大きめのブランケット。緑が好きなスズカ愛用の一品。かすかに甘い香りがする。
『マチカネのよく当たるかもしれない 占い』
『表はあっても占い』
「ちょっと入ってみよっか」
「スズカさん占いとか好きなんですか?」
「ん? うーん、好きだけど信じるのと疑いの半分半分くらいかな」
そんな謎めいた小屋があったので入ってみると、マチカネフクキタルとメイショウドトウがいた。
「おほーっ! マチカネフクキタルの館にようこそってスズカさんじゃないですか!」
「ど、どうも~……」
マチカネフクキタル。栗毛の外はねカットの、虹彩がなんというかシイタケみたいな形をした、全身をコテコテに開運グッズで固めたおもしれー女である。神社の娘らしいけど、それ水晶占いと相性どうなんですかね? 西洋の占いのやり方では? タロットもやるみたいだけどそれも西洋のなんじゃないですかね? なんて無粋なことを言ってはいけない。
メイショウドトウ。何がとは言わないがとても大きい子である。いつも自分の不運とドジさを嘆いているので、フクキタルとは相性がいい………のかもしれない。
「ちょっと寄ってみたんですけど、占ってもらえないかなって」
「もちろんですとも! 宝船に乗ったつもりでお任せください!」
ということでさっそく占ってもらう。
「むむむむむ………本日のあなたは………誰かを待っていますね?」
「お、当たってる。待つというか行くというか」
「なんとその人とは……将来…………………」
「その人とは?」
「………よく見えません!」
ずこーっ!
僕はずっこけそうになったので違うことを占ってもらうことにした。
フクキタルが水晶玉の前で手を翳して難しそうに眉間に皺を寄せる。
「じゃあ運勢は?」
「………末吉です!」
「凶一歩手前かぁ………」
勘違いされやすいが末吉は凶じゃないだけという微妙な運勢である。これじゃついてるのかついていないのかもわからない。
「救いはないのですか? ラッキーアイテムとか……」
「ラッキーアイテムは……ずばり、ブランケットです!」
「ぶ、ぶらんけっと??」
え、なにそれは………。
フクキタルの占い、時々本当に当たるときがあるので困るんだよな。ブランケット。寮にあるけど持って行った方がいいのかな。普段使ってるやつだけど。
「次、お願いできますか?」
「もちろんですとも!」
次はスペちゃんである。スペちゃんは恐る恐る座った。
フクキタルは水晶に手を翳すと、隣のドトウが飛び上がる程の奇声を上げた。
「むむむむむむむ………むきょーっ! あなたには……強力なライバルが現れます!」
「ら、ライバルですか?」
「その人は…………」
ごくり……。
「よく見えません!」
ずこーっ!
思わずずっこけそうになったけど、堪えて堪えて。
スペちゃんがフクキタルに質問を投げかける。
「私のラッキーアイテムとかってあるんですか?」
「ラッキーアイテムはチーズです!!」
「よかったぁ! お母ちゃんが送ってきたのがあるんですよ!」
スペちゃんが両手を合わせて喜んでいる。たまにやれ人参やらチーズやらが届くんだよな、スペちゃん。お母ちゃん、彼女食いすぎてるのでちょっと頻度をですね……。
なんか騙されてる気がする。単純に好みを言ってるんじゃないのかなぁこれ。あ、でもすると僕のブランケットってなんだよって話だよなぁ。逆にブランケットが嫌いな人っているんだろうか。
占いの館ならぬ小屋を出た僕たちは続いて校舎に戻ることになった。
「ちょっとスペちゃん、用事があるんだよね」
「あ、もしかしてトレーナーさんですか!?」
スペちゃんが僕をガン見してくる。
なんでそんなに興奮してるんだろ。ちょっと弁当渡すだけじゃん。今日は練習無いからデスクワークしてると思うけど、またどうせメシ抜きとかで働いてるんだぜ、あの人。
「ま、そんなとこ。お弁当渡しに……」
「えええっ!? そこまで進んでるんですか!?」
「進んでる……?」
「わかりましたっ! 三十分後くらいでいいですか?」
三十分か。戻って………うーん、ブランケットでも取ってみるか。弁当持って、トレーナー室に行って、渡して、待ち合わせて………十分だな。
スペちゃんが僕の手を握ってぶんぶん振ってくる。なんぞ?
「けっぱってください!」
「なにを?」
けっぱれ。確か頑張れって意味だ。頑張る要素あるか?
僕は一度部屋に戻ると……作っておいた弁当(男性サイズ)と、あとブランケットを持った。ラッキーアイテムって言うけどこれ持ち歩いてるの不審者なんじゃ? と思ったけど今日は大感謝祭。勝負服がタキシードに見えるくらいのコスプレイヤーが跋扈してるから、大丈夫だろう。
「おひょ……!? お弁当!? アッマジ? ナイスカップリングでしゅ………! アッ、アッ尊ひ……」
なんか不審人物がいる。物陰からクソデカリボンが覗いてる。いや気にしないでおこう。気にしたら負けである。
「失礼しまーす」
トレーナー室に入ってみると、がらんとしていた。出払っているみたいだ。お昼時だからみんな昼ご飯食べに行ったんだろうな。今日は屋台がいくらでもあるし。
「ぐおー」
なんかすごいいびきが聞こえる。恐る恐る歩いて行ってみると、沖野トレーナーが机に突っ伏して眠っている。付箋が背中に貼ってある。沖野トレーナーの字だ。自分で貼ったのだろうか。
『30分で起きるから!!』
「風邪引いちゃうぞ……ってこれか!?」
はっとする。ブランケットを掛けろと言うことか!? フクキタル……恐ろしい子……!
僕は若草色のブランケットを沖野トレーナーにかけると、弁当を机に置いた。
「じゃ、そういうことで……お邪魔しました~」
僕はいびきをかいて眠る沖野トレーナーを起こさないようにこっそり外に出たのだった。
流石に疲れがたまっていたのだろう、昼休みの時間になると猛烈な眠気に襲われてしまった。
沖野は、昼休みの半分を睡眠に充てることにした。今日はトレーニングはないし、デスクワークさえなんとかなればトレーナー寮に戻って眠れる。それまでのつなぎの昼寝である。
ポケットに突っ込んでいたスマートフォンが耳障りな音を上げる。ふがっと鼻を鳴らした沖野は、ポケットに手を突っ込んで目覚ましを解除した。姿勢を起こして大あくびを噛み殺す。
「はっ………くぁー………よし、頑張るか……?」
起きてみると、若草色のブランケットがかけられていた。誰がかけたのか周囲を見てみるが、誰もいない。皆屋台で昼食を摂っているのだろう。
「……?」
なにか、嗅いだことのある匂いがする。かすかに、甘いような、花のような香り。
机の上を見てみると弁当が置かれている。最近、スズカが持ってきてくれる弁当箱のそれだ。
「スズカか………ありがたく頂くとしますか」
沖野は手を合わせると弁当箱の蓋を開けたのだった。