僕はサイレンススズカ   作:キサラギ職員

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10、本番当日

 

 

『一番人気のキングヘイローがゲートに入ります!』

 

 弥生賞当日、警戒するべき二人組の姿があった。キングヘイロー。緊張の色は見えず、堂々たるゲートインだった。

 そして……。

 

『三番人気、セイウンスカイです!』

 

 セイウンスカイは緊張を見せることなく、ゆるっとした態度である。口笛まで吹いている。ように見える。

 

「あの性格、掴めないよなぁ」

「ねー」

 

 ウオッカとスカーレットもそんなコメントを残す。

 

「猫………猫みたいですよね。あ、スペちゃん……13番、大外かぁ。前の勝ちパターンと同じような位置ですね」

「ああ、だが油断はできない。一番人気のキングヘイローの差し足は警戒に値するし、セイウンスカイの逃げか、先行策には注意が必要だ」

「逃げ………実力者と当たるのはこれが初めてですもんね。連れられて加速しなければいいけど……」

「実力者ならいるじゃないか。トップクラス級のスズカ、お前がな」

「……ありがとうございます」

 

 まあそうなんですけどね。僕の実力は同期でトップと思っていいと思う。ガチ勝負もスペちゃんと何度かやって、前から煽ってみたこともある。逃げ相手に焦ってスタミナを使い切ることはないだろうと思うけど。

 

「セイウンスカイ、逃げるねェ……」

「ペース乱されないでくださーい!」

「スペ先輩、あの位置で大丈夫かな」

「だいぶ前ですもんね……トレーナー、でもあの位置でいいんじゃないですか。少し、ペースが速過ぎる気がしないでもないですけど」

 

 沖野トレーナーがにやりと笑った。

 

「勝負は四コーナーを回ってからだ」

 

 四コーナー。最後のカーブ、そして心臓破りの坂とも呼ばれる傾斜がある。そこが勝負どころだな。坂の練習は腐る程やってきた。スペちゃん、グッドラック。

 

「おい、スズカ。はー、いよいよ勝手に盗むようになったか」

「もらっていいですか?」

「そういうのは先に言え。あげないわけじゃないんだから」

 

 口が寂しいので尻ポケットから飴引っこ抜いて咥える。これだよ、これ。ちょっと窘められたけどね。

 

『大外から仕掛けてきましたよ!』

 

 実況の人が言う。確かに、スペちゃんが大外から5人を抜き去っていくのが見えた。驚異的な足だ。逃げて差すやり方の僕も見習いたい。

 直線に突入。坂に入る。

 間に挟まっていた一人を抜き、あとはセイウンスカイのみ。後方から追いかけるキングヘイローは、距離が離れすぎている。差すのは厳しいと思った。彼女、中距離は向いてないんじゃないかなぁ。足がヘロヘロになっているのがわかる。

 

『登れ登れ登れ!!』

 

 みんなで声を合わせて応援する。

 セイウンスカイを………抜いた! ゆっくりとだけど、抜いていく。そしてゴールイン!

 

『勝ったのはスペシャルウィークだぁぁぁぁっ!!』

 

 大歓声の中、スペちゃんは観客席に手を振っていた。

 

 

 

 

「スペシャルウィーク、弥生賞勝利おめでとう! 乾杯!」

『かんぱーい!』

 

 そして僕たちは、あっ、トウカイテイオーもいるよ。チーム室でちょっとしたパーティーを催したのだった。スパゲッティやら七面鳥焼きやら、多そうに思えるけどウマ娘の食事量からするとこれでも足りないくらいだ。

 もっともメインで食うのはスペちゃんだけどね。スペちゃんはモリモリに持った料理をおいしそうに食べている。いや盛ったのは僕なんだけど紙の皿が悲鳴を上げてる。盛りすぎたかも。

 

「ぷはぁぁっ!」

 

 ビールかな? という勢いでスカーレットがオレンジジュースを飲んでいる。お酒は飲めないからね、仕方ないね。

 ゴルシがジュースを飲んで、スペちゃんに話しかける。

 

「中山の坂はきつかっただろー?」

「はい、ごにょごにょごにょごにょ」

「ぶっ、あはははは!」

 

 やべぇ何言ってるのかわかんねぇや。思わず僕も噴き出した。

 

「ふふふふっ。ウィニングライブもちゃんとできてたし、結果は上々ですね」

「はひぃっ!? あっ、ありがとうございますー!」

「おう、だいぶマシになってきた」

 

 あの後のウィニングライブ、しっかりと踊れていたし、歌えていたんだよな。特訓の成果が出たと言えばそうなんだけど、元々センスがあったんだろうなというのがわかる、可愛いライブだった。

 ずれてた? それはそう。いいんだよ、こまけぇことは。

 料理喰いすぎて妊婦さんかよってくらい膨れた腹を見ていると、つい触りたくなる。けど我慢だ。

 

「トウカイテイオーさんのお陰です! またダンス教えてください!」

「いいよ、だってボク、スピカに入ることにしたから」

 

 一瞬の沈黙を置いて、今度は沖野トレーナーがオレンジジュースを噴き出した。

 

「ええええええ!?」

「お前も驚くのかよ!」

 

 ゴルシ迫真のツッコミが入る。お前……ツッコミもできたのか。

 仕方ないなあ。ハンカチ取り出して口元を拭おうとすると、流石に恥ずかしいのかハンカチだけ受け取って自分で口を拭いた。

 

「サンキューな」

「どういたしまして」

「ボク、カイチョーに追いつきたいんだ」

 

 テイオーが言う。カイチョーに追いつく。並大抵のことじゃない。勝負に絶対はないが、この娘にはある。とまで称された並ぶものなしの名バ、シンボリルドルフ。正直逃げである程度距離を離せるとは思うんだけど、ぴったり後ろに付かれて風よけに使われるイメージしか沸いてこないのが怖い。最後の最後でブチ抜いていくだろうなと。

 

「だからスピカで力を付けてカイチョーとレースに出て見せる!」

「でかい目標、いいじゃないか」

「はいっ! みんな! よろしく!」

「よろしくお願いします」

 

 僕が言うとみんなも次々挨拶をした。

 

「よろしく!」

「よろしくお願いします!」

「うぃーっす」

「さー食べるぞー!!」

 

 

 こうして夜が明けたとか。

 それにしてもスペちゃん食い過ぎじゃないのそれってくらい食ってたな。大丈夫かな。

 

 

 

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