"視線が吸い込まれた。
彼がいた場所、その彼の背後となる場所には、
頭部を撃ち抜かれ、全身が腐乱した醜い姿の死体があった。
だがそれは、どれだけ変り果てようとも変えようのない鎖、罪の象徴─────────
─────────鏡宗次の死体があった。
知人に教えられて、性的な描写がガンガンあるわけではなくて、
残酷な描写がかなりある程度ならR15の方が良いと教えていただけたため、
必須タグの方を外しました。
濡れ場系期待して見てくださっていた方、本当にすみません...!