僕はサイレンススズカ   作:キサラギ職員

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FASTEST:最速


20、限界の先を

 

「スペちゃん、今日は並んで走ってみよっか」

「はいっ!」

 

 別の日。僕はトレーニングに参加した。もちろん例の神社の階段である。心臓破りどころか心臓爆破の坂で鍛えれば、もしかすると2000mの限界を超えられるようになるかもしれないし。長距離も走れたら、それはきっと楽しいだろう。

 

「僕のこと、追い越せたらそうだなぁ………なんと! 特に特典はないんだけどね」

「一緒に走ってもらえるだけで、うれしいですっ!」

 

 僕達はスタートラインの鳥居に立った。

 上では沖野トレーナーがストップウォッチを片手に待機している。夕方。遅くまでお疲れ様です。

 

「スペー! 限界を超えろ! 40秒切れなかったらダービーなんて勝てるわけねぇぞ!」

「はい!」

「いくぞー! よーい! スタート!!」

 

 スタートの声で僕とスペちゃんは並んで走り始めた。レースではあるけど駆け引きはないので、並んで走る。というか後ろに付くと色々と危ないしね。

 

「はっ、はっ、はっ、はっ!」

 

 僕の脚質は逃げだ。この短距離、スタミナを全て使い果たす速度で駆け抜ければいい。ほとんど短距離走、平均時速60kmを余裕でオーバーする速度が出ていると思う。

 

「速いっ……!」

 

 とかなんとかいいながらついてくるスペちゃんが僕は恐ろしいよ。君の潜在能力は、いずれ日本を背負って立つくらいあると思っているから。

 

「ギア上げるね」

 

 ちらっと後ろを見ると、嬉しそうに口角を上げたスペちゃんの顔が見える。

 僕は一言残して、一気に速力を上げた。ぐんぐんとスペちゃんを引き離していく。

 

「はああああっ!!」

 

 限界の先、限界の先、もっと速く、速く、速く!

 限界の先を超えた先はきっと、伝説だ。

 なんかの映画の宣伝文句で見たことがある。確かオートバイだったかな。

 

 一瞬のドラマが、永遠に語り継がれる。

 

 と。スポーツの本質は、その一瞬の輝きにあるんだろうと思う。

 ここはレース場じゃない。僕は階段を数段飛ばしで登る。ピッチ走法でもなんでもないんだけど、ルール無用、距離が距離ならこうしてやるのもありだ。

 一方スペちゃんはピッチ走法で……離したと思ったら、再度加速してきたではないか。この差し足が恐ろしいんだよな。君ほんとに今まで田舎にいたのか? ってくらいだ。

 

「ダービーぃぃぃぃ!!」

「どんな、掛け声ッ!」

 

 謎の掛け声で差しにかかってくる。

 やらせない。仲間だけどライバルであるんだ、速力をかすかに緩めて一息、それから、差す。僕の真骨頂、逃げて差す!

 

「て、天皇賞~~~!!」

 

 真似して掛け声出したけど恥ずかしいぞこれ!?

 スペちゃんを置いてきぼりにして―――ゴール!

 

 二人そろって膝に手をついて息を整える。やはり、この階段チャレンジきっつい。心臓が炸裂しちゃいそうだ。

 

「トレーナーさん! タイムは……」

 

 沖野トレーナーが目を瞑って軽く首を振った。

 

「あちゃー最初に押すの忘れてた」

「もー! ちゃんとしてくださいよー!」

「……? あれはたしか、メジロ家の………」

 

 スペちゃんがプリプリと憤慨する。

 神社の境内に、一人の制服姿のウマ娘がいる。確かメジロのところの、お嬢さんだったはず。何をしてるんだろう。見学かな。もしかして入ってくれるんだろうか。メジロ……マックイーンちゃんだったかな。ステイヤーとしてメジロ期待の星と聞いたことがある。

 一方メンバーは草むらでゴソゴソ何かを探している。

 いやこれは………道草を……食って……? そんなわけないだろ草食動物じゃあるまいし。*1

 後で聞いたらこれとあるものを探していたそうな。

 

 

 

 

 そして、僕達はダービー、正式名称東京優駿日本ダービー当日を迎えたのだった。

 ウマ娘のイベントは人気があって、ン十万人を動員することも珍しくない。子供からお年寄りまで楽しめるスポーツイベントなのだ。

 

『今年もこの日がやってきました。ウマ娘の祭典、東京優駿日本ダービー!』

『15万人を越える観衆が詰めかけております! (たけ)さん、いかがですか?』

『特に今年はスター揃いですからね』

『数々のライバルを制してきた選ばれし18人のウマ娘! 栄光のスポットライトを浴びるのははたしてどのウマ娘なのか!』

 

 僕達は、競バ場内とパドックを繋ぐ専用の地下通路内でスペちゃんを迎えていた。ちなみにさらっとメジロマックイーンちゃんもいる。なんでも、チームに参加してくれるそうな。ゴルシが勧誘したらしいけど、お前どんなコネを持ってるんだ……? 実は親戚とか? ないか。*2

 

「おっ、来た来た」

 

 ウオッカが最初に気が付いた。皆で振り返ると、勝負服に着替えたスペちゃんが不安そうにとことこ歩いてきたところだった。

 

「緊張してる?」

「は、はいっ」

 

 僕は緊張をほぐそうとスペちゃんの手を握った。同時にそれを手渡す。四つ葉のクローバーで作ったラミネートのしおりだ。

 『がんばれ!!』と書いてある。

 

「はいこれ。幸運の四つ葉のクローバー」

「みんなで探したんですよ!」

「ダービーは幸運なウマ娘が勝つんですよね?」

「みんな……」

 

 発案者だというスカーレットとウオッカが言う。幸運か。レース始まったら結局僕らにできるのは祈ることくらいなものだ。

 三女神様、どうか、スペちゃんに幸運を。

 

「なかなか見つからなくて結局―――」

「マックイーンが見つけたんだよね」

「たまたま目に留まっただけです……努力は報われるべきですわ」

 

 テイオー、ゴルシが順番に言って、最後目線を逸らしたマックイーンである。うちのノリが向いてないのかな。いやわかんないぞ。意外とトンチキな性格してるかもしれないし。ないか。ご令嬢だもんなぁ。*3

 スペちゃんは目をうるうるとさせていた。

 

「みんな! それに、メジロマックイーンさんも! ……勝って来ます!」

「ライブ楽しみにしてるよ」

 

 僕はそういうと、スペちゃんの肩を押したのだった。ライブの先頭で踊る君を見させてくれ、頼んだよ。

 

*1
ヒヒーン

*2
現実だとゴルシは孫にあたる

*3
かっとばせーーっ! ユ・タ・カッ!

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