僕はサイレンススズカ   作:キサラギ職員

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いい勝負してるけど未 実 装 なので詳しい描写はできません!


24、決着

 

『サイレンススズカ速い! 7バ身、8バ身くらいありますか! あと二番手にはメジロドーベル! 中団キンイロリョテイ早めに動いて行った!』

 

 ドーベルは先行か。あの気の強そうな子だ。なんでもオトコノコが嫌いとのことだけど、それは例えば中の人にもセンサーが働くのか、丁度いいから試してみようか。

 等とどうでもいいことを考えられる程度には余力がある。ここまでは、だけど。

 今回のレースは2200m。僕の想定する限界が2000m、200mも長いのだ。後半でバテなければいいけど。

 僕は後方を大きく引き離す、大逃げ作戦で打って出る。どんどんと離していく。差しなんてやらせるものか。

 

『まだエアグルーヴ中団のインコース!』

 

 まだ仕掛けにはこないか。しかしここまで引き離してるんだ、差せるかな? エアグルーヴ?

 

「はぁっ、はぁっ!」

 

 走る、走る。ぴんと張り詰めた指先で空気を攪拌するように、体を倒して、どんどんと進む。やはり先頭が最高に気持ちがいい。

 

『メジロブライト後ろのグループ!』

 

 あの、ほややんとした雰囲気の女の子か。差し~追い込みは中盤からが怖いんだよな。それはゴルシでよく経験している。体力を温存する作戦なので、最後ヘロヘロになったウマ娘をめでたくゲットできちゃうわけだ。

 僕はそうならないように、さらに引き離そうと足を進めた。

 

「くううっ! はぁっ、はっ! はっ!」

 

『先頭はサイレンススズカ! リードはまだ4バ身から5バ身! 第四コーナー曲がりまして直線! 横からキンイロリョテイ! キンイロリョテイ!』

 

 体力の限界を感じる。あとどれくらいだろうか、2000m級ならばもう終わっていてもいいはず。ゴールが見えた。大きくリードを取っていたはずなのに、徐々に後ろが迫ってくるのを感じる。

 思わず尻尾を揺らす。耳をぴくぴくとさせた。ああ、この感覚、たまらない。捕まえられるなら、捕まえてみせろ!

 

『さあサイレンススズカの後ろが詰まってきた! 外からキンイロリョテイ! ちょっとエアグルーヴ伸びない!』

 

 なんだって。僕が斜め後ろをちらりと伺うと、怒りともとれる壮絶な表情のエアグルーヴがいる。体力切れを起こしているのか口は大きく開き、汗まみれだった。

 

「その、程度じゃ、ない、だろッ!!」

 

 あえて鞭を入れる。ライバルを名乗るなら、差してみせろ!

 

「―――――おおおおおっ!!」

 

『来た! 外からエアグルーヴ! エアグルーヴ! すごい足だ!』

 

 絶叫と共に、エアグルーヴのプレッシャーが膨れ上がるのがわかる。ドドドドという音がどんどんと迫ってくる。

 僕も体力は限界に近い。一息入れれば、その間に抜かれて前を塞がれる恐れがある。ここは一気に逃げてしまった方がいい。現時点では、そう判断する。

 

「やらせるかッ!!!」

「エアグルーヴぅぅぅ!!」

「………!」

 

 くそ、もう一人のキンイロリョテイも大概に速い。何者なんだろう。*1面識があまりないけど、間違いなく大成する子だ。じわじわと迫ってくる。ここまでくるとリードがあるなしはあまり関係ない。根性勝負だ。

 エアグルーヴ驚異の差しが僕に迫ってくる。残り、50m……!

 

「ああああああああ!」

「くっそおおおおお!」

 

 もう、どちらの声かもわからなかった。

 僕は休息を訴える体に鞭を入れまくる。どうした、そんなもんじゃないだろう。限界を超えて見せろ、まだスパートは入れられるはずじゃないか!

 

「はああああっ………!!」

 

『行けぇぇぇっー!!』

 

 みんなの声が聞こえる。

 

「先頭の景色は―――誰にも! 譲らないんだよおおおッ!!」

 

 僕は吠えた。喉ががらがらと鳴って、唾液が口から伝う。

 脚部に渾身の力を込める。蹄鉄が地面にめり込む。姿勢をさらに倒し、限界まで攻める。脚部のショックアブソーバーをバネとして使い、筋肉を弾ませる。風の流れが見える。音が聞こえなくなった。視界が中央に集まっていく。視野狭窄。トンネル・ビジョン。極限の環境下で起こる、体の反射。肉体がまるで羽のように軽い。これが、ゾーン(ZONE)か。

 アドレナリンの大量放出に伴う恍惚感が襲い掛かる。体が熱く、お湯に浸かっているようになった。心臓は壊れそうなほどに高鳴っている。

 

「くっ……」

 

 僕は最後の最後で急激に加速した。ゴールに向けて手を差し伸ばして―――。

 

『逃げ切りましたサイレンススズカ!』

 

 

 

 

「はぁっ………気持ちよかった」

「………届かなかった……」

 

 肩を落とすエアグルーヴに対し、慰めの言葉はかけない。それは侮辱に他ならないと知っているから。

 

『やったー!!』

 

 飛び跳ねて喜ぶみんなの元に、僕はエアグルーヴに背中を向けて歩き始めた。

 取って見せたぞ、一位。スペちゃん見てるだろ。次は、君の番だぞ。

 

 ライブは疲れすぎていたせいで少しだけ休憩時間を延長してもらった。こりゃあ筋肉痛があるかもしれないな………。しばらく走るのは止めに……しないよ。

 僕は笑顔で観客の前に出ていくと、歌を紡ぎあげてライブを成功に導いたのだった。

 

 選曲は『We are Dreamers』だった。どんなレースも一人じゃないんだってね。

*1
未実装だからね、仕方ないね。




TS娘が時折『雄』として牙を剥くことからしか得られない養分がある
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