僕はサイレンススズカ   作:キサラギ職員

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デジたん的には僕っ娘清楚ロングヘアとか神かよと思っています。


17、VSタイキシャトル

 

『勝てるかどうかは厳しいと思った方がいいで………はー……いいよ』

 

 僕は事前にそう言っていた。

 女王等と呼ばれるタイキシャトルと、あまり適性のないダート短距離で勝負をする。分の悪い賭けだと言わざるを得ない。しかもまぐれのありうる多数での勝負ではなく一対一だ。スタミナ消費をあまり考えなくてもいい分、さらに不利になる。

 

『相手の後ろにぴったり張り付いて、スリップストリームに入って体力を温存するしかないと思うんだ』

『すりっぷすとりーむ、ですか?』

『流体力学の話になるんだけどね、高速で運動する物体のすぐ後ろは、らせん状の風と、低気圧が発生していて簡単に言うと風の抗力が少ないんだ』

 

 離陸する、着陸する飛行機のヴァイパーが螺旋を描くのはこれのせいらしい。

 ようは風の抵抗の少ないところに入って、バリキと適性の差を埋めるしかない。

 スペちゃんは熱心にメモを取りながら頷いていた。

 

『な、なるほど………!』

『徹底的にマークして、最後の最後で差す。今までのスペちゃんの得意のやり方でやれば、あるいはいけるかもね』

 

「これだったんですね、スズカさん!」

 

 スペちゃんはタイキシャトルの背後にぴったり張り付いて走っていた。しかも直前に走法をダートに適した小幅のピッチ走法に切り替えるという技量の高さ。ぶっつけでフォーム改造は何気に凄い。まるで主人公みたいだな、僕と違って。

 タイキシャトルがプレッシャーに焦って後ろを時折振り返っているのが見える。勝てる勝負と思っていたんだろうな。

 沖野トレーナーが耳打ちする。

 

「スリップストリームに入ったか……スズカ、お前の教えかな?」

「ええ、一対一なら利用しない手はないと思ったので。あとは、スペちゃんの力次第ですね」

 

「ぶっつぶせー!!」

 

 ゴルシが不穏なこと言ってるけどここは同意。女王の冠を引きずりおろすのも悪くないでしょ?

 だけど流石女王とか呼ばれるだけはある。坂路に入るや否や、加速してスペちゃんを置いてきぼりにしていく。スリップストリームから抜けたあとの後方乱気流に巻き込まれて足取りが鈍るのが見えた。

 残り僅か。坂を乗り切った。

 

「スペちゃん、差して」

 

 僕は拳を握った。

 

「うわぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 大声を張り上げて、スペちゃんが再度加速する。そしてあろうことかタイキシャトルに並んだ。

 のも一瞬のことで、タイキシャトルもここで差しにかかった。じわじわと差が広がっていく。

 そして……ゴールイン。僅差でタイキシャトルが勝った。

 スタンドは静まり返り、一拍置いてどっと沸く。

 

「うへぇ!?」

 

 ヒシアマゾンがゴールで寝転んでいてフラッグを振り損ねる。これはエアグルーヴが怒るだろうな。ホラ、追いかけっこが始まった。

 

「仰げば尊死……デジたん逝きまーしゅ!」

 

 横でアグネスデジタルが直立不動で逝った。流石問題児………じゃなくてウマ娘オタク。両手にあのライブとかで使ってる光る棒(サイリウムライト)を持っている。そのオタクとしての対象には、僕も入ってるんだろうか。聞いてみたいところだけどイッてるので放置しておこう。

 スペちゃんはぜえぜえ肩で息をしていたが、ごろんと寝転がった。タイキシャトルが腕を取って、何やら話している。青春だなぁ。

 僕達は観客席からターフへと急いで走って行って、スペちゃんを取り囲んで頭を撫でたり抱き着いたりしたのだった。

 

 

 

 その後、チーム室に戻った僕たちはテレビを見ていた。

 

「それにしてもスペちゃん元気になってよかったなあって」

「はい! 私、毎日楽しいです! 負けちゃったりもしますけど、皆さんとの時間が毎日楽しくて」

 

 元気に振る舞っているように見えて落ち込んでいたみたいだけど、最近は元気そうでよかった。僕の隣に座ったスペちゃんはにこにこと笑っていた。

 

「おい、始まったぞ」

 

 沖野トレーナーの言葉で、僕達はテレビに集中した。

 テレビでは、今回の目玉エルコンドルパサーが猛禽類のように鋭い走りを見せつけていた。ド派手な赤い勝負服。まるでプロレスラーのようだ。

 

『エルコンドルパサー! エルコンドルパサーだ! エルコンドルパサーが先頭に立った! リードは一バ身!』

 

『エルコンドルパサー、無傷でG1制覇!』

 

『おおー!』

 

 G1か。僕も出てみたいね。この逃げが通用するのかを試してみたい。

 おハナさん(フルネームが出てこないから困る)とエルコンドルパサーの勝利者インタビューが映っている。

 

『世界を狙うためにも、次は日本ダービーです』

「エルちゃんも、ダービー………」

 

 スペちゃんが神妙な顔つきで呟く。

 

「はぁ。やっぱこうなるかぁ」

 

 沖野トレーナーも呟く。

 上を狙う以上、これは必然的な結果と言える。

 

『エルコンドルパサーさん、一言!』

 

 インタビュアーがエルちゃんにマイクを向ける。さあ、何を言うのか。

 

『私、ダービーでも勝ちマース! スペちゃん! ガチンコ勝負デース!』

 

 エルちゃんは、むんずとマイクを奪ってカメラ目線で日本全国に宣言し始める。ウーンやはり本業プロレスラー(?)、マイクには慣れてるなぁ……じゃなくて。

 僕はCMの始まったテレビから目を離すと、スペちゃんに目をやった。

 

「スペちゃん、名指しされちゃいましたね」

「わっ、わたし! 一着取ってみせまあいたぁっ!?」

 

 拳を突き上げようとして机に指をぶつけるスペちゃんなのでした。

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