僕はサイレンススズカ   作:キサラギ職員

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ゲートから脱走事件は実際にあったことです

なんで2000字ぽっちなのに評価がついてるんですか(恐怖)
そんなにスレた僕口調スズカが見たいか! 私も見たい!!!


2、デビュー戦前

「一週間みっちりトレーニングすれば、デビュー戦くらいなんとかなるだろ」

 

 ………は?

 僕は耳を疑ったが、どうやらガチらしい。

 もう十数年は生きてきているので耳の位置に関しては慣れてきたわけだけど、市販のスマホを耳に宛がおうとして人間の耳の位置にやって聞こえませんは何度もやっている。スピーカーモードがデフォルトだね。

 それは置いておいて、沖野トレーナーがとんでもないことを言い始めたのだ。スペシャルウィークを三人がかりで連れてきたかと思えば、ウィンクしつつそんなことを言い始める。いやウィンクしてる場合か。

 基本的に、僕は優等生ぶっている。つもりだ。指図されるとむっとして態度に出ちゃってるらしいんだけどな。我慢するって難しい。

 

「ぐあっ!?」

 

 沖野トレーナーがスカーレット、ゴルシ、ウオッカの三人に足蹴にされる。手加減はしてるんだろうけどこの人も大概頑丈だ。僕も蹴っておこうかな。いややめとこ。

 

「なんとかなるって適当すぎんだろ!」

 

 とウオッカが言えば、

 

「ちょっとは真面目にやんなさいよ!」

 

 とスカーレットとケツを踏みまくっている。手加減はしてるんだろうけどさぁ、あんたもなんでちょっと嬉しそうな顔で踏まれてるんだよ。ああー脚力に成長を感じるなーみたいなツラしてる場合じゃないんだよ。

 ちなみにゴルシは我慢せず直立不動で腕を組んでるだけだ。お前ほんとは怒ってないだろ。

 

「まあその辺にしておけば……どうですか」

 

 いまだに距離感というものが分からん。沖野トレーナーは丁寧語じゃないんだけど、他のみんなには時々丁寧語になってしまう。人付き合いは正直苦手だ。

 

「あわ、あわわわわ……」

 

 ホレ見ろ、スペシャルウィークちゃんが困ってるじゃないか。弱き者、汝の名は女なり。

 

 キーンコーンカーン………。

 

 ここで救いの手が差し伸べられる。ご飯の時間である。

 

「メシの時間じゃーん!」

 

 ゴルシが速攻で出ていく。切り替えの早さに関してこいつの右に出るものはいない。

 

「じゃ後片づけヨロー!」

「ちょっと!」

「俺たちも行くってばー!」

 

 ゴルシ、スカーレット、ウオッカが退場。僕が空気と化している間に後片付けまで押し付けられるなんてね。まあいいけど。

 

「てことで。これからもよろしくな」

 

 と倒れたままサムズアップする沖野トレーナー。せめて起き上がれ。

 

「じゃ、スペシャルウィークちゃん? 片付けしよっか……」

「え? あっ、そうですねっ!」

 

 妙に嬉しそうに部屋に散らばったあれやこれやを片付け始める。おかしいな。まるで僕のことを知ってるみたいだけど。

 僕は麻袋を仕舞おうとした。いや待て、これどこから出てきたんだ? ……あっ名前書いてある! ゴルシちゃんって! ということでゴルシのロッカーに適当にぶち込む。麻袋に名前を書くやつがいるか。いたわ。

 

「僕と、君って初対面のはずだけど、ひょっとしてどこかで会ったかな?」

 

 これじゃナンパだぞ。

 僕が言うとスペシャ……スペちゃんでいいか。スペちゃんは僕の手をがっと掴んで握手してきた。なかなか押しが強い子だ。

 

「レースと、ライブを見てましたっ! これからよろしくお願いしますっ!」

「だ、そうだ。スズカ、スペシャルウィークの面倒をみてやってくれ。あと片付け頼めるか」

「飴、くれたらいいよ」

「お前も好きだね。同志ができてうれしいぞ俺は」

 

 同志というか、口が寂しいだけだよ。それにあんたの懐事情で他のもの貰うなんてできないし。なんて言えない。飴を貰った僕は、沖野トレーナーを追い出して片付けと掃除を始めたのだった。

 そのあとカフェテリアで食事を摂って、戻る。寮への道案内も兼ねて。時間は余裕があるのでフジキセキに窘められたりはしないだろう。

 一回遠出し過ぎて(もちろん自分の足で)門限過ぎたことがあったけど、お説教を食らった。むっとした顔をしたのがいけなかったのか反省文書かされたけどね。

 

「スズカさんはデビュー戦緊張しましたか?」

「別に、緊張はあまりしなかったけど……」

 

 デビュー戦はよかった。そのあとがね。一回目は夢中で走ったけど二回目になって緊張しすぎたのかゲートから脱走しちゃったんだよね、僕。

 なんであんなことやったのかわからない。リギルのトレーナー探し回ってうろついてるところを確保されたんだけど、本当になんでなのかわかんない。

 あ、やばい。めっちゃあこがれの目を感じる。ごめんね、二回目のレースについては聞かれても黙秘権を行使します。

 

「そうなんですね!」

「うん…………でも、緊張しすぎるのもだめだけど、緊張をまったくしないのもアスリートとしてどうかと思うよ」

「な、なるほど! 参考になります……!」

 

 適当なこと言っちゃったけど大丈夫かな、この子デビュー戦。このいかにもおのぼりさんなんですって感じが不安でたまらない。まあ僕には関係ないだろうけど。

 

「あっあの私スズカさんに憧れて! だからおんなじチームになれて嬉しいですっ」

「ありがとう。あっちが寮だよ」

 

 照れくさいな。素直でいい子だと思うけど、なんかこう嘘ついたらころっと引っかかってくれそうなところがあって危なっかしい。

 

「おかえり」

「今日は遅刻してませんよ……」

「今日は?」

 

 寮に入ると、寮長のフジキセキが待っていた。女性人気が妙に高い、まるで女優みたいなかっこいい外見の子だ。こりゃ僕たちが一番最後のパターンじゃないかな。もう日没しちゃってるしね。

 僕が聞き返すと、あははーとスペちゃんが誤魔化す。一回やらかしたのか君。

 

「もう知り合いになってたんだね。荷物届いてるから、行こうか」

「え。もしかしてスペちゃ……スペシャルウィークちゃんと同じ部屋なんですか?」

「スペって呼んでくださいっ!」

「す、スペちゃん」

 

 一人部屋好きだったんだけどなぁ。好き勝手出来て。

 

「そうだよ。ついておいでポニーちゃんたち」

 

 華麗なウィンクを貰う。ちょっとときめいちゃうのは僕が男だからなのかな。でも女の子も目をハートにさせてるのをよく見るしな。

 

 部屋に着くなりスペちゃんは今どき古風な手紙を書き始める。その感性、好ましく思うよ。

 こうして僕たちの共同生活が幕を開けたのだった。

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