僕はサイレンススズカ   作:キサラギ職員

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序盤を若干の修正


1、僕はサイレンススズカ

 僕はサイレンススズカ。男だ。

 

 どうやら自分は男らしいというのは、ふと気が付くと芽生えていた意識だ。

 僕はウマ娘だ。ウマ娘というのは、違う世界のウマという生き物の魂を受け継いだ女の子のことで、ウマ娘とヒトの間に生まれてくる、らしい。女の子しかいないはずなのに、僕は自分が確実に男だったという意識がある。前世では、確実に男だったはずだ。記憶があいまいなので、名前とか、どんな人間だったのかとか、そういうのは思い出せない。

 おかしな話だ。だって、ウマソウルっていうものを継承したのがウマ娘なのに、男だった、人間だった記憶があるなんて。どこかで混ざってしまったのか、単なる勘違いだったのか、とにかく、僕は女の子だったけど、男の子の恰好を好んだ。幸い両親は理解があった。女の子の恰好が嫌いなんだということに理解を示してくれた。僕は、小学校では、まるで男の子のように振る舞った。

 

 僕は、走るのが好きだ。

 これはもう、どうしようもないことらしい。僕がウマではなかったという意識があるのに、走るのがたまらなく好きなのは、ウマの魂と、僕の魂がどこかで混ざってしまったのだと思う。神様は気まぐれだ。僕の魂だけ切り離して、サイレンススズカという子だけにしてあげればいいのにと、一時期は名前も嫌いだった。走ることも嫌いになりたかったけど、嫌いにはなれなかった。走らないとイライラしてくるので、ウマソウルの影響って怖いなって思う。逆に、僕の意識から来る影響なのかは知らないけれど、僕はアウトドアも好きだった。荷物を担いで、一人で外で泥だらけになって遊んでいた。

 とにかく、走りたい。できれば、他のウマ娘達よりも速く、もっと速く……。

 小学校では、ぶっちぎりの一位だった。だって、人間くらいしかいなかったから。手を抜いてもかけっこでは一位だった。正直つまらなかったくらいだ。

 本格化が始まったのは中学生くらいの時だった。なんでもウマソウルの影響が強く出てくる成長期らしく、能力が飛躍的に伸びるらしい。この頃、車と並走できるようになっていたのは、我ながら恐ろしかった。

 自分の力と同等のヒトがいて、走ることが主軸の学校に進学したかった僕は、府中にあるトレーニングセンター学園に受験することになった。

 面接ではちんまりとした女の子がいた。後になって聞いたけど、理事長だったらしい。ほんとうなんだろうか。疑わしいけど、嘘じゃないとは思う。

 

『走りたいんです。他の誰よりも速く、誰も並ぶもののいない、景色を見たいから』

 

 そう答えたのが効いたのかは知らないけど、僕は入学することができた。

 

 

 

「………うるさい」

 

 チームリギル。そこでの指示は窮屈なもので、事ある毎に指示指示指示。一々と突っかかってくるので僕は、メイクデビューで指示を無視。その後も指示を無視。そんでもって、ここにきて、退部届を提出して、一人でやってやろうかとほっつき歩いている時に――。

 

「よう。リギル辞めたんだってな」

「誰ですか?」

「あちゃーちょっとは有名かと思ってたんだけどなぁ。スピカのトレーナーの沖野。よろしく。うちにこないか?」

「でも」

 

 またあれこれ指図されるのだろうか。チームに所属する以上、あれこれ言われるのは仕方がないうわぁっ!?

 

「いいトモだ。芸術品と言っていい。関節からの靱帯も柔らかくバネが効きそうだ。天性の逃げは伊達じゃない」

「………なんで触ってるんだよ……」

 

 あ、いけね。うっかりすると男口調に戻っちゃうんだよな。一応は丁寧語で喋ってるのが基本なんだけど。

 沖野とか名乗ったバーテンダーみたいな雰囲気のお兄さんが、俺の足を触っている。これセクハラなんじゃねぇの? いや、僕は男なんで別にいいんですけどね。

 一通り触った沖野はハッと気が付き後退りする。

 

「ああ、すまん。つい、癖で。それにしても、蹴らないんだな。一発貰うかと思ったよ」

「まるでいつも蹴られてるみたいな言い方っすねそれ…………」

 

 ウマ娘の全力で蹴られたら死ぬんじゃねぇのかな。世界記録だと最大でも90km/hくらい出せる脚力なんだけどなぁ。

 沖野さんは親指を自分の胸元に向けてみせた。

 

「よし決まりだな。うちにこい」

「いや、勝手に決めんなよおっさん」

「お兄さんって呼んで欲しいね」

「わかった、わかったよ。どっかのチームに所属しないといけないのはわかってたんだ。代わりにさ、条件がある」

 

 僕は、この男をどうにも憎めなかった。仕事熱心なんだろうなあ。つい触っちゃうんだろう。触るのが一番効率的な確認方法なわけで。

 僕は手を差し出した。

 

「一本、飴ちょうだい」

「よろこんで」

 

 あ、それストックとかあるんだ。

 こうして僕はリギルからチームスピカに移籍したのだった。

 

「やっぱりそれ煙草の代わりなの?」

「ま、そんなとこ。口元が寂しくてね」

 

 僕は一緒に飴を舐めつつ部室まで案内してもらったのだった。

 

 後日。放課後呼び出された僕は、ゴールドシップ、ウオッカ、ダイワスカーレットの三人が不審者ルックに変装してデカい麻袋を抱えて走って行ったのを見ていた。

 

「なにやってんのあれ……」

「ん? スカウト」

「誘拐とかじゃなくて? もしもし? 警察ですか?」

「スカウトだから! 安心しろって手荒な真似はしない」

「もう手荒な真似してんだよなぁ」

 

 どっから突っ込めばいいのかわからず困惑していると、一人の女の子を担いで持ってきた。

 これが僕とスペシャルウィークとの出会いだった。

展開

  • 沈黙の日曜日の回避
  • 百合恋愛
  • 沖スズはいいぞ
  • なんでもいいから続き
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