僕はサイレンススズカ   作:キサラギ職員

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サイレントイノセンス:『僕』の勝負服。原作のそれとは違ってフジキセキの勝負服に若干近く、ズボンである。


13、皐月賞に向けて

 

 わからない。僕はゴルシという女が分からない。なんでみんな走ってるときに一人将棋してるんだろうね。

 わからない。トランプタワー作ってる場合かよ。

 わからない。いやちょっと筋トレ要素あるからわかるけど土手に丸太打ち込んでる場合じゃないんだよ。

 

 でもまあいい。なんといったってゴルシ、あれでも結果を残してるしなぁ。アスリートに必要なのは肉体だけど、精神も大切だ。ああやってやる気を維持してるのかもしれんしなあ。下手に突っ込むとふと気が付くと一緒に将棋打ってたりするので、突っ込むのはやめておこう。

 ちなみにゴルシ、将棋がクソ強い。

 

 皐月賞に向けて、スペちゃんの特訓が始まった。今まで以上にハードワークで、潰れてしまうのではないかと思ったけど、日本一のウマ娘になるんだという決意のためか、潰れることなくしっかりついてくる。

 スピードトレーニングはもちろん、スタミナもそうだし、フォームの修正もやった。やれることは、僕も手伝った。主に練習相手としてだけど、巻き返しの速度が本当に上がっているのがわかる。僕にとっても、侮れない相手だ。

 逃げに天敵がいるとすれば、それは一番最後の最後で張り付いてきて高速を発揮する差しだろうか。最終直線になると横に広がりさえすれば抜けるチャンスがいくらでもあるので、脅威になる。

 

 僕はスペちゃんの蹄鉄を直してあげていた。この辺の調整、まだスペちゃんは苦手なんだよね。装蹄師さんに技術を学びに行くタイミングを作ったほうがいいかもしれない。

 

「直したよ……直しましたよ。はい、これ」

 

 いかんねぇ、うっかりすると元の口調になっちゃう。仲がいいルームメイトだからかな。

 僕は、満足げに手紙を見つめているスペちゃんの方を振り返った。調整を済ませた靴を、スペちゃんに手渡す。

 

「ありがとうございます!」

「手紙、なんて書いてあったの?」

「お母ちゃん、レース見に来たいそうです」

 

 北海道の田舎から出て関東まで来るのは恐ろしく骨だ。行きかえり宿泊すると何万円飛ぶことやら。

 

「私も来て欲しいんですけど交通費も掛かるからこなくていいって返事します」

「次も勝てるといいね」

 

 あー、あかんね。気が緩むと素の口調になっちゃいそうになる。まあでもいいかな。別にという気持ちもある。スペちゃんなら。

 スペちゃんはにっこりした。

 

「はいっ! 頑張ります!」

 

 

 

 皐月賞前日。

 僕、トレーナー、スペちゃん、ウオッカ、スカーレット、ゴルシに新メンバーのテイオーでミーティングをやっていた。と言っても簡単な打ち合わせだけどね。あとは、新しい衣装のお披露目。

 

「さあ明日はついに皐月賞だ!」

「はいっ!」

 

 長かったようで短かった練習期間。どれだけやれるか、見させて貰おう。

 沖野トレーナーが衣装を持っている。紫? マゼンタ?と白の勝負服のように見える。可愛いなぁ、僕の衣装もそろそろ届くはずなんだけど。

 どんな衣装かというと、夢の中で見たやつをモデルに、ズボンに切り替えたきりっとした印象の衣装だ。届いて、着るのが楽しみだ。

 

「G1レースは最高峰のレース……今までとはわけが違う。気持ちを切り替えていけ」

「はいっ!」

「普段とは違って、勝負服で走ることになる。特注だぞ」

 

 勝負服。着るとウマ娘の気持ちが高揚して速く走れるという特別な服だ。専門の業者に発注するのがほとんどだけど、一部のウマ娘は自作しているという。

 ようはあれよ、スイス傭兵とか、ランツクネヒトが着てた衣装だと思ってくれていい。

 

「さあ、着てみろ」

「わぁぁぁ……」

 

 受け取って感動の声を漏らすスペちゃん。の様子を物欲しそうな目で見つめているウオッカとスカーレット。君たちのもそのうち届くんだからさ、我慢しなさい。

 

「わ、私の為に……」

 

 目をうるうるさせるスペちゃん。感情豊かで可愛いなあ。

 

「ありがとうございます!」

『いーなー』

 

 ウオッカとスカーレットが心底羨ましそうに言う。もうじき来るからさ……。

 

「さあ早く着替えるんだ」

 

 沖野トレーナーは満足げに飴を咥えなおした。

 さーて、マ子にも衣装って言うけれど、どれだけ可愛く映えるかなあ。わくわくだ。

 

「お前は出てけよ」

「そうですね」

 

 強制退場させられる沖野トレーナーに続いて僕も精神男だしなと出ようとすると、

 

「いやいやいやいや」

 

 とゴルシに突っ込まれる。お前……ツッコミもってなんかデジャブを感じるな。

 

 数分後。衣装にチェンジしたスペちゃんをみんなで見る。なるほど、色がよく似合っている。セーラー服がモデルなのかな。腰のリボンも可愛い。

 

「イイネー」

「似合ってるじゃねぇか」

「マ子にも衣装だな」

「ありがとうございますっ! すごくうれしいです!」

 

 とその時、何か嫌な音が聞こえた。何かが外れたような音だ。外かな。

 

「な、なんでもありません……あはは」

 

 ? スペちゃんが何かを誤魔化すように笑う。なんだろう、嫌な予感が……まあ、なんとかなるでしょう。

 さて、衣装もそろったことだし、後は明日に向けてゆっくりと体を休めるだけだ。

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