翌日からスペちゃんのダイエット大作戦が開始された。
泣く泣く実家から送られてきたにんじんを封印したり、鬼のように筋トレしたり、ダンスしたり、飛び込みしたり(これ絶対カロリー消費ほぼゼロだと思う)、僕は何をするってそう……。
僕は
「じゃスペちゃんもう一回やってみよっか」
「ぜぇ、ぜぇ、ちょっ、スズカさん、ちょっ、ちょ待っ……」
「もう一回やってみよっか」
「待っ……」
「もう一回やってみよっか」
「ひっ……は、はい!!」
減量というより筋トレ方面、肺活量方面で鍛えることにした。
トレーニング用に設けられた坂路を何度も何度も登らせる特訓である。やっぱあの坂道で減速しちゃったのも大きいと思うんだよね。走ることに関して僕はスパルタなので、仲良しスペちゃんでも情け容赦はしない。燃え尽きるがいい。
「レッツゴー!」
「お母ちゃああああああん!!」
スペちゃんが半泣きで走り始めた。おお、速い。
面白いなぁ。なんて思ったらいけないんだけど反応が面白い。これもお母ちゃんの為だ。
もっと腿を上げるんだよぉ!!
僕は飴をペロペロしながら、坂路を顔を真っ赤にして登っていくスペちゃんを見送ったのだった。
「えげつねェな……」
聞こえてるぞゴルシ。
数日後。
特訓(?)の成果を見るためなのかは知らないけど、沖野トレーナーがチーム室でばばんとホワイトボードに字を書いた。
『祝! 模擬レース決定! スペシャルウィークvsタイキシャトル』
『短距離最強ウマ娘』
僕は、はいと手を挙げた。
「沖野トレーナー。短距離でやるんですか?」
「いい質問だ。その通り、リギルのタイキシャトルと戦ってもらう!」
沖野トレーナーはホワイトボードをぽんぽん叩いた。
タイキシャトル。リギルのメンバーでも特に短距離、マイルが強いウマ娘だ。ダートも強かったはず。去年のG1で勝利、マイルの女王とか呼ばれてたりするウマ娘である。
外見はそうだなぁ、
「去年のG1二連勝だろ……」
「マイルチャンピオンシップ、スプリンターズステークスで」
ウオッカとスカーレットが妙に詳しい。勉強してるなぁ。
「つえ」
「相手にとって不足なしジャーン! スペちゃん、頑張れ!」
「はいっ!」
「がんばって、スペちゃん」
スペちゃんが短距離、マイルが得意かまではわからないけど、やってみる価値はある。止めることはしないよ。
「スペ、お前に必要なのは地力と経験だ。強い奴と当たって砕けろの気持ちでやってこい。負けたっていいんだ」
「勝ちます!」
「その意気だ」
これで負けて、精神的にへこたれるような子じゃないことは、短い付き合いだけどわかっている。仮に折れたとしたら、それまでの子だったというだけのことだ。僕が沖野トレーナーの立場でも、同じようなことを言うだろう。
翌日。天気は晴れ。
「わー! いい感じ!」
まさかのダートコースである。
スペちゃんは走り慣れぬダートコースの上で靴をとんとんさせて調子を確かめていた。
僕は隣にいるトレーナーに声をかけた。
「すごい人出ですね、トレーナー」
「まァ、短距離、マイルの女王タイキシャトルと、期待の新星スペシャルウィークとの一騎打ちだからなぁ。リギルvsスピカの意味合いもある。客も集まるわな。ちょっと行ってくる」
言うなりトレーナーはスペちゃんの方に歩き始めた。
観客席、つまり僕たちのいるところだが、主にウマ娘で満員であった。すごいウマ娘濃度だ。人がトレーナーくらいしかいない! まあ僕もウマ娘なんですけどね。
一方ゴルシはコック帽子に羽織りを着込んででかい箱を抱え焼きそば売り歩いていた。
「スピカ特製焼きそばいらんかね~?」
なぜゴルシが焼きそば売ってるのがわからない。ちゃっかりしてんなぁ。こういうところがめついというか、さかしいというか。
関係ないけど僕の中ではゴルシは金使い荒そうなイメージがある。なんでなんだろうね?*1
「もぐもぐもぐ」
大食漢で知られる大食い選手じゃないウマ娘オグリキャップがバカみたいに山盛りの焼きそばを食っている。いや飲んでいる? ものすごい速度で啜っている。レースを見に来たのかどうかも怪しい。食いに来ただけでは?
『がんばれー!』
チームみんなで声援を送る。
僕も手を振った。スペちゃんは笑顔で手を振り返してきた。
はてさて、どうなることやら。